結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。前回の投稿から約3ヶ月近く経ってしまいましたが、とある事情で執筆活動に専念できず、気がつけば大晦日、もとい白鳥歌野の誕生日に投稿する事となりました。詳細は、後書きの方で発表いたします。

その間、『シンフォギアXD 』のサービス終了、そしてシンフォギアの映画化決定と、巡るましい事が続きましたが、何より『オトナプリキュア』にて、人種の壁を越えた、念願のプロポーズ成立並びに結婚というニュースが、大好きなシリーズであるが故に、感涙した次第でございます。遅ればせながら、ココ&のぞみ、ご結婚おめでとうございます!

話は戻りますが、いよいよ香川奪還も大詰めとなります。


25:香川全域ヲ奪還セヨ

「さてと、ひなたに言われて全員集合したわけだが……。相変わらず、凄い密度だな」

 

幼馴染みからの招集を受けて、部室に入ってきた若葉の第一声が、それだった。彼女の言う通り、ただでさえ狭い家庭科準備室兼勇者部室に、40人近い部員が募れば、圧迫感がハンパではない。以前のように隣の家庭科室を借りようにも、既に別の部活で使われている。

部室に入って早々に頭を悩ませる若葉だが、そんな事などお構いなしにと、彼女に近寄ってくる者が。

 

「人数が多いから、私はご先祖様の膝の上に失礼しま〜す」

「……ふふ。本当に懐いてくれてるな、園子。構わないが、寝るのだけは」

「ZZZ……」

「言ったそばから寝るなぁ⁉︎」

「いやいや、もうその発言からフリになってたし」

 

雪花が的確なツッコミを入れる中、更に割って入ってきたとばかりに、歌野が目を見開く。

 

「ワッツ⁉︎蕎麦派に鞍替えした⁉︎」

「言ってない!」

「若葉、お前⁉︎」

「何て恐ろしい……!」

「裏切り者ぉ!」

「濡れ衣だぁ⁉︎」

 

などと喚き声が飛び交う中、他の小学生組は素早く行動に移す。

 

「相変わらず賑やかだなぁ。ってな訳で、俺も遊月さんの上に、っと!」

「おう、いいぞ」

「……」

「……別に遠慮しなくてもいいぞ」

「いや、流石にそれは勘弁……。このままでいい」

「うふふ。巧君らしいわ。須美ちゃんも、遠慮せずにどうぞ」

「い、いえ、私は……と言いたい所ですが、これ以上狭くなっては話も進みませんし、今回は、お言葉に甘えて……」

 

須美も最初こそ遠慮がちだったが、折れて東郷の膝の上に座る事に。

先日、真実を明かした際に一悶着あった彼女達だったが、どうにかして和解までこじつけて、それに際して須美も全体的に多少は軟化したように見受けられる。

ややあって安芸の咳払いで、フリートークを中断させた後、今回の呼び出し人であるひなたを含む巫女達が前に出て、説明を始めた。

 

「さて、前回もお話しした通り、神託に従い、間も無く大橋市での奪還作戦が決行されようとしていますが、その件に際して、重要な話があります」

「いよいよ……!」

「どうやら、瀬戸大橋の手前に、かなり大きいバーテックスの巣があるらしくて、それを倒せば、香川全域が解放されるんだって」

「わざわざ神託でそれを伝えにきてるってこたぁ、今度の敵はそれに見合った強さを持ってる。そう言うこったな?」

 

司の呟きに、ひなたは軽く頷く。

 

「でもこの戦いに勝てば香川全域を解放だなんて、良い事ばっかりじゃない。全エリアのうどんが食べられるのよ!」

「うむ!とりわけ谷山米穀店のうどんは絶品だからな!是非とも皆に勧めたい!」

「タマも大好きだぞ!調もそうだろ?」

 

興奮気味のタマに肩を叩かれて、若干引き気味の調だが、うどんを食べられると聞いて、満更でもない様子だ。

 

「食べたい気持ちは分かるが、うどん関係なしに頑張ってくれよ……」

 

チュッパチャプス(ハチミツ味)を咥えながら苦笑する藤四郎。

すると、美羽の口からこんな内容が語られた。

 

「それからね。香川の解放に成功したら、神樹様の力も一気に高まって、新しい力を手に入れられそうなの」

「新しい力?それって一体……」

「分かったぞ!バストが自由自在になるマシンだな!」

「え⁉︎本当ですか⁉︎」

「ど、どんな力なのかは、私達にも分からないけど……」

「本当に……!自由自在に、自由自在になるんですかぁ⁉︎」

「何でそこだけ頑なに強調してんのよ⁉︎」

「キャラ崩壊してるッス⁉︎」

 

突然興奮し始めた樹を、どうにかして押さえ込む夏凜と冬弥。

ひと段落ついた所で、決戦は満月の前後である事を再認識させ、その日はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。そろそろ火を止めて、予熱で焼き目をつけてみよっか。それと、鰹節をここで入れてみると、ほら」

「わ〜!鰹節がヒラヒラ踊ってるよ〜!」

「下から湧き上がる熱気によるものね。仕組みは分かっていても、見ていて楽しいわ」

 

数日後。園子(小)の部屋に集った小学生達は、昴監修の下、園子が人生初となる、焼きそば作りに励んでいた。

決戦を前にして、何をするべきか。そう考えた須美は、特別な事はせず、普段通りに過ごして、いつでも万全の体制でお役目に挑めば良い、といったスタンスで、日常を謳歌する事に。

晴人達も、まさか頑なな須美からそのような意見が出るとは思わなかったのか、戸惑いこそしたが、賛同した。これも晴人達と肩を並べて過ごすようになった事が功をそうし、思考が柔軟化するようになったのでは、と考えられる。

そんなこんなで、いきなりそばを焼き始めようとする園子を制止し、キャベツなどの野菜を切る所から始めてから30分後、出来立てホヤホヤの『園子スペシャル(焼きそば)』が完成。

 

「思ったほどアクシデントはなかったな。銀がいるから何かと不安だったが」

「ちょい⁉︎あたしだって毎秒トラブルに遭ってる訳じゃないからな、巧!」

「どうかしら……?」

「須美まで⁉︎」

「アッハッハ!やっぱ6人いてこその、俺達だよな!無敵ってやつだ!」

「……そうね(でも、そう遠くない未来で、私達は別離されてしまう。それは変えようのない事実。でも、今はとにかく、6人でいられるこの時間を、大切にしていかなきゃ)」

 

先日の一件で、東郷達から未来を聞かされて、愕然とした事を思い返す須美。今はまだ見られないが、晴人の体につくであろう、多量の傷跡。巧の左目の傷。そして、昴の右腕の損失。分かっているが故に、回避したい気持ちも少なからずあるが、それは、この世界では叶わぬ夢。

ともあれ、先ずは大橋市を含めた、香川全域の奪還。先へ進む為にも、精進していかなければならない。須美の決意は固かった。

 

「それじゃあ、早速試食してもらいましょうか。確か、流星さんか紅希さんが部屋にいると思うので」

 

昴がそう提案した直後だった。メンバーの懐にしまってあった端末から、アラーム音が鳴り響いたのは。

タイミングからして、いよいよ香川奪還作戦の大詰めという事なのだろう。6人は引き締まった気分で頷き合い、この世界で培った結束力を武器に、才能を遺憾なく発揮する為に、外へ飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の舞台が大橋という事もあり、小学生並びに同一人物達は、迷う事なく現場に足を踏み入れ、他の面々もそれに続く。

が、所定の位置に足をつけた途端、園子(中)は違和感を覚えた。

 

「あれれ〜?バーテックスの巣とは聞いてたけど、なんともまぁ、敵さんだらけで〜」

「見渡す限り、一面の星屑だ……」

「語感的にはロマンチックだけど、見た目は割と地獄絵図ね」

 

風が呟くように、ウネウネと徘徊する星屑のその姿は、ある種の不気味さを窺わせる。

そんな中で、一際どっしり構える勇者が1人。

 

「こんな光景でも、ちょっと平気になってきた自分がいるよお姉ちゃん」

「おぉ、流石我が妹よ。女子力が高まっておるわ」

 

姉妹のやりとりもそこそこに、雪花はいつもより注意深く観察している様子だ。

 

「巣……なるほど巣窟か。星屑君以外に、小型バーテックス君がおるね」

 

そう呟く彼女の視線の先には、小型バーテックスがいるのだが、地面を這いずり回るような容姿の『ペサンテ』と表記されている小型バーテックスを見て、須美は身震いする。

 

「虫とか嫌いなので、これは気持ち悪いような……。!いけない、お役目なのに、そんな事言ってられ……」

「心配すんなって須美!アレはまぁ、俺も気色悪いと思うし」

「そーそー。キモいのはキモいって言ってればいいのよ。やる事さえやってればね」

「は、はぁ……」

 

晴人と雪花のフォローもあり、どうにか落ち着きを取り戻す須美。

 

「悍ましいわね。何匹いようと絶やすわ」

「へへっ。久々に腕が鳴るってもんだぜ!」

「千景さん、紅希さん。大型が控えている可能性があります。警戒を怠らずに」

「おうよ!この三ノ輪紅希様に、任せときな!」

「アタシも続きますよご先祖様!何てったって、地元補正がありますし!やってやりますよ!」

「そんな補正はないからな。危なっかしい……」

 

妙に元気な銀(小)を見て、やれやれといった表情を浮かべる巧(小)であった。

そうして先ずは、遊月の一射で気を引かせて、続く形で夏凜や銀(中)を初めとした近接型が、向かってくる敵の殲滅を始める。

 

「そりゃあ!」

「殲滅せんめつ!」

 

囲まれながらも、互いに息を合わせて斬り倒していく2人だが、終わりの見えない現状に、遂には足を止めてしまう。

 

「ハァッ、ハァッ……!こいつら、何匹いるのよ、キリがないわ!また湧いてきてるし……!」

「ハァッ、ハァッ……!ど、どうした夏凜よぉ。完成型が泣き言なんて、珍しいじゃんか」

「じ、事実を分析してるだけよ!」

「なら、まだ戦えるよな!」

「当然!完成型をナメんじゃないわよ!」

 

2人が喚きながら互いを鼓舞する中、無心で敵を斬り倒している者もいた。

 

「……!」

 

誠也がカットラスを構えながら、踊るように斬りつけている。流れるような動作に、感心する照彦。

 

「やるな。それも、スケートによる経験の賜物か」

「まぁな。普段の試合をイメージすれば、体が勝手に動くし、雑魚戦には有効だ」

「成る程。私も、海から語りかけてくる声に従って動く」

「沖縄の武術とかじゃなくて、我流なんだっけ、棗の場合は」

「あー分かるよ!私も、棒倒しを練習してたら、砂が語りかけてきたもん」

「アレ、マジだったんかい⁉︎」

 

以前、合宿先の砂浜で幾度となく惨敗してきた夏凜は絶句。その後方では、幼馴染みである兎角が同情の視線を向けていた。

さて、話が逸れかけてきた所で、真琴と昴(中)が、戦況を観察する。

 

「……でも、夏凜ちゃんの言う通り、様子が変と言いますか」

「えぇ。目の前の光景が変わらない……。これだけ倒しても、数が減っていないとなると……」

 

体力的にはまだ問題はないが、原因を突き止めなければ、何れはこちらが押し切られてしまう。急ぎ原因を究明する必要がありそうだ。

と、ここで晴人が何かを察したのか、大声をあげた。

 

「あ、そっか!こないだみたいに、敵を吐き出してくる大型がいるんじゃねぇのか?」

「確かに!そういう生産ユニットみたいなやつがいてもおかしくないかも!」

 

銀(小)も納得する中、須美もまた、感心した様子だ。

 

「晴人君……!見事よ、成長しているわね!私が育てている成果が表れ始めたのかも……!」

「少しタマに近づいたなぁ晴人!後でいい子いい子してやるから」

「球子さん!その役目は、私が務めますので」

「東郷⁉︎いつの間に前線に⁉︎」

 

突然球子の背後に立って叫んだ東郷に驚いて、調が球子の背後に隠れる中、杏は戦況を確認し、自分達の体力の消耗を狙っている可能性がある事を指摘。これを受けて、風と藤四郎は、半ば強引ではあるが、強行突破を提案する。異議する者は現れなかった。

 

「進軍にこそ活路がある気がするわ。奥からなーんか熱量を感じるし」

「進むぞ!」

「よーし、タマ探検隊は更に中へ進んでいくぞ!」

 

などというやりとりがありながらも、球子ではなく、藤四郎ら上級生組が新柄を務め、奥へと進んでいく。道中でもバーテックスと交戦していくが、中型サイズの敵、つまり段々と体長が大きくなっている事に気づく一同。

間違いなく、この先にバーテックスを統制している存在がいる。一同は気を引き締めた。

しばらく進んでいくと、奏太がある事に気づく。

 

「……何や、相手さん。全然構ってけぇへんようになってきたな」

「タマ達にビビったのか?まぁ気持ちは分かるぞ」

「私が完成型という事にようやく気づいて怯えてるのよ。星屑だけに手も足も出ないってね」

「よっ!夏凜はん、座布団一枚や!」

「お陰でサクサク進めるわね」

 

などといったやりとりがある一方で、この現状に訝しむ者も。

 

「どーもこういう風に都合が良いと、疑ってかかってしまう年頃なのよ」

「疑うって、どんな?」

「例えばこれが奥に誘い込む罠で、退路が絶たれていたりとか、後ろを振り向いてみると……」

「ちょ、そんなフラグ建てなくたって……え?」

 

ふと、雪花に催促されるがままに後方を振り向いた兎角が、素っ頓狂な声をあげる。

見れば、自分達が進んできた道の後方に、敵が回り込んでいるではないか。まさに、退路を絶たれているという言葉が相応しい状況下だ。

 

「マジで通れないやつじゃん⁉︎」

「いつの間に……!」

 

一同が動揺する中、夏凜は平然とした顔つきで前に出る。

 

「ふん!任せなさい。完成型のオーラで、モーゼのようにあの壁を割いてみせるわ!ほら、どきなさい!」

『……』

「……ちょ、どきなさいよ。何無視してんのよ!完成型が目の前にいるのよ!ビビりなさいよ!」

「……夏凜さん」

「……っ!クゥ……!」

「わわわっ!夏凜ちゃん泣かないで!大丈夫だから!今日は調子が悪いだけだよ!ほら、樹ちゃんの占いだって、そういう時もある訳だし!」

「どさくさに紛れて、トドメを刺してんじゃねぇよ真琴⁉︎」

「……結局、モーゼって、何?」

 

調の呟きは、やや涙目の夏凜を慰めようとする面々の喚き声に遮られてしまう。

 

「で、どうすんだ?今のうちに叩けば、突破できなくもねぇけど」

「否!ここまで来て背を向けるなど、言語道断!我々は前進するのみ!この先の親玉を倒せば、万事解決だ!」

「そうじゃな、流星の言う通りじゃ!ヤバそうなオーラがひしひしと伝わってくるのが分かるからのぉ」

「なら、決まりだな!」

「ちょ、マジで行くんですか」

 

流星と童山は、早くもやる気全開のようだ。雪花は難色を示しているようだが、ほぼ脳筋思考のメンバーが多数を占める中、足掻いただけ無駄だろうと思い直し、ついていく事に。

 

「ドキドキするけど、私達がやらなきゃ。だって……」

「勇者、だもんね」

 

ダブル友奈がそう語るように、この現状を打破できるのは、勇者や武神を置いて他にない。

 

「これが香川の最終戦……。ラストダンジョンは攻略するまで下界には戻れないという事ね」

「コンティニューはないけど」

「……。正直、怖いわ。でも……、三ノ輪くんや高嶋さん、それにみんながいるなら……」

「おうよ!みんなが一緒なら、怖いものなんてないんだ!やってやるぞぉ!」

「……フフフ。勇者揃いの中に放り込まれた慎重派なワタクシ、色々考えておりますが……。いいよ上等よ、行ってやりましょう!」

「せっちゃんも勇者だよ。怖いのは当然なんだから」

「そうよ。それでも行くって決めたんなら、あんたも勇者よ!」

 

友奈や風に励まされた事で、北海道の勇者も、多少なりとも肩の荷が降りたのか、口調が柔らかくなる。

 

「にゃはは。まぁ『こんな所にいられるか!私は帰るぞ!』って1人逃げても結末読めてるし」

「進んでこその突破口だね。行こう〜!」

「……やっぱし園子は若葉の子孫だな。この精神力はモロ被りだ」

 

そうして奥へと進んでいくと、晴人が予想した通りの展開が待ち受けていた。

 

「出やがったぜ」

 

司が警戒心MAXで、身を潜める。その視線の先には、大型のバーテックスが複数。更にその奥で陣取っているバーテックスは、親玉の風格を見事に表した、巨体であった。

 

「強敵感満載だぜ!」

「アレを倒してさっさと帰りましょ。さてどう攻めるか……」

「?何か、蠢いてるぜ」

 

紅希が親玉の動きに着目していると、驚くべき事に、ゲートのような部分から、『カノン』と呼ばれる大型のバーテックスが飛び出してきたではないか。

 

「タマげたぞ!」

「前にも、似たような事をしてきた小型がいたけど、これはその大型版って事か!」

「あれを真っ先に叩かねぇとヤバいな……」

「時間をかければ、こちらが不利になるパターンか」

「しかし、その親玉にたどり着くまでに、あの大型を相手にしなければならないとなると……、これは、苦しい戦いになりそうです」

 

昴(中)が顔を顰める中、棗はただ1人、冷静に提案をする。

 

「簡単な話だ。この前出来た事を、またやれば良い。即ち、部隊を分けて敵にあたる。私が大型を惹きつける役目に回る。お前達は先に行け」

「な、棗……!」

「体を張る時が来たようだ。是非頼ってくれ」

 

確固たる意志を持って堂々と宣言する棗だが、異議を唱える者がいた。

 

「おっと待ちな!いくら何でも、棗1人じゃ無茶が過ぎるってもんだぜ!今回は俺もこっちに残るぜ!美味しいとこは譲ってやるからさ!」

「紅希がそう言うのも珍しいな。まぁ、俺も残って大型の注意を逸らす役割に回るとするか」

「しゃーない。同じ助っ人枠として、私も頑張りますか」

「それなら、高嶋友奈、残ります!結城ちゃんと同じタイプだし、二手に分かれた方がいいもんね!」

「……私も残るわ」

 

人一倍殲滅数に拘りがありそうな紅希や照彦、それに千景も残るという事はそれだけ棗を心配している証拠なのだろう。

 

「……よし。部隊を割くとなれば、後方組も分かれた方が良い」

「なら、私が残ります」

「なら、俺も残らせてもらうぜ」

「……僕も、こっち」

「調が残るともれなくタマがついてくる」

 

杏や調が留まると聞いて、司と球子もそれに続くようだ。更に、万が一に備えて夏凜や真琴、ダブル銀、ダブル巧も大型の相手をしてもらうように指示する風。夏凜は一瞬親玉と戦えない事に不満を感じつつも、指揮官の命令とあれば、と折れてくれたようだ。

 

「皆、すまないが、足止めを任せたぞ」

「親玉相手のそっちの方が大変じゃない?さぁ、行っていって」

「須美!そっちは任せたぞ!」

「晴人君も気をつけてね!」

 

そうして親玉討伐組を見送った所で、夏凜が先陣を切ろうとばかりに、両刀を構える。

 

「さぁて、こいつらさっさと片付けるわよ!香川の解放最終局面、気合い入れていけぇ!」

『諸行無常』

 

夏凜と義輝の号令を合図に、大型討伐組も動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「向こうもおっぱじめたみたいだな」

「こちらも全力を尽くすぞ!」

 

遠くから爆音が鳴り響いたのを確認した流星達は、視線の先に見える巨体に向けて進軍する。

そんな中、ふと友奈が気になった事を口にする。

 

「そういえば先輩。チーム分けって、何か基準あるんですか?夏凜ちゃん達を残してましたけど」

「あっちは見た事ある敵が多いのよ。ただ、数が半端じゃなくて、ひたすら攻めてくる感じだったわ」

「それで、向こうは気力の高さを重視して、こっちは直感型を採用したんだ」

「直感……。成る程、初めての相手となると、情報も少ない。それであいつを……」

 

納得した誠也の視線の先には、ザ・直感型とばかりの才能を秘めた2人の少女が。その視線を感じたのか、眉に皺を寄せている。

 

「もしかしてしなくても、アテにされてる感じかな〜」

「あれは超アテにしてる感じだね〜」

「プレッシャーですな〜……」

「大丈夫よそのっち。いつもの通りにやっていければ良いのよ」

「私達は、敵をよく観察しましょう須美ちゃん」

「はい。少しでもお役に立ちたいです」

 

未来を知り、より一層、仲間の大切さを学んだ彼女の声は一段と気迫に満ちていた。

丁度その頃、大型討伐組もこれといった問題もなく、敵にダメージを与えているが、依然として数が減る様子もない。やはり大元を倒さない限り、ゲームクリアとはならないらしい。

 

「粗方倒したと思ったら、やっぱし増えてきてやがんな!」

「とにかく俺達は、こいつらを親玉の方に向かわせなければベストだ」

「だな!大変ではあるけど、背中を預けられる奴がいるのは、頼もしいもんだぜ!」

「そうね、三ノ輪君」

 

そんな中、ここまでノンストップで斬撃を繰り出してきた夏凜にある異変が。

 

「ふ……ふふ!何か段々笑えてきたわ」

「か、夏凜ちゃん大丈夫⁉︎無理しなくても、一旦下がっても……」

「そうじゃない!……血の滲むような努力で身につけた戦闘技術が、こんなに役立ってると思うと、笑いたくなるものよ!」

 

小学生時代の銀の、複製された戦闘データを身に纏うべく、数多の競争を勝ち抜き、実戦投入まで繰り返してきた、並々ならぬ努力がこうして報われている事に悦を感じ、頑張ってきた自分を自賛しているのだろう。彼女の努力を良く知る幼馴染みは、内心ホッとした様子だ。

一方で、大型と交戦していた高嶋だが、ある違和感を覚えた。

 

「ん〜。実際のバーテックスと比べて、神樹様の中のバーテックスは、どうも堅いような……」

「そうか……?俺はそう思わないが……」

「照くんがそう言うなら、気のせいなのかな?まぁいいや!ガンガンいこう!」

 

単に相性の問題だろうか。気にはなりつつも、先ずは殲滅を優先するべく、高嶋は照彦に続いた。

 

「こっから先は遠さねぇぜ!(須美、みんな!そっちも頑張れよ!)」

 

晴人も、銀達と共に負けじと大型の侵攻を阻害している。

そうして敵に見つからないように移動していた親玉討伐組も、ようやく目と鼻の先までたどり着く事に成功する。

 

「しっかし防戦ばっかりだったから、こうしてダンジョンの奥で敵のボスと戦うのは、斬新だわ」

「ある意味とっても勇者らしい行動ですけど、初めてですね」

「いよいよここまで来たんだ。こいつを倒して、香川を解放する……!」

「遊月君、油断は禁物です。何事も段取りが大切ですよ」

「あぁ、分かってる」

 

そんな中、樹と冬弥が、眼前の敵を前にして、身震いが止まらない様子だ。

 

「デッカい敵ッスね。ゾクゾクするッス」

「あれで、造反神の一部、なのかな?お姉ちゃん」

「さてねぇ……。いつもの如く謎だらけだから……」

 

風が首を傾げる中、兎角が尤もな疑問を投げかける。

 

「謎といえば……、造反神側が反乱を起こした理由も、今一つハッキリしていない部分もある……。内部分裂、とされてはいるけれど、何故今になってそのような事態に陥ったのかが、分かってないんだ」

「うん!兎角の言う通り、何でなんだろうね?」

「迷惑な話ですな〜……」

「とはいえ、こうして不思議な体験が出来てるのも、ある意味造反神のお陰でもあるから、複雑ね……」

「不謹慎ではあるが……。分からなくもないな」

 

遊月も妙に納得したような顔つきだ。

 

「そうじゃな。離れ離れになってしまったワシと流星がこうして会えたのも、その縁あっての事じゃ」

「元々は味方陣営だった訳だからな。憎みきれない部分があるのが何とも……」

「あの……。口を挟むようで申し訳ありませんが、相手は……」

 

須美が複雑そうに咎めようとするが、唐突に友奈が話しかけてきた。

 

「大丈夫!分かってるよ須美ちゃん。相手は倒さなくちゃいけないし、お役目はしっかりやる。でも、色々な思いがあるから、それらを拳に乗せて……、ドーン!と打ち込むよぉ!」

 

ここぞとばかりに強気な発言を目の当たりにして、須美は『結城友奈』という人物が皆から好かれる理由に納得した様子だ。

 

「良いわね友奈。女子力のなんたるかが分かってきたわね」

「それは無いだろ。友奈の事だからな」

「ミートゥー。私もよく分からなくなってきたわ」

「!敵が動き始めました!」

 

昴(小)の合図で、全員が配置につく。どのような戦法を取ってくるか分からない以上、用心に越した事はない。

 

「皆と一緒に、ひなた達の所に戻る。やるべき事をやってな」

「造反神様……、ありったけの勇者パンチいきます!」

「なら、何としてでも友奈の拳を届かせないとな。活路は俺が開くぜ」

「鷲尾須美、大和撫子として頑張ります!」

「すばるんも張り切ってるからね〜!ハッスルハッスル〜!」

「最終ミッション、開始!」

 

藤四郎の号令で、一斉に動き出す一同。

未知の敵と呼称されるだけあって、触手による複雑な動きを仕掛けてくる親玉だが、藤四郎らの組み分けが功を奏し、大きなダメージを負う事なく、柔軟に対応できている。

 

「そこだぁ!」

「ハァッ!」

 

兎角と藤四郎の一撃で怯んだ所に、須美や遊月、東郷の射撃が炸裂。バランスを崩した相手に、若葉と流星、誠也の斬撃が飛んできて、命中すると同時に、大きな音を立てて倒れ込んだ。

 

「やったか⁉︎」

「!童山先輩!そう言う事は言わない方が……」

「っ!まだ動き出そうとしてるし!」

「何という生命力……!」

「やっぱし……!」

「とはいえ、向こうも瀕死のはずだ!攻撃続行だ!……東郷、須美。ここからは俺も前線に出る!後援は任せたぞ!」

「!分かったわ!」

 

ここが勝負所だ。

そう直感した遊月は、弓矢を霧散させると、高台から飛び降りながら、意識を足元に集中させる。今まで、意識して呼び出した事は無かったが、この世界の利点を活かして、持てる力を最大限に発揮する。

そしてそれは、スズランスイレンの武神もまた然り。

 

「行くぜ……!因幡!」

「行くぞ!伊奘冉!」

 

敵に向かって駆け出す2人の体が光り始め、その容姿に変化が訪れる。

遊月の髪が異様に長く伸び、兎角の体に次々とウサギ型のアーマーが装着されていく。

 

「!あれは……!」

「精霊降ろし……!あれが現代の……!」

 

元の時代で何度も行使してきた事のある流星と若葉にとって、初めて目の当たりにするであろう、神世紀300年の、勇者の底力。

 

「「ハァッ!」」

 

長い髪を振り回して触手を弾き、懐に潜り込んで打撃を繰り出す、息のあったコンビネーションに一瞬呆けていたが、気を取り直して攻撃を再開する。

東郷が撃ち込んだ所に須美の矢をねじ込み、怯んだ所に童山が張り手をかます。尚も抵抗してくる相手に対し、歌野は鞭を、樹がワイヤーを操作して拘束する。風や藤四郎、若葉、流星、誠也が斬りつけて、冬弥が大声を上げながら、ハンマーで脳天を叩き割るような勢いで打ち込んだ。最早疲弊しきっているのは明白。にも関わらず、敵はしぶとく触手を振り回していく。胴体に寄せ付けないようにしているようだ。

 

「だったらこっちも……!満開!」

 

負けじと友奈も、満開を行使し、拳を振るって薙ぎ払っていく。

 

「ベストを、尽くせぇぇぇぇぇ!」

「ハァァァァァァァァァァァァ!」

「満開!勇者ぁ!パァァァァァァァァァンチ!」

 

見事な連携と言わんばかりの攻撃。口に出さずとも、その場にいた面々は、圧倒的な圧力で押し返していく様子に、目を見開く。大型をある程度倒し、援軍に来た夏凜達も、思わず言葉を失う。

3人の攻撃に吹き飛ばされた親玉は、神樹の巨大な根にぶつかり弾かれながら、上空に吹き飛ばされ、やがて光の玉となって霧散したのが確認できた。

それと同時に、樹海化が解かれていくのが確認できた。勝利の喜びを分かち合うよりも早く、世界は元の景色を取り戻していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー。帰ってきたぁ。今回もまぁ無茶したわねぇ。そして勝っちゃうし」

「ま、勇者は無茶して最後に勝つもんだし。けどまぁ、腰にくる戦いだったぜ」

 

見渡せばそこは、神世紀298年を戦ってきた勇者、武神達にとって見慣れたであろう、瀬戸大橋記念公園。どうやら今回はこの場所に戻されたようだ。

司が腰を押さえながら、しみじみとそう語っていると、遠くの方から複数人の足音が聞こえてきた。

見れば、巫女や顧問……結界外で皆の無事を祈っていたであろう面々が、先回りして瀬戸大橋記念公園にやって来たようだ。早速美羽が誠也に盛大に抱きつき、よろめきながらも、彼も背中に腕を回す。大一番での勝利に喜んでいたが故に、誰も気に留める様子はない。

 

「皆さん、お疲れ様でした!これで香川全域に加え、愛媛のごく一部の地域も解放されました!」

「皆ご苦労!」

「まさか愛媛のおまけ付きとはねぇ……!」

「頑張った甲斐があったぜ!……んん?どしたお前達?」

 

紅希が笑みを浮かべる中、ふと視線を横に向けると、呆然とした様子の小学生達が映った。何かに驚いているように見えるが……。

 

「どないしたんや?」

「あ、すみません。ちょっと、目の前の光景に驚いてしまって……!」

「!こいつは……!」

 

奏太や照彦達も、晴人達の視線の先を辿って、ようやくその理由を察した。

彼らの視線の先には、中央部分から無惨に破壊された、瀬戸大橋が聳え立っている。神世紀300年を生きる面々には見慣れた光景だが、そうでない面々は、空いた口が塞がらない様子だ。

 

「スゲェ事になってんなぁ」

「話には聞いてたが、いざ目の当たりにするとなぁ……」

「やっぱり、私達だけでは、守り切る事が……」

 

不安を募らせる須美だったが、隣に立った東郷が肩に手を置いた。

 

「気を落とさないで、須美ちゃん。確かに大橋は破壊されてしまったけれど、未来を守る事は出来てる。あなた達が立派にお役目をやり遂げたから、今の私がいる。それは、揺るがない事実よ」

「そっか……。それならまぁ、それでいっか!」

 

銀(小)は、考える事を放棄したのか、納得した様子で腕を後ろに組む。巧(小)も、何も言わずに肩をすくめる。

 

「あ、でもさ。俺達の街も解放されたって事は、俺達の家にも入れるって事になるのか?」

「言われてみれば……。先生、どうなんでしょうか?」

「その辺りは、色々と辻褄が合わなくなる可能性がある事を考慮すると、当人達の出入りは控えてもらう必要があるわね。大赦関係の場所を含め、幾つかの土地は、依然として解放されない傾向にある事を踏まえると、入れるかどうかも怪しいですから。……ただ、イネスは間違いなく解放された訳だから、節度を守って利用する分には、問題ありません」

 

安芸の発言に、最初は落胆していた面々だが、今後はイネスへの出入りが可能になった事を受けて、喜び勇んでいる。

 

「おっとそういやさ。この戦いで勝ったから、神樹様が新しい力を手に入れるって話だったろ?」

「そうね。どんなものかしら?」

 

ふと、紅希と千景が数日前に聞かされた件を思い出し、ひなたに尋ねた。

 

「携帯に通知が来る、との事ですので、もう間も無くかと……」

 

と言った矢先に、全員の端末に通知音が。どうやらアプリに新機能が追加された、との事。

 

「おっ、確かにボタンが増えてるな」

「ふむ!早速試してみるとしよう!」

「あ、ズルいぞ!タマが一番乗りしようとしてたのに!」

「待ってタマっち先輩!流星さんも、説明書ぐらい読んでから……」

 

が、時すでに遅し。2人は好奇心に駆られて、端末を迷う事なくタップする。

そして、僅か1秒後。その場にいた面々は、えっ、と息を呑む事に。

 

「⁉︎流星……⁉︎」

「タマ……!タマ……!どこ……?」

「き、消えた、だとぉ⁉︎」

 

突然音もなく消失した、2人の勇者。

源道の唖然とした呟きだけが、瀬戸大橋記念公園に響く。

 




若干中途半端にはなりましたが、一先ず年内の投稿は以上となります。

さて、前書きでも話した重大発表の件ですが……。

いよいよ、『結城友奈は勇者である』10周年を迎えるにあたり、自分の中でアニバーサリーとして1つ行動を起こしたいと考えた結果、友人との協力を経て、2024年1月7日(日)に開催される『諏訪オンリー』にて、人生初となる、小説本の販売を行いたいと思います!
『鷲尾須美・市川晴人の章』を加筆修正したものを出展しますが、ここでしか見られない、挿絵付きとなっておりますので、もし参加される方がおられましたら、是非ともゆゆゆの魅力を語り合いたいと思っておりますので、長い宣伝となりましたが、何卒よろしくお願いします!(1冊700円を予定しております)

それでは、来年度もよろしくお願いいたします。


〜次回予告〜


「ジェネレーション・ショーック!」

「タマは瞬間移動してしまったのか⁉︎」

「ウミンチュ……?」

「……デジャヴ」

「そこにいるのは誰だ?」

「みんなの事、もっと知りたいから!」


〜カガミブネ 〜 四国外の思い出〜 〜


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