結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

プリキュアが大人向けに製作されるなど、誰が想像できたでしょうか……?
20周年とはいえ、羽目を外しすぎない程度に、フレッシュな感じを期待したい所です。

それでは、久々の本編です。


19:連戦

「私はここに駒を動かすとしましょう。いざ、華麗に進軍」

「……ここが勝負所だな。こいつを斜め前に移動」

「ん〜。2人とも強烈な手をすぐに指してくるにゃ〜。遊月もだけど、歌野も巧も、本当に将棋やった事ないの?」

 

とある午後。空き教室の一角で、歌野と巧(中)が向かい合って、机の上の盤面を凝視しながら唸っている光景が。遊月と雪花はそんな2人を傍観していたのだが、かれこれ1時間経った今も、初心者とは思えない手捌きの応酬に舌を巻いている。因みに少し前には遊月と雪花が手合わせし、結果は遊月に軍杯が上がった。

 

「まぁ、将棋やってるくらいなら、大抵修理作業か工具の手入れなんかで、手を動かしていたからな」

「でも、結構面白いわ。盤面の動きがうっすら見えてくるというか、分かるというか。つまりは、戦いと同じよね。あれもほら、敵の弱そうな所とか、攻めてきそうな気配が分かるじゃない?」

「いやいや、普通はそこ分からないよ」

「園子は分かってそうだけどな。戦闘時は誰よりも冴えてるし」

「流石によく知ってるね。……にしてもこの閃きタイプどもめ。眩い才能と言うべきか……。ちくしょう絶対負けない」

「その言葉遣いチャーミングね」

 

などと娯楽に勤しみながら会話を弾ませていると、歌野のスマホに着信が。

 

「あら?みーちゃんから勇者の呼び出しだ」

「神託絡みか」

「新しいお役目の始まりって訳ね。はてさて、今度はどんな事が起こるやら」

 

若干嬉しそうな笑みを浮かべながらも、雪花達は道具を片付けて部室へと向かう。

そうして3人が到着した所で神託が告げられる……前に、こんな一悶着が。

 

「実は私、少々困っているのです。一つは、冷蔵庫のエクレアが消えた事」

「誰かがつまみ食いしたって事か?流星が間違って食っちまったとか?」

「否!それはない!俺は寮の冷蔵庫にそのようなものが入っていた事は知らなかったからな!」

「ほんなら照彦はんが?」

「生憎、洋菓子はさほど興味ない」

「こう言うのも何だが、それは若葉が食べたのではないか?」

「わ、私がひなたのおやつを勝手に食べたらどうなるか……、思い返すのも恐ろしい」

「(あ、経験済みだったんだ)」

「少なくとも、若葉ちゃんではないですね。その辺りは結構厳しくしつけたので」

「ほら!」

「そんなに胸張って言える事じゃないだろ……」

 

呆れ口調の藤四郎。

それでは一体誰がひなたのエクレアを……?皆が疑い始めたその時、何処となく上機嫌な様子の少女がいる事に気づいた雪花が、目をギラつかせながら口を開いた。

 

「タマちゃん、口にチョコの残りがついてるよん」

「何ぃ⁉︎……って、何にもついてないじゃんかよ脅かすなよぉ……って⁉︎」

「カマかけられたな」

 

冷静に呟く巧(中)。先ほど歌野達が羨ましいと発言していた雪花だが、彼女も大概だろう。

 

「あらあら……。球子さんは後で東郷さんに手伝ってもらって吊るしますが、その前に本題を」

「実は神託が2つあってね。短い期間に戦闘が重なりそうなの」

「長丁場になる、か」

「はい。皆さんへの負担が大きそうで……」

 

巫女としても、自分達が前線に出られない分、勇者達への負担が大きくなる事を1番心配しているようだ。が、そんな彼女達の不安を払拭するかのように、彼らは堂々たる姿勢を見せつける。

 

「問題ない!我々とて、伊達に幾つもの修羅場を潜り抜けてきた訳ではない!」

「あんまり数が多いなら、2手に分かれて戦うのもアリだしな!ね、千景さん!」

「RPGでも時々見るアレね。晴人君の意見も一理あるけど、パーティーを分割するとなると、満遍なく鍛えてないと苦労するわよ」

「現在は勇者の数が強みの一つですから、パーティー分割は、最後の手段という事にしても良いかもしれません」

「ま、どんな敵が来ようと肥料にするだけね。頑強な土の船に乗ったつもりで、任せてちょうだい」

「そらアカン!沈むわ!」

「ここは戦艦と例えましょう」

「またこのオタクは……と言いたい所だけど、今回はそっちの方が合ってそうだな」

「という事で、何があろうと熱く、そして柔軟に対応してみせるぞ、ひなた」

「本当に頼もしい仲間が増えましたね。皆さん、宜しくお願いします」

 

深々と頭を下げたひなたは、何処からともなく長いロープを取り出した。それを見て真っ青になった勇者が1人いるが、その後の第2ラウンドの経過については、あまりにも悍ましかったので、割愛させていただく事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、ある者は『中2、中3が一番危ないから、愛の伝道師(自称)が直接様子を見て回る』という口実で他人の部屋に上がったり、またある者は格闘ゲームの魅力を後輩に教えていたり、うどんと蕎麦の魅力を存分に語り合ったり、別荘で着せ替えごっこをしたりなど、各々が有意義に時間を過ごしていると、そのときは唐突にやってきた。

 

「⁉︎まだ教室に来たばかりなのに⁉︎」

「もう警報鳴ったし⁉︎」

「出撃するわよ!お役目開始!」

 

そうして小学生達が懐から端末を取り出す様子を、少し離れた位置からこっそり覗く人影が。

 

「あ、須美ちゃん達の変身だ♪見なくちゃ」

「おーい杏、早く自分の準備しろよ。もうすぐ戦闘だぞ」

「うぅ、圧倒的正論……。分かりました……」

 

早速凹んだ様子の杏に構う事なく、一同は勇者、武神の衣装を纏い、樹海化した世界へと突入していく。

 

「やぁやぁ我こそは三好夏凜!さぁ敵よ出てきなさい!殲滅してやるわ!」

「へへっ。気合い十分だな夏凜!」

「!早速お出ましだな」

「あら?今回のは前のよりも慎ましやかなサイズ……。どんな仕掛けがあるのやら」

「基本的に、バーテックスはデカいヤツほど強い。どうやら今回の戦闘は比較的楽だったりして?」

「……フラグ建築資格、一級」

「ん?何か言った調?」

「……」

 

球子の袖を掴みながら、ふるふると首を横に張る調。

 

「ひなたの話じゃ、今回は連戦だって言ってたけど……」

「長期戦も視野に入れて戦いましょう」

「それなら任せろ。経験済みだ、なぁ?」

「だな。丸亀城の時は10人体制でもマジでキツかったけど、今回はその辺心配ないしな」

「さぁ、きっちり倒していきましょう。無理せず、でも確実に!」

「両方やってこそ勇者って事ねぇ。辛いねぇ、そこそこ頑張ろ」

「皆となら出来るよせっちゃん。よぉし行くぞぉー!」

 

雪花を鼓舞する友奈は、早速現れた星屑に先制とばかりに勇者パンチを叩き込んでいく。他の面々もそれに続き、10分経過した頃には、敵影は綺麗さっぱりいなくなってしまった。

 

「全部びしっとやっつけたねーすばるん。おかわりは来ないかな〜?」

「目視でも確認できませんし、レーダーに反応もありません。今回はもう帰還になりそうですね」

「神託では連続で戦闘があるって事だったけど……」

 

小学生組が首を傾げる中、西暦組のリーダーが声をかけてきた。

 

「速やかに撤収するぞ。だが部室に戻っても解散ではない。次に備えて待機とする」

「若葉殿。お腹が減ると思うのでありますが?」

 

不意に友奈がそう呟く。彼女の言う通り、次の出撃タイミングが分からない以上、軽い補給も必要となってくる。

 

「安心しろ友奈。ひなたなら気を利かせておいてくれる筈だ。私はひなたには詳しいんだ」

「マジの熟年夫婦過ぎだろ」

「やったね!じゃあすぐに帰ろうよ。実は既にお腹が空いちゃってて……」

「私もだ。だがバーテックスをかじると、それこそひなたに怒られるからな」

 

このやりとりを聞いていた風が、ふと思い返したような一言を。

 

「ん?お腹空いたんなら、夏凜かじって飢えを凌いでちょーだい」

「だから食えないっつーに!あたしを何だと思」

「ハムッ」

「食うなぁ!何で子孫と同じリアクションしてんのよあんたぁ!」

 

言うが早いか、夏凜の手の甲にかぶりつく若葉。その姿は、元の世界で行われた合宿にて、泳ぎ疲れた園子が飢えを凌ぐべく取った行動と瓜二つだ。やはりこの2人、思考回路がちゃんと遺伝しているようだ。

 

「!中々に味があるぞ!」

「えっ、夏凜さんかじれるんですか?」

「そ〜よ〜。にぼっしーの手は極上なのだ〜」

「そう言えば、夏凜は煮干しが好きだったな。煮干しの味がするのかもしれない」

「ほほぉ煮干しか。タマは魚好きだぞ」

「そうと決まれば、味見あるのみ!ガブリッ」

「んぎゃあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!イッタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ⁉︎そのまま噛み付くとか、あんたバカァァァァ⁉︎」

『外道メ!』

 

『夏凜の体=煮干し味』と聞いて、居ても立っても居られなくなった流星が、歯を立てて噛みついた事で、夏凜の絶叫と共に義輝が表に出て止めに入る始末。このままでは夏凜の身がもたないと判断した一同は、2人を引き離して急いで部室に戻る事に。

そうして部室に戻ると、何やら良い匂いが漂ってきた。

 

「んん!この香ばしいお出汁の匂いは……!」

「お勤めご苦労!」

「あ、丁度良かった。かけうどんが出来上がった所なの。今みんなの分を盛り付けるから、ちょっと待っててね」

「まだ先があるとは言え、腹が減っては戦はできぬと言うからな。たくさん用意してあるから、存分に味わうと良い!」

「わんぱく若葉ちゃんには大盛りを用意しましたよ。流星君のも」

「やはり予想した通りだ。ひなたありがとう」

 

部屋で待っていたのは、3人の巫女と、後から合流した2人の顧問が用意した、即席の兵糧だった。

 

「郷に入りては郷に従え、か……。蕎麦帝国の建国宣言はまだまだ先ね」

「うたのんにはちゃんとお蕎麦を用意しておいたよ。童山君も、はい」

「おぉ、かたじけないのぉ」

「みーちゃん最高!」

「くぅぅ……!ラーメンは出てこないこのシビアな世界……!まぁうどんも美味しいけどね」

「ソーキそばはないのか……」

「まぁちゃんぽんでもうどんでも、腹に入れば何でもアリや!ありがたく頂こうや!」

 

奏太がうどんを啜りながらそう呟くように、不満を口にしてはいるが、この際お腹を満たせれば何でも良い。そんなスタンスで雪花と棗も、アウェーの空気を感じ取る事に。

補給の最中、風が上級生を中心に、こんな事を語り始めた。

 

「もぐもぐ……、だからね、あたし達勇者は、武器の特性なんかで個性はあれど……アレよ。もう少しこう、雷を操るとか時間を止めるとか、そういう特殊能力があると味わいたいって話よ」

「特殊能力か、悪くない響きだ……」

「そうね。各自に何かしらの能力があれば個性として面白いと思うけど……」

「精霊降ろしがその例かもな。まぁ常時発動出来るわけじゃないから、元々備わってるのは確かにあっても損はないか」

「なら聞くけどよ。もし何か一つだけ、自由に能力が使えるとしたら、何が欲しいとかあるか?」

 

司の質問に対し、各々の反応は……。

 

「世界を書き換える力、とか。現在の問題だって解決できるし。……それに、うまく使えば私の事を見てくれたり」

「?千景?」

「!何でも、ないわ……」

「水を操る力も良いが……、重力を操る力が欲しいな。無重力にするのが強力だと思う」

「空を飛べるようになれば、それとなりに戦闘パターンも増やせるし、俺の戦い方に合う気がする」

「みんなそれなりに考えてるんだなぁ。ま、俺は何でも持ち上げられる力が欲しいけどな!」

「それは筋トレである程度は補完できるんじゃ……?」

 

などと会話を弾ませているのを感じた友奈が、兎角に声をかける。

 

「何だか3年生組が面白そうな話をしてるね!さすが年上さんチーム!」

「話題は小学生レベルな気もするけどな」

 

苦笑しながらも、器に残った汁を口の中に注ぎ終えたその時、全員のスマホから警報が鳴り響いた。

 

「!もう出撃……⁉︎」

「さっきの戦いから2時間ぐらいしか経過してないのに……」

「一息はつけたけど、中々にヘヴィな戦いになりそうだぜ」

「食後にいきなり激しく動くと体に悪いけど……」

「そりゃあお前、3回もおかわりすればそうなるだろうな」

「確かにうどんは美味しいけどね」

「まぁ予め連戦と聞いてたからマシだけどな」

「そうね。心構えがなかったらかなりゲンナリきてたわ」

「ここは、敵を多く倒せると前向きに考えよう」

「だな!さぁ行くぜ銀!この三ノ輪紅希様に続けぇ!」

「「はい!」」

「みんな、くれぐれも気をつけて」

「誠也、無理しちゃダメだよ?」

「心配するな。絶対帰ってくる」

 

予測されていた連戦に焦る事なく、一同は再び武器を手に、戦場へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜!元気の源補給してきたから、体力満タン!さぁいくぞ!」

「元気で何より」

「俺は食べ過ぎないで良かった。止めてくれてナイス、須美。おかわりしたかったけど」

「イッチーや、おかわりしたければ、サクッと戦闘を終わらせれば良いんだぜ〜」

「園子の言う通りだわ!ぱぱっと倒して、またうどんを食べましょう!」

「はっはっは!ならばうどんが伸びないうちに終わらせねばな!」

 

豪快に笑うのは、既に大盛り3杯を胃袋に収めた大食感の勇者2人。

 

「アレだけ食ってまだ足りないとか、マジで胃の中ブラックホールあるんじゃね……?」

「……怖い」

「素直に尊敬する。海でも余裕に生きていけるだろう」

 

棗らが関心する中、友奈と須美の方では……。

 

「須美ちゃん、準備はオッケーかな?」

「はい友奈さん。お役目を果たしましょう!」

「!東郷さんの声で『友奈さん』って、本当に斬新だね!」

「あら、それなら他にも色々試そうかしら?友奈君、友奈っち、友奈様……、友奈殿」

「どんどん位が高くなってる……」

「うーん、どれも素敵だけど、やっぱり『友奈ちゃん』がいいかな」

「うん!いこう友奈ちゃん」

「俺達も忘れるなよ」

「援護は任せろ!」

 

友奈と東郷に続き、兎角と遊月もそれぞれの役割を果たすべく、行動を開始する。

うどんによるチャージも功を奏して、前半戦からペースが落ちる事なく、順調に敵の数を減らしている面々。

 

「オリャアッ!」

「よーし、大分弱らせたな」

「今回は敵から変なオーラが出てないし、どいつも楽勝だな!」

「フィニッシュまであと少し、んじゃトドメを……」

「!いや、向こうから新手が……」

 

真琴がそう指摘するように、奥から敵影が確認された。レーダーからも正確な情報が得られておらず、未知の能力を秘めている可能性が高い。

 

「ぬっ。ここに来てもう1匹か。そういうサプライズは求めてないのにぃ」

「ん?新しく出てきた奴ってさ、数時間前に倒したバーテックスじゃないか?」

「!そう言えば……」

 

兎角の言う通り、現れたその姿は、見間違いでなければ、前半戦で倒したバーテックスと酷似している。単なる偶然だろうか。

 

「んん!ぴっかーんと閃いたよご先祖様〜!」

「あぁ、2体に距離がある。合流する前に、今戦っている敵を倒し、的確に数で押し切るぞ!」

「同意見じゃ!」

「問題ないな」

「ちょっと強引にいってもいけるわ」

「……そういう流れが見えるんだろうねぇ。指揮官タイプの才能ってのは」

「風さんと球子、紅希は遠くの敵が仕掛けてきたら、無理せず昴達と合流して防御を頼む!」

「っしゃあ!行くぜぇ!」

「よーし行くぞー!全力全開!」

「せいやぁ!出力最大!」

「「勇者パーンチ!」」

 

ダブル友奈の強烈な拳が、敵を押し除けていく。これにより敵の行動に乱れが生じた。

 

「私も高嶋さんに続くわ!」

「……速攻で終わらせる!」

「俺も!」

 

2人に続いて、千景、照彦、兎角も討ち洩らしを討伐していく。

 

「刻んで殲滅!乱舞を喰らいなさい!そらぁァァァァァァァァァァァァ!」

「燃えろあたしの斧!いっくぞぉ!うりゃあァァァァァァァァ!」

「いっけぇェェェェェェェェェェェェェェェ!」

 

続けて、同じ勇者の性質を持つ夏凜、ダブル銀が体をしならせて、烈火の如く燃やし尽くしている。

 

「銀君達の斧の威力はいつ見ても凄まじいわね。負けてられない諏訪の農業王!ハァッ!」

「ダァッ!」

 

歌野と童山の諏訪コンビも、豪快に攻撃を展開していく。

 

「大きくぐらついた……けど、反撃を狙ってるねこれは。させないけど!」

「なら反撃しようとしてる部分をぶち壊すッス!樹続くッスよ!」

「う、うん!えーい!」

 

雪花、冬弥、樹が相手のカウンターを読んで、槍やハンマー、そしてワイヤーを駆使して相手を完全に倒れさせる。

その様子を見ていた杏が、関心した表情を見せている。

 

「テクニカルな皆さんが、反撃を封殺している。流石ですね……!」

「そろそろフィニッシュ⁉︎いっちゃって!後ろはいい女に任せて!」

「向こうの敵の攻撃はこちらで防御します!皆さんはとにかく攻勢に!」

「うむ!行くぞ童山!」

「あぁ!脆い部分を叩く!」

 

トドメとばかりに、流星の一太刀と童山の張り手が、バーテックスの全身を砕き、砂となって消滅していく。

 

「よし!敵バーテックス!討ち取った!」

「果敢な攻めだねぇ。これで残りは後1体」

「では転進して、向こうの敵を倒しましょう」

 

昴(中)の指揮で、一同は前進し、後方から現れた敵とドッキングする。連戦となる訳だが、ここで足を止めるわけにはいかない。

すると、その周囲に小型サイズのバーテックスが出現し、行く手を遮り始めた。

 

「手下ってとこか」

「小さい敵にウロウロされては邪魔だ。ペアになって撃破していくぞ!続けぇ!」

「わ!待ってよご先祖様〜!」

 

真っ先に仕掛けた若葉に続こうと、必死に追いかける園子(小)。

 

「うぉ、真っ先に突っ込んでいったな」

「……チッ」

「?千景?」

 

不意に舌打ちをしたかと思えば、急に駆け足となり、鎌を振り下ろす。その進行方向には、バーテックスを薙ぎ払おうと躍起になっている若葉の姿が。

 

「!」

 

千景の接近に気づいた若葉が飛び上がり、千景の一振りでバーテックスは切り刻まれる。地面に降り立った所で、千景は若葉の小腹を鎌の柄の部分で小突いた。

 

「⁉︎な、何だ千景、いきなり攻撃したかと思えば小突いて。今はそれどころじゃ」

「張り切りすぎよ。これ以上熱くなると、周囲が見えなくなる。気をつけて」

「!」

「ご先祖様〜!やっと着いた〜!」

 

どうやら千景は、若葉が冷静でない事に気づいて注意を呼びかけたようだ。置いてきぼりにされた園子(小)が合流した所で、ようやく我に返った様子だ。

 

「……そうだな。連戦が続いて、少し焦っていた。早く敵を倒さなければ、皆が危ないと……」

「皆、それほどヤワじゃないわ。侮らない事ね」

「全くだな。ありがとう、千景」

「フッ。また危うくなりそうだったら、どついてあげるわ。今度は鎌の刃側で」

「そ、それは物騒だな」

「じゃあ気をつける事ね。一応、あなたの事も見ているわよ」

 

そう告げると、紅希達と合流するべくその場を去る千景。その様子を、高嶋達は遠目で観察していた。

 

「うん!ぐんちゃんカッコいいなぁ!」

「私達も気が合うって所を見せつけちゃいましょうか?」

「良いよ歌野ちゃん!」

 

そんな中、須美はただ1人、不思議な気分に陥っていた。

 

「それぞれの団結を見ていると、体の奥が熱くなる時がある。これって一体何なの?」

「目覚めだよ〜、良いよわっしー。そのまま育つんだよ〜」

「ともあれ道は開けたしな。このままバーテックスを叩くぞ」

「はい!僕が怯ませます!誠也さんは後から続いてください!2倍以上の火力で押し切ります!」

「おぉ、真琴君気合い十分!なら私はせっちゃんと協力して勇者パワーを10倍だぁ!」

「おっ、それじゃあ私は20倍!」

「あたし100倍ー!」

「タマは1000倍!」

「精神年齢低っ⁉︎」

 

司のツッコミを気に留める様子もなく、一同は突撃を試みる。そんな中、遊月は依然として不安が拭えない。

 

「(本当に同じ個体が連続して出ただけなのか……?それとも、再生体……?判断材料が少ないが、今はこちらが優勢。このまま攻めきるしかない!)」

「敵は確実に弱まってる!今こそ勝機だ!」

「いざ、バーテックスにトドメよ!この鎌で刈り取る……!」

 

千景が仕掛けようとしたその時、遠くを観察していた昴(小)から新たな報告が。

 

「!また新しい敵です!位置は遠いですが、これは……!」

「おかしい……!次から次へと……!」

「マジかよ、もう終わりだと思ってたのに!」

「しかも敵の形状は、さっき倒したのと同じ個体……!それに、また動かない」

 

こうも同じ事が続けば、偶然という一言では片付けられない。これが敵の能力であれば、一刻も早くその解決策を見つけ出さなければ、消耗戦になってしまう。

 

「一筋縄じゃいかなくなった敵か。造反神も必死だな」

「私は何となくだけど、造反神がどんな神か、想像ついてきたかな。予想が当たってるとしたら、逸話通りの暴れん坊さんだわ」

「にしてもマズいぜこれは。敵も合流しようとしてるし、対応しないと」

「とにかく、今は弱ってる敵を倒しましょう。須美ちゃん、伊予島さんは私に続いて……それ!」

「溜めて……放つ!」

「狙いはしっかり……えい!」

 

東郷、須美、杏の遠距離組が放った攻撃は、手前で兎角達が戦っていた敵に命中し、そのまま消滅する。このまま遠くから向かってくる敵を倒しに行っても良いのだが、ここまでの事例から考えて、迂闊に攻め上がれない。

力押しで勝てる相手ではないと判断した遊月は、一旦後退し、ここまでの戦闘を振り返る事に。

 

「デヤァ!」

 

遊月が思考する中、薙刀を持つ晴人が必死に戦っているのが見える。そんな彼を支援するように、他の5人も周囲から攻撃を仕掛けている。小学生達が一歩も退かずに戦っているのだ。何としてでもこの戦況を打破しなければ。

不意に、真琴からの報告でまた新たに遠くから敵が現れた事を告げられ、ハッとなる遊月。後続の敵が現れるタイミングといい、同一個体しか現れない事といい、神託の内容といい、一つの予感がよぎったのだ。

 

「攻略法が分かったぞ」

 

そう聞かされた一同は、前線メンバーの半分を呼び戻して、作戦を伝える事に。

 

「おそらく今戦っているバーテックスは、双子型のように、2体で一つの存在だったんだ」

「2体で、一つ……?どういう事だ?」

「最初は何度も再生する個体かと思っていたが、それにしては復活のタイミングに差異がありすぎる。後方から現れる新たな敵は、必ず前線の敵を倒して、後からやってきた敵と交戦する頃に姿を現している。それが偶然じゃなく、敵の能力だとしたら……」

「!まさか……!」

「仮に片割れを倒したとしても、もう片方が存命なら、一定の時間で回復する。そう考えれば、後方の敵が一切動かずに、こちらから仕掛けるのを待っていたのも説明がつきます」

「片割れが復活する時間を稼いでいた、という事だな」

「つまり私達は、知らないうちにパターンに入ってたってわけね」

「ハメ技って事か。ややこしい敵だなぁ」

「頭のいい奴らだ。国語の成績5だろうな」

 

妙な形で関心する球子はさておき、戦いを長引かせない為にも、作戦を練る必要がある。

 

「とにかく大事なのは『連携』だ。同時に攻撃を仕掛けるしかない。多少のラグがあっても、ほぼ同時に倒し切れば問題ない」

「倒すには調整が必要……まさにボス戦ね」

 

攻略法は分かった。後は実戦でそれを証明するのみ。

一同は一致団結し、両方の破壊に挑む。2体の敵は、能力がバレる事を警戒してか、一定の距離を保っている様子だ。或いは2体で力を合わせて、反撃に転じるかもしれない。2体を近づけさせて、一気に高火力でまとめて倒すのは至難の業だ。

根拠のない勘だが、遊月の言葉なら信じられる、と雪花は心の中の自分にそう言い聞かせる。

 

「大変だけど、何とか終わりが見えてきたね!」

「カラクリが分かれば、力を振り絞って決戦あるのみだ」

「ここが踏ん張りどころだ!皆で力を合わせて乗り切るぞ!」

 

若葉の鼓舞で士気が上がり、一同は行動を開始する。

 

「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」

 

前線のバーテックスを怯ませた後、ダブル友奈の攻撃が敵を貫通し、砂となって消滅する。後方の敵は依然として動いてこないが、復活を待っているのだろうか。

 

「今だ!」

 

だが、今度は同じ結末を辿る事はなかった。遊月の号令と共に、遠距離組の4人が攻撃を仕掛けてきたのだ。クロスボウやライフルの雨が降り注ぎ、次に2本の矢が、バーテックスの中心部分を射抜くと、後方の敵はそのまま砂となって消滅する。

作戦通り、2体のバーテックスの同時攻撃に成功した勇者部一同。倒してから数分の間は警戒を怠らなかったが、5分ほど経った後、東郷がホッと一息つく。

 

「敵、復活せず。完全に消滅と断定していいかと」

「よっしゃあ!念の為にと待機してたけど、大丈夫ねこれ!帰還しましょうそうしましょう!」

「いやっほう!ミッションコンプリート!あー疲れたぁ!流石の銀さんも疲れた!」

「今回は遊月の判断に助けられたな」

「うんうん!遊月君カッコよかったぁ!」

「そこまで褒められる事はしてないけど、上手く連携が取れて良かった」

「ウフフ。後でタップリお礼をしなくちゃ♪」

「と、東郷の目つきがなんか怖いんだけど……」

 

うっとりとした東郷の表情を見て、畏怖を覚える夏凜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いを終え、部室に戻ってきた一同。

巫女達が皆を労う為にとお茶菓子を用意していたのだが……。

 

「すぴー……Zzz……」

「Zzz……、若いうちのぉ〜、失敗はぁ……、将来のぉ……、女子力アップにぃ、繋がるぅ……Zzz……」

「Zzz……あぁ、やめてよぉタマっち先輩、もごうとしないでぇ……」

「……晴人君、宿題をやってぇ……Zzz」

「Zzz……、う〜ん。勘弁してくれぇ……」

「何だか面白い寝言だね」

「凄い小学生達だ。尊敬している」

 

全員、とまではいかなかったが、殆どの者が部室に辿り着くと、誰ともなしに深い眠りについてしまった。それだけ疲労が溜まっていたのだろう。

 

「……あぁ、もうすっごい疲れたぞぉひなたぁ……。キツかったぁ……Zzz」

「……とっても頑張ったんですね。今は休んでください、若葉ちゃん」

「Zzz……美羽ぅ、約束ぅ、守った……Zzz」

「……うん。おかえり、誠也」

 

ひなたと美羽に膝枕されている若葉と誠也の表情は、普段と打って変わって緩みまくっていた。源道達からも許可は降りているので、しばらくの間、部室で仮眠をとる事となった一同。

……が、そこに今回の立役者である武神と、彼の躾役を買って出た勇者の姿がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、無事で良かったなぁ……」

「そうね……」

「でも、敵も強くなってる。気を引き締めないとな……」

「そうね……。でも、今日くらい、羽目を外しても、ね?」

「そうは言うけど……。俺はもう、疲れて……」

「大丈夫。今日は私が、引っ張っていくから。……ほら、力を抜いて」

「んんっ……」

「いっぱい頑張ったご褒美。ここ、触ってみて?」

「(……あぁ。頭ボーッとしてるけど、何か、手に柔らかい感じが……)」

「んっ……!気を張ってたから、かしら。ここ、硬くなっちゃってるみたいなのぉ。揉んでもらいたいのぉ……」

「須美ぃ……。ンプッ……ンン」

「ジュル……。晴人くぅん……。ちゅくっ……」

「プハッ、須美ぃ……。ンクッ、今日は、一段と……」

「……チュパ。晴人君への、ご褒美だからぁ……。ヌプッ、んんっ!」

 

夕日がカーテン越しに差し込む空き教室にて、翌日は筋肉痛必至であろう、第2(?)の戦いを始める、2人だけの時間が、ゆっくりと刻まれていた……。

 

 

 

 




前書きで羽目を外しすぎないように、と言っておきながら、最後の描写は我ながらやりすぎた気がしますが……。まぁ我慢してた分だと思えば……、ね?


〜次回予告〜


「何が秘訣なんじゃ?」

「……飛ぶわ」

「尾行は勇者の伝統という事か」

「伏せる文字変えないでぇ!」

「まだまだ頑張らないと」


〜Gに備えろ/冷静とクレバーの秘密を探れ〜


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