結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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わすゆの日常回としては最後になる回です。

あと、新キャラ出します。


27:夏色の記録

8月に入り、それまで休養していた晴人達も、本格的に須美達と鍛錬を再開していた。多少のブランクこそあれど、3人の武神は遅れを取り戻そうと、汗だくになりながら体を動かしている。

とはいえ、晴人はまだしも、他の2人はそこそこの苦労を強いられる事に。右腕のない昴はバランスに偏りが出来て、思うように踏ん張れない。巧の場合は視界が半減しているので、立ち回りを考えなければならない。そんな徒労がありながらも、6人は一致団結して鍛錬に励んでいた。

基礎的な鍛錬から、武器を用いた素振りまで一通り終えた6人は、施設の中央付近で休憩を取っていた。練習用の槍の素振りを一心不乱にしてきた園子が、ゼイゼイと呼吸を乱している。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

「そのっち大丈夫?」

「水分を取った方が良いよ。ほら」

 

昴が冷えたドリンクを園子に差し出す。

 

「ありがと、すばるん。……プハーッ! ん〜! この一杯の為に私は生きてるぅ〜」

「何だよそれ?」

 

夏に相応しい、弾ける笑顔を見せる園子を見て、銀が苦笑する。昴が他の面々にもドリンクを渡し終え、水分を補給した後、一同は縁側に出て外の景色を眺めながら体の力を抜いた。

 

「……夏だね〜。もう8月だよ」

「もう毎日が暑すぎてさ……。正直しんどい時はあるよ。あの時のプールが恋しいよ〜……」

「どうなってんだよ今年の夏は……」

「どれくらい暑くなるのかしら」

 

6人は空を見上げる。デカデカと自己主張する入道雲や、無限に広がる夏の色が、否が応でも夏が本格的に到来した事を実感させられる。

 

「夏、だな」

 

巧が改めてそう口にする。

 

「蝉も絶好調だわ。全方位から聞こえてくるもの」

「知ってる〜? 地面に倒れている蝉さんが、まだ元気かどうか判別する方法」

「……あまり虫は得意じゃないから」

「あたしはちょっと興味あるかも!」

「足を開いている蝉さんはまだ元気で〜」

「そもそも虫が苦手な人は地面に倒れている蝉をしっかり見ようとは、しないと思うの」

「正論かもな」

「アハハ、確かにね〜」

 

などと、限られた時間の中で、他愛のない会話が繰り広げられている。お役目と全力で向き合う少年少女達には、夏休みだからといって、どこかに遊びに行こうという、小学生なら当たり前の思考も、今の須美達にはなかった。あの銀や晴人でさえ、我慢しているぐらいだ。

 

「……さてと。鍛錬を再開しましょうか。いよいよ支給される、私達の新しい力を使いこなせるように」

「だな。勇者システムも武神システムも、最新版になった時に俺達がしっかりしてないと、意味ないしな」

「頑張りましょう!」

 

晴人達がそう呟くように、次の決戦に向けて、システムが大幅にアップデートされる事が、彼らの中で認識されている。

元々、大赦側で開発を進めており、何れは導入される事になっていたが、3人の武神が重傷を負った件を受けて、目星がついたと同時に開発を急ピッチで進めているそうだ。適性の問題上、援軍は用意出来ないが、6人の力をより大きく引き出す事も可能らしく、中には武器が変わる者もいるらしい。

分かりやすく例えるなら、武神がこの世界の恵みである神樹に近い存在であるように、勇者も同じように距離をより近づけて、6人が更に神に近い力を手にする、といったところか。

その為に、元々6人が最初に支給されていた端末は、アップデートを兼ねて大赦側に預けられ、代用品が6人の手元にある状態だ。その端末では勇者や武神になる事は出来ないが、神託によれば、もうしばらくは敵の襲撃もない為、問題はないそうだ。

 

「にしても、新しいシステムって何だろな?」

「外見が変わるのでしょうか?」

「旧世紀の武者みたいなやつだったりして〜」

「! そ、そうなったら私はちょっと嬉しいわね!」

「嬉しいのかよ⁉︎」

「鎧とか兜とか被ってる須美……。違和感ないかも」

「おいおい。性能と違って外見はそれほど今のシステムと大きく変わらないと、先生が言ってただろ?」

「お〜。そうだっけ」

「それと、もう一つ気になる事があるんだけどさ」

 

晴人が思い出したように口を開く。

 

「武器が少し変わるのと同時に、サポートも付くって話だっただろ? ……サポートって何だと思う?」

「さぁ?」

 

晴人がそう呟くように、今回のアップデートにおける特徴の一つとして、サポートが付くという事が挙げられる。今それは実戦投入に向けて、最終調整の段階に入っているという。須美達はそれを即座に使いこなせるように、体作りをしているのだ。彼らが通う神樹館小学校も丁度夏休みに入っているので、鍛錬に割く時間はたっぷりある。不幸中の幸いと言うべきか、それまで意識不明の重体だった巧が目を覚ました日に起きた戦い以降、バーテックスは攻めてきていない。

サポートの正体が気になる一同だったが、その時が来るまでのお楽しみにしておこう、という事で、6人は早速鍛錬を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達には今晩、お祭りに行って楽しんでくる事を命じます」

 

その日の鍛錬が終了し、安芸の口からそのような『お役目』が命じられ、一同は面食らう。

 

「? 待ってください。祭りって?」

「あそっか。晴人は知らないかもしれないけど、毎年この時期に開かれる祭りがあって、今日がその日なんだ!」

 

この街に来てまだ半年も経っていない晴人に対し、経験者らしく、銀がそう答える。

 

「うむ。せっかくの祭りだ。肩の力を抜いて楽しんでくるといい。大赦の許可も出ている」

「そもそも、このお祭りが行われる神社が大赦と同義だから、出る義務はあるわ」

「分かりました」

 

以前の須美だったらまた渋っていたところだが、先日のデート以来、全体の価値観を多少は改めたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瀬戸の潮風が、心地よく吹いており、夏場でも暑さが気にならないほど、程よい気候だった。夕日を浴びながら、神社への道を歩いているのは浴衣姿の須美、銀、園子の3人だった。

 

「けどさ、ちょっと意外だったよ。須美がこんなにも乗り気だった事がさ」

「うんうん。不思議な事もあったもんだ〜」

 

銀と園子も、須美がすんなりとお祭りに参加する事を承諾した事に驚きを感じているようだ。対して須美は平然と呟く。

 

「勇者には気分転換も必要。先生ならそう言うと思ったし、私自身も、それには同感だったから」

「なら、今日はお役目のこと忘れてさ。目一杯楽しもうな!」

 

銀がハツラツとした口調でそう叫び、他の2人も同意する。武神達とは神社の本殿で待ち合わせる事になっており、まだ時間には余裕がある。そう思ったのか、園子が端末を取り出して須美に向けた。

 

「わっしー、浴衣着てバッチリ決めて、気合い十分だしね〜」

「こ、これは親に着させられて……」

「とか言いつつ、実は自分でも嬉しかったりするんだろ?」

 

銀はニヤついた表情でそう語りかける。須美は反撃とばかりに銀の方に向けて端末をかざす。

 

「そう言う銀も、一段と可愛さが増してるわ。その浴衣姿、気合い十分でとても似合ってるわ。巧君もさぞ嬉しがるでしょうね」

「まさかのテンドン⁉︎ 須美もやるようになったなぁ……」

 

顔を赤らめる銀を見て、園子の中でスイッチが入ったらしく、こんな注文をつける。

 

「うんうん、2人とも似合ってるよ〜! お人形さんみたい! くるくる回ってみて〜」

「だってさ須美。やってみてよ! 今なら周りに人もいないし、恥ずかしくないだろ?」

「私が⁉︎ こ、こうかしら……?」

 

そう言って須美は言われた通りに一回転する。

 

「わぁ〜ノリノリだ〜! シャッターチャンス〜!」

「あ、しくった!」

「こらこら、撮影は禁止よ!」

「えぇ〜。待ち受けにしようと思ったのに」

「ならその写真あたしに送ってよ! 撮れなかったからさ」

「じゃあ後で送るね〜」

「おう! サンキュー!」

「あ、もちろん後でイッチーにもちゃんと送るから、安心してねわっしー」

「余計に恥ずかしいからやめて!」

「今もわっしーが待ち受けだよ。ほら、うどん食べてる時のやつ」

「お、ホントだ!」

 

銀が園子の持つ端末の画面を覗き込み、遅れて須美も確認する。確かに、そこにはイネスのフードコートでかけうどんをすする須美の画像が。

 

「ちょっ、やめてよ本当に! 恥ずかしいから!」

「私の携帯だもん、私の自由だよ〜」

「もう……。じゃあ私はそのっちを待ち受けにするわよ」

「わぁ〜! 私でいいの〜?」

「そこは恥ずかしがらないの⁉︎」

「まぁ園子だしな……」

 

ズッコケる須美と、苦笑いを浮かべる銀。因みに銀の待ち受け画像が、弟達なのか巧なのかで問い詰められた際、目線が泳いだ先で転んで怪我をした子供の介抱に走って逃げたりと一悶着あったが、ここでは深く語らない事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、3人の武神も神社に向かって階段を下っていた。因みに3人の格好は、須美達と違って浴衣姿ではなく、普段着である。晴人は辺りを見渡しながら、下界に広がる、出店や人の群れに興奮している。

 

「結構人が来てるんだなー!」

「旧世紀は神樹様がおられなかった事もあって、それほどお祭りが賑わっていなかったらしいですけど、これも時代の移り変わりが物語ってますよね」

「これだけ人がいると、銀のトラブル体質が厄介だな。少し警戒しておくか」

 

巧がやれやれといった口調でそう呟く。ふと、晴人が思い出したように巧の顔……正確には両目にかけているサングラスに注目する。

 

「そういえば巧。そのグラサン、こないだもつけてたけど、いつ買ったんだ?」

「イネスに寄る前に、銀に買ってもらったものだ。これがあれば、人目を気にしなくても良いと言われてな」

「銀ちゃんが、ですか。いいプレゼントですね!」

「せっかく貰ったもんだから、大切にしろよ! 特に銀から貰ったやつはな」

「言われなくてもそうするさ」

 

よほど気に入ったのか、今後も人が多い場所では常時身につける様子だ。

しばらくして、ようやく神社の本殿に到着し、須美ら3人の姿が確認できた。

 

「おーい須美!」

「! 晴人君!」

「お待たせしました」

「これでみんな揃ったね〜! 楽しむよ〜!」

「……ん? 銀、お前随分と疲れてる……というより顔が赤いが大丈夫なのか? まさか熱でも」

「い、いや大丈夫だ! うん、心配ないから!」

「……? そうか。ヤバくなったら言えよ。家まで送ってやる」

「な、なるべくそうならないように頑張る……」

 

銀が汗だくになって息を若干荒げている事に疑問を感じつつも、6人は祭りを堪能すべく、人集りの中を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶら下がっている提灯が放つ淡い光や、辺りに立ち込める食べ物の匂い、そして耳心地の良い祭り囃子。文字通りのお祭りムードに、6人の少年少女は重いお役目に任された勇者、武神から、普通の子供に戻っていた。

 

「綿あめにチョコバナナとか、もう定番すぎて珍しくないよね!」

「その割には満喫してるみたいだけど?」

「定番でも、お祭りで食べると美味しいんだよね!」

「そんなものかしら?」

「そんなもんだよ! 常連のあたしが保証するさ!」

「銀ちゃんは、毎年このお祭りに参加を?」

「ロチモンよ! 今までは鉄男とかクラスのみんなと歩いてたけど、今年は巧達と一緒が良いんだ」

 

得意げにそう話す銀。大赦絡みという事もあり、園子と昴は毎年とまではいかないが、何度かはこの祭りに行った事があるそうだ。逆に未経験だったのは、変な所で頑固さがある須美と、元々興味がなかった巧の2人だ。一方でこの男はというと……。

 

「前住んでた街でもお祭りやってたし、向こうの友達と遊びには行ってたよ。でもここまで賑やかじゃなかったから、スゲェ今が楽しいんだ!」

 

晴人は祭りの規模の大きさに目を奪われていた。

そうして銀の先導でしばらく進むと、園子の鼻に強烈な反応が。

 

「! イケてる香り! この先からだ!」

「園子ちゃん?」

「お、さすが園子。これの匂いの先が分かるみたいだな! この先に、園子の大好物が待ってるぞ!」

 

何度も経験済みという事で場所が分かっているのか、銀に案内されてやって来たのは焼き鳥屋。大好物が芳ばしく焼き上げられている様子を見て、園子は即決した。

 

「大将! 6本ください!」

「ちょ、ちょっと待って。私はそんなに食べられないわ」

「俺もだな。そろそろ胃が満腹に……」

 

胃が半分摘出されている晴人が、お腹をさすりながら須美に同意する。巧と昴も、もう十分だと言いたげな表情をしているので、結果的に銀が1本だけ頂戴して、後の5本は全て園子が平らげる事に。

 

「ワォ! 美味しい! 何だこりゃ〜!」

「凄い食欲ね……」

「そういえば、この中で一番所持金が多いのは園子だったな」

 

豪快な食べっぷりに、須美と巧は呆れる。数秒後には全ての肉を胃袋に収めた園子が、よほど気に入ったのか、こんな注文をする。

 

「大将! この店ごと買いたいです!お金はここにたんまりと……!」

「いやいやそれはなしだろ⁉︎」

「ちょ、ちょっと園子ちゃん⁉︎」

「早くここから連れ出すぞ!」

 

これには晴人も含め5人は慌てた様子で、園子を屋台から引き離した。そこから彼女を落ち着かせるのに30分も費やす結果となった。園子なら本気でやりかねない、と銀は考え込む。

屋台の買収を諦めた園子が次に向かったのは、射的の屋台だった。コルク銃を使って、欲しい景品に当てて後ろに向かって落ちると、その景品をゲットできる、というシンプルなゲームだ。

園子が狙いに定めたのは、他の景品と比べても一段と重そうな、一等の、ニワトリのぬいぐるみだった。箱に入った景品と違って柔らかい素材の為、当然難易度も高い。否、それ以前に園子が引き金を引いて放ったコルクの弾丸は、ぬいぐるみから少しだけ外れていた。

 

「ムムム……」

「さすがの園子もこれは苦戦か」

「あたしは割と苦手なんだよね。こういう精密さが問われるやつ」

「俺もだな」

 

などと後方で5人が呟いている間も、園子の放った弾丸は景品を大きく外れ、遂には弾がなくなってしまった。

 

「こんのぉ〜。ちょこざいなぁ〜!」

 

そう言って園子は懐に隠してあった巾着袋から、何枚ものお札を取り出し、店主に渡した。晴人達は驚きを隠せない。

 

「ゲッ⁉︎ まだ持ってたのか⁉︎」

「金にものを言わせるとは、正にこの事か……」

「やっぱ金持ちは色々と驚かされるぜ……」

「だ、大丈夫なのかな?」

 

多額と引き換えに弾を補充した園子は、再び射的を開始。ようやく的に命中するようになった弾丸だが、数が多ければ仕留められるとは限らない。

その結果……。

 

「なんてこったい〜……」

「あんだけ撃って、弾はあと1発……」

「酷いなこれは」

「もうお小遣いも、ないものね」

 

どう声をかけてあげれば良いのか、思いつく間も無く、涙目の園子が昴にすり寄った。

 

「すばるんお願い〜! 私の代わりにあのジャスミンを助けてあげて〜!」

「もう景品に名前つけたのかよ⁉︎」

「そ、そう言われても……。助けてあげたいのは山々だけど、片手でやれる自信が無くて……」

 

助けを求められても困惑する昴。と、ここで動きを見せたのは須美だった。

 

「なら私が手伝ってあげる」

「わっしー?」

「落ち着いて、呼吸を正して」

「う、うん」

 

須美が園子の隣に立ち、サポートに徹する。実際に引き金を引くのは園子のようだ。

 

「ライフルの癖は見てたわ。調整は任せて。吸気、そして呼気。照準集中」

「集中……!」

 

お役目の時と、同じオーラだ。後方で成り行きを見守っている晴人達は、思わず息を潜める。

 

「力を入れず、指を絞るように……今!」

 

須美の合図と共に、園子が引き金を引き、コルクの弾丸は真っ直ぐと、ぬいぐるみに着弾。初めて後方に仰け反る。

 

「後は気合いよそのっち!」

「きーあーいー!」

「ほら、銀もみんなも!」

「えっ⁉︎」

「早く!」

「「「「りょ、了解!」」」」

 

須美に異様な圧をかけられて、後方にいた4人も合わせて、一同は右手(昴は左手)を突き出し、景品が落ちるようにと念じる。

すると、その気合いが応えたのか、ぬいぐるみはゆっくりと背中から転げ落ちていき、景品ゲットの条件を満たした事を実感させた。

 

「や、やったー!」

「落ちたぞ!」

「スゲェ! マジでやりやがった!」

「気合いが入るだけでこんなにも変わるなんて……!」

「さすが現役」

 

巧が最後にそう評価する。店主もこの展開に驚きを隠せない様子だ。

 

「な、なんてこった……! こんなのコルク弾で落ちるわけないのに……」

「おーいなんか怪しげな発言が聞こえた気がするんですがー」

 

思わず本音が洩れてしまった店主に対し、晴人がジト目を向ける。慌てて店主が大人の顔に戻り、ぬいぐるみを園子に差し出す。

 

「はいよ、持ってけよお嬢ちゃん」

「わ〜い! わっしーありがとー!」

「得意分野だからね。でも引き金を引いたのはあなたよ。それはあなたの物」

「うひょ〜! やったぜフゥ〜!」

「今日イチのテンションだな」

「良かったね園子ちゃん」

「うん! ……あ」

「? どうした園子?」

 

ぬいぐるみを掲げてはしゃいでいた園子が、不意に何かを発見して落ち着いたのを見て、銀が首を傾げる。

そして園子は、景品台に置かれていた、ある景品を指差してこう告げる。

 

「おじさん! あそこにある6つとこれ、交換して!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も更けて、賑わいがピークに達した頃、神社のある場所から少し高台に登ったところにある、小高い広場に晴人達は到着した。

彼らが屋台から離れてこの場所にやってきた理由は単純明快である。

 

「ここからなら、1番よく花火が観れるわ」

「まさに穴場ですね」

「下調べバッチリだね〜」

「過去のブログから特定したの」

「そういうの、須美って得意だよな」

「あたしなんて、広いところだったらどこでも良いって感覚しかなかったからさ。こういう時に須美に助けられて良かったよ」

「おっ、始まるぞ」

 

巧がそう呟くと同時に、ヒュルルルルルと音が鳴り、数秒後には、空高くに広がる黒いキャンパスに色鮮やかな大輪の花が咲き誇った。

周りから歓声が上がる中、晴人達もしばらく黙ったまま、夜空が様々な色に染まっていく様子を眺めていた。

 

「ありがとうそのっち」

「?」

「これ、みんなにくれて」

 

しばらくして、須美が園子から手渡された、ネコ型のキーホルダーを見せた。青いマフラーが首に巻かれ、須美のイメージカラーを象徴していた。須美に続いて晴人も緑色の、銀と巧は赤、昴はオレンジ、そして園子は紫の、それぞれ色違いのキーホルダーを取り出し、互いに見せ合う。どれも、先ほど園子がニワトリのぬいぐるみと交換する形で手に入れた景品だ。

 

「でも、こんなんで良かったのか? せっかく名前までつけたお気に入りをやめて、こんな安そうなもので」

 

銀が園子にそう尋ねる。対して彼女はニッコリと微笑む。

 

「みんなで力を合わせてゲットしたんだもん。こっちの方が思い出に残るかな〜って。人数分あったから、ピッカーンとこれが良いって思ったの」

「そのっちがそれでいいなら」

 

須美達も納得した表情を浮かべる。次々と花火が打ち上げられていく中、今度は園子から話を切り出した。

 

「私からも、ありがとうね。選ばれた勇者が、すばるんやわっしー、ミノさん、たっくん、それにイッチーで良かった。ほら、私って変な子じゃない? だから、子供の頃から一緒にいたすばるん以外、なかなか友達が作れなくて〜……」

「……そのっちは変じゃないわよ。素敵だよ」

「そうだな」

「ありがとう〜。この6人とじゃなかったら、こんなにも頑張れなかったかも〜」

「銀はフォワード型だし、晴人君は、隊長でもあり先陣を切るリーダーシップがあるわ。巧君はそんな2人のフォローで、昴君は護衛。私の場合も後方型だけど、どうしても融通が利かないから……。そのっちが隊長で、私は良かったわ」

「……うん!」

 

目をウルウルさせながら、園子は感謝の言葉を述べた。続いて昴が口を開く。

 

「僕も、皆さんと会えて、本当に良かったです。料理でみんなを笑顔にする。僕の夢を見出せたキッカケは、皆さんあっての事ですから。早く左利きにも慣れるようにして、また美味しいご飯を作ってみせますよ」

「おう! 昴の手料理待ってるぜ!」

 

晴人が昴の背中を叩いて激励する。

 

「あたしも、みんなとダチになれて、凄く感謝してる。あたしはみんなと違って後先考えずに突っ込んで、パワーでゴリ押しするぐらいしか能がなかったからさ。バックスや、隣にいてくれる人がいる事がどれだけ心強いか、このお役目の中でよく分かったよ。これからも迷惑かけるかもしんないけど、この三ノ輪 銀様に安心して背中を預けられるぐらいには頑張るからな!」

「それを言ったら、俺も銀やお前達の存在がどれだけ大きい事か……。親を含めて、誰も信用できなかった俺が、人を頼るまでに変えられたのも、お前らあっての事だ。大切な人ができるのは、こんなにも気分が良いだなんて、あの頃は考えた事もなかった」

 

銀と巧も口々にそう告げる。巧はサングラス越しに美しく輝く花火に見とれている。二度と開く事のない左目にも、しっかりとその光景が焼き付いている。

そして最後に、晴人が心中を吐露する。

 

「6年生になって、お役目に選ばれて、この街に来て、新しい友達が出来て、訓練も遊びも、色んな思い出がずっと体全体に残ってる。それってここでの毎日が充実してるって証拠だと思うんだ! だから……! 俺、須美に園子、銀、巧、昴とさ、友達になれて。勇者になって、本当に良かったぜ」

「私もよ、晴人君」

 

すると、須美が晴人の右手にそっと触れて絡める。同じように、銀と巧が、昴と園子が手を繋いだ。そして自然と6人が寄り添い、須美が口を開く。

 

「友達だよ、私達6人は。これから先、何があっても、ずっと」

「……あぁ、そうだな!」

 

晴人は力強く頷く。それは、より一層6人による、鉄よりも強固な団結を誓う表れでもあった。

その間にも、花火は次々と天高く打ち上げられては消えていく。

 

「まだしばらく続きそうね」

「でも良かったね。お役目なさそうで〜」

「今回もまた空気読まずに来たら、さすがにあたしもプッツンなるな」

「それに関しては、俺も同意見だ」

「言えてるな」

「その心配もなさそうですし、終わるまで目一杯楽しみましょうね。たーまやー!」

「あ、私それ知ってる! かーぎやー!」

 

昴と園子の音頭に合わせて、晴人達も笑いながらそれに続く。そして同時に、晴人は願う。

 

「(来年もまた、みんなで一緒にこの花火を見たいなぁ……)」

 

花火は、存分に夏の夜空を彩っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

大赦が所有する施設の一角にある部屋の中で、比較的ラフな格好をした源道がソファーに座り、腕を組みながら1人の男の入室を待っていた。外では花火の音が鳴り響いている。晴人君達も今頃花火に酔いしれているだろう、と表情を緩めながら考え込む。

が、その直後、部屋の扉をノックする音が響き、源道は表情を引き締める。

 

「蒲生だ。入るぞ」

「あぁ」

 

扉の向こうの相手が分かり、僅かに肩の力を抜いて、入室を許可する。開けられた扉から入ってきたのは、源道と比べても細身ではあるが、対等に渡り合えるほどのオーラが伺える、裃姿の男性だった。先ずは、2人とも握手を交わし、席に着く。

 

「わざわざ済まなかったな。その格好をしているという事は、仕事の途中だったか?」

「まぁな。でもこれくらいどうという事はない。源道は勇者や武神のサポート。俺は大赦そのもののサポート。面には出ない分、バックスで汗をかくのは当然だろ? それに俺達はそういった垣根を超えて、長い付き合いという事もあるからな」

「……フッ。そうだな。俺達が大赦に勤めるずっと前から、友としてここまで二人三脚でやってきたのだからな」

 

2人は当時を懐かしむように、雑談から始まった。が、それも程なくして空気が一変する。

 

「……それで、今日はお前の方から話があると聞いているが。新システムについてか?」

「察しが良くて助かる。その通りだ。昨日、勇者並びに武神の新システムに関する情報が確立した。デリケート且つ高度な調整が必要という事もあり、9月半ば頃になりそうだ。何せ、負傷者が出たからな。精密な強化が必要とされていて、開発部も寝る暇も惜しんで働いているらしい」

「まるでブラック企業だな。いくらこの世界の為とはいえ」

「仕方ないさ。それぐらいあの事態が重かったという事だからな」

 

なんともやるせない気持ちで唸る源道。続いて蒲生が手に持っていたケースから、数々の資料を取り出して、源道に見せる準備を始める。その際、部屋の外から聞こえてくる花火の音が気になり、こんな質問をする。

 

「そういえば、今日は大赦が管理下に置く神社が主催する祭りがあったな。……彼らもそっちに?」

「あぁ。俺達の判断で休暇を与えた。前にも大赦で会議があった時も休暇を与えた事がある。あの時は晴人君、巧君、昴君が深い傷を負って互いにメンタルダメージが大きかった事もあったからな。もっとも今日見た限りは、ある程度回復していたようだから、大丈夫だとは思うが。彼らの精神力には驚かされてばかりだ」

「……そうか」

 

6人の事が話題になり、蒲生の表情が暗くなる。その事に嫌な予感を覚えつつ、源道は資料を受け取った。

 

「これが、大赦が採用する新システムの資料か」

「本格的に公表される完成版はもう少し先になるが、多少語弊が変わるだけで、内容そのものはほぼ間違いない。本来ならお前や安芸さんにこの資料が渡るのはもう少し先になるわけだが、特別に先行公開しておこうと俺が独断で決めた」

「何だと……? それじゃあ、何のために今この資料を……」

 

何れは自分の手元に置かれる資料を、わざわざ見せるために自分を呼んだ事に疑問を抱く源道。

 

「内容が内容だけに、な……。2人には見せておいた方がいいかもしれないと思った。それだけだ」

 

蒲生の言葉に訝しみつつ、資料に目を通す源道。

刹那、カッと目を見開く源道。ちょうど資料が後半に差し掛かる部分だ。蒲生はその反応がさも分かっていたように、何も言わずに目を閉じる。

全て読み終えた頃には、源道の手は震え、思わず資料を強く握り締めてクシャクシャになっていた。

 

「こんなものを……! 大赦は本当に容認したのか……⁉︎ この資料に不備があるわけではないのか……⁉︎」

「お前相手に冗談が通じない事ぐらい、俺が1番よく知ってるのはお前も承知しているはずだろ? ここに書かれているのは紛れも無い事実。大赦曰く、『これ以上勇者や武神に損失を出さない』為の新システムだそうだ」

「……!」

 

より一層険しい表情を浮かべる源道は、握られている資料を睨みつける。

 

「だから言っただろ? お前や安芸さんに、先に見せておきたい、と。お前ならその顔になる事は読めていた」

「……誰も、この意見に反対はしなかったのか。お前も……!」

「もちろん、俺もお前と同じ結論だ。他にも同じように反対した者はいた。だが見ての通りだ。結局は多数派の一点張りで、この案が可決された。反対派の意見など、これっぽっちも聞いてはくれなかったらしい」

「クッ……!」

「言っておくが、お前が出向いて強行的に反対意見を出しても無理だ。大赦の上層部の図々しさはお前もよく知ってるだろうし、何より先日の一件もある。『お役目の最中に、自分達の教え子でもある武神を負傷させた』として、必ずお前にとって不利な点を突き出してくるはずだ。そうなるとお前の立場が危うくなるだけでなく、周りの人間にも被害が及ぶ。お前だけが背負えば済む話では到底なくなる」

 

活路を絶たれ、唇を噛みしめる源道。そんな彼を慰めるかのように、蒲生はため息混じりに呟く。

 

「俺の方も、改善策が見つかるように、隠れながら交渉はしてみるつもりだが、あまり過度な期待はするなよ。いくら発言権で上の立場にいるからといって、覆せないものだって出てくる」

「……分かった。色々と苦労をかけるかもしれないが、いち早く知らせてくれた事には感謝する」

 

しかし……、と源道は拳を握りしめ、体を震わせる。

 

「彼らは、大赦がひた隠しにしているあの事実を知る事なく、純粋にお役目を果たしている。それに引き換え、大の大人がこの有様とは……。……情けない!」

 

蒲生も同じ心情らしく、何も言い返さない。ただ、やるせなさに項垂れる大人達の姿が、そこにあった。

そして数時間後には、安芸にも蒲生が盗み取ってきた資料のデータが送信され、大赦が運転する車の中で唖然とする事に。こんなものが実装されたら、子供達にどれほどの苦しみを背負わせる事になるのか。安芸は胸が締め付けられる感覚に苛まれ、生きた心地がしない。

 

「(武器や技の強化は、いくらでも出来る。……だけど、心の強さには限界があるわ! あの子達を、もうこれ以上……!)」

 

だが、これといった打開策が思いつくわけでもなく、2人の教師は、ただ時間だけが過ぎていく事に、悔しさを滲ませる。

神世紀298年。暦は遂に、決戦の秋へ……。

 

 

 




次回は新システムの登場です。

最後まで勇者や武神が描く結末に注目しつつ、応援よろしくお願いいたします。


〜次回予告〜


「これが、新装備?」

「可愛いね〜!」

「好待遇、か」

「はろえん……?」

「これは……」

「ますます気合いが入ったぜ!」


〜新システム搭載 仲間のエール〜


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