結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
遅ればせながら、諏訪オンリーで私とスバルさんの合作を手にとってくださった皆さん、並びに出展者の皆様、お疲れ様でした。ゆゆゆの熱が年々上がっていると知って、参加できた事の喜びを実感しております。
「……ムッ⁉︎」
「お、おぉぉぉぉぉっ⁉︎あんず、調⁉︎っていうか、どこだここ⁉︎」
気がつくと、目の前に広がっていたのは、崩壊した瀬戸大橋とは打って変わって、緑豊かな土地から、山と海に挟まれる形で奥まで続いている街並みが見下ろせる。そんな光景だった。
「ううむ!素晴らしき絶景!しかし、香川にこのような土地があったとは知らなかった!それに、周囲から漂う柑橘系の匂い!格別だな!」
「いや待て待て!タマ、ここ知ってる気がするぞ。見た事ある!」
不意に、周囲に植えられている、橙色の果実が成る木を見て、球子が興奮し始める。
「……うん、そうだ間違いない!タマの故郷、愛媛じゃないか!タマは瞬間移動してしまったのか⁉︎」
どうやら2人が今いるこの場所は、球子の生まれ故郷でもある、蜜柑の名産地、愛媛県に違いないようだ。しかしながら、隣接しているとはいえ、あの一瞬でどんなトリックが働いて、遠く離れた土地に足をつけてしまったのか、見当もつかない。
同時刻。
未知のアプリを起動した球子と流星が突然姿を消した事に軽くパニック状態に陥る中、巫女達は状況を把握するべく、アプリに記された説明書を読む事に。
「こういうのにもトリセツ用意してくれるって、大赦って変なとこで律儀よね」
「勇者システムを作った人の中には、元ゲーム開発者がいると、私は踏んでいるわ」
「何か本当にあり得そうだな……」
最近、千景とゲームをする機会が増えつつある兎角がそう呟いていると、巫女達から、新機能について説明が行われた。
「どうやらこの新機能『カガミブネ』は、特定の場所同士を一瞬で行き来する、いわゆるテレポート機能です」
「テレポート……?」
「えっと……、出発地点と到着地点が解放されていて、出発地点に巫女がいれば、瞬間移動できるようです」
「テレポート!ハイテク!ハイカラ!ジェネレーション・ショーック!」
条件があるとはいえ、あまりにも飛躍しすぎた機能を知って、常日頃からローカル環境に身を置いていた歌野の口調が、いつも以上におかしい。英単語以外の言葉が思いつかないようだ。
「それはいけないわね。後で調整しておきましょう。前々からちょっと気になっていた所なの。須美ちゃんも協力してもらえるかしら?」
「はい!ご所望とあらば!」
「どさくさに紛れてなに護国思想に調教しとんねん!」
この2人なら本気でやりかねないと、たまらず奏太がツッコミを入れる中、調の端末に電話が。電話の相手は言わずもがな。
『もしもし、こちらタマ!何かよく分からんが、タマ達は愛媛にいる!』
「タマ……!生きてた……!」
調が心底ホッとする中、電話を拝借したひなたが、カガミブネの機能について、2人に説明する。
『ほう!そのような機能が追加されたとは!神樹様も粋な計らいをしてくれたものだ!』
『感心してる場合か⁉︎タマ達はどうすれば良いんだ⁉︎こっちに巫女がいないから、カガなんとかを使えないぞ⁉︎』
「では、私がそちらに向かえば」
ひなたがそう提案するが、待ったをかける者達が。
「待てひなた。マップで確認したが、2人がいる場所は、未解放地域のすぐ傍だ。お前が行くのは危険すぎる」
「つーか、お前ら自力で戻ってこれば問題ないだろ?体力オバケのお前らならさ」
『体力オバケって何だよ⁉︎流石に大変だぞ……』
「照彦君に賛成ね。勇者の身体能力なら、1時間もかからないし、登山よりは楽だと思うけど」
『同世代組が冷たい⁉︎』
『だが一理ある!このまま未解放地域で待つよりは、多少は安全だ!というわけで、これから帰還する!しばし待たれ!』
そう言って電話を切る2人。どうやら本気でダッシュして、拠点である讃州中学に戻ってくるようだ。あまりの脳筋思考に、神世紀組も戸惑いを隠せない。
「?どこ行くんだ調?」
「……タマ、流星。迎えに、行く……。あっちは、敵もいる。……とても危険」
「用心に越した事はない。境界線ギリギリの所までで待機しておいても良いかもしれない」
「だな。2人だけじゃどうにも不安だ」
「私も!寄り道とかして、危ない目に遭いそうですし」
「私はパ」
「俺も行くぜ!仲間が困ってんなら、助けるのは当たり前だろ?」
「……手間のかかる仲間ね。私もついていくわ」
「はいはーい!私も行きまーす!」
「(これもう、俺だけパスとかできない雰囲気だな。面倒だが、行くか)」
そんなこんなで、調を筆頭に、四国の西暦勇者一行は、なるべく未解放地域に近い場所で陣取るべく、風達には先に戻ってもらうように告げて、地面を蹴った。
それから約1時間後、愛媛と香川の県境に位置する所で、杏達が待機していると、全速力でこちらに向かってくる2つの人影が。
「皆の衆!来てくれたのか!」
「何だよー、お前達結局、タマ達の事大好きなんだな!」
「勝手にいなくなった奴が、どの口を……」
そう呆れる照彦は、休憩がてら、みたらし団子を口にしていた。
よく見ると、向かってくる2人はダンボールを抱えており、『愛媛 みかん』と表記されている事から、途中で詫びの気持ちも込めて、お土産を購入してからこちらに戻ってきたようだ。何とも呆れた身体能力だ。
ともあれ合流できた事にホッとする一同。……だったが、若葉達に近づく流星の様子がおかしい。目つきが鋭くなっている。やがて立ち止まり、バッと振り向く。
「そこにいるのは誰だ?ここに向かう途中から、我々2人を尾行していたようだが、何が目的だ?」
……が、後には静寂が続くばかり。流星の言葉が気になった若葉が、警戒しながら、彼の視線の先に見える路地裏を覗いてみたが、そこには誰もいない。気のせいではないか、と結論づけた若葉は、一先ず部室で帰りを待っている皆の所へ戻ろうと提案し、一同はその場を去った。
……謎の気配がした所とは違う場所で塀にもたれかかりながら、風船ガムを膨らませる、高校生と思しき少年に、気づく事なく。
流星と球子が無事に香川へと帰還を果たした、翌日。
ジューシーな愛媛産の蜜柑に舌鼓を打ちながら、勇者達は美羽から今後の事について説明を受けていた。
「これで香川全域が解放されたから、今度は次のエリアに進む事になるよ」
「……そういや、この戦いは四国全土を解放するまで続くんだよな」
「うん。神託ではそう聞いてるよ。まだ先も長いから、何が起こるか分からないけれど、無理はしないでね」
そう念を押しながら語る美羽の傍らでは、このような発言が。
「いっそ、ついでに諏訪や沖縄、長崎に愛知、果ては北海道まで取り返せたら良いのにねぇ」
「せやな」
「……」
歌野の発言に同調する者もいる中、水都はただ1人、浮かない顔をしている。その理由は、雪花の口から語られた。
「でもさ。四国の外って結城っちの時代には滅びてるって話だったよね?」
「ちょっ、雪花さん……!」
「単なる事実。取り返すも何もないっしょって話」
四国の外。そこが灼熱の大地となっており、人が住むのは絶望的。その真実は、先日体験者である遊月らから説明を受けている為、雪花はどこかで諦めモードに入っているようだ。が、彼女だけは違っていた。
「だから、奪われたなら取り返せば良いじゃないって言ってるの」
「……でも、ここは神樹様の内部に創り出された世界だから、この中で諏訪を取り戻したとしても」
「そう、ですね。皆さんが元いた世界まで元に戻るという訳ではありませんので……」
「皆さんが自分の地域を思う気持ちは、良く解ります」
「おいら達、そこがどんなとこなのか知らないッスけど、良い所なんスよね」
「そうだね。のどかで綺麗で、時間がゆっくり流れてる。そんな場所だったの。星屑が出てきてからは、その面影もなくなっちゃった所が多くて……」
美羽が当時を懐かしむように、窓の外に目をやる。
「何だか想像がつかないぞ。タマは四国しか知らないからな」
「ねぇ、もっと聞かせてくれないかな?四国以外の土地の事」
「私も聞きたい!みんなの事、もっと知りたいから!」
「楽しかった思い出〜、略してオモバナ〜」
「何で略したんですか?」
園子(小)の言い方に首を傾げる真琴。
ともあれ、奈良出身の勇者の提案により、この日はお茶菓子を交えて、四国外の魅力を教えてもらう事に。
トップバッターは、諏訪から。とはいえ、歌野や水都と共に諏訪を守っていた童山は、元々香川出身であり、約3年ほど闘いに明け暮れていた事もあってさほど詳しくはないとの事だったので、主に2人の口から話してもらう事に。
「私とみーちゃんのいた諏訪は、緑に囲まれて、自然の恵みに溢れた土地だったわ」
「うたのんは、そこで毎日のように畑仕事をしてたんですよ」
「畑仕事をする事で、自然とトレーニングできてたわけね。それならあの強さも納得ね」
「何でもそこに繋げようとするんだね……」
「農家の皆さんに助けてもらいながら、作物が育っていくのを見るのは最高だった」
「うたのんの作った野菜は、とっても美味しいんですよ」
確かに、歌野が差し入れてくれた野菜はどれも丹精込めて育てられているからか、味も申し分ない。ダブル昴には、水都の言葉にとても説得力があるように感じた。
「それから、諏訪には信州一大きな湖があって、高原では色々な花が咲いていたわ」
「ピクニックには最高の場所でした。それに諏訪湖は冬になると、分厚い氷が張って、ワカサギ釣りなんかもできたし」
「釣りか!それは良いな!」
「「行ってみたいな!」」
釣りと聞いて真っ先に反応したのは、キャンプ女子改め球子に、ダブル銀だった。続いて、歌野の口から聞かされたのは、伝統あるお祭りだった。
「そして諏訪には、『御柱祭』という、大規模なお祭りがあったの」
「どんなお祭りだったんですか?」
「もみの大木を山から切り出して、みんなで里まで曳いて行くのよ」
「山から里へ……って、坂道なんじゃ……」
「うん。ここよりも、ものすごい急勾配」
「大勢で声を上げながら、土まみれになって大木に上がったり、山を滑り落ちたり」
「な、何だか凄そう……」
「話を聞く限りじゃ大怪我は必至だな」
「ザッツライト、その通りよ。でもね。大勢が一丸となってやり遂げた時の気分はもう……」
「エクセレント、でしょ?」
「そう!神様に褒められているような、誇らしくて何とも言えない感じになれるの。童山君にもやってもらいたいわね。貴方なら存分に楽しめると思うわ」
「成る程のぉ。ワシはあの日、流星達と逸れて、奴らと戦いながら、自然と諏訪に足を踏み入れてから向こうでの暮らしを始めた身じゃ。祭りなんて出来る雰囲気でもなかったからのぉ」
そう言えば、諏訪大社では常に緊迫した雰囲気しかなかった、とイベントの準備の最中で聞かされた事を思い返す一同。
「諏訪は、全ての民が自然と一体となって、神と対話する土地だったのだな」
「イエス。だから、誰もが土地に感謝し、土の恵みを吸収して暮らしていけたわ」
「そして何と言っても、諏訪の名物はお蕎麦でしょ、うたのん?」
「そうそう!忘れる所だったわ。諏訪のお蕎麦はソーデリシャス!」
「きっと、日本一美味しいお蕎麦ですよ」
「ノンノン!麺類最強の美味しさよ!」
麺類最強。
そのフレーズを聞いて、黙っている者がいるはずもなく。
「それは聞き捨てならないわね!麺類最強はうどんでしょ⁉︎」
「それに関しては風さんと同意見だ!」
「オーマイゴッド!何を言ってるの⁉︎」
またしても火花を散らす、うどん派と蕎麦派。
このままでは埒があかないと踏んだのか、一旦両者を落ち着かせた後、再沸騰しない内に出番を回す。
続いて話し始めたのは、長崎を拠点とする勇者だった。
「んじゃ次はワイやな。ってもな、ワイが長崎に移ったんは、バーテックスが襲ってくる半年くらい前でな。そない言うほど長崎の事知っとるわけやないんやけど、有名なスポットはあったで。家族で遊びに行ったんやけど、日本でもトップクラスの敷地を誇る『ハウステンボス』っちゅうリゾート施設は、1日じゃ足らへんぐらい、えぇ場所やったわ。花もぎょーさん咲き誇っとるし、オランダ文化も取り入れとるから、風車がシンボルやったな」
「ちょっ、そこで異国の文化の話をしたら、東郷らが黙ってる筈が……」
「あら、何も心配いらないわよ銀。和蘭は中国と共に、キリスト教を持ち込まない事を理由に、鎖国化の中で数少ない、貿易が許された国なのだから」
「確か、唯一の貿易施設である『出島』も、長崎にあったとされてますよね?」
「お、おう。そうやったと思うで。出島の跡地には行かれへんかったけど」
曖昧そうに返答する奏太だったが、不意に追記事項が語られた。
「おっと。それから長崎の名物やけど、長崎ちゃんぽんは有名やで!大阪に長い事おったから、焼きそばも美味いとこ知ってるんやけど、向こうに着いて最初に食べたちゃんぽんがホンマに絶賛でな!中華鍋1つで簡単に出来る家庭料理ってのが売りでな!誰でもどこでもすすれる長崎ちゃんぽん!これこそ麺類最強の証やろ!」
「何をぉ⁉︎うどんだって少し茹でれば、お好みの出汁や具材と合わせれば良い、時短料理の代表格よ!」
「その通りだ!」
「早さなら蕎麦だって負けてないわよ!」
「また論争になりかけてるし!次つぎ!」
大事に発展しない内に、出番は沖縄の勇者へ。
「沖縄は……兎に角海が綺麗だ」
「棗さん、海が大好きなんですよね!」
「私だけでなく、沖縄の人は皆……、海の恵みで育ち、生きていた」
「四国の海とは、具体的にどのような違いが?」
「沖縄の海は……、青く澄んでいて、魚達の動きが手に取るように分かる」
「凄く暑い気候だと言うのは、本当ですか?」
そう質問したのは、神世紀に生まれた勇者、東郷だった。日本の最南部に位置する事は知っていても、四国しかない世界線では、知り用がないからだ。
「1年中真夏という訳ではないが、いつも薄着で大丈夫ではあった」
「そりゃあ良いな!魚も美味いんだろ?」
「勿論だ。素潜りでいくらでも魚や貝が採れて、私が暮らしていた地域では、週末の夜は朝まで宴会三昧……」
「おぉ、そいつは楽しそうだな!俺も行きてぇな!」
「楽しかった……。おばあが三線を弾き、大人は泡盛を飲み、皆で歌い、踊る……」
目を閉じながら、しみじみとそう語る棗。バーテックスが襲来する前の、平和だったひと時を思い返しているようだ。
「みんなでって、棗さんもスか?」
「ちょっと想像できないわね……」
どちらかと言えば寡黙な雰囲気のある棗を知っているが故に、千景の疑問は尤もだった。
「もし良かったら、やってみてくれないか?ちょっとで良いからさ」
「え」
「「パチパチパチ〜」」
戸惑う棗だが、ダブル園子に囃し立てられてしまっては、観念したのか、スペースを確保して、1つ深呼吸をしてから、体を使ったパフォーマンスを披露した。
「……アイヤッサッサ!アイヤイヤササッ!アッアッアッアッ!アイヤイヤササッ!」
「お、おぉ……⁉︎」
「めちゃくちゃ生き生きしてたな」
予想に反して気迫のこもった踊りを披露し、戸惑いを隠せない一同。ややあって、落ち着きを取り戻した棗がこう答える。
「……海人の血が騒いだ」
「ウミンチュ……?」
聞き慣れない単語に、首を傾げる晴人達。
「『海の人』と書く。海と共に生きる者の呼び名だ。私は海人である事に誇りを持っている」
「カッコイイなー、海人!だったら、歌野ちゃんはやまんちゅ、って言うのかな?」
「ラマンチャみたいだね〜」
「……ワッツ?」
「聞いた事ないぞい、そんな言葉……」
童山は基より、歌野も反応に困った様子だ。とまぁ、話は脱線しかけたが、沖縄は澄んだ海が取り柄の、諏訪とはまた違った自然の良さがある土地である事は認識できた。
「それと……、この際だから言わせてもらうが、私にとって最強の麺類は、ソーキそばだ」
「それは聞き捨てならないわね!麺類最強はうどんでしょ⁉︎」
「それに関しては風さんと同意見だ!」
「ノンノン!蕎麦が最強よ!」
「長崎ちゃんぽんや!」
「……デジャヴ」
球子の裾を摘みながらの、調の呟きは、周囲の喧騒に遮られて、誰の耳にも届かなかった。
続いて、愛知県の紹介に移る。
「愛知県は、日本の中心部にある事もあって、車とかの工業産業も盛んだし、かといって山や海とかの自然にも囲まれてるから、住みやすい土地ではあると思うよ。私達はその中心地の、名古屋市出身だけど、色んなスポットがあって、時間がある時は、よく誠也と一緒にお出かけしてたの」
「歴史という観点でも、愛知は有名だと伺ってます。確か、戦国武将の代表格である織田信長、豊臣秀吉、徳川家康は、愛知に縁があるとの事ですが」
「その通り。さすが須美ちゃんよく知ってるわね」
「それに、フィギュアスケート選手の多くは、愛知出身でな。まぁそれもあって、名古屋には選手御用達のスケートリンクがあって、俺はそこで子供の頃から通ってた」
「色んな文化や産業が集った土地でもあるんだな」
藤四郎がチュッパチャプス(パターサンド味)を舐めながら、しみじみと呟く。
「それからね。愛知では独自の食文化が発達して、『なごやめし』と呼ばれる文化が有名なの。手羽先やひつまぶし、味噌カツ。それからあんかけスパゲッティに台湾ラーメン、味噌煮込みうどんとか、麺類でも豊富な種類があるの」
「ジュルル……!ハッ!思わず涎が垂れてしまった!失敬!」
数々の料理名を聞かされたからか、流星はハンカチで口元を拭う。
「豊富といえば、名古屋のとある喫茶店で、変わったパスタが有名だった。抹茶を麺に練り込んだ、生クリームと小豆、果物をトッピングしたパスタとか」
『⁉︎』
「うんうん。他にも麺やトッピングに、苺をたっぷり使ったパスタとか、メロンや、バナナを入れてたり……」
「ちょっと待て、それは本当にパスタと言えるのか……?」
「聞いてる限りじゃ美味そうに思えない……」
「……昴。あんた達まさか今度試してみましょうか、なんて思ってたりしないわよね?」
「「……」」
「否定しなさいよそこは!」
謎大き珍メニューを聞いて、困惑する面々だが、最後に美羽の口からこんな発言が。
「それから、名古屋名物はやっぱりきしめん!平たいうどん麺でツルツルしてるから、食べやすいの。喉越しも良いから、オススメだよ」
「麺類最強という点では、うどんより一歩リードしてるだろうからな」
「何をぉ!香川のうどんがあって、初めて成り立った文化でしょ⁉︎元祖が強いに決まってるでしょ!」
「尤もだ!つまりは、我々のうどんこそが唯一無二の存在!」
「蕎麦だって喉越しという点では負けてないわよ!」
「ちゃんぽんやって啜りやすいで!」
「ソーキそばの麺も、しっかりしてるぞ」
「だーもううるさい!麺論争なら他所でやってくれ!」
シャウトする兎角を宥めながら、最後は北海道の番となる。
「私のいた北海道は、兎に角北にあるだだっ広い土地って感じね」
「「北海道はでっかいどぉ〜!」」
「おぉ!センスあるなぁ!高得点や!」
「……どこにその要素があったのよ」
しかしながら広大な土地と言われてもピンとこない一同。そこで、大赦に出入りしている遊月の端末を借りて、大赦が保管していた地図を表示してもらう事に。そうして北海道と四国全体を比較する事が出来た訳だが……。
「えぇっ⁉︎四国ちっちゃ⁉︎」
「というより、北海道の大きさが異様だな。長崎や愛知と比べても、その差は歴然だ」
巧(小)が唸る程、神世紀の勇者にとって、日本全体の長さは想像を遥かに超えていたようだ。
「島って感じだね。……ん?日本の周りにもっと小さい島がちょこちょこあるけど、これは……?」
「これも立派な我が国の領土よ、友奈ちゃん」
「へぇ〜。北の方にも点々とあるけど、こっちは?」
「我が国の領土よ」
『……』
返す刀にそう断言する東郷。ふと見ると、西暦組の何人かが、微妙な反応を示している。何かマズい事でも言ってしまったのだろうか。当時の世界情勢を知らない神世紀組は、首を傾げるばかりだ。
「ま、まぁそれは置いといて、私の地元、旭川は、北海道とっても街の方。観光名所は、強いていえば動物園ぐらい。他は特に何もないかな」
「思ってたよりドライだな。もう少しありそうだけど……」
「たださ、真っ直ぐな道が、私は好きだった。そこを走れば、どこにでも行けそうな……。真っ直ぐに伸びる道。……私はさ、あの道を閉ざされたくなくて、それで戦ってたかもしれない。どこにも行けなくなるのは、たまらなく、さ……、嫌だったんだ」
「せやなぁ。勇者になって、街のみんな守るんはえぇんやけど、遊びに行くのも難しゅうなってもうた」
「……うん。その気持ち、分かるよ。さっきは時間があれば、市内のスポットにお出かけしてたって言ってたけど、誠也が、みんなの期待に応える為に勇者になって、私も、神託を受けてみんなに伝える巫女の立場になって、そうしたら、遊ぶ暇なんて、なくなっちゃって……。この世界に召還されるまで、楽しい気持ちなんて、忘れかけてた」
奏太と美羽がそう語り、黙って頷く歌野と棗。それだけ、四国外は余裕がない日々を過ごしていたのだろう。
「だが、こうしてここへ来られたのも事実だ」
「そうね。だから、いつか元の世界へ戻ったら、今度はこの経験を活かせるかもしれない」
「雪花。私は……、信じる。また、新たな道をこの手で作れる事を」
「……そうだね。ここから戻ったら、未来を変える為に、きっと何かできるかもだし」
同じ環境に立った者同士、雪花も少しは前向きな気持ちになれたようだ。
「四国奪還の次は、私達の故郷を取り戻す戦いですね」
「そうね!レッツゴーみーちゃん!私、頑張るよ!美味しいお蕎麦の為に!」
「へへっ!ワシも手を貸すぞ!ワシにも、お前達の未来を守らせてくれ!」
童山も俄然やる気を出す中、雪花がふと思い出したように呟く。
「あ、因みに言い忘れてたけど、旭川名物はラーメンだから。ラーメン最強」
「それは聞き捨てならないわね!麺類最強はうどんでしょ⁉︎」
「それに関しては風さんと同意見だ!」
「ノンノン!蕎麦が最強よ!」
「長崎ちゃんぽんや!」
「ソーキそばこそが、至高」
「きしめんが1番に決まってるだろ」
「うんうん!」
「せっかく良い感じに纏まったかと思ったら……」
「ていうか雪花!あんたわざとその話振ったでしょ⁉︎」
またしても繰り広げられる、麺類最強論争。
ある意味平和な争い事を前に、勇者部らしい光景に、シャッターを切る上里の巫女の表情は、朗らかなものだった。
中盤で登場した謎の人物については、後のお楽しみとさせていただきますが、敵陣営とだけはお伝えします。
というのも、次回からイベントストーリーを軸に執筆していく予定なので、本編に戻るのは大分先になるかもしれません。
〜次回予告〜
「まさか本当に実現するとは……」
「このタイミングで敵襲⁉︎」
「……カニタマ」
「あ、倒れた」
「あの靴って……!」
「し、死んでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ⁉︎」
〜血吸い紅葉殺人事件 〜惨劇の始まり〜〜