結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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しばらくはオリジナル回並びに日常回が続きます。

なお、ここから3話ほど、巧に焦点を当てていきます。(銀も)


11:その男、大谷 巧

6月に入り、梅雨の季節が本格的に襲来しようとする今日この頃。3度目となるお役目以降、6人の結束はより一層深まっただろう、と源道は語る。中でも鷲尾 須美が改心して他の5人との距離感が縮まった事は大きな利点だった。詳しい事情は把握していないが、晴人を中心とした5人の絆が、頑なだった須美の心を動かしたのだ。それが証拠に、訓練のみならず、学校生活においても6人が行動を共にする時間が増えたように感じられる。活発な晴人と銀、のほほんと過ごしている園子、真面目な須美、それを物静かに見届ける昴と、彼らとは別に深く干渉しない巧。程よい距離感が、チームワークをよくしているのだと源道だけでなく、安芸も納得している。

やはり子供達の成長は、大人が予想する以上に早いものだ、と源道はしみじみと語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、暦が西暦から神世紀に変わったとはいえ、西暦から続く伝統や文化が途絶えたわけではない。故に、6月を迎えた事もあってか、勇者や武神が在籍する6年1組の担任である安芸は、ホームルームである議題を口にした。

『父の日』である。

 

「毎年6月の第3日曜日がこれに順当するわけですが、皆さんもこの神樹館小学校の最上級生です。そこで今年は、今までとは違う形で、お父さんに普段は中々言いづらい、感謝の気持ちを伝えてみましょう」

 

これを受けて、クラスメイト達が休み時間の合間は、父の日に何をしようかと相談する声があちこちで飛び交うようになった。

 

「父の日ねぇ……」

 

当然、お役目を担っている勇者や武神も例外ではない。本日の授業を終えた晴人は5人を招集し、『父の日に何をすれば良いのか』という題目で、話し合いを始めた。

 

「よくよく考えたら、今までは父の日に限ってだけど、仕事帰りの父ちゃんの肩を揉んであげるだけで、全く変わり映えしてないんだよな」

「へぇ〜。でも、イッチー偉いね。私なんか、その日にだけ『ありがとう』って声をかけてあげる事しかやってなかったの〜」

「乃木家は仕事柄、ご家族と一緒に過ごす時間も限られていそうね。でも、それでも嬉しいと思うわよ」

「ただまぁ、毎年同じ事を繰り返しても、向こうからしてみたらあまり感動しないものですからね」

「ならいっそ、今年はみんなでアイデア出しまくれば良いよな! あたしも悩んでた節あるし」

 

という事で勇者、武神組は各々がどういった形で感謝を伝えるかを思案し始める。

 

「普通に考えればいいの先程晴人君や園子ちゃんが言っていたようなパターンがありますが……」

「それ以外となると、どうだろうな……。母の日だったら、普段はしてない家事手伝いとかで済みそうだけど、父の日って、何したら良いか難しいよな」

「普段はしてあげられない事だもんね〜」

「普段は……。そうか、それなら……」

「須美?」

「何か思いついたか?」

 

不意に須美の目が鋭くなり、顎に手を当てて何やら小言をブツブツ呟いていた。やがて顔を上げると、意気揚々に説明を始める。

 

「要するに、普段は中々出来ない事をするのが1番なら、とっておきの案があるわよ!」

「おぉ〜! わっしーの目が輝いてる〜」

「えぇそうだわ! これを好機と言わずして、いつ語れるものか! 戦艦武蔵の魅力を伝える良い機会よ!」

 

ガッツポーズを取りながら堂々と宣言する須美に対し、他の5人の体を冷たい一陣の風が撫でる。

 

「……あ、あの。須美さ」

「西暦の戦時中、大日本帝国海軍によって造られた最後の戦艦にして、その堂々たる生き様を見せた戦艦武蔵! この魅力を鷲尾家当主に向かって存分に語る事こそが、父の日という特別な日を華々しく飾る、最高の催し物だわ!」

「んなわけあるかぁ! さすがにそれはなしだろ!」

「大体、それって全部須美しか得してないじゃん! 向こうからしたら、ただただ一方的に熱弁されて迷惑にしかならないぞ」

「えっ? そう、かしら……?」

「僕もそう思います」

「わっしー。こういうのは、お父さんが喜んでくれるものじゃないと、意味ないと思うよ〜。それはまた別の機会にすれば良いよ〜」

「うっ。そこまで言われると……。分かったわ。考え直しましょう」

 

本気で残念がりながら着席する須美。危うく脱線しかけた議論だが、再び方向修正し、改めて意見を出し合う事に。

と、ここで銀がそれまで蚊帳の外だったこの少年に尋ねた。

 

「なぁ巧。お前だったらどうする?」

 

それに対し、巧は読んでいた本を閉じて、ぶっきらぼうに口を開く。

 

「別に、自分が良いと思うやつならベタなやつでも良いだろ? 親だってその方が良いし、面倒じゃなくなる」

「はぁ……。じゃあさ。そういう巧はもう決まってたりするのか?」

 

この質問に対し、巧は即答だった。

 

「考えてない。そもそも、する気にもならない」

「考えてないのかよ……って、ハァァァァァ⁉︎」

 

途端に素っ頓狂な声が一同からあがった。

 

「ちょ、巧! お前父の日に何もしないのかよ⁉︎」

「そうだと言ってるだろ」

「でも巧君。先生も仰っていたように、これは日頃からお世話になっている実の父に感謝の気持ちを伝える、特別な行いなのよ。本当に何もしないままで良いのかしら?」

 

実の父。須美のその言葉が聞こえた時、巧の右手が強く握りしめられたのを、近くにいた銀が見逃さなかった。やがて巧は力を抜いて、肩をすくめる。

 

「俺の勝手だろ。向こうだって無理して祝ってもらうつもりもないだろうし。感謝なら別の時でも言えると思う」

 

そう呟くと、おもむろに立ち上がる巧。

 

「どうしたんだよ巧?」

「もう帰る。久々に訓練もないし、横になりたい。ま、後は当事者になるお前らだけで考えとけ」

 

じゃあな、と背を向けながら手を振ると、さっさと教室を後にしてしまった。残された5人は複雑な表情を浮かべたまま向き合った。

 

「巧君、いつにも増して不機嫌そうでしたね……」

「何かあったのかな〜? もしかして、喧嘩したとか〜?」

「まさか……」

「しょうがねぇ。とりあえず巧抜きで考えるか。雨降りそうだし、さっさと決めようぜ」

 

晴人の言葉を受けて再び会議を始める一同。窓の外は雲に覆われており、いつ雨が降ってきてもおかしくない。

 

「……」

 

そんな中、銀だけが、巧が出ていった教室の扉だけに視線が向けられ、ほとんど会話に参加できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃ〜。これじゃあしばらくは止みそうにないな」

 

その日の夕方。家に帰ってきた銀は、日課である買い物に出かけ、イネスを訪れていたのだが、その道中で雨が降り始め、店を出た時には、本格的に土砂降りと化していた。念のために傘を持ってきておいて正解だったと銀は思った。おまけに雨が降っていたからか、これといったトラブルが身近で起きる事もなく、倒れていた自転車を起こしたりする程度で済み、スムーズに買い物が出来た。

が、この土砂降りを前にして、どうやって帰ろうかが問題となった。

 

「どうしよう……。もうちょっと待ってから出た方が、食品も濡れずに済むけど、いつ止むか分かんないし……」

 

とはいえあまり帰りが遅くなって家族を心配させるわけにもいかない。帰ったら下の弟の面倒を見る必要がある為、意を決して土砂降りの中には飛び込もうとした矢先、横手から声をかけられた。

 

「お、銀君じゃないか。奇遇だな」

「あれ? その声……。源道先生!」

 

振り返ると、そこには傘をさして歩いている、大柄な男性が。銀はすぐにそれが体育教師である源道だと理解できた。彼の手には、黒い袋が握られている。

 

「? それ何ですか?」

「これか? 帰りにそこのレンタルショップで借りてきたやつだ。どれもアクション映画だ」

「あ、巧から聞いた事あります。先生の趣味だって」

「で、銀君は買い物帰り、といったところか。雨の中ご苦労だな」

「いえいえ。いつもあたしの役目ですから。父ちゃんも母ちゃんも忙しいし、勇者だからって、下の弟だけに全部任せるのもアレですから」

「うむ、良い心がけだぞ!」

 

雨の中で会話が弾む中、源道がふとこんな事を口にする。

 

「そういえば、もうすぐ父の日だったな。銀君の事だ。今年やる事も決めてるんじゃないか?」

「いえ、それなんですけど……。結局須美達と話し合ったけど、全然良いのが思いつかなくて……。本当は巧にも相談したいんすけど、全然乗り気じゃないし、何もしないって言い切っちゃってて」

「……そうなのか?」

「はい。巧のやつ、せっかくの父の日に何もしないなんて、親が悲しむよなぁ、なんて」

 

やれやれといった表情を見せる銀に対し、源道は唸り始める。その表情は先ほどと比べて暗い。

 

「先生?」

「……やはり、あの事を気にしているのか」

「? どういう事、ですか?」

「あぁ。彼にも色々と事情があるのは俺も知っている。だから、きっと彼の中で割り切れない思いがあるのだろう」

「色々って……。先生、巧に、何かあったんですか? 何かあるんなら、あたしに教えてください! 力になりたいんです!」

「いや、しかし……。……分かった。君に託してみよう。立ち話もなんだからな。少し場所を移そう」

 

意を決して源道が、巧に関する事情を銀に教えようとするようだ。

源道の提案でやってきたのは、イネスの近くにある喫茶店だった。空いていた席に座り、飲み物を注文した後、源道は正面を向きながら、真剣な表情で語り始めた。

 

「巧君が父親に対して距離を置いているのは君も察しているだろうが、これは母親に対しても同じだ」

「そう、なんだ……」

「その原因は……、彼の境遇にあると思う」

「境遇……?」

「巧君は、今でこそ『鳴沢』という、西暦以前から栄えてきた一族の名を継いでいるが、彼はかつて、『大谷』の姓を名乗っていたんだよ」

「大谷……?」

 

初めて聞く、巧の本当の名字に訝しむ銀。

 

「彼が姓を変えたキッカケは、彼が7歳の頃、実の両親が不慮の交通事故で他界した事にあった」

「……!」

「身寄りもいなかった彼を養子として迎え入れたのが、現在の鳴沢家だった。……というのも、鳴沢家には子供が出来ていなくてな。跡取りの事で色々と悩んでいたそうだが、そこへきて巧君の件が挙がってきた事で、すぐさま彼を養子にするように手配したんだ。おまけに、巧君の勇者……もとい武神としての資質が高い事も、ずっと前から分かっていた。それが決め手となって、大赦も巧君を鳴沢家の養子として迎え入れる事を容認したのだ。だから巧君は、鳴沢家の次期当主候補となっている」

「知らなかった……」

 

初めて耳にした、巧の壮絶な過去。自分が思っていた以上に、苦労してきた事を考えると、胸の奥が痛んだ。

その様子を見ながら、源道は話を続ける。

 

「ここからは推測になるが、おそらく巧君は、今なお鳴沢家の両親を、本当の意味で家族とは受け入れられずに、距離を置いている。勇者適性が高いという理由で迎え入れられた事が心の片隅で引っかかって、彼の中で未だに迷いが生じているはずだ。無論、鳴沢家の当主やその奥さんも、そんなつもりで巧君を養子にしたつもりは、これっぽっちもないはずだ。あの2人が本気で子供を欲しがっていたのは、俺の目から見ても分かっていたからな」

「……」

 

誰だって、どんな親だって子を思う気持ちは本物だ。が、巧自身が割り切れない思いで、本当の親ではない、義理の両親の手を掴む事を躊躇っている。銀にとって、家族のありがたさは当たり前のような認識が根付いていたわけだが、巧の事情を聴くに、それも当たり前とは言えないようだ。コップに半分だけ残ったジュースの水面をジッと見つめる中、源道が姿勢を整えて、銀に話しかけた。

 

「銀君。無理を承知で申し訳ないが、こちらの要求を呑んでくれないだろうか?」

「頼み事ですか? それなら、バチこいですよ!」

 

どんな依頼かも聞いていないにもかかわらず、自信ありげに返事する銀。そんな彼女に対し、源道は頭を下げて、こう言った。

 

「彼の事を、君に頼みたい」

「……へっ?」

 

先ほどまでの自信ありげな表情は何処へやら。鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきで源道を見つめる。

 

「家庭の事情に教員が首を突っ込めば、家柄の関係上、厄介な問題に発展しかねない。だから、彼と親しくなった君達を介して、それとなく彼の事を気にかけてほしい。今の君達なら、それも可能だろうと判断した上の頼み事だ。苦労をかけるとは分かってはいるが、彼の為に、頼む」

 

再度頭を深々と下げる体育教師。それに対し、教え子は一も二もなく頷き、そして告げる。

 

「分かりました! あたしに任せてください! 勇者は助け合いですから!」

「そう言ってくれると心強い。俺の方も協力できる事があったら、いつでも相談してくれ。……さて、そろそろ家に帰らないと、ご家族が心配するだろうからな。時間をとってもらってすまなかったな」

 

そう言って源道は席を立ち、伝票を掴む。これから代金を払いに行くようだ。それを見て銀は持参していた財布を取り出すが、源道は笑みを浮かべながらそれを制す。

 

「誘ったのは俺の方だ。ここは大人の出番だ」

「で、でも先生。あたしは」

「これも依頼の前料金だと思ってくれ。君の事だから奢ってもらう事に色々思う所はあるだろうが、ここは大人に甘えるのも一つの手だぞ」

 

そこまで言われてしまっては、銀も返す言葉が思いつかない。申し訳なく思いながらも、結果的に2人分の飲み物代は源道が支払う事に。

店を出て、源道にお礼を言ってから背を向けて、家路につく銀。その後ろ姿を見ながら、傘をさす源道はポツリと呟く。

 

「頼んだぞ、銀君。君なら、彼の良き理解者になれると信じているぞ」




最近、『マギアレコード』で、ピックアップ中の『かずみ』を3枚引けたのは、今でも奇跡だと思う。(最高レアリティは1%だから)


〜次回予告〜


「頼みがあるんだ!」

「巧にーちゃん?」

「これならすぐ直る」

「1回だけだぞ?」

「……何やってたんだかな、俺」


〜家族の在り方〜


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