結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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先日書き忘れたのですが、『勇者の章』では、どうにかして東郷の救出には成功したわけですが……。


気になるのは、友奈の左胸に付けられた刻印。そして次回予告では、樹が『お姉ちゃん!』と悲痛そうな声で叫ぶ……。
……嫌な予感しかしない。


15:料理で笑顔を

その日の晩。

自室にこもって、パソコンを用いて料理に関する知識のまとめサイトを閲覧する昴の姿が。

今日一日の出来事を振り返り、また唸る。ここ数時間は、それの繰り返しだった。今現在、昴の中で得意だと胸を張れそうな候補として、『料理』が挙げられる。事実、昼に唐突に作ったチャーハンは好評だった。とはいえ昴自身、料理をする事も滅多になく、本当に久しぶりに着手したものだ。

初めて料理を作ったのは、まだ自分も園子も幼稚園の頃。探究心の強かった園子に誘われる形で、一緒に料理を作ろうという事になり、厨房の一角を借りて、2人は慣れない手つきで、使用人に手伝ってもらいながらも、粉まみれになりつつ完成させた料理、それがおしるこだった。団子を一つ一つ丁寧に丸めて、美味しくなるようにお祈りしながら作ったその料理を食べた園子は、今まで以上に目を輝かせ、腕をブンブン振り回しながらお礼を言われた。今まで何度かお礼を言われたれていた昴が、その時だけはいつもと違う感情に浸っていた。それが何なのかは、今となっては思い出せない。その日以降、料理を作る機会すらなかったし、作る気にもならなかった。

それに、良家の息子が使用人もたくさんいる一家で料理の仕事まで取るのはおこがましいとさえ感じている。仮にそれを度外視したとしても、神奈月家の一人として、将来は大赦関連の仕事に就くのが普通だ。料理にうつつを抜かす暇はなくなるかもしれない。

それでも、捨てきれない気持ちが心の片隅にあるのだ。物思いに耽っていた昴だったが、不意に玄関の方が騒がしくなったのを耳にして我にかえった。時計に目をやると、夜10時を少し回ったところ。両親は帰ってこないと聞いている為、現状考えられるのは……。

 

「兄さんかな」

 

そう呟いて昴は席を立ち、部屋を出てリビングの方へ。部屋の中には、何十人も座れる長テーブルと椅子が設置されており、その一角に、昴よりもずっと背の高い、スーツ姿の青年がネクタイを解こうとしていた。

 

「兄さん、遅くまでお勤めご苦労様」

「おっ、昴か」

「疲れてるみたいだよ。久しぶりに、肩揉みしてあげる」

「おぉ、気が効くなぁ。ありがとう」

 

昴に肩を揉んでもらっている青年……『神奈月 織永(おりなが)』は少し歳は離れているが、昴の兄にあたり、神奈月家の次期当主としても名高い、昴にとって自慢の男だった。

昴が小学生に上がる頃に、中学卒業と同時にそのまま大赦に勤めて、若くしてその実力を発揮し、神奈月家の一人として恥ずかしくない立ち振る舞いが、皆の注目を集めていた。

園子がいない時は織永が必ずといっていいほど側についており、勉強面や生活面でも随分と彼に助けられたと昴は語る。両親は仕事の関係でほとんど家を空けており、それもあってか、昴にとって織永とは、兄であると同時に父親でもあった。

ここ最近はバーテックスの本格的な襲来、更には大赦からの期待の眼差しが重圧となっているのか、弟の昴でさえほとんど会う事もなく、また見かけた時があっても、疲れ切った表情ばかりが目立つようになる。その視線に気づいて2人きりになった時は、いつでも平気そうな顔をして、昴の日常生活の様子を聞いたり尋ねたりしている。少しでも昴を始め、勇者や武神に選ばれた者達の負担を減らそうと、今なお必死に裏方として頑張っているのだ。

その背中を見つめる度に、彼は思う。もし自分が、兄の背中を追いかけるのではなく、隣を、もしくは前を歩き、皆を守れる自分になれたら、どれだけ兄にとって幸せなものになるのだろうか……。

 

「……る、昴?」

「⁉︎ あ、ごめんなさい……」

 

ボーッとしている昴を見て不安になったのか、織永が声をかけてくる。

 

「元気ない……というか、何か疲れてるみたいだな。休暇はもらってるって聞いてるし、ちゃんと休んでるか?」

「う、うん。大丈夫……。今度、みんなと遊びに行く事になってるし、僕は平気。兄さんこそ、最近は休みを取れてないんだよね?」

「まぁ、忙しいのは昴達だけじゃないからな。……バーテックスの到来の周期が異常なまでに乱れているんだ。過去の文献なんてほとんどあてにならなくなったから、また一から資料を書き起こす必要があるって話が来てるんだ」

 

そう言って苦笑いを浮かべる織永。晴人達がお役目を果たしている間、織永が勤めている大赦側も全面的にバックアップを施す為に、日夜情報収集などの働き詰めに遭っているようだ。

そんな織永に向かって、昴は声をかけた。

 

「あの……。色々と、ありがとう。兄さん」

「? 急にどうしたんだ?」

「あ、いえ……。何となく、言っておきたくて。家の事とか、僕達の支援の事とか、兄さんばかり、大変な思いをさせてるから……」

「そんなの、昴が気にする事じゃないさ。それに、本当に大変なのは、いつ命の危機に晒されてもおかしくない戦場に出向いている、昴やみんなの方さ。……ここだけの話、出来る事なら昴だけでも代わってやりたい気持ちでいっぱいさ。でも、神樹様に選ばれたのは、昴の方だったんだから、こればっかりはどうしようもないと思ってる。だから、今の俺に出来る事を精一杯やる。今を頑張る理由は、それで十分だ」

「兄さん……」

「俺も頑張るからさ。昴も頑張って、自分のやりたい事、やれる事を見つけに行こう。お役目が終わって落ち着いたら、俺も暇になると思うし、その時はちゃんと手伝うからな」

 

兄にそう言われ、顔が綻ぶ昴。

 

「ありがとう、兄さん。でも今は、自分の力でやりたい事を、見つけようと思うんだ。それにまだ、お役目が終わったわけじゃないから」

「そっか。応援してるからな」

「! うん……!」

 

息を合わせたように笑みを浮かべるその姿からは、兄弟の仲睦まじさが垣間見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後は、初夏の風が瀬戸内海から舞い込んでくるほど、空は快晴となっていた。この日晴人達は校内の図書室に来ており、周りには6人以外誰もいない。そんな中で行われているのが、主に晴人、銀を囲んでの勉強会。須美が主導を握り、巧、昴がそれを補佐する形で、つきっきりで教えていた。

 

「グウゥ……! もう、限界……! 師匠助けてぇ……」

「なぁ、晴人もこんな調子だし、勉強より先にイネス行かないか? あそこのフードコートがあたしを呼んでる」

「イネスばっかり……」

「ダメよ銀。晴人君も」

「須美ってば、とりつく島もないっしょ」

「何だその新キャラ……」

「ほら、集中なさい。こういう時間があるからこそ、やれる時に勉強しておかないと」

「はいはい鷲尾先生、分かりましたぁ」

 

渋々手元の資料に目を通す銀と晴人。その隣の席では……。

 

「ZZZ……。うどんって、何であんなに白くて、美味しいのかなぁ……。すばるん、教えて〜……」

「……おい。寝てる園子は放置してていいのかよ」

「園子ちゃんは頭いいですよ。普段はそういう風に見えないだけで」

「おのれ天才系少女めぇ……。耳元で害虫の名前をひたすら囁いてナイトメアを見せてくれようか、いひひ」

「おぉ、どんな感じになるのか、ちょっと気になる」

「「……」」

 

銀の突拍子も無い発想に、巧と昴は唖然とするばかり。

 

「よくそんな鬼のような発想ができるわね。自分がされたらどう思うのよ」

「あたしは大丈夫だもん、Gとか」

「右に同じく」

「……やるじゃない」

「まぁ勇者ですから」

「そういう須美はどうなんだ? Gは」

「……どうしてウイルスで絶滅してくれなかったのかしらね。恨むばかりね」

「生命力はピカイチですからね」

「てか須美ってそういうの苦手なんだ。可愛い奴め」

「か、可愛いって……⁉︎ は、話を逸らそうとしてもダメよ晴人君!」

 

ニヤつきながら口を開く晴人の言葉を聞いて、若干顔を赤らめる須美。が、すぐに気を取り直して勉強を再開する。

 

「さてと、歴史の授業に戻りましょうか。……で、この四国を囲う壁は、どうして存在するのか」

「あたしだってそこまでウマシカじゃないっての。神樹様が四国にいる人間を結界で護ってくださってるんだよ」

「そうよ。外の世界には死のウイルスが蔓延している」

「んでもって、神樹様は俺達人類にとって、なくてはならない存在……だろ?」

「正解。で、ここから先は教科書に載ってない事だけど、ウイルスの海から産まれた存在が」

「バーテックス……。直訳すれば『頂点』という意味のある怪物です」

「あいつらの目的は、人類の恵みである神樹様に辿り着き、破壊する事。その為に向こうから攻めてくる事があるんだろ?」

「えぇ。それを撃退するのが私達、勇者や、上位勇者改め武神に選ばれた者のお役目」

「な、あたしらだって理解してるだろ? 完璧じゃないか。さ、イネス行こうよ。イネス行かないと落ち着かないんだよあたしは」

「俺もイネス行きたい! ジェラート食いたい!」

「遊ぶ事ばっか考えやがって……。そんなんで大丈夫なのか、特に武神の隊長」

 

巧は呆れ口調のまま、ノートに書き込んでいる。

 

「まだ勉強は終わりじゃないわ。面倒を見ると決めた以上、ちゃんとやらないとね」

「アゥ……」

「フフ。私、晴人君のそういう困り顔好きかも」

「す、須美のやつ、なんか怖い事言ってるぞ」

「歴史を知るという事はとても重要なのだから、最後まできっちりやるわよ。で、バーテックスと戦うのは何故、私達勇者でなければいけないのか、答えられるわよね?」

「もう教科書に載ってない事ばっかじゃん。通常兵器が効かないんだろ? だからこそ、神樹様にお話しして、神様の力を分けてもらった。それが勇者システムの誕生であり……」

「後に改良され、より一層神の力を取り込んだシステムが、俺や巧、昴が身に纏う武神システム……だろ?」

 

人智を超えた力に対抗するには、自分達も人智を超えた力で戦わなくてはならない。それが『勇者』と『上位勇者』改め『武神』なのだ。

 

「良かったわ。ここら辺は理解していたのね。小テストで50点台なんてとっていたから緊急の勉強会を開いたけど、大丈夫そうね」

「さすがに勇者が自分に関係する歴史分からなかったら、パッパラパーだろ」

「そのっちは、分からなそうだけど……」

「昴ぐらいなら分かんじゃねぇの? この中じゃ付き合い長いだろ?」

「いや、その……。僕にも計り知れない所がありますからね……。でも、光るものがあるのは間違いないかと」

「とてもテストで0点取った輩とは思えんな」

 

晴人が当時の事を思い出しながらそう呟く。

 

「0点だったけど、あれは答案用紙の記入方法が間違っていただけらしくて、正式なものに変換したら満点だったらしいわよ? 凄いと思うわ」

「色々と紙一重なのか」

 

巧がそう結論付けたその時だった。

 

「ZZZ……。すばるん、大好き……」

「フェッ⁉︎ いきなりどうしたんですか⁉︎」

 

慌てて声の主の方を向く昴。彼女は依然として寝息を立てている。

 

「……あぁ。寝言だったんですね」

「……ミノさん……、イッチー、たっくん……。好き……」

「ど、どんな夢見てるんだこやつは。ハハハ、好きとか言われる照れるなぁ」

「……」

 

その後も園子に注目が集まるが、いつまでたっても寝言を呟かない。耐えきれなくなった、唯一名前が呼ばれなかった少女がおもむろに椅子から立ち上がって、園子の肩を強く揺すり始めた。

 

「私は⁉︎ ねぇそのっち! 私は⁉︎」

「こ、こらお前。気持ちよく寝てる奴を無理やり起こそうとするな」

 

巧が銀と共に、須美を引き離そうとする。他の面々が苦笑しながらその光景を見つめていると、園子が再び口を開く。

 

「ZZZ……。すばるんなら大丈夫〜。すばるんが作るご飯……、とっても、美味しいからぁ……。自信持って〜……」

「園子ちゃん……」

 

園子の呟きを聞いて若干驚く昴。まさか夢の中でも激励されるとは……。どことなく嬉しさがこみ上げてくる。

 

「ご飯といえば、昴がこないだ作ってくれた飯、美味かったな」

「そうね。機会があればまた食してみたいわ」

「おう! あたしも食いたい!」

「そ、そうですか……。でも、僕って特別その道を歩んできたわけじゃないですし、それに今は、お役目に尽力を尽くしていく事が僕のやるべき事ですから……。そもそも、料理が出来るからって、それが何に活かせられるのかが、まだピンとこなくて……。やっぱり僕には、料理の道は……」

 

いつになくしおらしくなる昴だが、仲間として、そんな彼を放っておけなかったのだろう。口々に言葉が飛び交った。

 

「そんな事関係ないだろ? お役目はお役目で、勉強は勉強。趣味は趣味なんだし、別に今はお役目にこだわらなくても、自分のやりたいようにやれば、それで良いじゃん? 師匠からだって、青春を謳歌するのも大切だって言われただろ?」

「青春……」

「そうね。気持ちは分かるけど、張り詰めすぎても仕方ないと思うわ。ちゃんと自分のやりたい事に挑戦するのもお役目の一つだと思えば、気が楽になるでしょ?」

「周りの事なんて気にしてたら気が滅入るしな」

「まぁ要するに、だ。あたしらには夢を見る権利があるってもんよ!」

「みんな……。ありがとう、ございます」

 

一人一人の言葉を噛み締め、自分の中に浸透させていく昴。するとそこへ。

 

「……料理は、愛情……」

「まだ夢の中なのか。もう何時間寝てるんだ?」

「さぁ……」

 

未だに夢の中にいる園子が、確信めいた寝言を口にする。それを耳にした昴は、モヤモヤしていた何かが解けようとしていた。

 

「料理は愛情……。気持ち……。それだったら、僕でも……」

「昴?」

「……なんだか僕、自分に出来そうな事が見えてきたかもしれません」

「おっ! ホントか!」

「僕、やってみます。僕なりに、精一杯のやり方で」

「まだどんなもんかは見えてこないけど、頑張れよ!」

「はい! ……園子ちゃんも、アドバイスありがとうね」

「ZZZ……ムニャムニャ……エヘヘ……」

 

昴は微笑みながら、幼馴染みの柔らかい髪の毛を撫でてあげた。その時の園子の幸せそうな表情は、今でも晴人達の脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、仕事から帰ってきた織永は遅めの夕食をとる事に。ネクタイを緩めながら、織永は弟の姿が見えない事に疑問を抱いた。いや、そもそも遅くまで大赦に勤めていた後は大抵親友に誘われて飲みに出かける事が多い。にもかかわらず真っ直ぐ家に帰ってきたのは、昴から「今日の夜は家でご飯を食べてほしい」と言われて、その通りにしたわけだが、肝心の本人の姿が見られない事に、首を傾げるばかり。何か重要な話があるとばかりに思っていたので、いつも以上に気を引き締めていたのだが、向こうの用事は別の件だろうか。

しばらくして、小腹が空きかけた頃に扉が開いた。どうやら先に夕食の方が運ばれてきたようだ。昴がどこにいったのか気になる織永だったが、すぐにその懸念は解消される事に。

 

「昴?」

「エヘヘ。お疲れ様、兄さん」

 

そこに現れたのは、料理が盛られている皿をお盆に乗せて運んできた昴だった。いつもなら使用人がこなす仕事を何故弟がやっているのか。ますます首を傾げる織永の前に、昴が運んできた料理が置かれる。

皿に盛られているのは、薄茶色のご飯の上に上品そうなローストビーフや水々しいレタスが添えられたものだった。

 

「仕事も忙しくなって大変だと思って、少しでもスタミナ回復して、明日も元気に頑張れるように、夏バテ防止も考慮して作ってみたんだ。味はいつものと比べたら敵わないかもしれないけど、それなりに頑張ってみたんだ」

「! これ、昴が……」

 

よく見ると、若干焦げている部分も垣間見えており、決して美的とは言えないが、それでも弟が作った料理が冷めないうちに、スプーンを手に持って米と切ったローストビーフをすくうと、それを口の中に放り込む。放り込む直前に、にんにくの匂いが鼻につき、そこでようやくその米がガーリックライスだと気づく。口に入れて最初に感じたのは、食材そのものの旨み。そして調味料らしき味。芯まで味が通っているわけではないようだが、これくらいの薄味を彼は好んでいるので問題はない。そして何より感じたのは、プロが作る料理と違って、少し雑味があれど気持ちを込めて、食べる人に合わせて奥に細かく丁寧な仕込みを感じさせる、独特の風味。

 

「……あ、あの。もしかして、口に合わなかった?」

 

一口食べてから動かなくなった兄を見て心配になったのか、昴は声をかける。その一言でやっと我にかえる織永。

世界の存亡をかけて、より一層緊張感のある現場で表立って出る事が多くなった織永にとって、この料理は心を潤してくれる。段々と弟の手料理を食べるのが勿体なく思えてきたが、それでも作ってくれた小さな料理人の為に、完食を目指す事に。

それでもこれだけは自信を持って言える。この料理には、昴が自分に向けた愛情が込められている。今まで食べてきた料理の中でも特別で、とても美味しい。

その気持ちを伝えるべく、織永はようやく口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったね〜すばるん。みんな喜んでたよ〜」

「あはは。ちょっと恥ずかしかったし緊張もしたけど、うまくいって良かったよ」

 

メガネの縁を拭きながら、帰り道を園子と肩を並べて歩く昴は、数時間前までの事を話題にしていた。

結果的に、昴が仕事で疲れている織永の為に作った料理は好評で、感謝された。身内にそう言われた昴は、そこで料理に自分の気持ちを込める事の大切さを実感した。どんなに下手でも、相手の事を思って作れば、それはきっと人の心に残る味になる。

それを今一度確かめるべく、家庭科の授業の一環である調理実習では、昴が園子達に手伝ってもらいながら腕をふるった。5人の評価は上々で、クラスメイトや安芸にも絶賛された。それが昴の気分を良くした。それはようやく見つけたからだ。料理を介して、今の自分にできる事。特徴と言えるものが一つも見つけれなかった自分が、胸を張って出来る事。

 

「園子ちゃん、ありがとう」

「ん〜?」

「僕、嬉しいんだ。みんなと一緒にいられるこの時間が続いてる事が。勇者になって、みんなと出会えた事が、幸せなんだ。もちろん、園子ちゃんに出会えた事も。園子ちゃんの支えがあったから、僕はもっと自分に自信が持てる気がする」

「テヘヘ〜。よく分からないけど、褒められてるんだよね〜」

 

嬉しいな〜、と照れ笑いする園子。彼女が寝ぼけながら呟いた事は、本人は記憶にないだろうが、それでも昴の心にはしっかりと残っている。幼少期におしるこを作ったあの時も、園子に喜んでもらいたい一心で作っていた事を、ようやく思い出せた。

そして、自分ならではの特別なオンリーワンも、見つける事が出来た。それを、先ずは彼女に伝えよう。

 

「……あのね、園子ちゃん」

「何〜?」

「僕、やりたい事が、見つかったよ」

「やりたい事? あっ、将来の夢⁉︎」

「まだそこまで行き着くかは分からないけど、もしかしたら繋がるかもしれない」

 

そこで昴は一息ついてから、園子の目を見て告げる。

 

「僕ね、自分で作った料理をみんなに広めて、笑顔になってもらいたいんだ。料理でみんなを幸せにする。それが、僕に出来る事なんだ」

「オォ! それ、プロの料理人になるって事だよね! わ〜い! これからはすばるんの料理が食べ放題だ〜! ちゃんとお腹空かせないとね〜!」

「あ、アハハ……。ちょっと先走りすぎですけど……。でも、頑張ってみるよ」

「うんうん! すばるんならきっとなれるよ! 私、応援するから〜!」

 

両手を広げて抱きつく園子。昴はそのスキンシップに驚きつつも、よしよしと頭を撫でる。

みんなの笑顔を守る為に、お役目も料理も、大変だけど頑張っていこう。先ずは昨日サイトで見つけた、『料理コンテスト』に出場出来るぐらいには腕を磨こう。夕日に照らされながら、昴はそれらの決意を固めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ夢までには程遠いだろう。まだやり始めてみようと思っただけ。でも、どんな壁に立ちはだかろうとも諦めなければ、大切な人の事を思いやって挑めば、きっと努力は報われる。

この先、◼️を◼️◼️◼️としても、その気持ちは変わらないものだと、信じていたい。

 

 

 




これでオリジナルストーリーは一旦終わり、次回から本編系列で進めていきます。


〜次回予告〜


「そんな出し方する人初めて見た〜」

「何故そこで愛⁉︎」

「羅漢像⁉︎」

「ものすんごく嫌な予感が……」

「果たし状か⁉︎」

「何でこんなにホッとしたのかな……?」

「これが黒歴史ってやつか……」


〜日常 〜着せ替えとオリエンテーションとラブレター騒動〜 〜


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