結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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今更ながら、このシリーズを投稿し始めてから1年近く経ったんですね。今後ともよろしくお願いいたします。


さて、先日、リリカルなのはの映画を観て来たのですが……。



とにかく、最高でした。10年以上人気が続く理由がよく分かります。

ネタバレになるかもですが、ディアーチェのとあるシーンで、いい歳こいて、感極まって視界がボヤけました(泣)。



14:あたしの理由なのよ

「う〜ん……。この写真は、ここで!」

「随分と悩んだな」

「えへへ! でも、良いところに貼れたよね!」

「まぁな」

 

全ての授業を終えた放課後。

頭に牛鬼を乗せていた友奈は、兎角に見守られながら、黒板に掛けられていた新聞記事に、1枚の写真を勢いよく貼り付ける。どうやら勇者部の活動報告新聞に載せる写真のベストポジションを探っていたようだ。

その傍らでは、東郷がホームページの更新の為にパソコンを操作しており、遊月も横から覗き込みながら、閲覧者数をチェックしている。

 

「今日も中々のもんだな」

「えぇ。後はここに、仔猫の写真と学校の連絡先を載せて、と」

「これで後は、向こうからの連絡を待てば良いわけだ」

 

現在、飼い主探しの依頼を受け持っており、多くの人がホームページに目を向けてくれるのを利用して、情報を拡散させているのだ。

 

「でねでね〜。ここはとっくんに後ろから支えてもらうようにしてね〜」

「流石ね園子。あたしじゃここまで思いつかないわよ」

「同感だな」

 

着々と文化祭の出し物である演劇の台本を完成させつつある、園子の脚本家としての才能を間近で見て、舌を巻く風と藤四郎。

他にも、修理の依頼を受けて、備品の調整を終えたばかりの巧。新作のレシピ本を片手に、帰りに買っておきたい食材をピックアップしている昴。次の子ども会に向けて紙芝居の練習をしている銀と真琴、そて冬弥。

そして扉付近で、例の如く煮干しを貪り食う夏凜。

 

「……あー。それはそうと夏凜。あんたまた煮干しを大量に持ち込んでるわね」

「何よ。健康に良いんだからいいでしょ?」

「にぼっしーは色々とブレないなぁ〜」

「だからにぼっしー言うな! それから言っとくけど、私はそんなあだ名を容認した覚えはないわよ!」

 

園子が名付けたあだ名を、もう何回もそう呼ばれてきたはずなのに、依然として納得のいかない様子だ。

 

「それはそうとにぼっしー」

「いや待って巧。あんたが真顔でそう言うと、割とシャレにならないから」

 

何年か前の事故で左目を失って傷が付いている巧が、文字通り真剣な表情で夏凜をあだ名で呼んだ事に、内心冷や汗をかく通称『にぼっしー』。

 

「そんな事はどうでも良いだろ。それより東郷からの依頼は済んだのか?」

「あ、そういえば飼い主探しのポスター作りを頼まれてたよな」

「そんなの、もう作ってあるわよ」

「おぉ! 早いね!」

 

そうして自信満々に自作のポスターを見せつける夏凜。ほとんどの者が作業を中断して、ポスターに目をやる。全体的な配置や簡略的な説明文もしっかりとしており、ポスターとしては申し分ない程の出来だったと言えるだろう。

……ただ一つ、下の方にある猫のイラストを除いては。

 

「……何これ」

「誰が妖怪を描けと言った」

「猫よ!」

「……この部分だけは、夏凜に頼んだのは失敗だったかもな」

「これが園子だと独特な感性もあって難しそうだったから、夏凜に任せたのが仇になったか」

「写真を貼ればよかったものを……」

 

次々と酷評されるほど、夏凜の美術に関するセンスのなさが伺われていく。

と言った感じでわいわい騒ぎながらも、勇者部一同、特別なお役目を担っている事も忘れて、有意義な時間を過ごしていたのだが……。

 

「はぁ……」

「いっつん〜?」

「樹?」

「どうしたの? ため息なんかついて」

 

不意に聞こえてきたため息に反応する一同。少し離れたテーブルで、タロットカードを広げていた樹の表情は優れない。

 

「……あのね。もうすぐ音楽の授業で、歌のテストがあるんだけど……」

「そういや樹。今日の練習じゃ、やたらと音程外しまくってたッスね。教科書も逆さまに持って歌おうとしてたし。ガチガチに緊張してたッス」

「逆さまに? ブフッ……!」

「わ、笑わないでくださいよ銀さん! 冬弥君も恥ずかしいから言いふらさないでよ〜!」

 

顔を赤くしながら抗議する樹。

どうやら1週間後に控える、音楽の授業でのテストにて、ちゃんと歌えるのか占っていたようだ。そしてその結果は……。

 

「『死神』の正位置。意味は『破滅』、『終局』……」

「ま、まぁ、『当たるも八卦当たらぬも八卦』って言うし、気にする事ないんでしょ?」

「そうだよ! こういうのって、もう一度占ったら全く別の結果が出るもんだよ!」

 

そうして風や友奈に背中を押される形で、再度占う樹。そしてその結果は……。

 

「よ、4回連続で『死神』って……」

「んなアホな……」

 

誰かがそう呟いたように、『最終結果』の位置には、まるで狙ったかのように、『死神』の正位置が来たのだ。風を初め、何人かが頭を抱えるのも無理はないだろう。外に出ていた牛鬼、鴉天狗、金華猫といった精霊達も困り果てた様子だ。ただ、園子だけは終始微笑みを崩さなかったが……。

 

「だ、大丈夫だよ! フォーカードだから、これは良い役だよ!」

「いやいや友奈。冷静になって考えてみろよ。死神のフォーカードって……」

「いや、その、それは……」

 

慰めのつもりでかけた言葉が、兎角が指摘するように、逆に傷口を広げてしまったようだ。樹の口から垂れるため息はさらに勢いを増した。

これは部員としても、何より姉としても放っておけないと考え、風は早速全員を黒板の前に集めて、新たな勇者部活動に取り組み始める。

題して『樹を歌のテストで合格させる!』である。

 

「勇者部は、困ってる人を助ける! それは部員だって同じよ」

「そだな! 賛成!」

「あ、ありがとうございます!」

「歌が上手くなる方法かぁ……」

「やっぱその道に詳しい人からアドバイスをもらうのが効果的だよな」

「あ、あの……。それを受けて、凄く根本的な事になるかもしれないんですけど、僕達の中で、歌が特別上手い人って誰がいるんでしょうか……?」

 

真琴がおずおずと尋ねてきたが、誰1人として手を挙げない。画力には定評のある者は何人かいるが、歌となるともはや管轄外なのだろう。あの完璧超人とまで謳われる園子でさえ、得意分野ではないのか、手を挙げにくいようだ。

と、ここで東郷からこんな一言が。

 

「ともあれ先ずは、歌声でアルファ波を出せるようになれば、勝ったも同然ね」

「アルファ波……?」

 

頭に『?』を浮かべる樹。東郷は腕をゆっくりと円を描くように動かしながら説明する。

 

「良い音楽や歌というものは、大抵アルファ波で説明がつくの」

「初耳です!」(by真琴)

「え、マジで⁉︎」(by銀)

「それ凄いッス!」(by冬弥)

「そうなの?」(by友奈)

「そうなんですか⁉︎」(by樹)

「んなわけないでしょ!」(byにぼっしー)

「何故アルファ波を挟んできた」(by巧)

 

といった感じで脱線しかける議論だが、風がどうにかして修正に入る。

 

「樹は1人で歌うと上手いんだけどね。人前で歌うのは緊張する、ってだけじゃないかな?」

「なるほどな……」

 

藤四郎が、チュッパチャプス(カシスオレンジ味)を咥えながら、腕を組んで頷く。

原因はある程度判明してきたが、判ったからといって具体的な対処法までは思いつかない。どうすれば、と頭を悩ませる一同だったが、ここで友奈と園子が小声で話し合い、ものの数秒もしないうちに笑みを浮かべた。何か策を思いついたのだろうか。

 

「珍しいね〜。ゆーゆと意見が合致したよ〜」

「えっ?」

「こういうのは、習うより慣れろ、だもんね!」

 

どうやら2人とも、ほとんど同じ案を思いついたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして2人に連れられて、一同が訪れたのは駅近くのカラオケ屋『MANEKI』。勇者部員達も、歓迎会や打ち上げ等で何度か利用した事のある施設だ。遊月は歓迎会の時を含めて2回目だが、夏凜と真琴は初めてだった。

カラオケボックスという空間内で、勇者部員達を前にして歌い、本番までに人前で歌う事に自信をつける、という友奈と園子の作戦は、一応は理に適っていると言えるだろう。

とはいえ、いきなり樹にトップバッターを任せるのは酷だろうと考え、先ずは何人かが歌って、幾分か緊張がほぐれた所で樹に歌ってもらおう、という方針でまとまった。

最初に歌い手となったのは、犬吠埼 風だった。『Soda Pops』を中々の歌唱力で歌い上げて、周りの面々もタンバリンを叩いたりして応援している。

 

「イェーイ! みんな聴いてくれてありがとー!」

「お姉ちゃん上手!」

「流石ですね」

 

などと賞賛が湧き上がる中、夏凜だけは興味なさげに野菜ジュースを飲んでいる。そんな彼女を見ていた真琴が、自分の番が回ってきたので、風の点数が出る間に、曲を選択する端末を持って夏凜に見せつけた。

 

「夏凜ちゃん。この歌知ってる?」

「えぇ、まぁ……」

「良かったら、その……。僕と一緒に歌おうよ!」

「おぉ、デュエットか」

「2人の歌声聞くの、初めてだから楽しみ!」

 

兎角と友奈が期待を込める中、夏凜は顔を真っ赤にして喚く。

 

「な、何で私があんたと⁉︎ 慣れ合うために一緒にいるわけじゃ……!」

 

そう言って拒絶する夏凜だったが……。

 

「そうだよねぇ〜。あたしの後じゃ、ご・め・ん・ねぇ〜」

 

半ば挑発混じりに指をさす先には、採点結果が表示されており、結果は『92点』。

 

「おー、やるなぁ。流石の夏凜もこれは抜かせそうにないな」

 

加えて藤四郎がチラッと横目で夏凜の方を見る。

しばらくの沈黙の後、夏凜はボソッと呟く。

 

「……真琴。マイクをよこしなさい」

「えっ?」

「早くっっっ!」

「は、はぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

いつのまにか主導権が逆転しており、言われるがままにマイクを渡し、そのまま歌い始める2人。『◯△□』という、商店街で流れている曲を本人なりに精一杯歌い上げる中、昴が藤四郎に耳打ちする。

 

「先輩。夏凜ちゃんの扱い方が上手くなりましたね」

「さぁ、何のことやら」

 

わざとらしく、フッと意地悪い笑みを浮かべる藤四郎。夏凜の登場もあって、人を煽る技術を習得していたようだ。昴もそれにつられて笑みを浮かべた。

そんなこんなで、汗だくになりながら歌い終えた2人。

 

「か、夏凜ちゃん、初めてなのに、上手だったね……!」

「ま、まぁね……! これくらい当然だし、あんたも、いい根性してたわよ……!」

「凄いね2人とも!」

「仲良きことかな〜」

 

友奈や園子がそう呟いている間に、結果は出た。風と同じ『92点』であった。

 

「おぉ、これは負けられないね! 兎角! 私達も頑張ろう!」

「この流れで行くとそうなるのか……。まぁ良いけど」

 

そうして今度は、友奈と兎角という幼馴染みコンビでデュエット曲を歌う事に。『ホシトハナ』という、通常なら複数人で歌うものを2人でパートを分けて歌い切り、見事に『94点』という、先の2組を超える点数を叩き出した。東郷を中心に拍手喝采となり、友奈と兎角がハイタッチする中、夏凜は点数で負けてしまった事を受けて、本気で悔しがっている様子だ。

その後も、銀が特撮ソングとして『Anything Goes!』を、藤四郎が少し古めの曲で『大都会』を、冬弥が有名なアニソン『DAN DAN心魅かれてく』を、昴が女性パートの方が良いとして『私とワルツを』を、遊月が最近覚えた曲として『Wake up your heart』を歌い上げて、高得点とまではいかないが、申し分ない歌唱力を見せつけた。

中でも圧巻だったのは、遊月の次に歌った園子の、『恋愛サーキュレーション』というポップ且つ難しめな曲を難なく歌い上げて、本日最高得点となる『98点』を叩き出した事だった。

 

「どうあがいても、あいつを超えられるイメージが湧かないわ……」

 

普段から負けず嫌いの夏凜でさえ、そう言わせるほどに園子は上手かったと言える。

そうして巧が名曲『曇天』を歌い終えた所で、いよいよ本命となる、樹の出番が回ってきた。

 

「次は樹の番だな」

「ファイトッス!」

「う、うん……」

 

浮かない表情を見せながら、マイクを手に持ち、前に出る樹。流れてきたのは、テストの課題曲である『早春賦』。皆の視線が集まる中、一度深呼吸して歌い始める樹。

だが、時折音割れするほどに音程が乱れ始めてしまい、結局最後まで歌い切る事なく、演奏を中止した。

 

「ハァ……」

「やっぱり堅いかな」

「前よりもずっと外れてたッス」

「もうちょっと肩の力抜いても良いんだぞ?」

「でも、誰かに見られてると思ったら、それだけで……」

「重症ね」

 

夏凜がやれやれと結論づける。

 

「まぁ、今はただのカラオケなんだしさ。上手い下手は関係なしに、好きな歌を好きな感じで歌おうよ!」

「銀の言う通りね。先ずは好きな曲から始めてきましょうか」

「そうそう気にしない! ささっ、お菓子でも食べて元気を」

「あ、あのー、友奈ちゃん。誠に申し上げにくいんですけど……」

「ん? どうしたの昴君」

「お菓子の事なんですけど、その……」

 

そう言ってしどろもどろに昴が指をさした先には、封が開けられて全て空っぽになった菓子の袋。そしてその上でお腹を大きく膨らませてご満悦な様子の牛鬼が。

 

「残ってない⁉︎」

「時すでに遅し。全部牛鬼の胃の中か」

「アッハッハ! 牛鬼は本当に食いしん坊だな!」

「食べすぎだよ〜……」

 

どうやら皆が歌っている間に、全部完食していたようだ。カラオケボックス内に笑い声が響き渡った。

と、その時だった。スピーカーから、普段聴き慣れないイントロが流れてきたのは。

 

「あ、私が入れた曲ね」

 

マイクを手に取ったのは、ここまでまだ1曲も歌っていない東郷だった。途端に、夏凜と真琴以外の面々の表情が変わり、一斉に立ち上がった。そして女性陣はその場で、男性陣は慌てて押し合いながらも席を離れる。曲が始まる前までに、東郷から見て右側を女子が、左側を男子が起立乱れぬ一直線上に並び、ビシッと右手で敬礼を行う。

一方で何が何なのか分からぬまま、呆然としていた夏凜と真琴の耳に入ってきたのは、『古今無双』と呼ばれる、護国精神の強い東郷にとって十八番と呼ぶに相応しい曲だった。

只ならぬ雰囲気に包まれる中、ようやく曲が終わり、ホッと一息つく東郷。その間に、他の面々も元の席に腰を下ろしてした。

 

「あ、あの……。今のは……」

 

ようやく我に帰った真琴が、隣にいた兎角に話しかける。

 

「あぁ、言い忘れてたな。東郷がアレを歌う時は、必ずこうするんだ」

「そ、そうなの……?」

「真琴、夏凜。これも習うより慣れろ、だ。俺だって最初はビックリしたわけだし」

 

その隣にいた遊月も、最初にその光景を目の当たりにした事を思いだしつつ、苦笑しながらそうアドバイスする。当然ながら、肝に銘じる2人であった。

そうして東郷が歌い終わった所で全員が一通り歌い終えた事になり、時間もまだあるという事で、樹とデュエットしようとする友奈など、次に入れる歌を選曲していたその時、藤四郎のスマホが鳴り始めた。

懐から取り出してみると、メールが一件。それも大赦から。1人顔をしかめる藤四郎。それから風に耳打ちすると、彼女もまた似たような表情に。それから一同に断りを入れて、カラオケボックスの外に出る2人。

 

「「……」」

 

その後ろ姿を、大赦から派遣された2人の勇者がジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大赦から連絡?」

 

不意に声が聞こえてきたので、風と藤四郎が振り返ると、腕を組んだまま近寄ってくる夏凜と、その後を小動物のようについてくる真琴の姿が。

無言を肯定と受け取った夏凜はため息をつく。

 

「……そう。私達には何も言ってこないのに」

「「……」」

「あ、あの……。内容は、大体想像は出来ました。バーテックスの出現には周期がある、というのが大赦の見解。ですが、今までに起きている事は当初の予測とは全然違っています。だから、有事に備えて警戒するように……。って事ですよね?」

「……最悪の事態を想定しろ、との事だ」

 

真琴の考察に対し、藤四郎が目を細めて呟く。風の表情も、カラオケボックスにいた時とは打って変わって暗い。手も僅かに震えている。妹が、仲間が危険に晒されるかもしれない。その事が、風に不安の種を植えつけているのかもしれない。それを見て、夏凜は鼻を鳴らしながら口を開く。

 

「……怖いのね。なら、あんた達は統率役に向いてないわ。私ならもっと上手くやれるわ」

「か、夏凜ちゃん……!」

 

真琴が窘めようとする前に、風が口を挟んだ。

 

「これは、あたしの役目で、あたしの理由なのよ」

 

夏凜に言われた事が気にくわないのか、風は表情を険しくしながら、カラオケボックスに戻ろうとする。

 

「後輩は黙って、先輩の背中を見てなさい」

 

すれ違いざまにそう告げてから、風は樹達がいる部屋へと戻っていった。フンと鼻を鳴らす夏凜と、どうすればいいのかオドオドしている真琴。そんな2人と去っていった風の後ろ姿を思い返しながら、藤四郎はやれやれといった表情を浮かべる。

 

「素直じゃないな。あいつも、お前も」

「……どういう事よ」

「自分一人で抱え込まずに、もっと私達に頼れ。……そう言いたかったんだろ、夏凜」

「なっ、バッ……! そ、そんな訳……!」

 

狼狽する夏凜を見て、ようやく藤四郎が表情を崩した。

 

「お前が素直じゃないのは分かってるさ。無理にそれを改める必要はないが、もう少し自分に正直になれば良いと思うぞ。真琴みたいに」

「えっ、ぼぼぼ僕ですか? ど、どうしよう……! 何て声をかけたら……!」

 

唐突に名前を呼ばれて慌てふためく真琴。それを見て笑う藤四郎と夏凜。僅かだが和やかな雰囲気が戻りつつあった。

それから落ち着きを取り戻した真琴が、藤四郎に尋ねる。

 

「あ、あの……。今更こんな事を聞くのは変かもしれないんですけど、藤四郎先輩と風先輩のお2人で、勇者部を立ち上げたんですよね?」

「あぁ」

「それならどうして、風先輩はあそこまで抱え込むような表情を……」

「……あいつも、俺と同じ原点から始まった。それでも、残された家族だけでも守り切ろうと、1人で必死に抱え込んでいるんだろうな」

「えっ? それってどういう……」

 

気になる発言が飛び交い、聞き出そうとするが、それを藤四郎は片手で制す。

 

「悪いがそれは、俺の口から話して良いものじゃない。人には誰だって触れて欲しくない、パンドラの箱を抱えている」

 

向こうから話してくれるなら、話は別だが。そう付け足してからは、2人も何も言わなかった。それ相応の深い事情があって、この地を代表する勇者、武神となったのだろう、と考えた。

 

「さてと。それじゃあこの話はここで終いだ。樹の歌の練習が、最優先事項だからな」

 

そう言って2人と共に、再びカラオケボックスに戻る藤四郎。戻ってきた時には、友奈にリードされながら、必死についていきながら歌う事に集中する樹の姿が。風も、多少は先ほどまでの余韻を残しつつも、妹を精一杯応援していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間というものはあっという間に過ぎていく。

3、4週した所で、夕日が地平線に沈みかけていた。

 

「久々に盛り上がって、楽しかったな!」

「歩いて帰るのも、久しぶりね」

「そうだな」

「けど、あんまり樹ちゃんの練習にはならなかったかな……?」

「後半は樹の練習そっちのけで、得点の競い合いが勃発してたからな」

「私は楽しかったですよ。みんなが歌うのを聴けて」

「さてと。樹の歌が上手くなる方法を見つけ出さないとな……」

 

といった様子で夕日に照らされた帰り道にて、和気藹々と話し合う中、最後尾にいる風の表情は優れない。藤四郎を通じて伝えられた、大赦からのメッセージが気になって仕方がないようだ。

 

「……ちゃん。お姉ちゃん?」

「え、何?」

「樹の歌の話よ」

「風先輩。何かあったんですか?」

 

兎角が尋ねてくるが、風は首を横に振って口を開いた。

 

「う、ううん。何でも。樹は、そうね……。もう少し練習と対策が必要かな?」

「アルファ波を出せるようにね」

「いやだから……」

「アルファ波から離れなさいよ……」

 

巧と夏凜のツッコミが炸裂し、笑いが巻き起こる。風も取り繕った表情で笑い始める。

そんな彼女の本心を見透かしているのか、彼女を見つめる樹と藤四郎の表情は、優れていないのであった。

 

 

 




皆さんの、カラオケの十八番って何でしょうか?

私はほとんどアニソンしか歌いませんが、水樹奈々さんの『ETERNAL BLAZE』(魔法少女リリカルなのはA'sの主題歌)が一番好きで、得意です。他にも、ClariSで『カラフル』(魔法少女まどかマギカ 〜新編:叛逆の物語〜 の主題歌)も得意です。
最近だと、三森すずこさんの『サキワフハナ』(結城友奈は勇者である 〜鷲尾須美の章〜 の主題歌)が、割と高得点を出せるようになり、得意になりつつあります。

よろしければ、皆さんもコメント欄でも構わないので、お気に入りの一曲を教えていただけたら幸いです。


〜次回予告〜


「詳しいですね」

「直飲みだとぉ⁉︎」

「結局それかい!」

「今日も可愛いぞ♪」

「強くなりたいのは、俺もッス」

「……ありがとう」


〜私が頑張る理由〜

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