結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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今週までには『平成ライダージェネレーションズFINAL』観に行かねば(使命感)


そして勇者の章の3話……。

今年の冬こそ楽しく越せれるか、逆に自分の身が心配になった……(去年は『魔法少女育成計画』のせいで心身ズタボロ)




16:日常 〜着せ替えとオリエンテーションとラブレター騒動〜

「「もういいかーい」」

「もーいーよー」

 

晴人と昴が送った合図に、園子が返事をしたのを確認した、巧を含めた武神一同は、大赦の中でも高い地位に相応しい、綺麗な襖をそっと横に引く。中には勇者一同が姿見の前で集まっている光景が。

園子に手招きされて、一同は須美達の隣に立つ。そこに映っていた銀の姿を見て、3人は思わず鏡と実体を交互に見比べる。それを見て、銀が一言。

 

「こ、この服は……。や、やっぱ、あたしには、似合わないんじゃ、ないかな……。巧や、みんなだって、そう、思うだろ……?」

 

そう呟く、普段の彼女からは想像もつかないほどに羞恥心に満ち溢れる銀の格好は、ヒラヒラなびく洋服に、リボンのついた花飾りをつけた、如何にも乙女らしい容姿に変貌していた。普段は私服といっても動きやすい短パン系のものしか身につけない為、ヒラヒラした服を着た銀はレア物であったが、予想に反して可憐さがそこにあった。

 

「そんな事ないよ〜。ね〜、わっしー……」

 

園子が銀の方に手を乗せて似合うと呟き、須美にも尋ねてみる。一方で、名前を呼ばれた少女はというと……。

 

「ブハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」

「わ〜、そんな出し方する人初めて見た〜」

「言ってる場合かぁ⁉︎ 止血しろ止血!」

「す、昴!」

「はぃぃぃぃぃぃ!」

 

顔を天井に向け、噴水の如く鼻から血を噴き出す須美は、狂ったように手に所持していたスマホで連写しており、これを見た武神一同は、『友人の可愛い姿を見て出血多量死』という最悪の結末を回避するべく、昴が持ち歩いていたティッシュを使い、応急処置を始めた。

ある程度落ち着きを取り戻した(?)須美が、ティッシュの上から鼻を抑えつつ、再びシャッターを切る事に集中する。

 

「だ、大丈夫か?」

「え、えぇ……。それよりも、とても似合ってるわよ銀! で、でもこみ上げてくるこの気持ちは何かしら……!」

 

あまりにも普段からは想像もつかないほどに、俊敏に動き回りながらシャッターを切る友人を見て、銀はどうしたら良いか分からずタジタジしている。否、それは武神達も同様か。

 

「なんだか今のわっしーって、プロみたいで素敵〜!」

「相当ヤバめな性癖を持つって意味ではな」

 

巧はやれやれといった表情でそうボヤく。

 

「写真は愛よ! 希望よりも熱く、絶望よりも深い!」

「何故そこで愛⁉︎ 大体どこでそんな言葉を覚えてきたんだよ」

「あぁ銀! 今日はとことん見目良い服に挑戦よ!」

「ゲェ⁉︎ た、巧も何とか言ってやってよ! これ以上は……」

 

頼れる男に助け舟を求める銀。返ってきた返事はというと……。

 

「……まぁ、お前なら何着ても似合いそうだし、物は試しだ。続けろ」

「……」

 

最後の糸がプッツンと切れた音が、心の中で響いた。

そして銀は誰一人味方のいないまま、次々と須美、園子が主体となって着せ替え人形の如く、様々な服装へと着替えさせられた。ある時はカジュアルな服、またある時はパーティー仕様の薄いドレス、そしてまたある時は赤髪のカツラをつけて、ギャル感覚丸出しの格好へ……。

 

「おぉ」

「こ、これはこれで……」

「いや無しだろ⁉︎」

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!」

 

シャウトする銀を尻目に、ますますテンションがハイになる須美。

そんなこんなで撮影会が一区切りついた頃には、銀はすっかりむくれて部屋の片隅に座り込み、そんな彼女の側に肩をすくめて寄り添う巧。そして部屋の中央に仰向けになって倒れ込み、火照った体を冷やすように、晴人と昴によって両サイドから団扇を仰いでもらい、達成感ある表情を浮かべている須美が一言。

 

「……良かったわ」

「何がだよ⁉︎」

「怒るな。もう一通り終わったんだから」

「アゥゥ……」

 

巧に頭を撫でられ、違う意味で体が火照り始める銀。すると、自室のタンスを物色していた園子が、声をかけてきた。

 

「じゃあ次は、わっしーの番だね」

「……え⁉︎」

「そりゃ順番的にそうなるわな」

 

ハッとなって上半身を起こす須美。最初に目に飛び込んできたのは、見るからにパーティーの主役を飾れそうな、白をベースとした、鮮やかな飾り付けを施したドレスを見せる園子だった。

 

「このお洋服とか、似合うと思うよ〜」

「だ、ダメよ⁉︎ そんな、非国民な格好は……!」

「いや〜、似合うと思うなぁ!」

「復活早いな」

 

須美の着せ替えが始まると悟った途端、銀の表情が一変し、立ち上がって園子に賛同の意を示す。ニヤニヤしている2人を見て、このままではマズいと察した須美が晴人に助け舟を求める。

 

「は、晴人君! こ、今度勉強で分からない所があったら教えてあげるから、わ、私にあの服を着させないようにあなたからも説得を……!」

「え〜? イイじゃん須美のドレスとか。見てみたいし!」

「……」

 

足元が崩れていくような音が、心の中で響いた。

放心状態の須美は、隙だらけだった。

 

「そぉれ着せちゃえ! つーわけで巧達は出てったでてった!」

「! ちょ、ちょっとダメェ〜⁉︎」

 

必死に腕を晴人達に向かって伸ばす須美だが、銀に追い立てられるように、もう何度めとなるか分からない程にまた縁側に追い出され、須美の逃げ場はなくなってしまった。

須美の着替えが完了するまで、3人は暇つぶしにと、座りながら会話を弾ませる。

 

「にしても……。何でこうなった?」

「園子に誘われて、須美の着せ替えのはずが銀に変更になった……んだっけ?」

「ジャンケンで負けた方が着る事になって、それで銀ちゃんが、って事になったはずですけど、結果的に関係なかったですね」

「それな」

 

梅雨も明け、程よい天候となった空を見上げながら、男達は語り合う。

そもそも、晴人も特に予定を入れておらず、園子から急にお誘いを受けて、何をして遊ぶのかも聞かされないまま、乃木家に足を踏み入れた。晴人、銀、巧は自分の足で乃木家に着き、須美と昴は乃木家が手配した車で迎えに来てもらう形でやってきた。しばらく待っていると、アニメでしか見た方がない、如何にも大金持ちが持っていそうな長い車が敷地内に入ってきて、中からグラサンをかけたハイテンションの園子、須美、そして早くも徒労しているようにも見える昴が降りてきた。須美によれば、『休日なのは分かるが車も格好もハイカラすぎて不安になるぐらいのテンションで園子が迎えに来た』との事。

そのまま園子の発案でフリフリの衣装を須美に着させようとしたが、須美が前もって準備していたであろうカウンター、即ち銀にその服を着させる事を提案。園子も便乗し、他の3人も止める事なく、銀は須美とジャンケンし、結果として須美にペースを乱された銀がフリフリの服を着る事となり、現在に至る。

 

「……まぁ、銀もそれなりに似合ってたし、悪い気はしない、な」

「それもそうだな。……にしてもさ、巧」

「? 何だ」

「いや、巧も丸くなったな、って。前はどっちかっていうとツンケンしてた感じだけど、今日とか素直に来てたじゃん」

「1番乗りだったって聞いてますよ」

「つまりはみんなと遊べるのが嬉しかったと」

「っさい。それより、中が随分と静かになったな」

 

恥ずかしさのあまりそっぽを向きながら、巧が室内を気にし始める。そう言われてみれば、と思った昴が声をかけると、園子の返事が返ってきて、3人は再び室内へ。

中に入った3人は思わず感嘆の息が溢れ出た。鏡の前に立ち尽くす須美は、ドレスに身を包み、元から体系的に大人に近い須美の美貌を更に引き立たせている。その容姿はお姫様というよりかはアイドルに近いものを感じさせる。3人の男子、特に晴人に見られていると思うと恥ずかしいのか、それとも自分の姿に自信が持てないのか、顔を赤くして身をよじらせている。

 

「おぉ! イイじゃん須美! アイドルにだってなれるぞ!」

「わたし、ファン1号になるよ〜!」

「とても似合ってますよ、須美ちゃん」

「まぁ、そうだな」

「(……やっぱすげぇな、須美って)」

 

晴人は思わず見惚れるほど、須美の容姿を食い入るように見つめている。

 

「や……。は、晴人君、あまり見ないで……。は、恥ずかしい……」

「……あ、いや」

「ほらイッチー! 並んで手を組んで!」

「え?」

 

園子に手を引かれ、晴人はドレス姿の須美の隣に立つ。手を組むところまでは須美が拒んでしまったので実現出来なかったが、段々と良い雰囲気がそこに生まれた。

 

「うんうん! ベストマッチ〜!」

「そ、そうかしら……? は、晴人君、私の格好……、変、じゃないかしら?」

「い、いや、そうでもないぞ。……うん、可愛いし似合ってる」

 

須美につられて晴人も顔を赤くしている。改めて須美が鏡に映る自分自身を見つめる。心臓がバクバクする中、こうしてみると、晴人の言う通りサマになっているようにも見える。もしこのまま、さっきまで拒んでしまっていた、晴人と手を繋いで見た時、それは自分が想像した以上に完成度の高い一枚が撮れるのではなかろうか……。

 

「! だ、ダメよ! こんな非国民な格好……! (大和撫子である私とした事が……!)」

 

不意に我に返り、心を冷やす須美。後ですぐに脱ごうと決意する須美。

各々が満足したところで、これで着せ替えタイム終了……かと思われていたが、何故か園子はタンスの中をいそいそと探っている。まだ何か着せるものでもあるのだろうか。園子自身が着るのかとも考えたが、自前の物をわざわざ自分で着て皆に見せるのもおかしな話だ。……園子の事だからその可能性もゼロとは言えないが。

 

「園子? 何してるんだ?」

「次はね〜。これとこれと、これ! 今度はいっぺんに見てみたいな〜」

「……おっ! いいなそれ! ファッションショーみたいで面白そうだし、多分似合うな!」

「……あら? もしかして」

 

晴人ら武神組が首を傾げる中、須美が何かを察したのか、顎に手を当てて不敵な笑みを浮かべる。須美がこういった表情をする時は、大抵ろくな事ではないはず。

 

「あれ? ものすんごく嫌な予感が……」

「次はもちろん、すばるん達の番だよ〜。今度は3人揃って可愛い服に挑戦だよ〜」

「もちろん、じゃねぇよ! マジで言ってんのかお前ら⁉︎ 園子の手に握られてるやつって明らかにスカートの類にしか見えないんですけど⁉︎」

「似合う似合わない以前の問題ですよ⁉︎」

「いやいや着てみないと分からないぞ」

「(銀の目つきに邪悪な気を感じる……! いや、それは須美も同じか) ま、待て。話せば分かる。冷静になれ」

「あら? 私達はいたって冷静よ。さぁ、せっかくそのっちの家に遊びに来たんだから、写真だけ撮って帰るのは癪に触るでしょう?」

 

明らかに誘っているような目つきでジリジリと迫り来る須美。たまらず晴人が我先に逃げ出そうと、襖に手をかけるが……。

 

「な、何で⁉︎ さっきまで普通に開いたのに⁉︎」

「「⁉︎」」

 

巧と昴は動揺して共に手をかける。が、結果は同じだった。前もって園子の指示で、乃木家の使用人達によって外から3人が逃げ出さないように襖を押さえつけられているともつゆ知らず、3人は必死に襖に手をかける。諦めて別の出入り口から逃走を試みるも、室内に繋がる襖はどれも高級そうで、下手に乱暴に手をかければ破れる危険性もある。かと思えばすでに3人が行く手を塞いでおり、ほぼ出来レースに近い状態に。

 

「た、頼む! 勉強で分からない所があったら教えてくれるんだろ⁉︎ それもういいから、見逃してく」

「私としては、晴人君の普段見られない女装に興味があるわ。もちろん巧君と昴君の分もね。そのっちも銀もそうでしょ?」

「……」

 

ガラスが砕け散る音が、心の中に響いた。

そして半ば強引に着ていた服を脱がされ、抵抗虚しく園子が持っていた服を須美と銀の手で着させられた結果……。

 

「アゥゥ……。こんなの、あんまりだよ……」

 

全体的に丸っこい容姿が縮こまった昴は、小学生の女子にもまだ早すぎるであろう、セーラー服を。

 

「……」

 

先ほどの銀を遥かに上回るほどにむくれた様子の巧は、腰に手を当てながら、際どいロングスカートが特徴的なメイド服を。

 

「これが黒歴史ってやつか……」

 

そして姿見の前で放心状態の晴人は、胸元がはだけている、レッドワイン色の薄手のドレスを。

興奮が冷めそうにない3人の少女を止める術は、男としてのプライドを引き裂かれた3人の少年になかった。

因みに、今回の着せ替えで使った服は園子からのプレゼントという形で5人の所に贈られたが、速攻で自室の奥の方に、誰にも見られないように厳重保管した。(須美にいたっては封印のお札をいたるところに貼ったそうだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休養期間とはいえ、晴人達の日常に休暇が来るまでは、まだ少し先が長い。新学期からすでに3ヶ月が経ち、転入して2ヶ月ほど経つ晴人もようやく学校に馴染んできたであろうタイミングで、ホームルームにて担任である安芸の口から、こんな事が伝えられた。

 

「もうすぐ、一年生とのオリエンテーションです。6年生としての自覚をもって、しっかり後輩の面倒を見る事!」

 

つまりは、そろそろ新しい環境に慣れてきた一年生に、更に学校を好きになってもらおうという事で、最上級生である晴人ら6年生を筆頭に、子供同士で交流を深めるイベントがまもなく開催される、という事だ。これを聞いて晴人は早速、他の5人に召集をかけた。

 

「んでさ。結局のところ、オリエンテーションって何するのさ?」

「一年生と一緒に、楽しく遊ぼうって事さ」

「まぁ、6年生ともなればそういった下級生との交流の機会も少なくなりますし、いいタイミングだと思いますね」

「でもそうなると、銀主体でも良いかもな。弟2人いるんだし。まぁそれでいけば巧もアリか。世話した事あるんだろ?」

「まぁ……。今も時々家に行って遊び相手にはしている」

「そうそう。助かるよ巧」

 

などと会話を弾ませていると、それまで黙っていた須美が唐突に口を開く。

 

「相手は至極真っ白な一年生……」

「ん? どした須美?」

「私達勇者のお役目は、この国を守る事よ」

「そうだけど……。それがどうかしたのか?」

「つまりは、将来を見越して愛国心の強い子供達を育成する事も、任務の一環と言えるわ!」

「言えるか?」(by銀)

「言えるの?」(by晴人)

「言えるんでしょうか?」(by昴)

「言えるわけないだろ」(by巧)

 

などと言い合っている中、園子だけはマイペースに準備を進めようとする。

 

「なんだか楽しそうだね〜。じゃあ、計画を立てようよ。……あれあれ?」

「? どうかしましたか?」

 

園子が机の中から紙とペンを取り出そうとした時、変わった感触のものが中に入っている事に気付き、取り出してみる事に。その手に握られていたのは封筒だった。その薄さから推測するに、中には物ではなく手紙が入っているようだ。

 

「中にお手紙が入ってたよ〜」

 

これを聞いた面々は、思わず立ち上がって喚き始めた。

 

「果たし状か⁉︎」

「マジかよ⁉︎ 勇者相手に喧嘩売るとか⁉︎ ひょっとして、バーテックスからの挑戦状だったりして!」

「ま、まさかそんなはずは……。でもウイルスとはいえ知的生命体であるのは間違いありませんし、新種のバーテックスの仕業とも考えられそうですが……」

「気をつけて! 不幸の手紙かもしれないわ! 西暦時代に一時流行したと言われる……」

「中を見てみないと分からないな。とりあえず開けて読んでみろ」

「は〜い。えぇっと……。『最近気がつけば、貴女を見ています』」

 

早速読み始める園子。始まりの言葉を耳にして、更にパニック状態に。

 

「やっぱり決闘か! 場所はどこだ⁉︎」

「大橋だ! 大橋に決まってらぁ! すぐに向かうぞ!」

「ま、待ってください! まだ決まったわけじゃありませんよ⁉︎ それに樹海化も始まってませんし!」

「呪いよ! 清めの塩が必要だわ……! すぐに調達を!」

「とりあえず落ち着け。……園子、続きを」

「うん。『私は、貴女と仲良くなりたいと思います』」

「「……え⁉︎」」

「むっ?」

「仲良くなりたい……? 戦うんじゃなくて?」

「ただ呪うよりも恐ろしい文章ね……!」

 

須美がどこからか取り出したお札を手に持って震え上がる中、それ以外の4人の口から疑問の声が上がる。異変に気付いた銀と昴の場合は顔が若干赤くなっている。

 

「『お役目で大変だと思いますが、だからこそ支えになりたいです』、だって」

 

全て読み終えた園子には目もくれず、晴人達は顔を見合わせる。晴人と巧もようやく事の重大さに気づいたようだ。

 

「な、なぁみんな。これってひょっとしなくても……」

「みたいだな」

「アワワ……⁉︎」

「も、ももももしやこれって……。あ、あれじゃないか須美⁉︎ 初めに、『ラ』が付く」

「羅漢像⁉︎」

「どう連想したらそこに行き着くんだよ⁉︎ つーか羅漢像って何?」

 

もっともな事を喚く晴人。

 

「これはもう、ラブレター以外の何もんでもないだろ⁉︎」

「ら、ラブ、レター……?」

「鈍いにも程があるだろ須美……」

「お、おい昴。須美に分かりやすく言おうと思ったらどう例えりゃいいんだ⁉︎」

「す、須美ちゃん風に言うなら……。そう! 恋文ですよ!」

「あぁ、ラブレターってそういう……」

 

……。

…………。

………………。

 

「ラ⁉︎ ラブラブラブラブラブラブラブラブ⁉︎」

「やっと気付いたか。そして落ち着け須美」

 

ようやく園子の手に握られていたものの正体に気づき、狂乱する須美に対して冷静にツッコミを入れる巧。そんな中、ラブレターを貰った張本人はほんわかした表情で一言。

 

「そっかぁ。私ラブレター貰ったんだぁ。嬉しいなぁ」

「んでもってお前がそこまで冷静になれる意味が分からん⁉︎」

「落ち着きすぎだろ⁉︎」

「そ、そうよ! こ、恋文を貰ったのよ⁉︎」

 

思春期の女の子にとってこれ以上にないシチュエーションのはずが、いくらマイペースな性格とはいえ、全く動揺する気配を見せない園子に皆は疑問が湧き上がる。その答えは園子自身が教えてくれた。

 

「字とか封筒を見ればすぐに分かるよ。出した人、女の子だよ」

 

園子が封筒を差し出し、昴が動揺しながら震える手で全体を眺める。言われてみれば、男子がチョイスするにしてはあまりにもピンク色が混ざりすぎており、今時の小学生男子がハートのシールで封を閉じるとは考えにくい。

さすがは勇者の隊長を務めているだけあり、観察眼の素晴らしさが垣間見えた瞬間だった。

 

「な、なるほど……」

「なぁんだ女の子かぁ……」

「焦って損した……」

「(……ん? 女からって、それはそれで問題あるような……。まぁ良いのか)」

 

巧が首を傾げるも、考えるだけ面倒と思って何も口を挟まなかった。そんな中、昴は皆に気づかれないようにホッと息を吐く。それからハッとなって胸に右手を当てる。

 

「(……あれ? 何でこんなにホッとしたのかな……?)」

 

何故か園子に送られた手紙が女の子だと知って喜ぶ自分に、疑問を抱く昴。心臓の鼓動が、明らかに早まりつつある。

 

「すばるん〜? どうかしたの〜?」

「⁉︎ い、いいえ何でも……。それで、園子ちゃんはこれからどうするのですか?」

「とりあえず会ってみるよ〜。字を見てれば誰が書いたのか、答えに辿り着くと思うよ〜」

「な、中々に大胆だな園子」

「ていうか文字の書き方から相手を推測するとか、さすがは小説家と言うべきか」

「俺も隊長やってるけど、園子には一生敵わんな」

「テヘヘ〜(でも、すばるんから貰ったものだったら、嬉しくて飛び跳ねちゃいそうだよ〜)」

 

気がつけば、オリエンテーションの事などすっかり記憶の片隅に追いやられ、下校時間になるまでラブレター絡みの会話だけが、6人の中を駆け巡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌々日。

学校から帰宅した須美は使用人から、ポストに入れられていたらしい封筒を受け取ると、すぐさま家の裏に走って、周りに誰もいない事を確認する。

 

「こ、これって……! (もしや私にも、恋文が……! でも一体誰から……? まさか、晴人君が⁉︎)」

 

晴人が2日ほど前の件の影響を受けて、須美に口では言いづらい心情を打ち明けようとしているのではないか。

初めての経験であり、且つ自分が気にかけている人からの手紙を前に、緊張の面持ちで、恐る恐る開いて文章を黙読する須美。

……が、そこには、晴人のものとは到底違う筆跡で、且つ短い分量でこう書かれていた。

 

『鷲尾さんは優等生ですが、注意するとき口うるさく感じます。気をつけてください。 匿名希望より』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紙切れ一つに色めき立つとは、なんたる不覚ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

その晩、匿名希望より送られてきた手紙は、神聖な服に着替えて鬼神の如く発狂する須美の手で、天高く燃え上がる炎の中に放り込まれて、一瞬にして灰と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、晴人の家からも須美の家がある方角で火柱が高々と上がっているのが目撃されており、鷲尾家が火事に見舞われたのではないかと心配になり、何度も連絡を入れ続けたのだそうだ。

……どうでもいい話である。

 

 




今回は割と他作品ネタを色々と取り入れた気がする……。

それと真面目な疑問を一つ。……羅漢像ってマジで何?


〜次回予告〜


「男子小学生諸君に問う」

「その度胸はさすがにないな」

「そのっちの前世かもしれないわね」

「本当に、やるんですか……?」

「全員気をつけ〜!」

「当日が楽しみだな」

「国防の仕方を学んでいきましょう!」


〜日常 〜国防仮面、見参〜 〜


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