結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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今回から、新章に突入します!

引き続き応援よろしくお願いいたします!


結城 友奈・久利生 兎角の章
プロローグ:讃州中学『勇者部』の日常


 

 

昔々、ある所に勇者がいました。

 

勇者は、人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するため、そして、捕らわれてしまったお姫様を取り戻すために、旅を続けています。

 

様々な困難にあいながらも、勇者は挫けず、仲間を作りながら、前へと進みます。

 

そして遂に、勇者とその愉快な仲間達は、魔王の城にたどり着いたのです。

 

「やっとここまでたどり着いたぞ、魔王!」

 

「勇者様〜!」

 

城の窓から、姫様が勇者達を見つけて、大声で叫んでいます。そこへ、魔王が子分達を引き連れて現れました。

 

「現れたな勇者ども!」

 

「姫様! 今しばらくお待ちを!」

 

「さぁ、姫様を返しなさい!」

 

「もう悪い事はやめるんだ!」

 

勇者達は魔王を説得しようとしましたが、当の本人は全く聞く耳を持ちません。

 

「私を怖がって悪者扱いを始めたのは、村人達の方ではないか!」

 

「「そーだそーだ!」」

 

魔王に続いて、子分達も口々にそう叫びます。勇者は諦めずに説得を続けます。

 

「だからといって、嫌がらせは良くない! 話し合えば分かるよ!」

 

「話し合えば、また悪者にされる!」

 

「「そーだそーだ!」」

 

魔王達は勇者達の説得に応じません。それでも、勇者は挫ける事なく叫びます。

 

「そんな事ない! 君を悪者になんか、絶対にしない! ……ってウワァ⁉︎」

 

「危ねぇ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に舞台が前のめりに倒れて、露わになったのは、それぞれ人形を手にはめている少年少女達。

 

「や、やっちゃった……!」

 

低い声で慌ててそう呟いたのは、勇者役を演じていた、赤髪の少女。どうやら興奮のあまり手を振った際に、舞台にぶつけてしまったようだ。

 

「ちょ、お前何してんだよ……⁉︎」

「やばっ……」

「これ、は……」

 

その後ろに控えている、勇者のお供役を演じていた、やや小柄な少女と、少しだけ日に焼けた肌の少年、そして金髪で背の高い少年が、この非常事態に困惑している。否、それは魔王役を演じていた、黄色髪の少女や魔王の子分役である2人の少年、そして姫役を演じていた金髪の少女も同じか。

 

「あ、当たんなくて良かった……」

「喜んでる場合じゃないぞ。この空気どうすれば……」

 

子分役のうち、背の高い少年が辺りを見渡してそう呟く。

子供達は口を開けて唖然としており、その後方にいる先生達も反応に困った様子だ。

このままでは話が進まない。そう思ったのか、勇者役の少女がとった行動はというと……。

 

「ゆ、勇者キィーック!」

『えぇぇぇぇぇぇ⁉︎』

 

勇者によるキック(という名のパンチ)で、魔王に攻撃するという暴挙だった。当然ながら、後ろに控えていた勇者のお供達や魔王の子分達は、この予想外な行動に驚きを隠せない。

たまらず魔王が激昂した。

 

「ちょ、おまっ⁉︎ それキックじゃないし! っていうか、さっき話し合おうって言ったばかりじゃないの!」

「い、言っても聞かないから!」

「何言ってんの⁉︎ 台本通りなら聞くわよ!」

「メタい! メタすぎますよ!」

「アワワ……!」

「おのれぇ、そっちがその気ならこっちだって……! 魔王ドリルヘッドバット!」

「痛い⁉︎」

「ゆ、勇者を守れぇ!」

「者共! 私に続けぇ!」

「「い、イエス、マム!」」

 

魔王の反撃を皮切りに、仲間達も交戦し始める。場はカオスな状況に陥ろうとしていた。

 

「お、お姉ちゃん、みんな……。な、何がどうなって……」

 

すぐ近くにいた、音楽係を担当しているであろう少女があたふたとしていると、彼女に向かって魔王役の少女が指示を出す。

 

「樹、ミュージック!」

「えっ⁉︎ えっとじゃあ……これで!」

 

樹と呼ばれた少女は慌てて操作を始め、ある1曲を流し始めた。

流れてきたのは、いかにもおどろおどろしいテーマ曲。それを聞いて勇者役の少女がギョッとする。

 

「えぇ⁉︎ ここで『魔王のテーマ』⁉︎」

「ゆ、勇者! 前、前……!」

「えっ?」

 

お供の1人に呼ばれて勇者が振り返ると、そこにはさっきと打って変わって目をぎらつかせた魔王の姿が。

 

「ファッハッハッハァ! ここが貴様らの墓場だぁ! 仲間共々葬ってくれようぞ!」

「魔王が超ノリノリなんですけど⁉︎」

「こうなったら……! あたし達もやるぞ!」

「えっ? お、おう……?」

「突撃ぃ!」

 

そして現場は再び大混乱。観客である園児達は全くその空気についていけてない。唯一巻き込まれていない姫役の少女も、「これはこれで美味しいシチュエーション〜」などと呟いて、止める気配がない。

このままでは劇どころではなくなる。そんな雰囲気になり始めたその時、司会進行役を務めている、車椅子に乗った少女が園児達に呼びかけた。

 

「みんな、勇者達を応援してあげて! 一緒にグーで、勇者にパワーを送ろう! がーんばれ、がーんばれ!」

 

園児達を先導するべく、少女がとった行動は、園児達を巻き込んで勇者を応援する事だった。これに触発される形で動きを見せる、2人の少年が。

 

「さぁ皆さん! 僕達からも勇者にパワーを送りましょう!」

「こうやって手を丸く握って、前に突き出すんだ」

 

それまで先生達の隣に立っていた、メガネをかけた少年と、左目に大きな傷がついている少年が、園児達の隣に立って真似事をさせる。ようやく園児達も理解が進み、

 

『ガンバレー!』

 

の大合唱となった。これを聞いて魔王も苦しむ動作を見せる。

 

「グォォォ……⁉︎ みんなの声援が、私を弱らせていく……!」

「魔王様、しっかり!」

「ナイスアドリブ〜」

 

姫役の少女がその光景を見てノホホンと呟く。

好機と見た勇者が、お供達に呼びかけた。

 

「今だ! いくよみんな!」

 

そうして勇者とお共達は一箇所に集まって、魔王に突撃する。

 

「四位一体!」

「「「「勇者ぁ、パーンチ!」」」」

「イッテェェェェェェェェェェ⁉︎」

「「ウワァ⁉︎」

 

こちらもほぼアドリブ感覚で決まった、4人がかりのパンチをまともに受けて、魔王はその背後にいた子分達を巻き込んで、地面を転がる。

園児達から歓声が湧き、その間に力尽きたであろう魔王とその子分達に、勇者とそのお供、更には城から出てきた設定で、姫が駆けつけてくる。

 

「姫! ご無事でしたか!」

「はい〜。皆さんのお陰です〜」

「でも、これで魔王も分かってくれたよね!」

 

それから、姫が勇者と魔王の手を握る。

 

「えへへ〜。これでもう、私達はお友達だね〜」

 

姫役の少女が良い雰囲気に持っていく中、魔王役の少女が司会に小声で告げる。

 

「東郷、しめてしめて……!」

 

東郷と呼ばれた少女は戸惑いながらも、締めの言葉に入る。

 

「と、いうわけで、みんなの力で姫の奪還に成功し、更には魔王とその子分達も改心し、祖国と平和は守られましたとさ。めでたしめでたし」

「みんなのおかげだよ!」

「イェーイ! ビクトリー!」

 

勇者役の少女と、お供役を演じていた少女がVサインを送り、園児達は興奮冷めやまないと言った感じでそれに続く。演技の内容や全体の流れはともかくとして、一応は子供達に好評だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……といった感じで校外活動に青春を燃やす、少年少女達がいた。

 

 

 

魔王役を演じていた、ホッと一息ついている部長の『犬吠埼(いぬぼうざき) (ふう)

 

音楽係を担当していた、風の妹である『犬吠埼(いぬぼうざき) (いつき)

 

魔王の子分役を演じていたうちの1人で、背が高く、口に爪楊枝を咥えながら苦笑している『浜田(はまだ) 藤四郎(とうしろう)

 

もう1人の子分役で、藤四郎とハイタッチをしている『日村(ひむら) 冬弥(とうや)

 

今回の劇の台本の作成者であり、姫役を演じていた、今現在風を労うように肩を揉んでいる『乃木(のぎ) 園子(そのこ)

 

勇者のお供役の中で唯一の女性で、笑顔でVサインを送り続けている『三ノ輪(みのわ) (ぎん)

 

園児達の後方で応援役に徹していた、丸みの帯びた顔付きでメガネをかけている『神奈月(かんなづき) (すばる)

 

昴と同じく応援役に徹し、開いていない左目に大きな傷がついていて、若干強面な印象にも関わらず、子供達の方から寄ってかかってきている『大谷(おおたに) (たくみ)

 

司会進行役を務め、今現在はミニサイズの日本国旗を振っている、親友からも本人の希望で苗字で呼ばれている『東郷(とうごう) 美森(みもり)

 

勇者のお供役を務め、2年生ではあるが、とある事情で1番最近になって入部した『小川(おがわ) 遊月(ゆづき)

 

主役である勇者を演じ、笑顔が絶える様子もなく喜んでいる『結城(ゆうき) 友奈(ゆうな)

 

そして、勇者のお供役を演じ、今現在は園児達と握手を交わしている『久利生(くりゅう) 兎角(とかく)

 

 

 

 

 

 

 

以上、12名によって構成されている、『皆の為になる事を勇んで実施するクラブ』をモットーに、地元でもその活躍ぶりが噂されている、讃州中学『勇者部』の日常が、そこにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、ちょっとヘンテコな部活に所属する、普通の少年少女達が織りなす物語。

 

迫り来る真実を前に、悩み、苦悩し、そして勇気と根性で困難に打ち勝つ物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜』

 

 

 

〜結城 友奈・久利生 兎角の章〜

 

 

 

 




プロローグなので今回はこの辺で。

大人数ではありますが上手く動かせるように尽力します。
皆様からのご意見・ご感想をお待ちしております。


〜次回予告〜

「大事な話って……?」

「ピッカーンと閃いた!」

「アバウトだよお姉ちゃん……」

「大成功でしたね!」

「何だ、ここは……」

「私達が、当たりだった……!」


〜変貌する日常〜




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