結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
OP『エガオノキミヘ』、最高です。そして、尊い。
世界が樹海に包まれてから、6人の中で最も熱意を込めていたのは、須美であった。冷静な口調とは裏腹に、須美は来たるべき日に備えて、毎日精進してきた成果が試されるとあって、面には出さずに奮起していた。
全ては、この美しい国を、大切な家族を、共に戦う仲間を守る為に。
須美の持つ武器は戦線では1番リスクの少ない弓矢型であり、上手く機能すれば、近づく前に撃退できると思っていた。実際、銀はやる気が逆に不安を覚えさせ、園子は終始ポヤーッとしているイメージしかないので、頼りない。武神に関しても同様で、基本は誰とも接しようとしない巧にどれほどの実力があるかなど知る由もない。1番マシなのは普段から温厚な昴だが、彼は防御向けなので、話は別だ。当然今日会ったばかりの晴人は論外だ。つまりは、他の仲間に負担をかけさせたくない一心だった。
だが、窮地に立たされたと自覚した途端、須美は自分の立ち回りが分からなくなってしまった。
「(私の矢では、ダメージが足りない。神奈月君は攻撃に向いてないし、三ノ輪さんや鳴沢君は、強力だけど近づけない。乃木さんはどう扱っていいか分からないし、何より市川君に関しては、あまりに情報が少なすぎる……!どう指示していいか分からない)」
頭上を通過し、大橋の奥へと進む水瓶座を食い止めようと、後方から水球を薙ぎ払いながら果敢に立ち向かう晴人を見ながら、須美は考え込んだ。だが、秀才な彼女をもってしてもこれといった決定打が思いつかない。
「一体、どうしたら……」
頭を悩ませる須美。そこで敵から気を逸らしてしまったのが失敗だった。地上にいる無防備な須美めがけて、水瓶座が頭の部分から水球を飛ばしてきたのだ。
「危ない!」
間一髪のところで銀が飛びついて、須美を押し倒した。
「動いてないと危な……!」
上半身を起こして注意する銀の言葉は最後まで続かなかった。なぜなら銀の頭部に水球が命中し、頭が水球に覆われてしまったからだ。水の中にいるのと同じなので、すぐに息が苦しくなったのか、立ったままもがき始める銀。
「三ノ輪さん!」
「三ノ輪!」
「! ヤベェ……!」
合流した巧が須美と共に銀を救出しようと駆け寄った。異変に気付いた晴人も水瓶座との交戦を一旦諦めて、仲間の救助を優先し、下降した。ちょうどそのタイミングで、先ほどまで激流に呑まれて気絶していた園子と昴か目を覚まし、目の前の異変に気付いた。
「ミノさん!」
「大変だ……!」
このままでは、銀は溺れ死んでしまう。3人は水球を銀から引き剥がそうとするが、上手く水球を掴めない。
「これ、弾力が……!」
「ビクともしねぇぞ⁉︎」
「市川、鷲尾、離れろ! 俺が外から刺激を……!」
巧が二本のバチを構え、2人を下がらせる。外から叩いて割ろうとしているようだ。
「!」
と、その時銀の方である変化が。急に目をカッと開けたかと思うと、銀の頭を覆っている水球の体積が段々と小さくなっていくのが確認できる。よく見ると、中に見える銀の口がえづいており、喉も激しく動いている。
巧と須美は瞬時に銀がやっている事を理解した。
「えぇ……」
「こ、こいつまさか……」
「ミノさん大丈夫?」
「な、何を……」
そこへ合流した昴と園子が、銀の様子を見て声をかけた。数秒後、頭を覆っていた水は全て、銀の胃袋に収まった。
「プハーッ!」
「オォッ……」
「全部、飲んだ……」
「神の力を得た勇者にとって、水を飲み干すなど造作もないのだ! ……ウッ、気持ち悪っ……」
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
口元を抑える銀の背中をさする昴。すると、晴人と園子が目を輝かせて声に出した。
「スゲェな! 今度やられたら同じようにすればいいってわけだな」
「ミノさん凄〜い! お味は?」
「今レビューを聞くんですか⁉︎」
昴がそうツッコむと、ある程度回復した銀が答えた。
「最初はサイダーで、途中からウーロン茶に変化した……」
「「「「「あ、不味いんですね分かりました」」」」」
顔を引きつらせる5人。が、すぐに我に返った須美が振り返る。
「! そ、そんな事より、バーテックス!」
「あぁ、あいつはヤバい……!」
6人が、はるか向こうに見える水瓶座に目をやる。一定のスピードで着実に奥へと進んでいる。ふと見ると、水瓶座の周囲が光っている事が気になった晴人が口を開いた。
「なんかメッチャ光ってねぇか、あそこ?」
「分け御霊の数が凄い……。出口が近いんだわ! 追撃を……!」
目に見える現象を解説する須美は、慌てて水瓶座の方へ向かおうとするが、他の面々が待ったをかける。
「……でも、効かなかったもんね」
「あぁ。無闇に立ち向かっても、また同じ事になり兼ねない」
「でも、早くしないとやつが大橋から出てしまうわ!」
「大橋を渡り切って、僕達の活動範囲を越えてしまったら、撃退は出来なくなりますし、どうしましょうか……」
「だったら、根性でもう一回乗り切ってやる!」
「そんなの危険すぎるわ! 市川君1人に任せるなんて無茶よ!」
「せめて、攻撃力の高いメンバーだけでも近づけさせれば……」
ああだこうだと意見が飛び交っているが、一向に目処が立たない。こうしている間にも、水瓶座は侵攻を続けている。このままでは、神樹にたどり着かれてしまい、世界は死ぬ。
どうすればいいのか。須美が必死に頭をフル回転させていたその時、それまで蚊帳の外だった少女の表情がパァっと明るくなり、振り向いて叫んだ。
「……あっ! ピッカーンと閃いた!」
「……本当に、これで大丈夫なのかしら?」
「俺は乃木さんを信じるぜ! つーかこれ以外に方法もなさそうだしな」
「それは、そうだけど……。でも、やるしかないわね」
水瓶座に気づかれないギリギリの所まで接近した6人は、園子の立てた作戦を実行に移した。須美は首を捻って不安を口にするが、晴人に説得されて、気持ちを切り替える。須美自身、これといった妙案は思いつかない。時間も限られている為、ここは賭けに出るしかないだろう。
「それじゃあ鷲尾さん、お願いします!」
「えぇ、分かったわ」
須美は弓を引いて、水瓶座めがけて矢を放つ。矢は水瓶座の頭部に命中し、侵攻が止まったのを確認した。
「気が付いたみたいだな!」
「こっち向いたよ〜!」
「急がないと……!」
こうしている間にも、水瓶座の足元の樹海は枯れ続けている。現実世界への被害を最小限に留める為にも、ここで仕留める必要がある。須美は腕に力を込めた。
「! 来るぞ!」
巧がそう叫ぶと同時に、頭部から水球が放たれて、6人の勇者達へと向かっていく。
「展開!」
園子が一歩前に出ると、手に持っていた槍の先端の形状が変化し、傘のような盾が形成され、水球による攻撃を跳ね除けた。
「さっきのすばるんを見てて、思い出したの! こうやって、盾にもなるんよ!」
「オォッ、便利だなそれ!」
「このまま前進!」
園子が防護する間に、後方から隠れながら、須美と巧が矢を放ったり、火球を飛ばしている。巧がバチを振るって火球を飛ばし、水球を爆発させ、須美が矢で少しずつダメージを蓄積させていく。だが水瓶座の方も早急に次の手を打った。
「第二波、来ます!」
昴がそう叫ぶように、右腕から再び激流が発射された。今度は昴が盾を装備している右腕を突き出し、園子の槍の先端を覆うように薄い膜が張られる。こうする事で、園子の分も含めてより強固な盾が完成するのだ。それでも激流は激しく、気を抜けばまた呑み込まれる。だが今度は、2人だけではない。6人全員が団結して堪えているのだ。
「乃木さん、神奈月君! 大丈夫⁉︎」
「勇者は根性! 押し返せぇぇぇぇぇ! オーエス!」
「「オーエス!」」
「「「「「オーエス!」」」」」
最初は銀から始まり、次に晴人。そして園子、巧、昴が段々と声を揃えて叫び、息を合わせる。
「ほら、鷲尾さんも一緒に!」
「えっ?」
「行くぞ! オーエス!」
「「オーエス!」」
「「「「「「オーエス!」」」」」」
晴人に背中を押される形で、隣にいる須美も戸惑いながらも同じように掛け声を揃えて、少しずつ前進する。段々と腕が疲れてくるが、誰1人として諦めようとはしなかった。
そして遂に均衡は崩れた。激流が勢いを失くし、完全に止んだのを感じた6人は一気に勝負に出た。
「今!」
「突撃だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
晴人の叫び声と同時に6人は飛び上がり、上空から攻撃を仕掛けようとする。水瓶座も向きを変えて水球を放とうとしている。
「鷲尾さん!」
「狙い、辛い……!」
須美が弓を構えて引こうとするが、空中では足場がない為、踏ん張れずに照準がブレてしまっている。そこへ昴が盾を突き出して叫んだ。
「鷲尾さん! この盾を使ってください!」
「!」
須美は言われた通りに、昴の持つ盾に足をつけた。盾を持つ昴が土台となり、先ほどよりも狙いが定まった。須美が準備する間、銀と巧が先に園子の槍にしがみついていた。
「ミノさん、鳴沢君、振り回すよ!」
「あぁ! 行くぞ三ノ輪!」
「おう! やっちゃえ!」
「うんとこしょ〜!」
園子が槍を振り払い、その勢いに乗った2人が、水瓶座へ向かって猛スピードで降下した。行く手には水球があるが、それらは同時に放たれた須美の乱射で全て弾け飛んだ。遮るものがなくなったので、初めて攻撃のチャンスが生まれた。
「左は任せたぞ、三ノ輪!」
「あぁ! そっちは右をやってくれ!」
銀と巧はそれぞれの狙いを定めて、体を捻らせて回転を加えた。
「三ノ輪さん!」
「鳴沢君!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」
役割を果たした須美と昴は落下しながら、仲間の名を叫び、2人は各々の武器から炎を噴き出して、水瓶座に付いている巨大な水球に向かって突撃する。
「ドォラァァァァァァ!」
そこへさらに上空から、薙刀を携えている晴人が叫びながら、水瓶座の頭部めがけて突進した。
大きな轟音をあげながら、銀は左腕を、巧は右腕を粉々に粉砕し、晴人は水瓶座の中心部を斜めに斬りつけた。銀と巧は手を休める事なく、地面に着地してから体勢を立て直して再び飛び上がり、回転を加えて水瓶座に突撃する。
「行かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ハァァァァァァァァァァァ!」
両端から挟み込む形で各々の武器を水瓶座にぶつける2人。全体的に亀裂が入ったが、まだ完全には仕留めきれていない。2人が弾かれて地面に落下していると、そこへ人一倍耳をつんざくような咆哮が響き渡る。
「後は任せろぉ!」
「市川君!」
「いっけぇ!」
こちらも地面に降り立ってから再び飛び上がる晴人が、薙刀を突き出しながら突撃する。そして刃を水瓶座の胴体に突き刺すと、両手で柄を掴んで、力を込める。突き刺さった部分から、全体にヒビが入っていくのが見えた。
「これで……! どぉだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
晴人の渾身の叫び声が、樹海の中に響き渡る。マグロの一本釣りの如く、力一杯振り上げられた薙刀が、水瓶座を文字通り真っ二つに引き裂いた。力を使い果たした晴人は落下して、地面に大きなクレーターを作った。
近場にいた銀達が駆け寄る中、大橋のワイヤー部分に吊るされていた、青く輝く風鈴が光を増した。
「! これ……」
「もしかしてこれが……!」
須美と昴がそう呟いていると、先ほどまで夜のようだった景色が一変。昼間のように明るくなった。
「『鎮花の儀』……?」
樹海にぶら下がりながら、園子が呆然と呟く。勇者達の攻撃で弱らせたバーテックスを天に返す儀式が始まったようだ。それが証拠に空から花弁が降り注ぎ、ほとんど原型を留めていない水瓶座を覆っていく。
「皆さん、大丈夫ですか?」
昴が地面に倒れている晴人を中心に、集まってきた銀、園子、巧の無事を確認する。晴人は起き上がりながら手を振る。
「あぁ、ちょっと痛いけど、頑張ったぜ!」
「ガッツリ弱らせてやったしな」
「おかげで、始まったよ!」
集結した須美以外の5人が空を見上げて、ようやく安堵の表情を浮かべる。
「綺麗……」
同じく空を見上げていた須美が思わずそう呟く。幻想的な光景を目の当たりにして、6人全員が息をするのを忘れてしまうほどだった。
しばらくして、水瓶座の姿が忽然と姿を消した。後には、巨大な鳥居のシルエットが微かに見えるだけ。
「消えた……?」
そして、周囲の光が弱まり、辺りは再び最初の時と同じ光景になった。
「静まった……」
「撃退、できた……?」
「……」
皆が起き上がり、しばらくの間、時が止まったかのように呆然としていた一同。が、すぐに歓声が沸き上がった。
「ヤッタァ!」
「おっしゃあ!」
銀と園子が互いに手を取り合って喜びあっている。とりわけこの勝利を1番に喜んでいたのは、未だに呆然とする2人の武神の両肩に組みつくルーキーだった。
「うぉっしゃあぁぁぁぁぁ! やったぜぇ!」
「うぉっ……」
「わわっ⁉︎」
突然肩を組まれて戸惑う巧と昴。晴人は興奮を隠しきれずに体を密着させてきた。
「いや〜、ほんとマジ最高! やっぱ最高のチームだよな、俺達!」
「え、えぇ。そうですね……」
「……はしゃぎ過ぎだ。まだろくに話してもないのに馴れ馴れしい」
「細かい事は気にすんなって! 勝ったんだしさ!」
「……まぁ、いいか」
初めてされる行為に戸惑う昴と、ハイテンションな晴人を見て肩を竦める巧だが、晴人の上機嫌な様子を見て、自然と彼を受け入れた。その様子を遠目で確認していた須美は、少しだけホッと息を吐いた。すると、花弁が嵐のように吹き荒れて、須美達の視界を覆った。
最初に耳に入ってきたのは、波の音だった。辺りに目を凝らすと、目の前には先ほどまで見られなかった祠がある。その奥に見えるのは、先ほどまで自分達が戦っていた舞台となった、瀬戸大橋。左右に目をやると、仲間達が元の制服姿で横一列に並んでいた。
「? あれ? ここどこだ?」
「瀬戸大橋記念公園、ですね」
そこは、瀬戸大橋のすぐそばにある記念公園であり、神樹館小学校からは少し離れた位置にある。樹海化が解除されて、元の日常を取り戻したようだ。遠くに見える人々も、風に吹かれて揺れる草木も、先ほどまでの死闘を感じさせないほどに、穏やかな雰囲気を出していた。
「そっかぁ。学校に戻るわけじゃないんだね」
「ヤッベ! 上履きだ!」
「ホントだ!」
「じきに迎えが来るんだろ。それまでの辛抱だな」
銀が自分の足元に目をやって驚いていたが、すぐに得意げな顔つきになる。そのわけは、取り出したスマホにあった。
「ヘヘッ、樹海撮ったんだったぁ……あれ?」
「どうしたんだ? ……んんっ?」
同じくスマホを持って、カメラに収めた樹海を確認しようとした晴人が、銀と同様のリアクションを見せる。気になった園子、巧、昴が覗き込んでみると、2人のスマホの画面には、瀬戸大橋を含めた、街の風景しか写っていなかった。
「樹海じゃなくなってる⁉︎」
「写らないようですね」
「みたいだねぇ〜」
「そんなぁ〜……」
銀と晴人が軽くショックを受けている中、須美だけは正面をジッと見つめていた。その表情には、他の5人と違ってお役目を果たしたという喜びが一切伝わってこない。いち早く気づいた園子が声をかける。
「お〜い鷲尾さん? 須美さん? スミスケ?」
「(スミスケ……? よく分からないけど、どうしたんだ?)」
晴人は、園子の謎の呼び方に首を傾げつつも、須美に近寄って、その肩にポンと手を乗せた。
「鷲尾さん」
「! い、市川君」
ビクッとなった須美が晴人に顔を向ける。対する晴人は、満面の笑みを浮かべて、手のひらを見せてくる。その行為の意味が分からない須美に、晴人が声をかけた。
「やったな、鷲尾さん。最後のはナイスだった! イェイ!」
「は、はぁ……」
戸惑う須美に、晴人は手のひらを近づける。ハイタッチをしようとしている。そう思った須美は、ぎこちない動作で応えるように手のひらを突き出し、音を鳴らせた。
少しはしたない行為のような気もするが。そう思っていた須美は、ふと晴人の顔や手に注目した。頬には誰も目からも分かる程に傷が刻まれており、そこから血が垂れている。腕にも擦り傷が幾つか付いており、この場にいる誰よりも傷を負っているのは明白だった。その痛ましい姿が目に焼きつき、須美は再び黙り込んだ。
その後、晴人達は大赦の人間によって神樹館小学校に連れ戻され、保健室で検査を受ける事となった。勿論ただの保健室ではなく、勇者として戦った人間の点検が出来るだけの術式を施した、特別な設備を兼ね備えた施設である。
先に検査を終えた須美と園子はその場で解散し、帰路に着いた。銀は、水瓶座の液体を摂取した事もあって、精密検査を受ける必要があるとの事で、そのまま残ったが、1時間後には何事も無かったかのように学校を後にした。
一方で武神に選ばれた3人は、勇者に選ばれた3人が帰ってからも検査が続いており、ようやく解放されたのは、夕日が半分ほど山の奥に沈みかけた頃だった。神の力を須美達以上に引き出せる反面、体への負荷が大きいシステムである為、検査には慎重にならざるを得ないようだ。
検査を終え、帰宅の準備をしていると、ガタイの良い男性が室内に入ってきた。武神のサポート役を担当する源道だった。
「よくやったぞお前達! 今回の勝利は、人類にとって大いなる一歩だと、大赦の方も喜んでいた」
「ありがとうございます!」
源道から褒められて、昴は感謝の言葉を述べる。
「しかし、晴人君も災難だったな。合同練習はおろか、顔を合わせたばかりでいきなりお役目を迎える事になるとは。襲来が予想より早かったらしい。これから訓練を重ねようとした矢先にこれだからな。随分と苦労をかけてすまなかった」
「いえいえ大丈夫ですって! 正直怖いってのもありましたけど、こんだけ頼れる仲間がいたから!」
「えっ? 市川君、あれで怖がってたんですか? そうには見えませんでしたけど」
「怖いものは怖いの。まぁ、慣れたらそうでも無かったし、勝てたからオッケーって事で!」
「……前向きすぎて不安しか見えない」
巧がポツリと呟いて、その事で笑いあう晴人と昴。出会って数時間しか経っていないはずだが、互いに遠慮している雰囲気は感じられない。その事が源道を安心させた。
「まぁ、異常も無かったし、怪我もそれほど大したものじゃないそうだ。今日はゆっくり体を休めて、明日に備えて、飯食って風呂入って寝る! 忘れないように!」
「「「はい!」」」
「うん、良い返事だ! 気をつけて帰るんだぞ!」
そう言って3人は源道と別れ、校舎を出た。
「ふぁ〜……。やっと終わったぁ」
「もうこんな時間ですか」
外に出て最初に、晴人が欠伸を一つして、昴が校舎に取り付けられている時計に目をやった。校門を出て、開けた場所に出た3人は少しだけ小高い丘から目の前に広がる景色を眺めた。
「俺達が守ったんだな、この街を」
「……あぁ」
「そうですね」
「そう考えると、なんか人知れず悪と戦うヒーローっぽい事してるよな、俺達って!」
「間違ってはないな」
巧も同意する中、晴人が2人の肩を叩いて呼びかけた。
「じゃあさ! 折角仲間になったんだし、乾杯とかしない? ここに来る途中で自販機見かけたからさ、そこで何か飲もうぜ! 俺もう喉渇いちゃってさ」
「買い食い……ですか? そういうのは、やった事がないといいますか……」
「良いじゃん! 今日はみんなの為に頑張ったんだしさ、ちょっとぐらいハメ外したって神樹様に怒られないって! だから、なっ?」
「……そうですね。行きましょうか。鳴沢君もどうです?」
「お、俺は、別に……」
「ノリ悪いなぁ。ほら、行こうぜ!」
「お、おい……」
晴人に無理やり引っ張られる形で連れて行かれる巧。その後ろ姿を見て苦笑しつつ、晴人の隣に並ぶ昴。やがて巧も、自分のペースで隣を歩くようになった。
神樹様に選ばれた、と聞かされた時、晴人自身、凄い事だとは分かっていたが、具体的にどう凄いのかまでは、分かっていなかった。
ただ、やってくる敵が世界を、人々の日常を壊すものだと聞いた以上、戦わなくては、と思い、無我夢中で戦い、そして勝利を掴んだ。仲間と掴んだ勝利は、晴人にとって嬉しいものだった。勿論、他の5人も似たような気持ちだったに違いない。
だからこそ、夢にも思わなかったのだ。この先、■を■■にして、戦っていく事になろうとは……。
今更かもしれませんが、本作は小説版よりかはテレビ版(もしくは劇場版)をベースにして進めていきます。
〜次回予告〜
「私1人じゃ、何も出来なかった」
「醤油味?」
「面倒、だったからな」
「初めての共同作業だね」
「イネスマスターって呼んでも良いのだよ?」
「シクヨロって事で!」
「仲良く、してくれますか?」
〜祝勝会〜