結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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ゆゆゆ編では初戦闘回となります。

最近は急激に外気温が上がっております。体調管理にお気をつけてくださいね。


2:私(俺)は、勇者になる

突如として周囲に広がった、色とりどりの木々。さながら幻想的とも呼べる空間を目の当たりにして、兎角ら8人の勇者部員は、パニックになる以前に困惑の方が勝っていた。

 

「教室にいたはずなのに……」

「何だよ、これ……」

「ここは、一体……」

「私、さっきまでの園ちゃんみたいに居眠りしちゃったのかな……?」

「どうだろう〜?」

 

友奈は目の前の現象が夢だと思ったのか、試しに園子と協力して、互いに向かい合った相手の頬を摘んで引っ張ってみた。が、激痛が生じただけでそれ以外に変化は見受けられない。

 

「夢じゃないみたい〜」

「そう、だね」

 

夢ではない事を確認した一同は、周囲をキョロキョロと見渡す。そんな中、遊月だけは近場にあった、巨大な木の根にそっと手を触れた。僅かだが、人肌の温度に近いものを感じる。と同時に、軽い片頭痛が。一瞬だけ顔をしかめる遊月だが、気を取り直して木の根に触れる。

初めて見るはずの景色。だが遊月には、それがどうしても初めてには見えないのだ。まるで……。

 

「俺は、この場所を知っている……?」

 

思わずそう呟いてしまうほど、今現在の景色に親近感を覚えているのだ。だが、いくら自身の記憶を掘り返しても、心当たりがない。或いは、この空間が自分にとって失われた何かを紐解く鍵になるのではないか。そう思えてしまって仕方がない。

 

「……月、遊月」

「……!」

「おい、大丈夫か? さっきからボーッとしてるけど」

「い、いや大丈夫だ。ちょっと驚いてただけだ。……ん」

 

兎角が、遊月の様子がおかしい事に気付いて声をかけたが、何でもないと告げ返す。それから、彼の後方に見える東郷に着目する。下を俯いていて表情までは分からないが、不安で押しつぶされそうな雰囲気だけは伝わってきた。

そこで遊月は彼女の前まで来て、しゃがみこんで目線を合わせてから、その両手の上に自身の手を置く。

 

「大丈夫だ。俺達ならちゃんとここにいる。1人にはさせないからさ」

「そ、そうだよ! 私達がついてるから!」

 

友奈も同じように東郷を励ましており、他の面々も相槌を打つ。その手は他の面々と比べて若干震えているが、彼女なりに勇気を振り絞って、東郷を守ろうとしている事は伝わってくる。その想いが伝わったらしく、東郷の表情が若干緩んだ。

全員が落ち着いたところで、昴が声をかけてきた。

 

「先ずは状況を整理しましょう。今、僕達がいるこの空間に関しては謎が多いですけど、地震が起きてこうなる前に、僕達のスマホからアラームらしきものが鳴りましたよね?」

「あぁ。『樹海化警報』って書いてあったな。それ見た瞬間、他の奴らの動きが止まったんだったな」

「樹海って、ひょっとしてこの世界の事なのか?」

「まだ断定は出来ませんが、ここにいる面々に共通して言えるのが、全員が勇者部に所属している事です」

「じゃあ、携帯をチェックしてみようよ〜」

「そ、そうだね!」

 

園子の提案で全員がスマホを取り出し、画面を覗き込んでみると、一斉に眉をひそめる事に。

どういうわけか、背景の色が自分達のいる世界と似たような配色になっており、アプリの数も、3つほどしかなくなっている。

 

「あ、あれ? あたしの画面変わっちゃってるぞ? マイブラザー達が写ってるやつだったのに」

「銀だけじゃない。俺達のものも変わってしまっている」

「いよいよ只事じゃなさそうだな……」

 

あまりにも変化が多すぎる状況を前に、たじろぐばかり。

すると、彼らの後方からガサゴソと何かが茂みを掻き分けて、こちらに近づいてくる気配が。男子4人と銀が、率先して前に出て皆を守ろうと身構える。が、茂みの中から出てきた、4つの人影を見た瞬間、その肩の力を抜く事に。

 

「! 友奈、みんな!」

「先輩達見つけたッス!」

「! 風先輩、樹ちゃん……!」

「藤四郎先輩に、冬弥も……! 4人もここに来てたのか!」

「わぁ〜、勇者部勢揃い〜」

「良かったです……!」

「ふぅ。何とか会え……」

「わ〜! みんなぁ!な、何で4人もここに⁉︎」

 

不意に友奈が風に抱きついて来た。他の仲間と合流できて嬉しさと安心感が爆発したようだ。

 

「不幸中の幸いかな。みんな、スマホを手放してたら見つけられなかったから」

「あぁ。とりあえず助かったな」

『……?』

 

風や藤四郎の言葉に、2年生一同は首を傾げる。この異常事態に関して、周知しているような口調だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、12人の勇者部員は、風と藤四郎の先導の元、木陰に近い場所に移動。そこで彼らの指示を受けて、地図らしきアイコンをタップして、そのアプリを起動。地図には12人全員の位置が把握できるようになっていた。

 

「このアプリに、こんな機能があったのか」

「隠し機能〜?」

「その隠し機能は、この事態に陥った際に、自動的に機能するようになっているの」

「便利ッスね」

 

冬弥が興味本位にスマホをいじっていると、遊月が思い出したように呟く。

 

「そういえばこのアプリ。部に入った時に、先輩方にダウンロードしろって言われたもの、ですよね」

「俺達も、入部が決まってすぐに2人から指示されて入れた。結局用途は分からずじまいだったが……」

 

遊月だけでなく、1年の時からすぐに入部した兎角達も、当時2人の上級生からとあるアプリをダウンロードするように言われた事を思い出す。それが今になって必要になったという事は……。

 

「ふーみん先輩もトッシー先輩も、今起きてる事態について全部知ってるんだよね〜」

「園子……」

「ここ、どこなんですか……?」

 

東郷から純粋な疑問を投げられて答えないわけにもいかない。何よりこの場にいる以上、知って守らなくてはならない事情もある。風と藤四郎が互いに目を合わせて、先んじて藤四郎が口から爪楊枝を外して、一度深呼吸してから口を開いた。

 

「……落ち着いて聞いてほしい」

 

一同の視線が集まる中、これまで彼らが秘密にしていた事を明かした。

 

「俺と風は、大赦から派遣された側の人間だ。……正確には、俺の家系、つまり浜田家が代表してこの地域を担当し、そのサポートを、風に任せてもらっているんだ」

『……!』

 

その言葉に、一同は目を見開いた。『大赦』という言葉自体は、この場にいる誰しもが耳にしたことのあるものだったからだ。遊月が確認の為に口を開く。

 

「大赦って確か……。神樹様を奉っている組織、でしたよね」

「はい。僕と園子ちゃん、それから銀ちゃんのところも、代々大赦に属する一族ではあります。兄さんもそこで働いています。でもまさか、藤四郎先輩もそうだったなんて……」

 

神奈月家の息子をもってしても知らなかった事実を前に、疑問が絶えない一同。

 

「じゃあ、大赦に属してるって事は、何か特別なお役目でもあったりするのかな〜?」

「……えぇ、その通りよ。園子」

「ずっと一緒だったのに、そんなの初めて聞いたよお姉ちゃん……!」

「俺もッスよ兄貴……!」

 

比較的同じ空間を過ごしてきた弟分や、身内である妹も、この事実を本当に知らなかったらしく、驚きを隠せないようだ。

 

「今初めて話した事だし、当たらなければ、ずっと藤四郎と2人だけの秘密しておくつもりだったからね」

「風先輩……」

「だが、結果はこれだ。俺達が作り上げた讃州中学勇者部が、今回の当たりだった事になる。出来れば外れてほしかったが」

「当たり……」

「あ、あのさ……。さっきから当たりとか外れとか、全然分かんないんだけど、もうちょっと分かりやすく説明してほしいかも」

 

もっともらしく銀が両手を振りながら問い詰める。そうして2人からの説明は続いた。

 

「先ずは、今見えているこの世界の事だ。ここは、『樹海』と呼ばれる、神樹様が作り出した結界によって具現化した世界だ」

「神樹様が……」

「樹海……。さっきの警報に表示されていた通りですね」

「じゃ、じゃあ、悪い所じゃないんですね?」

 

友奈の言葉に頷く2人だが、その表情は優れない。真っ先にそれに気づいた巧が口を開く。

 

「その割には深刻そうな顔をしている……という事は、この結界が張られた意味として、他にも危機が迫っている事を指し示しているって所ですか」

「その通りだ巧。神樹様に選ばれた俺達は、この結界の中で、敵と戦うお役目を授かる事になってしまったんだ」

「え、敵……?」

「戦うって、どういう……」

 

藤四郎の言葉に訝しむ一同。そんな中、友奈が画面を見て何かに気づく。

 

「あの、そういえば先輩。この点って何ですか……?」

「これ、こっちに近づいてないか……?」

 

兎角も覗き込んでそれを確認する。『乙女型』と表記された点が、明らかに彼らがいる方向に接近してきている。それを受けて先輩達は血相を変えて自分達で画面を確認し、それから一点を見つめ、迫り来る脅威の存在を確認した。

 

「! 来たわね……」

「えっ、何が……?」

「あれを見てみろ」

 

藤四郎が指差した方向に全員が顔を向ける。途端に、一同の表情が引き攣る。

その物体は、まだ樹木のずっと奥に位置しているが、目を凝らしてみると、全体的にピンク色で所々に模様がある物体だった。否、物体と呼ぶには、ウネウネと動くその仕草は生き物のソレを感じさせて、かといって生き物と呼ぶにはあまりにも異様なオーラを漂わせている。強いて言うなら、それは『怪物』と呼んだ方が正しいのかもしれない。

 

「え、えっ……⁉︎」

「な、何スかあれ⁉︎」

 

樹と冬弥がいつのまにか互いに体を密着させて抱き合っている。一方で風と藤四郎は至って冷静だ。

 

「あれね。遅いやつで助かったわ」

「あぁ。初陣ならあれぐらいの方がこっちとしても助かる」

 

迫り来る異形に関しても、この2人は周知しているようだが、他の面々はその限りではない。

 

「う、浮いてる……⁉︎」

「! ちょ、ちょっと待ってください……! この距離であの大きさ……! 単純な推測だけで見ても、あれはかなりの体長ですよ……⁉︎」

 

思わずメガネがずり落ちそうになりながらも、昴はそう分析し、友奈達は軽くパニック状態に。

 

「先輩、あれは一体……」

「あれは『バーテックス』。世界を殺す為に攻めてくる、一種のウイルスみたいなものだ」

「早い話が、人類の敵よ」

「世界を、殺すって……!」

「バーテックスの目的は、この世界の恵みである、神樹様に辿り着き、破壊する事よ」

「! 神樹様を破壊するって、そんな事になったら……!」

「当然、世界は死を迎える」

 

スケールの大きい事実を前に、息を呑む一同。

 

「この世界に、私達しかいない……」

 

スマホの画面を見ながらそう呟く友奈。つまり、この事実を知っているのは必然的に彼らだけとなるのだ。

だからこそ、当然浮かんでくる疑問もあるわけで……。

 

「どうして、私達が……」

 

東郷が疑問を口にして、藤四郎がこう答える。

 

「大赦が独自に各方面と連携して、調査を進めた結果、もっとも適正があると判断されたのが、ここにいる俺達だからだ」

「いつの間にそんな検査を……」

「ちょ、ちょっと待てよ⁉︎ こんな事言っちゃアレだけど、あたしら普通の中学生だろ⁉︎ 武器もろくに貰ってないのにどうやってあんなのと戦えばいいんだよ……⁉︎」

 

銀がそう喚くように、つい数分前までは学生として日常を過ごしてきた者達が、戦いを強要されても、武器もなしに迫り来る化け物……バーテックスに対抗する事など不可能に近い。

だからこそ大赦から、正確には神樹からあるシステムを授かっているのだ。

 

「方法はあるわ。戦う意志を示せば、このアプリの機能がアンロックされて、神樹様を守る為の戦士。即ち、女子は『勇者』に」

「そして男子は、その勇者システムから派生して生み出された、『上位勇者』、別名『武神』になる。それが、バーテックスに対抗できる、俺達にとっての唯一の手段だ」

 

今一度画面に目を向けると、そこには植物の種のような画像のアイコンが表示されている。意志を持ってタップすれば、力を手に出来る、といったところか。

 

「勇者……」

 

風の呟きを復唱する友奈。

 

『その気持ちがあれば、君も勇者だ!』

 

風に誘われた際に言われた一言が、脳内でリピートされる。勇者に憧れを抱いていた彼女にとって、引っ掛かりを覚える言葉だ。

 

「あ、あれ……!」

「こ、こっち来てる〜⁉︎」

 

他の面々がどうしようか迷っていたその時、東郷と園子が前方に光る何かに気づく。

 

「危ない!」

 

誰かがとっさにそう叫び、一同は物陰に身を隠す。直後、周囲で爆発が起こり、悲鳴と共に煙で咽ぶ一同。『乙女座』をモチーフにした、『ヴァルゴ・バーテックス』が、攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

「な、何だよ今の⁉︎」

「私達の事、狙ってる……⁉︎」

「マズイですよ……! 敵はこっちに気がついてます!」

「ま、マジかよ……!」

 

いよいよ夢物語ではなく、現実味を帯び始めてきている事に体が反応し、たじろぐ兎角。他の面々の表情も険しい。

 

「東郷! しっかりしろ、東郷……!」

 

そんな中、遊月の声が聞こえてきたので一同が振り返ると、青ざめた表情で体を震わせる涙目の東郷をどうにかして必死に慰める遊月の姿が。先ほどの攻撃ですっかり恐怖に染まったようだ。

 

「ダメ……! こんなの……! 戦う、なんて……! 出来るわけ、ない……!」

「東郷さん……」

「みもりん……」

 

目の前に迫り来る恐怖は、確実に東郷の精神面を蝕んでいる。無理もないだろう。ただでさえ不自由な体であるにも関わらず、命を落としかねない状況を前に、冷静沈着ではいられない。事実、友奈も面には出さないだけで、内心は怖がっている。

この状況を重く見た風と藤四郎が同時に頷き、下級生達に指示を飛ばす。

 

「友奈、遊月。東郷達を連れて逃げて」

「で、でも先輩」

「いいから早く!」

「は、はい……!」

「冬弥! お前も樹を連れて一緒になるべく遠くへ行け!」

「待ってくれッスよ兄貴! 兄貴達はどうするんスか⁉︎」

「もちろん、戦うに決まってるわ! その為のあたしなの……!」

 

どうやら風と藤四郎は既に戦う覚悟を決めているらしく、2人だけで出陣しようとする。

 

「ダメだよ! 姉ちゃんを残して行けないよ!」

「樹……!」

「兄貴達だけにやらせるなんて、そんなの弟分失格ッスよ! だからおいらもやるッス!」

「だ、だが……!」

 

藤四郎が何か言いかける前に、2人の眼差しの強さに押し黙ってしまう。

 

「ついてくよ、何があっても……!」

「……!」

 

それは昨日、遠回しにではあるが、自分が妹に秘密にしている事がある事を告げた際、妹から返ってきた言葉。唯一の肉親として、最後までそばにい続ける事を誓った言葉。

 

「足手まといにならないぐらいには頑張るッス! だから……! 兄貴と風先輩だけに背負わせたくないッス! 樹と一緒にやってやるッス!」

「……分かった。だが、無理はするなよ。文字通り命がけだ」

「なら、あたしもやる!」

「俺にもやらせてもらう」

「私も〜!」

「僕も、ここに残ります!」

 

樹、冬弥に続いて前に出たのは、銀、巧、園子、そして昴の2年生組。

 

「あんた達……」

「ヘヘッ。さすがに手ぶらで戦えなんて言われたら困るけど、武器があるなら問題ないからな! それにこういうのは、あたしみたいなやつの仕事っぽいし!」

「お前の場合はそのやる気が空回りしそうだが……。まぁ、事を知ってしまった以上、俺にも守らなきゃならないものがあるからな」

「私も、この世界が壊されちゃったら困る事いっぱいあるからね〜! 頑張っちゃうよ〜!」

「叶えたい夢もありますからね。僕達も、戦います!」

「巧、みんな……!」

「兎角、遊月。そっちは任せたぞ!」

「……あぁ、分かった!」

 

友奈、兎角、遊月は東郷を連れて遠くへ逃げる事に専念。4人の背中が小さくなったところで、藤四郎が代表して叫ぶ。

 

「よし、俺に続け!」

『はい!』

 

そうして8人の無垢なる少年少女は、その決意を胸に、画面をタップする。それぞれの端末から、花びらが舞い散り、彼らを纏うように覆い隠す。

やがて、土の中から芽を出した花のように、制服姿から、神の力を宿した服装へと開花した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬吠埼 風は、黄色を基調とし、伸縮自在の大剣を携える、『オキザリス』をモチーフとした勇者に。

犬吠埼 樹は、緑を基調とし、右手首に花環状の、ワイヤーが飛び出る飾りをつけた、『鳴子百合』をモチーフとした勇者に。

三ノ輪 銀は、赤を基調とし、2丁の不恰好な斧を携える、『アマリリス』をモチーフとした勇者に。

乃木 園子は、白に近い紫を基調とし、複数の穂先がついて変形が可能な槍を構えた、『蓮の花』をモチーフとした勇者に。

 

 

浜田 藤四郎は、青を基調とし、大型の鎌を携え、両腕にもヒレのような鋭いカッターが付いている、『リンドウ』をモチーフとした武神に。

日村 冬弥は、黄色を基調とし、装飾付きの巨大なハンマーを携える、『フリージア』をモチーフとした武神に。

大谷 巧は、赤を基調とし、先端に赤い玉がついた2本の、太鼓のバチを両手に構える、『カランコエ』をモチーフとした武神に。

神奈月 昴は、赤寄りのオレンジを基調とし、側面にチェーンソーのような刃がつけられている大きな円盤型の盾を携える、『アザレア』をモチーフとした武神に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、決まった! これ凄いな!」

「これが……」

「す、凄い! 変身しちゃった⁉︎」

「これも、神樹様の力ッスか⁉︎」

「そうだ。戦い方はこれから簡潔に説明する。今は避け続けろ!」

「えっ?」

 

変身を完了し、各々が変貌した容姿に様々な反応を示す中、乙女型の方から攻撃が。尻尾の部分から卵型の物体を吐き出し、藤四郎達に向かって飛ばしてきた。すぐに8人は跳躍して回避するが、想像以上に飛び上がった事に1年生組は大慌てだ。

 

「ワァッ⁉︎」

「と、飛びすぎッス〜⁉︎」

「冬弥、樹! 着地だ!」

 

巧にそう言われて着地しようとするが、2人は勢い余って顔面から木の根にぶつかってようやく止まった。ぶつかる直前でバリアらしきものが張られたお陰で落下によるダメージはないようだ。

 

「大丈夫〜?」

「は、はい。何とか……」

「これ、慣れないと目が回るッス〜……」

「これが、神樹様に選ばれた勇者と武神の力よ!」

 

風が説明していたその時、樹の目の前に毛玉のような生物が、冬弥の目の前に孔雀のような生物が現れて、2人を驚かせる。

 

「えっ、これは何スか?」

「可愛い……!」

「それは、この世界を守ってきた『精霊』だ。神樹様の導きであると俺達に力を貸してくれる存在だ」

 

そう告げる藤四郎の隣には、人型の鬼のような姿の精霊がいた。同じように、風にはフワフワ浮いている犬型の精霊が。そして、銀には姫型、巧には黒い猫型、園子には鴉型、昴には亀型がそれぞれ姿を現している。先ほど樹と冬弥を守ったバリアも、彼らが張ってくれたものだろう。

 

「! 第2波が来ます! 避けてください!」

「えぇ、またッスか⁉︎」

 

そう言いつつも、8人は一斉に飛び上がり、再び攻撃を回避。二度目となる跳躍を前に、未だに驚きを隠せない1年生組。

 

「じぇ、ジェットコースタ〜⁉︎」

「こ、こっからどうすればいいんスか⁉︎」

「手をかざして、戦う意志を示して!」

 

風と藤四郎が先導するように、武器を生成して迫ってくる爆弾を、大剣や鎌で斬り裂く。

 

「よぉし! ぶっ飛ばすぞ!」

「ハァッ!」

「ヤァ!」

「せぇい!」

 

銀達もそれに続き、斧で弾いたり、バチの先端に宿した炎を放って相殺したり、槍を盾代わりにして爆風を防いだり、盾を飛ばして弾いたりと、比較的慣れた手つきで対処する。

樹と冬弥も、ワイヤーを飛ばしたり、ハンマーで殴り飛ばしたりと、あたふたしながらも直撃を避けた。

 

「な、なんか武器出た〜……」

「慣れないもんね〜。大丈夫、きっとこれからだよ〜」

「そ、そうッスか……。ってか先輩達も初めてなのに、何でそんなに扱い上手いんスか?」

「た、確かに……。全然スタートラインが違うと言いますか……」

「何でかと言われてもな……」

「何となく、かな〜?」

「そう、ですね。この武器も僕に馴染んでるような気がしますからね……。そう考えると確かに不思議ですね」

「でも、今はなんだって良いんだ! これからガンガン飛ばしていけるしな!」

「あまり前に出すぎるなよ」

「分かってるって!」

 

巧に注意されながらも、銀は持ち前のフットワークを活かして、風や藤四郎と並んで反撃したり、時には防御に徹したりと縦横無尽に動き回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、戦闘区域から遠ざかるように逃げ回り、ようやく安全そうな場所にたどり着いて一息ついていると、友奈の端末に電話が入った。出てみると、相手は戦闘真っ只中の風だった。

 

「風先輩!」

『よし繋がった!』

「風先輩! 大丈夫ですか⁉︎ 今戦ってるんですか⁉︎」

『こっちの心配より、そっちこそ大丈夫なの⁉︎』

「はい!」

「言われた通りに、何とか遠くまで逃げれました!」

 

兎角も友奈に近寄って、スマホに向かってそう伝える。電話越しに「数多すぎだよ〜!」や「根性ぉ!」などと張り詰めた声に加えて爆音が4人の耳に響いてくる。戦闘の激しさがより一層増している事が伺える。

自然と兎角と遊月の手に汗が滲む中、普段の彼女からは想像もつかないような沈んだ声が。

 

『……友奈、兎角、遊月。それに東郷も。黙っててゴメン』

 

彼女なりに、巻き込んでしまった責任感を重く感じてしまっているのだろう。それを和らげるべく、友奈は自然と言葉を紡ぐ。

 

「風先輩も藤四郎先輩も、みんなの事を想って黙ってたんですよね。ずっと2人で、打ち明ける事も出来ずに……。それって……。それって、勇者部の活動通りじゃないですか!」

『……!』

「「!」」

 

友奈のその言葉に、電話越しに風が、側にいた遊月と東郷が息を呑む。その一方で、彼女の事を誰よりも知っている兎角はうっすらと笑みを浮かべる。

そして友奈の持つ端末に顔を近づけて、口を開く。

 

「友奈の言う通りです。風先輩も藤四郎先輩も、悪くありません。だから……! 2人は、迷わず戦ってください! 俺達も、その時が来たら必ず戦います! それに、後でちゃんと2人の口から説明してもらいたいから、必ず生きのびてください!」

『……うん、分かったわ!』

 

風が返事したその時、電話越しだけでなく、遠くから『お姉ちゃん!』と叫ぶ声が。

ハッと風が振り返った目の前で、乙女型の尻尾の先端が向けられている事に気付いた。会話に夢中になって、敵の接近に気づくのが遅れてしまったのだ。

 

「やっちゃった……!」

 

風が慌てて大剣を盾にして身構えるが、至近距離からの攻撃に耐えられる自信はない。思わず目を瞑る風。

 

「風!」

 

だがそこに、異変に気付いて戻ってきた藤四郎が飛びついて、風を抱き抱えながら下の地面に急降下する。爆弾が爆ぜて、爆風に吹き飛ばされる2人の姿を確認した樹と冬弥が悲痛な声をあげる。

 

「お姉ちゃん!」

「兄貴ぃ!」

「! 2人とも避けろ!」

 

巧の声を聞いてハッとなる2人。爆弾が迫ってきて、慌てて飛び上がるも、今度は回避が間に合わず、吹き飛ばされる姿が目撃された。

 

「いっつん! とーやん!」

「ッ! 野郎!」

「危ない!」

 

銀達が樹達の元に駆け寄ったり、反撃を試みようとするが、再び飛ばしてきた爆弾に行く手を阻まれる。迫り来る爆弾を、慣れた動作で回避しながら、他の4人の安否を確認するべく、銀と巧は上級生組へ、園子と昴は下級生組の元へ足を運んだ。

 

「! まさか……!」

「先輩! 樹ちゃん! 冬弥君!」

 

不意に通信が途切れた事、そして辺りに立ち込める爆煙を目の当たりにして、兎角達は動揺を隠せない。

そして脅威は目の前まで迫ってきた。侵攻を阻害する要因が見当たらなくなった事で、標的を遠くに見える友奈達に定めたようだ。頭部に見える、目のような模様が、獲物を見つけた獣の如く、ニヤついて見える。それが友奈達に恐怖を植え付けた。

 

「こ、こっち見てる……!」

「や、ヤバいよな、これ……」

 

涙目の友奈と東郷を守るべく、前に立つ兎角と遊月も、自然と足が震え始める。

依然として無傷な銀達も、負傷したと思われる風達の介抱に向かっている事を考えると、乙女型を止める者はいなくなっている。次に攻撃が飛んできた時、4人を守ってくれる要素は何1つとしてない。

着々と『死』が近づきつつある中、東郷が声を震わせながら叫ぶ。

 

「遊月君、みんな……! 私を置いて、今すぐ逃げて!」

 

少しでも生存者を増やそうという、彼女なりの打開策だったのだろうが、当然彼らがその要求を簡単に受け入れるはずもなく。

 

「な、何言ってるんだ! お前を放って置いて逃げるわけにいかないだろ!」

「そうだぞ東郷! 犠牲になんてさせるかよ! んなの死んでもやらせないからな!」

「2人の言う通りだよ東郷さん! 友達を……!」

 

そこまで呟いた瞬間、友奈の目つきが変わったように見えた。スマホを握る手にも自然と力が入る。そして体を、迫り来る敵に向ける。

 

「……そうだよ。友達を置いてなんて、そんな事、絶対しない!」

「ダメ! 逃げて! このままじゃ友奈ちゃんもみんなも、死んじゃう……!」

「嫌だ……!」

 

そして友奈は動き出す。東郷の後方にではなく、4人の中の、誰よりも前に。

 

「ここで、友達を見捨てるような奴は……!」

「! 待て友奈!」

 

遊月が、乙女型が尻尾から卵型の爆弾を飛ばしてくる事に気づいて呼び戻そうとするが、時すでに遅し。

 

「勇者じゃない!」

 

そう叫んだ刹那、勢いよく発射された爆弾は、駆け出した友奈に直撃し、爆煙がその後を追おうとした兎角や、彼の後方にいた東郷ととっさに庇った遊月を飲み込む。

 

「! 友奈ちゃぁぁぁぁぁん!」

「くっ……!」

 

どうにかして目を開けようともがく2人。

そんな2人の目に、ピンク色の光が差し込んできた。見れば、友奈の突き出した左腕には装甲が。

 

「(当たる直前に変身したのか……!)」

 

友奈の手に握られているスマホが淡く輝いているのを確認し、遊月がそう推測する。そしてそのスマホから飛び出してきたのは、牛型の精霊。

 

「嫌なんだ……! 誰かが傷つく事、辛い思いをする事! みんながそんな思いをするくらいなら、私が……!」

 

攻撃が効いていないと判断した乙女型は、さらに爆弾を追加して、友奈に集中攻撃の雨を降らせる。負けじと友奈も両手、両足の順に装甲を形成し、爆弾を殴ったり蹴り飛ばす。が、次第に向かうの数も増え始め、苦悶の表情を浮かべる友奈。

回避が間に合わない。そう思って身構えたその時、友奈の前に立つ、1つの人影が。

その人物はスマホを右手に持ち、両腕をクロスして友奈を庇った。息を呑む友奈だが、彼女の時と同様に、目の前に現れた、ウサギの姿をした精霊が張ったバリアのお陰で、ほぼ無傷だ。

 

「兎角!」

 

思わず友奈は、目の前に現れた人物の名を叫ぶ。

 

「『私が』、じゃなくて、『俺達が』、の間違いじゃないのか?」

 

そう呟く兎角の全身を、花びらが包み始める。

 

「こいつらが神樹様を壊せば、全てを失うってんなら、俺達がそれを阻止する! それだけで、戦う理由は十分だ! こんな奴らの為に、誰かの悲しみの涙を流させはしない! みんなが、笑顔でいられる時間を、人生を、守りたいんだ!」

 

白い花弁が兎角を、桜色の花弁が友奈の姿を一変させる。

 

「だから、見ててくれよ友奈、みんな……! 俺は……変身する!」

「うん!」

 

阿吽の呼吸の如く飛び上がった2人の姿を、東郷や遊月だけでなく、先んじて戦っていた面々も目撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結城 友奈は、ピンクを基調とし、徒手格闘を思わせる装甲で覆われた、『桜』をモチーフとした勇者姿に。

 

 

久利生 兎角は、白を基調とし、細身で先端の鋭く尖ったレイピアを構える、『スズランスイレン』をモチーフとした武神に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達が!」

「俺達が!」

「「頑張るんだ!」」

 

友奈は拳を、兎角はレイピアを突き出して、迫り来る爆弾を正面から破壊する。そうして飛び上がり、制空権を確保し、一気に急降下を始める2人。

 

「友奈……!」

「友奈さん!」

「いっけぇ友奈!」

「ゆーゆー!」

「友奈ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

「兎角!」

「兎角先輩!」

「兎角……!」

「兎角君!」

「いけぇ兎角!」

 

皆の声援を受けて、不思議と2人の全身に力が入るのを、本人達は確かに感じ取った。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 勇者ァ、パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンチ!」

「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

2人の、渾身の一撃が乙女型の胴体を貫通。2つの花弁が、周囲に撒き散らされる。その勇姿溢れる姿に、風達は唖然とするばかり。

 

「「「す、凄い……」」」

「これが……!」

「友奈ちゃん……!」

「凄いよゆーゆー!」

「あたしも負けてらんないな!」

「友奈もそうだが、兎角にもあんな馬鹿力が……」

「う、上手く言葉に言えないけど、凄いッス!」

「……報告にあった通りだな。あの2人の適合値は……」

 

藤四郎が意味深な言葉を口にするが、全員の意識が2人に向けられていた為、気づいた者はいない。

一方で2人は振り返り、乙女型を睨みつけながら口を開く。

 

「勇者部の活動目的、それはみんなの為になる事を勇んでやる事」

「私は、讃州中学勇者部、結城 友奈!」

「同じく、勇者部部員、久利生 兎角!」

 

そして2人は背中合わせとなり、声高々に叫ぶ。これから先待ち受けるであろう、非日常と向き合う為に。そして、人々の愛と平和を守る為に。

 

「「私(俺)は、勇者になる!」」

 

 




藤四郎の武神姿について、大鎌と聞いて『郡 千景』をイメージされた方も多いかもしれませんが、個人的には『シンフォギア』の『暁 切歌』をイメージしております。

なお、彼女の精霊の方も変更しました。その理由は後々明らかになるかと……。


〜次回予告〜


「手順って何スか、兄貴⁉︎」

「大人しくしろー!」

「いっくよ〜!」

「再生能力まで……!」

「勇者は根性!」

「あれ元々私のだよ〜……!」

「神樹様、どうか皆をお守りください……!」


〜封印の儀〜

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