結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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鷲尾須美・市川晴人の章、真の完結です。

なお、来週はひょっとしたら投稿出来ないかもしれませんので、ご了承ください。


エピローグ③:巡り会う運命

神世紀300年、春。

1つ上の学年に進級した彼らに、新たな出会いが訪れる。

 

「さてと。それじゃあ新入部員の紹介だ……と言っても、何度かこの2人については口にしてきてるから分かると思うがな。……ってなわけで、冬弥。トップバッター頼むわ」

「はいッス! ……というわけで、紹介させてもらうッス! 『日村(ひむら) 冬弥(とうや)』ッス! 兄貴に誘われてこの部活に来ました! 走るのには自信あるので、よろしくしてほしいッス!」

「うん! よろしくね、冬弥君!」

「ヘヘッ、シクヨロッ!」

 

友奈と銀が、先んじて自己紹介を始めた、小柄でいかにもやんちゃ坊主を思わせる少年『冬弥』と挨拶を交わす。それから、昴が藤四郎に質問をした。

 

「……そういえば、前から気になってたんですけど、藤四郎先輩と冬弥君は、実の兄弟というわけではないんですよね? どうして兄貴って呼んでいるんですか?」

「それは、アレだ。近所に住んでいて昔からよく遊んでた仲でな。いつしか、向こうからそう呼ばれるようになったってわけだ」

「兄貴には前からずっと世話になってたッスからね! 兄弟みたいなもんッス!」

「そっかぁ〜。仲が良いんだね〜。よろしくね〜、とーやん」

 

続いて、風と同じ黄色の髪で、見ても分かる通り、どことなく姉の面影を感じさせる少女の自己紹介に移るわけだが、その少女は緊張のあまり、縮こまってしまっていた。

 

「緊張しすぎよ、樹」

「ファイトッス!」

 

隣から風や冬弥の励ましもあり、どうにかして口を開けて、力を込めて叫ぶ。

 

「い、『犬吠埼(いぬぼうざき) (いつき)』、です……! よ、よよよよよよろしくお願いします!」

「よろしくね〜、いっつん」

「い、いっつん⁉︎」

 

初めて呼ばれたその言い方に、驚きと困惑が交わる樹。冬弥も会話の輪に入る。

 

「そういや、さっき俺も『とーやん』って呼ばれてたッス! それって何スか?」

「園子が新しい子と出会う時に、初めに済ませるのがこのあだ名付けだ。ま、慣れれば気にならなくなるだろうな」

 

巧がそう説明する。

一方で風は物足りないのか、妹の魅力を本人に代わって紹介し始めた。

 

「あたしの妹にしては女子力低いけど、それ以外は中々よ。占いとか出来るし」

「おぉ! 凄いや〜!」

「た、タロット占いなら、少しほど……」

 

友奈に褒められて、顔を赤くする樹。そこでふと思い出したように、友奈がある物を手渡す。クローバーの絵柄が付いたペンダントだ。

 

「あ、占い好きなら、これあげる! 縁起物だよ!」

「か、可愛い……!」

「でしょ? はいどうぞ!」

「あ、ありがとうございます!」

「冬弥君にも後でプレゼントをあげるよ! 押し花で作った物だけど、自信作なんだ!」

「ありがとうッス! 優しいッスね友奈先輩!」

 

2人が上機嫌に、特に樹の緊張もほぐれてきた所で、今度は東郷の方に動きが見られた。2人の前に寄る東郷の頭にはシルクハットが。それを外して足の上に乗せると、懐から白いハンカチを取り出し、シルクハットを逆さまにしてからその上に被せる。

 

「「……?」」

 

2人の意識がシルクハットに向けられる中、次の瞬間、東郷は勢いよくハンカチを外した。

 

「はい!」

 

ハンカチが払われた先に見えたのは、先ほどまでいなかったはずの、白い鳩。それが3羽ほどシルクハットから飛び出してきたのだ。

2人の興奮は最高潮に達した。

 

「ウォォォォッ! 凄いッス! 樹、見たッスか⁉︎」

「う、うん! 凄いです! どうやってやったんですか⁉︎」

「知りたい?」

「「はい!」」

 

ドヤ顔で催促する東郷に、2人は興味津々だ。

 

「それはね、帽子の構造に秘密があって……」

 

といった感じで東郷が種明かしを始め、2人はそれにならってシルクハットを手に取り、見よう見まねでそれに続く。3人の仲は一気に縮まったように見える。

 

「歓迎会、大成功〜」

「だな。良かったですね、藤四郎先輩、風先輩」

「ありがとね、みんな」

「これからも可愛がってあげてくれよ」

 

先輩2人は、特に風は最愛の妹が新しい空気に早くも慣れ始めている事に心底ホッとしたように、感謝の言葉を述べる。

外に見える桜並木も、絶好調のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、出会いの季節には、また新たな物語が刻まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瀬戸内海から吹く風が、窓の外から顔を覗かせる少年の肌を撫でて通り抜ける。潮の匂いは感じられなかった。否、物心ついた時から、潮だけに非ず、あらゆる匂いを、彼は感じていない。

目の前には、広大な海が広がっており、奥には樹木質の壁がそびえ立っている。この世界の恵みである神樹が作り出したものだと、彼は教わった。大昔、世界はウイルスによって死滅しかけ、そんな人々を守る為に、ありとあらゆる神様が集って大樹となり、人類を守護する為に、壁を形成した。そのおかげで、今もこうして朝の風景を眺める事が出来るのだ。

 

〜いつの日にか、奪われてしまった土地が戻ってきて、平和な世界になりますように〜

 

少年は、部屋の窓から壁を見つめ、静かにお祈りをする。

それが、1年前にありとあらゆるものを全て失ったとされる少年の毎朝の日課となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ叔母さん。俺、そろそろ出かけます。叔父さんにも戻ってきたらそう伝えておいてください」

「はいよ。気をつけて行ってくるんだよ」

「オォ、そういや今日からだったなぁ。初日からナメられねぇように、ガツンとやってけよ!」

「アハハ……。まぁ困らない程度に頑張ってきますよ。松さんも朝からお酒飲み過ぎないように気をつけてくださいね」

「ハッハッハ! 若いもんには分かんねぇだろうが、俺ぁ体は丈夫なんでぇ!」

「それなら良いですけど。それじゃあ、行ってきます!」

 

まだ若干硬い制服に身を包み、新品さながらのカバンを手に持って、少年は手を振りながら、漁師宿を後にした。

それを見送った後、叔母と漁師達が話し始めた。

 

「そういや、もう1年になるのかえ。あいつを海で拾ってからよぉ」

「そうだねぇ。あの時は慌てたもんさ。漁に出かけた旦那と他の漁師が、偶然海に浮かんでたあの子を見つけて、何とか漁船に引っ張り上げたのは良かったものの、体は傷だらけだし、心臓も止まってたって話じゃないか。こっちに戻ってきて不意に目を開けた時は驚いたさ。でもまぁ、記憶も何もかも吹っ飛んじまってたらしくてね。まともに会話すら出来なかったよ。それからみんなで色んな事を教えてたのも、良い思い出だよ」

「そうだったなぁ。そんな坊主がもう学校に通えるところまで大きくなりやがったものなぁ。教えたのは良かったが、気がついたらあっという間に追い越されちまった。歳をとるってのは怖いもんだぁ」

「それが若さってもんよ。あの子にとって初めての学校だから、ちょっと不安はあるけど、慣れさせるのも勉強さね」

「そうかいそうかい。そんなら俺も一肌脱ぐとするかねぇ! 奴さんを祝うにやぁ、大物を釣ってやらんとなぁ!」

「期待してるよ松さん。あたしも腕をふるって美味いもん作るからさ。もう船の準備も出来てるって話だし、旦那にも声をかけておいてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てよほら! あたしらの事が記事に載ったぞ!」

「おぉ、載ってるな」

「いっつんもとーやんもちゃんと写ってるよ〜」

「恥ずかしいです……」

「でも、認めてもらえるのは嬉しいわね」

「ユニークって褒められてますからね」

 

新一年生が入部してから、早1週間が経とうとしていた頃。学内で発行している新聞の一面に、勇者部の写真が大きく掲載されているほど、その知名度は高くなりつつあった。

 

「まさに鰻登りといった感じだな、東郷」

「……」

「……東郷さん?」

「! あ、ごめんなさい。そうね、この調子で頑張りましょう」

「東郷先輩、さっきから様子が変ッスよ。どうしたんスか?」

 

気になった冬弥が尋ねると、代わりに銀が答えた。

 

「いや、実はさ。今日あたしらのクラスに転入生が来たんだ。割とスタイルの良い男でさ。ちょっとしたイケメンって事で話題になってたんだけど、東郷だけ、なんかその人の顔見てから、ずっと浮かない顔しててさ」

「私達も気になってたの〜。みもりん、あの子の事、どこかで見覚えあるの〜?」

「……分からないの。ただ、あの人を見てると、不思議な感じがして……。どこで会ったのか、全然思い出せないの。もしかしたら、私が失った記憶と何か関係があるのかも……」

 

東郷が再び悩む表情を見せて、見兼ねた友奈が手を叩いて景気付けようとする。

 

「よぉし! 次は保育園でのレクリエーション、頑張ろう!」

 

友奈が気合いを入れてそう高らかに宣言したその時、藤四郎がチュッパチャプスを口から離して告げた。

 

「あぁ、その前に、お前らに1つ知らせがある」

「? 何ですか?」

「唐突な話だが、連絡が入ってな。新しく勇者部に入部希望したい人がいるらしくてな」

「えっ? 私達以外に、入部したい1年生がいるんですか?」

 

樹がそう問いかけるが、藤四郎は首を横に振る。

 

「いや、そいつは転入生だって聞いてる。もうすぐ来ると思うんだが……」

「えっ? 藤四郎先輩、もしかしてその人って……」

 

兎角が口を開いた直後、部室のドアをノックする音が。タイミングよく、その人物が訪れてきたようだ。風が返事をすると、失礼します、という男性の声と共に、ドアはゆっくりと開かれる。

その顔を見た瞬間、2年一同は驚きの表情を浮かべた。東郷は、思わず口を開いたままになる。それもそのはず、現れたのは、今日自分達のクラスに転入してきた、編入試験で満点を記録したとされる少年だったからだ。

金髪で背も高く、それでもって見るからに優しそうな少年が、朗らかな表情を見せながら、自己紹介を始める。

 

「半端な時期にすいません。入部希望の為、ここにやってきました、『小川(おがわ) 遊月(ゆづき)』です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、神に選ばれた少年少女達によって、未来へと繋がる物語。

 

出会いと別れを経て、無垢なる少年少女達の物語は、新たなるステージへと歩んで行く。

 

その先に待ち受けるのは、希望か絶望か。

 

その答えを知る日は、そう遠くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜』

 

 

〜鷲尾須美・市川晴人の章〜

 

 

〜完〜

 

 




というわけで、無事に第1章を終える事が出来ました! 応援ありがとうございます!

もちろん、物語はここで終わるはずもなく、次回から『結城友奈・久利生兎角の章』として、新たな展開へと向かいます! 今後とも温かいコメントを含め、応援よろしくお願いいたします!

それでは、また会いましょう!


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