結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回は決戦回という事で、前編後編に分けて投稿します。

そういえばゆゆゆいでは、かなり不穏な空気が立ち込めてますね……。私の卒論の完成もそうですが、こちらも不安で仕方ないのです……。


17:大決闘(前編) 〜満開、発動セヨ〜

樹海化した世界にて、唯一動く事のできる者達は、壁が見える位置に集まっていた。そんな彼らの目線の先には、異形の敵が居座っている。それも一体だけではない。

 

「バーテックスが、あんなにも……!」

「こいつはたまげたなぁ……」

「そだね〜」

「残り7体……。全部来ていますよね、これ」

 

昴が、手元のスマホに映るレーダーを確認しながら、苦々しそうに呟く。

 

「つまりは総攻撃って事か」

「最悪の襲撃パターンね……。やりがいがありすぎて、サプリも増し増しだわ」

 

額から汗を垂らしながらも、懐から小瓶を取り出し、サプリメントを何粒か手のひらに乗せて一気に飲み込む。こんな状況下でも、夏凜はブレないな、と思う兎角。

 

「樹と冬弥もキメとく?」

「じゃ、じゃあキメとくッス!」

「その表現は、ちょっと……」

 

冬弥は腹をくくるべく、夏凜からサプリメントを拝借するが、樹は拒んだ。

そんな中、友奈は依然として侵攻してこないバーテックス達に疑問を感じていた。

 

「あれ、何ですぐに攻めてこないんだろう……? 園ちゃん、どう思う?」

「う〜ん……。ひょっとしたらバーテックス同士で、作戦会議でも開いてるのかも〜?」

「あり得ない……とも言い切れないな。事実、バーテックスの知能は高いみたいだからな」

「まぁどの道、神樹様の加護が届かない壁の外に出てはいけないって教えがある以上、私達からは攻め込めないけどね」

「そう、だね……」

 

すると、遠くにいた上級生組が蔦を飛び跳ねながら、兎角達と合流してきた。既に変身済みであり、敵の動向を探っていたようだ。

 

「連中は、壁ギリギリの位置から動き出してくる筈だ」

「決戦ね。みんなもそろそろ準備を」

 

風に促されて、スマホを取り出す一同。そんな中、樹だけは誰よりも不安げな表情を見せていた。1体だけでも厄介な相手を、今回は7体も倒さなくてはならない。戦闘スペックが勇者部の中でも低い樹にとって、これ以上に不安な事はないだろう。

自然と足が竦み始めたその時、背後から脇腹をくすぐられる感覚が、樹を襲った。

 

「ひゃあ⁉︎ アハハハハッ! な、何ですか園子さぁん⁉︎」

「リラックス、リラックス〜。いっつんは自信持ってる時が輝くんよ〜」

「そうそう! みんながいるんだから、大丈夫だよ!」

 

園子や友奈の励ましもあり、樹は自然と落ち着きを取り戻していた。他の面々も同意するように小さく頷いている。夏凜と巧は小っ恥ずかしくなったのか、目線を逸らしている。

ともあれ全員のコンディションは万全のようだ。それを確認した風が号令をかける。

 

「さぁ! 勇者部一同、変身よ!」

『はい!』

 

そうして兎角達はアプリを起動させると、その身を花びらが包み込んでいく。やがて光が解けて、勇者や武神に姿を変えた一同が、風と藤四郎も加えて、14人全員が横一列に並び立った。

その先に見据えるのは、全12体のうちの7体。これまで5体のバーテックスを倒してきたので、敵は全勢力を投入してきた事となる。

 

「敵ながら圧巻ですね……」

「けど逆に言ったら、こいつらをぶっ倒せば、あたしらのビクトリーって事だろ? なら、やってやるぞぉ!」

「気合いだけで空回りしないように気をつけろよ、銀」

「ひと花咲かせるわよ!」

 

早速勝気な笑みを浮かべて戦闘態勢に入ろうとする夏凜だったが、風が唐突にこんな提案を。

 

「みんな! ここは、アレいっときましょ!」

「あぁ、アレですね!」

「あ、アレって、どれ?」

「? な、何を?」

 

ほとんどの者が、これからしようとする事を察するが、訳が分かっていないのは新入部員の2人だ。

すると、2人を除く一同は円周上に立ち、スクラムを組み始めた。ここまで来れば、2人にもこれから彼らがしようとしている事が理解できたようだ。

 

「なるほど! 円陣ですね!」

「いや、それ必要⁉︎」

「決戦を前に、必要なのは気合いだろ?」

「ほら、2人も早く!」

「は、はい!」

 

友奈と遊月が、2人が入れるようなスペースを作り、夏凜も渋々と、真琴と共に円陣を組む。

一同が揃ったところで、勇者部部長が代表して号令をかける。

 

「あんた達、勝ったら好きなもの奢ってあげるから、絶対死ぬんじゃないわよ!」

「おぉ太っ腹! なら、俺はかめやのうどんで決まりだな!」

「美味しいものい〜っぱい食べよっと! 肉ぶっかけうどんとか!」

「おっしゃあ! あたしはイネスのフードコートだ!」

「お前ならそう言うと思ったぞ。……まぁ、どっちでも構わないがな」

「頑張ろうね、夏凜ちゃん!」

「言われなくても殲滅してやるわ!」

「わ、私も、叶えたい夢があるから!」

「気合いMAXッス!」

「張り切っていくよ〜!」

「文字通り最終決戦ですからね。頑張りましょう!」

「みんなを、国を……! 護りましょう!」

「力を合わせれば、超えられない壁なんてないからな!」

「(! みんな……!)」

「頼もしい限りだ。そう思わないか、風?」

「……そうね!」

 

後輩達をこの戦場に巻き込んでしまった事に、後ろめたい気持ちを引きずっていた彼女だが、皆の戦いに対する意志を感じ取り、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。

 

「よぉし! 勇者部ファイトォ!」

『オーッ!』

 

一斉に声を張り上げて、武器を手に持つ一同。

 

『出陣!』

『獅子奮迅!』

 

義輝と鈴鹿御前が姿を現し、号令をかける。義輝が法螺貝を吹くと、それが開戦の狼煙となり、最終決戦の幕が上がった。

 

「殲滅よ!」

「突っ込むぞ!」

「あたし達も行くわよ!」

「俺と東郷は援護に徹します。いくぞ、東郷」

「えぇ!」

 

先んじて銀と夏凜が突出し、遊月と東郷はその場で射撃の準備を。残った面々は銀達の後に続いた。同タイミングで、バーテックス達も侵攻を始めた。

遊月は、スマホに表示されている敵の位置を確認しながら、東郷に指示を出す。

 

「バーテックスの進行速度に、バラつきがあるな。散開して数で押し切るつもりか?」

「それに、あの巨大な奴にも気をつけないと……。明らかに別格の威圧感があるわ」

 

東郷が示唆しているのは、7体いるバーテックスの内の後方に位置する、『獅子座』をモチーフとした、巨大な図体の『レオ・バーテックス』だ。他の6体と比較しても、3倍以上の体長を誇っており、警戒するには十分な存在感がある。

 

「でも先ずは、神樹様に近い敵から優先的に片付けるぞ!」

「了解!」

 

そうして2人が狙いを定めたのは、現時点で神樹に向かって特攻している、『牡羊座』をモチーフとした、ウナギのようにニョロニョロと動いている『アリエス・バーテックス』。

そこに正面から突撃する、2つの人影が。

 

「1番槍ぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ウォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

共に同じ戦闘スタイルを持つ銀と夏凜が、斧や刀を一振りして、牡羊型の頭部を斬り刻んだ。それにより牡羊型の進行が止まり、狙いやすくなった東郷が引き金を引いて、2人がつけた傷口に弾丸を撃ち込む。牡羊型が自己修復する最中、反撃とばかりに、触角から電撃が放たれて、銀と夏凜は後退する。足元の樹海が焼け焦げているところから見て、直撃は避けなければならない。

 

「だったらこれで……!」

 

すかさず遊月が矢をセットして、触角めがけて放つと、見事に触角の先端に命中し、雷撃が止んだ。完全には破壊できていないようだが、その一撃で怯んだ牡羊型は、地面に音を立てて倒れ込んだ。

好機と見た兎角が声を張り上げる。

 

「先ずはこいつからだ!」

「封印します!」

 

真琴も定位置にスタンバイして、ハンドガンから銃弾を周囲に撃ち込むと、封印の儀に取り掛かる。その手早い対応に、友奈は感心している。

 

「凄いよ真琴君!」

「他の敵が来る前に倒すぞ!」

 

藤四郎達も合流して、牡羊型の尾から御霊が出現する。が、次の瞬間、御霊は高速回転を始めた。

 

「なっ⁉︎ 御霊が凄い速さで⁉︎」

「何回ってんのよ!」

「えぇい!」

 

夏凜が刀を一本、御霊に向かって投げつけて、真琴は銃弾を撃ち込む。が、どちらの攻撃もあっさりと弾き返されてしまう。

思わず舌打ちする夏凜だったが、不意に上空から友奈の声が。

 

「2人とも任せて! 東郷さん! 兎角!」

「いくぞぉ!」

 

上空から友奈が得意のパンチで御霊を殴りつけた。その威力は凄まじく、御霊の回転がピタリと止む程だ。驚く2人を尻目に、今度は動きが止まった御霊に向けて、東郷の銃弾が入り、亀裂が広がった。

 

「ウォォォォォォォォ!」

 

そしてその亀裂に向かって、兎角がレイピアを突き出し、一点突きを繰り出した。これにより御霊は粉々に砕け散り、光が天高く昇ると、牡羊型も砂となって消滅した。

 

「ナイス連携!」

「2人のフォローも助かったぜ!」

「うん! 東郷さんもありがとう!」

 

友奈が後方に見える東郷に手を振り、東郷も同じく振り返す。

その一方で、昴の表情は固い。

 

「……おかしい」

「昴先輩? どうしたんスか?」

「いえ……。今の敵の動きにちょっと違和感が……。他のバーテックスとは連携を取らずに突出してきたのが気になりまして……。向こうにも知性があるはずですから、こんな単調な攻撃を仕掛ける事に、何の意味が……」

 

そこまで呟いた直後、周囲に目を向けて、後方支援の2人を除く全員が集っている事に気付いて、ハッとなる昴。

 

「まさか、これは……、罠⁉︎」

「みんな気をつけろぉ! 後ろだぁ!」

 

戦況を観察していた遊月の叫び声と、不快極まりない音が鳴り響いてきたのは、ほぼ同時。

腹の底まで響いて来るその轟音は、勇者達の足を竦ませて、遂には膝をついてしまう。

 

「な、何よこの音……⁉︎」

「気持ち悪い……!」

「こ、この野郎……!」

「これくらい、勇者、なら……!」

 

その不快な音を鳴らしているのは、いつのまにか兎角達の近くに侵攻していた、『牡牛座』をモチーフとした、頭部にベルがつけられている『タウラス・バーテックス』だった。ベルから放たれる音が、勇者達に悪影響を及ぼしているのだ。

つまり、牡羊型の突出はあくまで皆を一点に集める為の囮。本命は牡牛型の攻撃による、勇者達の足止めだったのだ。

 

「あのベルか……!」

「だったらこっちから壊して……!」

 

唯一攻撃範囲外にいた遊月と東郷が、ベルを撃ち抜こうとするが、突然目の前の地面から、巨大な物体が飛び上がって射程内に割り込んできた。『魚座』をモチーフとした、巨大な尾びれが付いている『ピスケス・バーテックス』が、2人の頭上を飛び越えて、神樹に向かって侵攻してきたようだ。

 

「! 土の中を移動するバーテックスが⁉︎」

「これじゃあ狙撃が阻まれて……!」

 

止むを得ず、魚型の殲滅に専念する2人。

だが神樹に向かっているのは魚型だけではない。『水瓶座』をモチーフとした、巨大な水玉を両端に携えた『アクエリアス・バーテックス』と、『天秤座』をモチーフとした、両端に分銅のようなものを携えた『ライブラ・バーテックス』もまた、皆が牡牛型に足止めされている間に、侵攻している。

依然として鳴り止まない攻撃に苦しむ一同だったが、突破口を切り開いたのは、樹だった。

 

「……っ! 音は……! みんなを、幸せに、するもの……! 人を、苦しめるものじゃ、ない……!」

 

音楽を愛するからこそ、音楽で皆を幸せにするという夢を持ったからこそ、牡牛型の所業が許せなかったのだろう。全身に力を込めて、振り返りざまに右腕を突き出す樹。

 

「こんな……! こんな音ォォォォォォォォォォォォ!」

 

飾りからワイヤーが放たれて、牡牛型の胴体だけでなく、ベルの部分が縛られた。それにより音が鳴り止み、動きを阻害する要因は排除された。

 

「ナイス樹!」

「先にあの2体だ!」

 

自由の身となった一同は、反撃を開始する。

牡牛型は樹による拘束に任せて、風、銀、園子は天秤型の、藤四郎、冬弥、巧、昴は水瓶型に攻撃を仕掛ける事に。

天秤型は、彼女達が向かって来る事に気付いて、軸の部分を中心に、回転を始めた。突風が吹き荒れ始めており、このまま勢いをつけられると、手が出せなくなる。そこで園子が銀に指示を出す。

 

「ミノさん! 台風の目だよ〜! 周りに強くても、頭上がお留守かもだよ〜!」

「分かった! この三ノ輪 銀様に、任せときなぁ!」

 

一気に跳躍して、天秤型の頭上に到達する銀。園子の言う通り、風も吹いていない為、何の抵抗もなく攻撃を仕掛けられる。

 

「オラァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

一直線に急降下して、天秤型の右半分を両断。バランスを崩した天秤型は回転をやめてフラついている。

 

「チャンス!」

「突撃〜!」

 

そこはすかさず、園子が槍を構えて地面を蹴り、天秤型の胴体を突き破る形で突撃した。間髪入れずに、風が大剣を横に一振りして、胴体を斬り裂く。

一方、水瓶型も迎撃とばかりに水球を飛ばしてきていた。どれ程の性能があるかは定かではないが、直撃して良い事がないのは確かだ。

 

「ハァッ!」

 

巧が正面に位置を構えて、両手のバチから火球を放って、水球を相殺させており、それらを掻い潜って迫ってきた水球は、昴が前に出て、盾を突き出してバリアを張る事で対処している。

 

「兄貴!」

「くらえぇ!」

 

その隙に、血の繋がりこそないが師弟のような関係にあった2人は、大鎌とハンマーを振り下ろして、水瓶型の胴体に、着実にダメージを与えていく。

ようやく天秤型と水瓶型の動きが止まったところで、風が指示を出す。

 

「よし! 3体まとめて封印するわよ!」

 

と、その時だった。牡牛型を拘束していた樹が突如として、強い力に引っ張られようとしているのが確認された。牡牛型が昇り上がっているのだ。

 

「きゃあ⁉︎ 引っ張られるよぉ!」

「樹ちゃん!」

「ワイヤーを解くんだ!」

 

危険を察した藤四郎がそう叫び、樹はワイヤーを霧散させて拘束を解く。そうなれば当然、牡牛型も自由の身となる訳だが……。

 

「しぶとい奴ッスね……! だったらおいらのハンマーであのベルを……!」

「待ってください冬弥君! 敵の様子がおかしいですよ……!」

 

真琴が呼び止めて、眉をひそめる。彼の言う通り、牡牛型は攻撃に転ずる訳でもなく、そのまま彼らから遠ざかるように移動を開始する。否、牡牛型だけではない。ダメージを負った天秤型と水瓶型も、再生する事なく、牡牛型と同じ方向に移動していくのが確認された。

神樹の破壊が狙いであるはずの存在が、逆に神樹から遠ざかっている事に、一同は疑問を浮かべる。

 

「後退……? いや、集まっているのか……?」

 

ふと、3体のバーテックスの向かっている先に目をやると、獅子型の姿が。嫌な予感を覚える園子だったが、すぐにその予感が的中するような事態が起きた。

獅子型の中心部の空間から、太陽のような灼熱の光が現れて、3体のバーテックスが獅子型もろとも、吸い込まれていくのが見えたのだ。やがてその太陽が弾けて、露わになったその姿は、兎角達を唖然とさせるには十分なインパクトだったと言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちらは魚型を追尾していた遊月と東郷。

 

「フッ! ハァッ!」

 

2丁の鎌に武器を切り替えて、接近戦で魚型の胴体を削り取るように動き回る遊月。その後方からは、東郷が連射で頭部にダメージを与えていく。

攻撃を受けた事で、魚型は逃げるように地面に潜り込み、そこからしばらく浮上して来る様子は見受けられない。地中で再生するまでの時間を稼ごうという事だろう。

出来れば封印の儀まで持って行きたかったが、敵の姿が見えない以上、これ以上の深追いは禁物だと考える遊月。

 

「だったら今のうちに、向こうの援護を……⁉︎」

 

振り返って兎角達のいる方に向き直る2人だったが、彼らもそこで、かつてないほどの威圧感を漂わせる存在がいる事に気付き、目を見開く。

レーダーを確認する限り、そこにいるのは獅子型で間違い無いのだろうが、その容姿は当初とは見間違えるほどに禍々しくなっている。よく見れば、吸収された牡牛型、天秤型、水瓶型のフォルムの一部が組み込まれている。

 

「が、合体したッス⁉︎」

「ちょっと⁉︎ こんなの聞いた事ないわよ!」

 

これにはさすがの夏凜も畏怖を覚えたようだ。獅子型を中心に合体したバーテックス『レオ・スタークラスター』を前に、一同は動揺を隠せない。

が、友奈はすぐにポジティブな思考に切り替える。

 

「でも、まとめて倒せるよ!」

「えぇ⁉︎」

「そんな簡単に話が進めばの話だけどな……!」

 

兎角がそう呟くように、封印する為の労力が減ったとはいえ、相手は元々、複数体いたバーテックスの集合体。そうなれば獅子型のパワーアップは必然。これまで以上に激しい攻撃が来る事も考えられる。

 

「でも友奈の言う通りね! まとめて封印開始よ!」

 

風の号令で、封印の儀に取り掛かろうとするが、獅子型の方の動きが早かった。円状に火の玉らしきものを形成し、一斉に発射してきたのだ。

 

「みんな避けろ!」

 

誰かがそう叫び、一同は反射的に飛び上がる。そのまま散開するが、背後から火の玉が生き物のように迫ってきているのが見えた兎角が叫ぶ。

 

「! まさか、追尾機能まで……!」

 

そのままレイピアで弾き返す間も無く、爆炎に吹き飛ばされる兎角。風や藤四郎も、武器を盾にして防ごうとするが、踏ん張れずに地面に叩きつけられた。樹と冬弥も必死に逃げ回っていたが、追いつかれて背中から吹き飛ばされる。

 

「クッ……!」

 

巧は火球を形成して投げつけるが、敵の攻撃の威力が勝っており、逆に巧の攻撃を弾き飛ばして、そのまま巧に直撃する。

 

「か、数が多すぎる〜⁉︎」

「ウゥ……!」

 

園子と昴もバリアを張って防衛に徹しているが、様々な方向から火の玉が迫っており、遂には背後を取られて吹き飛ばされてしまう。

 

「追ってくるなら、そのまま返して……!」

 

追尾弾を利用して獅子型への攻撃に転じようとする友奈だったが、火の玉に挟み撃ちされてしまい、あえなく全方向からの攻撃に倒れてしまう。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「このやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

激昂した夏凜と銀が駆け抜けて、獅子型に連携の一太刀を浴びせようとするが、合体した事によって強度が格段に上がったらしく、逆に2人の持つ武器が刃こぼれしてしまう。そして2人は背後から迫ってきた火の玉による攻撃を受けて地面を転がった。獅子型諸共巻き込むような攻撃だったが、まるで効いていない様子だ。

 

「夏凜ちゃん……! 皆さん……!」

 

俊敏さを活かして回避を続ける真琴だったが、目の前に夏凜が落ちてきて、足を止めてしまう。このままでは夏凜に被害が及ぶと考えた真琴は、両腕をクロスしてその身に爆撃を受けた。精霊バリアによって多少の被害は抑えられたが、真琴自身は力尽きて倒れ込んでしまった。

 

「おのれ……!」

 

東郷も銃弾を撃ち込むが、全くと言っていいほど無傷だ。より強力な一撃を叩き込む必要がありそうだ。東郷が策を練る間にも、東郷の存在に気づいた獅子型が、お返しとばかりに砲撃を仕掛けてきた。

 

「……!」

「東郷ぉ!」

 

不意の攻撃で動けない東郷。そこへ遊月が素早く駆け寄り、彼女を庇うように背を向ける。背中に灼熱を伴う痛みが走り、遊月は悲鳴をあげる間も無く、東郷を巻き込む形で吹き飛ばされた。

これにより全員が地に伏せた事となり、獅子型は邪魔者は片付けたと言わんばかりに進行する。

 

「このままでは、神樹様が……!」

「冗談じゃ、ないわよ……!」

 

そんな中で最初に起き上がったのは、上級生組だった。武器を杖代わりにして起き上がった彼らに、獅子型は無情な鉄槌を下した。水球を飛ばして、2人をその中に閉じ込めたのだ。水瓶型の能力を吸収した事で得た力なのだろう。

 

「お姉ちゃん……!」

「兄貴……!」

 

樹と冬弥が腕を伸ばすが、2人は上空まで吹き飛ばされており、その上獅子型から受けたダメージが回復しきっておらず、立ち上がるだけの力が出てこない。

水の中に閉じ込められた2人は、息が出来なくなり始めて、最初は武器を振り回して水球を破壊しようとしていたが、次第に意識が遠のき始めて、力が入らなくなってきた。

もうダメか。諦めかけたその時、風の脳裏には樹が、藤四郎の脳裏には冬弥と竜一がよぎった。

 

「(そんなの、ダメだ……! 樹を置いて……! みんなを巻き込んでおいて……! さっさとくたばるなんて、そんなの……!)」

「(まだ、だ……! 竜一との約束を果たせないまま……! 冬弥を残して、先に逝く事なんて……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「できるわけ、ないだろ(でしょ)ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」」

 

刹那、ゲージが光り輝き、そこに向かって大地から光が湧き上がり、2人を包み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空に、青色のリンドウと黄色のオキザリスが咲き誇ったような光が出現し、獅子型は動きを止めて、他の勇者達もそこに目を向ける。

 

「お姉ちゃん、藤四郎さん、まさか……!」

「兄貴が、風姐さんの姿が……!」

 

彼らが視界に捉えたのは、白装束のような武装を身に纏った、花を背にして立つ風と藤四郎の、神々しい姿。

 

「溜め込んだ力を解放する、勇者と武神の切り札……」

「なるほど、これがそういう事か」

「あれが、満開……」

 

自身の手のひらを見つめながら、身体中から力が溢れてくるのを実感する2人と、起き上がろうとする夏凜がそう呟く。

ある種の危機感を感じ取ったのか、獅子型も砲撃を繰り出して2人を倒そうとするが、感覚が敏感となったのか、すぐに回避に移り、攻撃は空の彼方へ。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

不意に藤四郎が、全身に力を込めると、体を覆うように、鋭利なカッターが生えてきた。まるで体そのものが刃となっているようで、少し触れただけでも、その切れ味は計り知れない。更に両手には2本の大鎌が握られ、獅子型に接近すると、素早い動作でその巨体を斬りつけていく。風も続けざまに体当たりを繰り出し、獅子型を後退させる。

 

「す、凄い……!」

 

圧倒的な攻撃や強度を前に苦戦を強いられていたはずの敵が、今度は押され始めている。それだけでも、満開の凄さを実感する友奈達。

と、今度は別の所で光が昇り始めた。誰かが満開を行使したようだ。その視線の先には、朝顔が咲き誇っている。

巨大戦艦を彷彿とさせる浮遊砲台に搭乗している少女の腕には、先程彼女を庇ってダメージを負った少年が抱かれている。

 

「……! 東郷……、お前……」

 

温かい光に包まれているような感覚がして、目を開けた遊月は、東郷の衣装が変わっている事に気づく。

 

「遊月君をこんなに傷つけるなんて……。もう、許さない」

 

気迫が込められた口調で、東郷は遊月をそっと足元に下ろす。やがて目の前に、地面に潜伏していた魚型が再び姿を現した。回復が完了した事で、再び攻め込もうとしているようだ。

が、タイミングが悪かったと言えるだろう。何故なら今の東郷は、傷ついた遊月を守るべく、溜め込んだ力を解放し、塵1つ残さず殲滅する事に躍起になっているのだから。

 

「我レ、敵軍ニ、総攻撃ヲ実施ス!」

 

懐から日本国旗が刻まれたハチマキを取り出して、額に巻きつけると、左腕をかざして、声高らかに攻撃宣言をする。飛び上がった魚型めがけて、8つの砲撃口から一斉掃射され、魚型は回避する間も無く直撃。次々と体が削られていき、残された頭部が消し飛んだ後には、御霊が浮いているだけとなった。

 

「御霊が出てきた……!」

「この程度の敵なら、封印の必要もないみたいね」

 

東郷は冷徹にそう呟くと、無慈悲を貫くように、収束砲撃で御霊を撃ち抜き、破壊する。

天に昇っていく光を見つめながら、東郷はポツリと呟く。

 

「いつ見ても、妙な散り方……」

「これが、満開……」

 

その光景を隣で見ていた遊月はしばらく呆然としていたが、不意に頭痛が襲ってきた。久々という事もあるが、痛みが引くまで時間がかかった。今までとは比べ物にならない激痛に、遊月は顔をしかめてしまい、それに気づいた東郷は心配そうな顔つきになる。

 

「遊月君、大丈夫⁉︎ ひょっとしてさっきの攻撃で……⁉︎」

「い、いや大丈夫だ。ただの頭痛だ。これくらい問題はないさ」

「でも……!」

「それより、早く向こうの援護に向かうぞ」

「そ、そうね」

 

東郷が満開を維持したまま、前進しようとしたその時、レーダーに敵の反応が。それも、東郷達が今いる地点を通過して、一直線に神樹に向かっているのだ。

 

「これは……!」

「いけない! 神樹様に近い……! 何故、気がつかなかった……!」

 

遊月が目を凝らすと、神樹に向かって凄まじいスピードで駆け抜けていく個体が見えた。『双子座』をモチーフとした、鎖が付いている首の部分に板があり、そこから頭部と腕が出ている形をした『ジェミニ・バーテックス』だ。

今までのバーテックスと違って、友奈達の身長とさして変わらない図体であり、入り組んだ樹海の中を掻い潜ってきたとなれば、獅子型の方に気を取られていた事もあり、発見が遅れるのも無理はないだろう。

だが、このまま通すわけにはいかない。すかさず東郷が砲撃を試みるが、双子型は軽い身のこなしで砲撃の雨を掻い潜り、着実に神樹めがけて駆け抜けている。

 

「こいつ、小さくて速い……! 軽やかにかわしてやがる……!」

「このままじゃ、神樹様が……!」

 

焦る東郷。遊月も攻撃に加わろうとするが、蓄積したダメージが響いて、思うように起き上がれない。

万事休すか、と思われていたその時、2人の背後で光が集約している事に気付いた。振り返ると、黄色のフリージアと、緑色の鳴子百合が咲き誇っているではないか。

 

「おいらだって……! 兄貴と、みんなと、並んで歩いていけるように……! 少しずつ自分を変えていきたいんスよ!」

「私達の日常を、壊させない!」

 

慕っている上級生組に奮起された、冬弥と樹は双子型めがけて駆け抜ける。満開によって身体能力は飛躍的に向上し、双子型との距離が縮まってきた。

 

「そっちに、いくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

樹の背中の部分からワイヤーが現れて、双子型めがけて振るわれた。ワイヤーはすぐに双子型を拘束し、神樹から引き離すように操作して寄せ付けた。

 

「そのまま抑えててくれッス!」

 

すぐ近くまで引き寄せてから固定させて、冬弥が手に握られたハンマーを振りかざすと、みるみるうちに肥大化していった。その大きさは、獅子型とも引けを取らない大きさだ。

 

「おしおきっ!」

「ブチ抜けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」

 

樹が右手でギュッと握りしめると、締め付けられた双子型はバラバラに切断され、そこへ間髪入れずに冬弥の巨大ハンマーによって押し潰されて、小さな御霊ごと、跡形もなく消し飛んだ。

 

「良いぞ2人とも!」

 

遊月が激励する中、獅子型もより一層激しい攻撃を、風や藤四郎めがけて放ってくる。夏凜も援護に向かおうとするが、体に力が入らない。

すると、夏凜の目の前で紫色のオシロイバナが咲き誇った。

 

「これ以上、夏凜ちゃんやみんなを、傷つけさせない……!」

「真琴、あんたまさか……!」

「夏凜ちゃんに守られてきてばかりだったけど、今回だけでも、僕が夏凜ちゃんを、守るんだ……!」

 

目を閉じて、力を解き放つ真琴。やがて露わになったその姿は、東郷のものとよく似ていた。違っているのは、大型レーザー砲が両端に1つずつしかない事、そして白装束を纏った真琴の周囲に、リフレクターのようなものが浮いている事。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

上空に浮かび上がった真琴は、両手を突き出して、リフレクターを獅子型に向かわせると、その間にチャージを完了させて、轟音を立てながら、極太のレーザービームが発射された。獅子型に直撃して後退させられるが、すり抜けた砲撃が、獅子型の周囲に巻かれたリフレクターによって反射され、別方向から増幅されたレーザーが襲いかかる。砲撃が止んだ時には、獅子型の体が半分近く削り取られているのが確認された。

 

「ナイスよ真琴!」

「やったぞ!」

「やるじゃねぇか!」

「フッ……。あの泣き虫が張り切ってるのに、いつまで倒れてるのよ、私……!」

 

夏凜も、真琴の勇姿に勇気付けられたのか、ようやく起き上がった。

藤四郎が皆に声をかけようとしたその時、頭上に異様な気配を感じ取った。見れば、再生しつつある獅子型の頭部から火の玉が放出され、一箇所に収束しようとしているではないか。最後の足掻きと言わんばかりに、熱エネルギーを溜め込んで、勇者や武神ごと、この樹海を焼き払おうとしているのか。

 

「な、何このヤバそうな、元気っぽい玉……!」

 

その表現はギリギリアウトだろ、と普段ならツッコみたい藤四郎だが、この攻撃を地上に落とさないようにする事を優先するべく、腕に力を込める。

 

「……来い!」

「! いけない!」

「逃げてください!」

 

皆が逃げるように示唆するが、逆に風が大声で指示を出した。

 

「勇者部一同! 封印開始ぃ!」

「僕達が抑えておきます! 皆さんは、早く封印を……!」

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

風と藤四郎、そして真琴が真正面から、武装を盾にして受け止めている。その間に残った面々で封印しろ、という事なのだろう。

 

「う、うん!」

「分かりました!」

「やるぞみんな!」

「! 了解!」

「いっくよ〜!」

「ったく! 私にもいいとこ残しときなさいよね!」

 

3人の負担を少しでも減らすべく、すぐさま獅子型の周囲に集合し、11人で封印の儀を開始する。

 

「よし、さすが勇者部……!」

 

風が苦悶の表情を浮かべながらも感心する。が、他の2人も含めて、限界が近いようだ。そればかりか、獅子型も足掻くように、攻撃を上乗せして、押し潰そうとエネルギーを溜め込んでいる。

これを見た真琴は、

 

「先輩! 僕の所に集まって、しがみついてください!」

 

と叫んで2人を引き寄せると、意識を集中させて、引き金を引くイメージを持って、砲撃を巨大な火球めがけて撃ち込んだ。火力の高い攻撃がぶつかり合い、相乗効果で大爆発が起こり、結果として獅子型の攻撃は中断される。

だが3人の方も無事では済まなかった。至近距離で爆発した為、3人は反動で地面に叩きつけられた。幸いにも、真琴が搭乗していた砲台がクッション代わりとなり、深手を負う事はなかったが、体力を使い果たしてしまったらしく、3人の姿が元の勇者、武神服に戻ってしまった。満開の効力が切れて、3人は起き上がる力が出ないのか、地面に横たわる。

 

「お姉ちゃん!」

「兄貴!」

「真琴!」

 

樹と冬弥、夏凜が悲痛な声を張り上げる。思わず駆け寄ろうとする一同だったが、唐突に風の大声がそれを遮る事に。

 

「そいつを、倒せぇぇぇぇぇぇ!」

 

檄を飛ばされて、足が止まる一同。3人は介抱したい衝動と涙を堪えて、代わりに力強く頷き、封印の儀に集中する。

間も無く御霊が出現する。どんな防衛システムを張っているのかは分からないが、それさえ破壊すれば決着がつく。その一心で集中していた彼らだったが、すぐに違和感に気づく。

いつになっても、御霊が姿を現さない。そろそろ目の前に出てきてもおかしくないはず。そう思った一同が御霊を探そうと周囲に目を配ると……。

 

「なっ……」

 

本日何度目かも分からない、驚きに満ちた表情を浮かべる一同。彼らがそうなるのも、無理はないだろう。

御霊は、確かに獅子型の体内から排出されていた。問題は、その御霊がいる場所と、その規模だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅子型と寸分違わない大きさの、逆三角錐の物体が浮かんでいるのは、地上から遠く離れた、大気圏外に広がる、漆黒の空間。俗に『宇宙』と呼ばれる世界に、無機質の物体は圧倒的な威圧感を漂わせながら、浮いていたのだから……。

 

 

 

 

 

 




久々の戦闘シーンという事もあり、長文になりました。

次回、遂に決着……!


〜次回予告〜


「規格外すぎるだろ……⁉︎」

「地上に落としてたまるか……!」

「そこだぁぁぁぁぁぁ!」

「固ぇ……!」

「頼みました……!」

「何とかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁる!」


〜大決闘(後編) 〜精霊降ロシ、行使ス〜〜


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