結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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東郷の、銀に対する呼び方に関して悩みましたが、さすがに初対面の人を呼び捨てにするのは違和感あるので、ゆゆゆ編に関しては『ちゃん』付けとさせていただきます。


エピローグ②:讃州中学『勇者部』

新しい生活を目前に控え、不安に押しつぶされそうになる東郷だったが、そんな心配も、友奈と兎角の登場により吹き飛んだ。学校が始まるまでは2人が勧める讃州市の名所へと連れて行ってくれたり、その他にも生活面で色々と支えてくれた。

そのお返しとまではいかないが、車椅子でも料理が出来るようになった事をキッカケに、ぼた餅を作って2人に食べさせた。中々の出来だったらしく、友奈に至っては『毎日食べたい!』と絶賛するほどだった。

その頃から、東郷は2人を下の名前で呼ぶようになった。因みに自身の呼び方に関しては、『美森』と呼ばれる事に若干抵抗があり、『東郷』の名で呼んでほしいと自ら懇願した結果、2人もそれを承諾した。いつしか、親公認でその仲は良いものとされてきた。

そんな彼らに新しい出会いが訪れたのは、讃州中学に入学して1週間足らずの事。そろそろ中学生にとって一番の思い出作りの場となる、部活動をどこにするか決めようと新入生達が頭を悩ませる頃である。

 

「友奈ちゃん、チアリーディング部からのお誘いがあったんでしょ? 入らないの?」

「押し花部からの誘いだったらなぁ……」

「あってもお前しか部員いないだろ。押し花が趣味ってやつはそうそういないし」

 

やれやれと肩を竦めながら、兎角は2人と肩を並べて廊下をさまよい歩く。

 

「でも、兎角は剣道が得意なのに、剣道部に入りたいわけじゃないんだよね?」

 

不意に友奈はそう尋ねてくる。普段は誰に対しても『君』や『ちゃん』、もしくは『さん』をつける彼女だが、幼馴染みである兎角に関しては慣れ親しんでいるという事もあって呼び捨てだ。

 

「まぁ剣道部も興味ないってわけじゃないけどさ……。なんかこう、中学生だったらもっと色んな事にチャレンジしたいっていうか……」

「兼部って方法は取らないの?」

 

東郷がそう質問するが、当の本人は首を横に振る。

 

「そこまでしなくても、ちょっとばっかし手助けできるぐらいが良いんだよな。なんて言うか、助っ人みたいな感じ」

「そっか。でもそれならどこが良いんだろう……?」

 

一同が頭を悩ませていた、その時だった。

 

「あなた達にオススメの部活は、他にあるわ!」

「「「?」」」

 

3人が声のした方に振り返ると、黄色の長髪とスタイルの良さげな少女がいた。声をかけてきたであろうその少女の隣には、何故か口に爪楊枝を咥えた、いかにもワイルドさが溢れている少年がいる。背丈はほぼ同じなので、2人は同級生なのだろう。

稲妻のように強烈に、力強く現れた2人を前に友奈達が呆然とする中、少女は再び口を開く。

 

「あなた達にオススメの部活は、他にあるわ!」

「何故2回も⁉︎」

「『大事な事だから2回言いました』的な?」

「そいつは言わぬが花だな、うん」

 

兎角の言葉に、爪楊枝を咥えた少年がそうツッコむ。

 

「それはそうと、どちらの勧誘なんですか……?」

 

東郷が純粋な疑問を投げかけると、2人は自己紹介から始めた。

 

「あたしは2年の『犬吠埼(いぬぼうざき) (ふう)』、勇者部の部長よ。それから隣にいるのが副部長で同じく2年の」

「『浜田(はまだ) 藤四郎(とうしろう)』だ。ま、一つよしなに頼むわ」

 

2人の先輩が軽く自己紹介を終えたところで、友奈達は聞き慣れない部活名にくいつく。

 

「「勇者部……?」」

「何ですか、それ……? とってもワクワクする響きじゃないですか!」

「えっ……?」

「お、分かる? フィーリング合うねぇ」

 

友奈が目を光らせて風や藤四郎に興味を示し、東郷はその光景に目が点になり、兎角はさも分かっていたかのようにやれやれと頭を掻く。とはいえ話を聞くだけならタダという事で、3人は藤四郎から手作りと思われる募集用のパンフレットを受け取った。

 

「勇者部の活動目的は、世の為人のためになる事を勇んでやる事。各種の部活の助っ人とか、ボランティア活動とか」

「世の為人のためになる事……!」

「うん。神樹様の素敵な教えよね。といっても、あたしらの歳頃は、なんかそういう事したいけど、恥ずかしいって気持ちあるじゃない? そこを恥ずかしがらずに勇んでやるから、勇者部なのよ!」

「フゥム……」

 

先輩の意見にも一理あると思いながら、兎角はパンフレットに目をやる。確かに自分達の歳頃にもなると、羞恥心からか表立って人助けする事に若干抵抗がある。が、そんな恥ずかしい思いなど微塵もなく人助けをやってのける人物を、彼は知っている。そして自分も少なからずその影響を受けてきたので、こういった活動方針には惹かれる面もある。

一方で、この少女だけは真剣な表情でこう述べる。

 

「……なるほど、敢えて『勇者』という外連味のある言葉を巧みに使い、みんなの興味を引く事で、存在感を確立させようとしているのね」

「そうなんですか?」

「いや、そこまで深い考えではない……はず」

 

兎角の問いかけに、藤四郎は苦笑しながら否定する。風も同様だった。

一方で、友奈の目は依然として輝いている。

 

「私、憧れてたんですよね……! 勇者って言葉の響きに……! カッコいいなぁって!」

「その気持ちがあれば、君も勇者だ!」

「おぉ! 勇者〜!」

「す、凄い所にくいつくのね友奈ちゃん……」

「こういうとこがあるから、将来変な勧誘に騙されないか心配なんだけどな……。まぁそういうとこが友奈らしいけど」

「そうね」

 

友奈の事を誰よりも知っている兎角は、やれやれと思いつつも彼女を賞賛する。東郷も同意を示す。

兎角は説明にもあった、部活動の助っ人が可能という所に惹かれていた。これならば色々な部活動を経験し、その後の人生に役に立つかもしれないと考え、友奈同様、勇者部に興味を示していた。東郷も、2人が入るならば、と同調している。

それを感じ取った藤四郎は、もう一押しとばかりに声をかける。

 

「まぁ今は仮入部という形でも構わないから、とりあえず部室に寄ってみたらどうだ? 丁度、同じように入部希望の1年生が2人、そこで待機してるからな」

「えっ? 他にもいたんですか?」

「会ってみたいです!」

「よぉし、それじゃあ部室に案内するわよ!」

 

そう言って風を先頭に、一同がやって来たのは、『家庭科準備室』と称される部屋だった。

 

「ここが……?」

「そうよ。私達の新しい部室になる所よ」

「なるほどな。道理で聞き覚えのない部活だと思ったら、一からのスタートだったんですね」

「ま、そういうこった。今年から俺と風で立ち上げた部活だ」

 

ようやく合点がいった様子の兎角。

その間にも、風がドアをノックして、中にいるであろう人物達に声をかける。

 

「銀、巧。入るわよ〜」

「あいよ〜!」

 

中から、いかにも元気そうな女の子の声が。風がドアを開けると、中にはパイプ椅子に座っている男女2人の姿が。1人は、友奈よりも少し小柄で、後ろ髪をゴム紐でまとめている、友奈に似て活発そうな雰囲気の少女。彼女が先ほどの声の主だろう。そしてもう1人は少女とは対称的に、落ち着いた様子で本を読んでいた。友奈達の登場で顔をあげた時に気づいたが、その左目には大きな傷がついており、開いてはいなかった。どこかの不良を思わせる姿に、さすがの兎角も他の2人と同様に息を呑んでしまう。

そんな事も御構い無しに、少女が立ち上がってグイグイと3人に迫ってきた。

 

「お、ひょっとしてみんなも勇者部に入るの?」

「え、えぇ。一応……」

「へぇ! あたしらと同じ1年生みたいだな! あたしは『三ノ輪 銀』だ! んで、そっちが『大谷 巧』だ。よろしくな!」

「……まぁ、よろしく」

 

巧はあまり多くを語るつもりはないのか、軽く返事をする。2人が自己紹介したので、友奈達もそれに続く。

 

「銀ちゃんに、巧君だね! 私、結城 友奈! よろしくね!」

「おう! シクヨロ!」

 

そう言って早速握手を交わす友奈。銀もそれに同調する形で笑みを浮かべる。早速良好な関係が結べたようだ。沢山の部活に誘われるのも、こういった人当たりの良さが要因であり、その明るさに、兎角や東郷も尊敬していた。

 

「俺は久利生 兎角。友奈とは幼馴染みだ」

「東郷 美森です。最近になってこの街に引っ越してきました。分からない事だらけで色々と迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」

「えっ、そうなの? じゃああたしや巧とおんなじだな! 実はあたしらもこの街に来たばっかでさ」

「へぇ! 銀ちゃんも巧君も、東郷さんと同じなんだね!」

 

初対面であるはずの3人の、意外な接点に興味を示す友奈。

 

「この2人は昨日勧誘したばかりでな。こっちの活動方針を気に入ってくれて、とりあえずは仮入部にしてる。けどまぁこの様子なら問題なさそうだな」

 

そう言って藤四郎は、部室にあった箱の中から、未開封のチュッパチャプスを剥いて、爪楊枝と交換する形で口に咥えた。後で聞いた話によると、藤四郎は大のチュッパチャプス好きで、何か口に咥えていないと落ち着かないのだそうだ。爪楊枝はその代用なのだろう。

そんな中、東郷はジッと2人を見つめていた。その視線に気づいた巧が声をかける。

 

「? 何だ」

「い、いえ……。ただ、何となく違和感があるというか……。2人とは、初対面のはずなのに、何だか、そんな感じになれなくて……」

「そっか? あたしは全然気にならないけど……。どこかで見た事あるのか?」

「……多分、気のせいね。ごめんなさい」

 

東郷はそれ以上の詮索を諦め、早速風と藤四郎の口から今後の活動内容について詳しく説明させられた。

こうして5人の新入生は『勇者部』に入部する事となった。友奈と銀は元の性格もあって最初から乗り気だったのか、常に意欲を燃やしていた。他の3人はおまけのような形での入部という事もあり、最初から遊び半分でそれほど打ち込む事は無かったのだが、いつのまにか真剣になっていき、各々のスキルを惜しみなく部活動で発揮するようになった。

 

「5人も入ってくれたおかげで、勇者部の戦力は百倍近く膨れ上がったと言っても過言ではない!」

 

風の言葉に、汗だくになっている銀が上機嫌になった。

 

「ヘヘッ! この三ノ輪 銀様がいれば、雨が降ろうが槍が降ろうが……ってオワァ⁉︎」

「そうやって調子に乗るから足を滑らせるんだろ。ほら、掴まれ」

「あ、ありがと」

「銀ちゃん大丈夫⁉︎」

「平気へいき! お、友奈の方もだいぶ溜まってきたな」

「うん! 次はあの奥に行ってみるよ!」

「底が深いかもしれないから、気をつけるんだぞ」

 

現在、勇者部は依頼を受けて、河原でゴミ拾いをしている。春の水はまだ少し冷たいが、誰1人としてめげずに、拾ったゴミを袋に詰めている。なお、東郷だけは足が不自由という事もあり、土手で待機しつつ、彼女が最近立ち上げた、勇者部専用のホームページをチェックしていた。

 

「あ、この間立ち上げたホームページに、早速依頼が来ています」

「ナイス宣伝、東郷!」

「友奈ちゃんと銀ちゃんは陸上部から、兎角君は剣道部から、私は将棋部からね」

「よぉし頑張るぞ! 私は、勇者になーる!」

「おっしゃあ! あたしも負けてらんないな! 勇者は根性!」

「相変わらずこの2人は熱すぎるぜ……。じゃあ東郷。早速空いてる日を予定に入れておいてくれ」

「頼むわよ東郷」

「了解です!」

 

そう言ってサクサクと予定を埋め始める東郷。パソコンのスキルはこの数ヶ月で一通り身につけたので、何の問題もなかった。また、巧は物作りが得意だと分かったので、様々な備品の修理は、基本的に彼の担当になっていた。一方で銀は、かなりのトラブルメーカーらしく、大抵の依頼は彼女が何らかの形で携わっている。迷い猫の飼い主探しの場合は銀と、そしてそれに付き添っている巧が持ってくるのは、もはやお決まりのパターンになりつつあるのだ。

こうしてお互いの事をよく知り、先輩後輩の垣根を超えて仲を深めていきながら、季節は秋へと移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からこの讃州中学に転入してきました、『神奈月(かんなづき) (すばる)』です。勇者部に入部希望しますので、よろしくお願いいたします」

「じゃじゃ〜ん。同じく、勇者部に入部したい、乃木さん家の園子で〜す」

 

紅葉が見頃になった頃、新学期が始まったと同時に、讃州中学校に2人の転入生が姿を見せた。1人は、少し丸みを帯びた顔つきで、メガネをかけている少年、『神奈月 昴』だった。その右腕は何故か丈の長い手袋で覆われている。そしてもう1人、ほんわかとした表情や口調が特徴的な、右目が眼帯で覆われている金髪の少女、『乃木(のぎ) 園子(そのこ)』が自己紹介をする。

いきなりの事で困惑する1年生達に対し、藤四郎がチュッパチャプスを口から離して、説明を始めた。

 

「2人は少し前まで入院生活を余儀なくされていてな。最近になってある程度歩けるようになった事で、この讃州中学に通学の許可が降りたわけだ。因みにこの2人、あの大赦の中でも名家だそうだ」

「大赦って、神樹様を奉っている組織の事だよな? そんな凄い家系なのか」

「エヘヘ〜」

「そう言えば、三ノ輪家も同じく大赦に仕えている名家だったわね」

「そ、そうだけど、あんまり自慢にもならないし、あたしもよく知らないんだよな。関わってるのって父ちゃんと母ちゃんぐらいだし」

 

東郷の指摘に対し、銀は恥ずかしげにそう呟く。

 

「至らぬ所もあるかもしれませんが、園子ちゃん共々、よろしくお願いします」

「こちらこそ! 大歓迎だよ2人共!」

 

早速友奈が歓迎の意思表示をして、両手を広げる。それを見て園子が目を輝かせる。

 

「おぉ〜! 次の小説の主人公にピッタリ当てはまりそうな子だ〜! お名前は何て言うの?」

「結城 友奈です!」

「なるほど〜。じゃあ『ゆーゆー』で決まりかな〜」

「……へっ?」

「ゆーゆー……? それって友奈のあだ名か?」

 

突然つけられたあだ名に、さすがの友奈も呆けてしまう。

どうやら人に対してあだ名で呼ぶのが彼女のモットーのようだ。それが証拠に、その後は、兎角が『とっくん』、風が『ふーみん先輩』、藤四郎が『トッシー先輩』とつけられたのだ。因みにほぼ同時期に転入してきた昴に関しては『すばるん』とつけたそうだ。

残るは東郷、銀、巧の3人だけとなったが、ここに来て園子は難色を示し始める。

 

「う〜ん……」

「ありゃ、なんか行き詰まってるみたいだけど、どしたの?」

 

風が気になって声をかけた。

 

「何だろうね〜。この3人を見てると、何だか不思議な気持ちになるんだよね〜。割とすぐに浮かんじゃったよ〜。この人達の事、どこかで知ってそうな気がするんだけど、全然思い出せないな〜」

「……園子ちゃんも? 私も、あなたや昴君を見てると、何だか懐かしく思えるのよ。何なのかしら……?」

 

東郷も首を傾げてそう呟く。銀と巧も同意見のようだ。とはいえこのまま考え事をしても埒が明かないという事で、東郷は『みもりん』、銀は『ミノさん』、巧は『たっくん』と決まった。

最初は入院生活が少し長かったと聞いており、勉強面に関しては大丈夫なのかと懸念する者も少なからずいたが、予想に反して2人の吸収力は高く、数週間ほどで遅れを取り戻す事が出来た。それを目の当たりにした時には、風と藤四郎は唖然としていた。

また、数週間も同じ空間を過ごせば、初期の友奈達と同様に互いの事もよく分かり始めた。

先ず、昴の事に関してだが、料理のスキルはあの東郷をも凌ぐほどのスペシャリストである事が、彼が持参した料理を口にする機会を経て判明した。癖になる味付けは勇者部員を唸らせ、友奈に至っては、

 

「東郷さんのご飯も美味しいけど、昴君のも美味しくて、どっちが美味しいか悩んじゃう!」

 

と阿鼻叫喚するほどだった。その際、彼は右腕の秘密を明かす事となった。その右腕は機械で出来ており、所謂『義手』であった。聞けば、昔巻き込まれた事故の影響で右腕を切断する事を余儀なくされ、両親が愛する息子の為にと決断して、今のように義手が取り付けられた、と聞かされた。人と違うと言う事もあり、当初はひた隠しにしようと思っていたそうだが、当然友奈達は気にする事もなく、むしろそんな彼を快く受け入れた。

また、園子は終始マイペースなライフスタイルを貫いており、本当に大赦の名家の令嬢なのか、疑いたくなるものだった。人にあだ名をつける時点で予測はしていたが、本当に数週間で遅れた分の学習面を取り戻せたり、何の前触れもなく寝込んだりボーッとしていたり、そしてここぞという時は先輩達をもアッと言わせる奇策を思いついたりと、色々な意味で勇者部の刺激となった。風曰く、

 

「底知れないものを感じたと同時に、随分と濃いキャラが増えたわ」

 

との事。他の面々もそれに同情しながら苦笑する他なかった。

そしてこの日も、園子の「ぴっか〜んと閃いた!」を基に、勇者部の新たな画策が実行されていた。

 

「じゃあ4つ目は、『悩んだら相談!』で決まりですね」

「あぁ。問題ないな」

 

藤四郎は太い黒ペンで白紙に文字を書き込んでいく。

園子が提案したのは、『勇者部五箇条』なるものを作るというもの。それがある事によって勇者部としてもさらにモチベーションが上がり、より良い気持ちで活動に励む事が出来るだろう、という提案は全会一致で可決され、早速取り掛かったのだ。

現時点で4つの文が出されており、『挨拶はきちんと』、『なるべく諦めない』、『よく寝て、よく食べる』、そして『悩んだら相談!』が新たに追加された。

 

「こういう5つの誓いみたいなのって良いよね! さすがだよ園ちゃん!」

「エヘヘ〜。それほどでも〜」

「でもこれのおかげで身が引き締まる気もするし、結構良い案だと思うぜ」

「だな! んで、残りの1つはどうすんだ?」

「最後だから、ビシッといきたいよね!」

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、てなんてどう?」

「それ何ですか?」

「上杉鷹山さんの、ありがたいお言葉よ!」

「よ、ヨーザ……? ちょっと難しい言葉のような……」

「友奈の頭がパンクしかけてますし、さすがに俺もそれをそのまま載せるのは……。何かこう、噛み砕いた感じにしてもらえたらと……」

 

最後の一文の大枠が決まり、それを簡潔にどうまとめるか悩んでいたその時、いつのまにか鼻提灯を膨らませていた園子がバッと目を開けて発言する。

 

「閃いた〜! 『なせば大抵なんとかなる』ってどうかな〜?」

「急に来たなお前⁉︎」

「でもそれならバッチリだよ!」

「私も賛成よ」

「そこまでビシッとはしてなさそうだが、まぁそれもアリか」

「よぉし、なら決まりね!」

 

こうして『勇者部五箇条』なるものが完成し、早速部室の見やすい位置に飾る事に。

 

「こうしてみると、全体的に随分フワッとした文言だよな」

「ま、変に硬くなるよりは全然良いでしょ」

 

放課後の部室にて、2年生しかいない中で勇者部五箇条に目を通しながら、そう語り合っていた。

 

「来年は我が妹も晴れて讃州中学に入学するから、また一層と賑やかになるわよ。それに、あんたの近所に住む子もこっちに来るんでしょ?」

「あぁ。兎角達にも頼むが、弟分として、面倒見てやってほしい」

「はいはい」

 

微笑みながら、部長として引き締まった表情を浮かべる風。そんな彼とは対称的に、藤四郎はチュッパチャプスを舌で舐めながら考え事をする。

 

「(必要な役者は揃いつつあるし、今のところ、神託は来ていない。もちろん外れてくれればそれに越した事はないが……。まぁ、仮に外れたとしても、この部活を解散させるのは、些かもったいないな。陰ながら続けていくのもアリだろう。……お前だったら、きっとそうするだろうな、竜一)」

 

冷たい風が窓の外を吹き荒れる中、刻は間もなく、神世紀300年を刻もうとしていた。

 

 

 




というわけで、本編と違っていきなり登場の、乃木園子であります。

次回でエピローグも終わり、本格的にゆゆゆ編が始まります。

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