結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

シンフォギアxd では待望の『結城友奈は勇者である』とのコラボが実現し、私も響とクリス、そして翼を完凸させました!

……が、その散華とばかりに通達された、『花結いのきらめき』のサービス終了。とうとうこの日が来たか、という気持ちです……。

物語には、始まりがあれば、終わりもある。ゆゆゆに限らず、大事なのは、そのあとその結末を見届けた私達が何をするべきなのか、だと私は思います。
天の神との壮絶な戦いの後、友奈達が何をしてきたのかを、もう一度思い返してみてください。
私は、この小説投稿を通じて、世界中の皆さんに『結城友奈は勇者である』という、素晴らしい作品がこの世界にあった、という事を残していきたい。その一心で、これからも時間の許す限り、投稿を続けていこうと思います。
改めまして、ご意見ご感想等をよろしくお願いします!

『振り落とされるなよぉ〜!』




16:戦いの果ての現実

巫女らが受けた神託に従い、未来を見い出すには相応しいとされる、満月の日に土地の奪還を計画した勇者部一同。

とはいえ、その日までには多少なりとも猶予があるとの事で、源道の判断の下、一同はそれぞれ、有意義な時間を過ごす事に。

 

「歌野ちゃん?何してるの?」

「ジグモの巣があってね。これは特大サイズなんじゃないかって、ワクワクしてたの」

「おぉ、さすが歌野ちゃん!虫取りが上手い勇者なんだね〜」

「その言い方もどうかと思うけど……。けどまぁ、手慣れたもんだよな。諏訪でもやってた感じか?」

 

兎角も、見様見真似で木の枝を動かしている。四国に負けないぐらい、豊かな緑に囲まれた諏訪ならではの、経験の賜物というやつだろう。

 

「おっ!なんか楽しそうな事やってる!俺も混ぜてください!」

「おいらも!」

 

そこへ、晴人と冬弥が手を振りながら駆け寄ってきた。歌野達が外で、ジグモとりで遊んでいるのをみて、好奇心が抑えきれなかったのだろう。

 

「みんなで体を思い切り動かすとするか。その後に食べるご飯は美味しい。うん、美味しい」

「わんぱくですなー。私はあんな元気ないや。木陰でお茶がいいな」

 

棗が歌野達とジグモとりに夢中になる中、雪花は参加する気はないらしく、木陰でくつろぐ事に。

そしてそれは、この2人も同じく。

 

「ぽかぽかして、いい気持ちですね。あぁ、昴君が淹れてくれたお茶が美味しい……」

「須美ちゃんは老成しすぎのような気がするんですけど……。まぁ、でもそこがいいところか」

「所で、雪花さんは、先ほどから何かを記しているようですが?」

「あぁこれね。私達がいるこの世界……神樹様の中ならではの独自ルールを色々とまとめているの」

 

昴(小)が、雪花がせっせとノートに書き留めているのが気になり、話しかけた。

 

「独自ルール……ですか?」

「いざという時、混乱しないようにね。今書いているところ、見てみる?ほら」

「えぇっと……、『この世界では、勇者ではない巫女も、顧問も、樹海化の影響を受けていない。興味深い現象である』」

「色々と受け入れて頭を柔軟にしとけば、有事の際にパニックにならなくて済むってわけ」

「成る程……!勉強になります」

 

普段から、仲間から『頭が堅い』と言われてばかりいるからか、須美は関心した様子でノートを覗いていた。

 

「本当に真面目だねぇ〜。でもま、メモを取り始めたのは、園子ズの影響もあるかも」

「そのっちはいい子ですけど、予測がつかない動きをしますから」

「それはあんたもだ。……まぁ、中学生バージョンよりかはマシだけど」

 

この世界に来てから見てきた、護国思想強めの勇者の言動を思い返し、苦笑する他ない雪花であった。

さて、その頃。3人の会話の中にも出てきた少女達はというと……。

 

「ハァア……♪園子先生の小説作品、相変わらず素敵です……、心が豊かになっていきます」

「うちのあんずは、すっかりソノコストになってしまったようだ」

「でも、園子の小説、面白い」

「さすが園子先輩ですな〜。肩揉みかたもみ」

「おぉ〜いやいや〜。そのっちほど瑞々しい感性はもうないかもね〜」

 

寮の部屋で、園子(中)がネットにあげたばかりの新作に読み耽っている杏の姿が。同じ目的で、園子(小)や球子、調、司、そして奏太も集っている。

 

「俺は小説読むと眠くなっちまう方だけど、園子の書くやつは不思議と眠くならないんだよなぁ」

「ふぁいんせんきゅ〜」

「……せやけど、ホンマに若葉の子孫なんか?っちゅうほど、この2人って若葉と全然似とらんし、そらみんな首を傾げるわなぁ」

「ほんとそれだぜ。その点、紅希の子孫は見事なまでに性格を受け継いでるわけだし、調は、同じ苗字で巧がいるけど、あいつは養子として引き取られた所もあるし、友奈は……、まぁ似てる所もあるか」

「私達の子孫って、どんな人なんだろうね」

 

杏がふと思った事を口にする。伊予島、土居、西園寺、桐生。いずれも園子達が元いた世界では、名家として今尚存続している一族であり、当然子孫も存在する事だろう。しかしながら、園子ズといえど、実際に顔を合わせた事がない為、返答は難しい。

 

「生意気なやつかもな。場合によってはご先祖様が上下関係を教えてやる必要があるやもしれんぞ」

「それはあり得るかもな」

「子孫だったり、そうじゃなかったり。色々とややこしいから、みんな全部同じ家系でいいかもねぇ」

「何だか壮大な小説ネタを閃きそうだよ〜。よぉし、早速没入だ〜」

「……やっぱり似てない」

 

突拍子もない所から、早くも次回作に期待を膨らませている姿を見て、調は考える事を放棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。有明浜では鍛錬に励んでいる者達や、それを見守る者達の姿が。

 

「よし、一旦休憩に入ろう。かれこれ1時間は体を動かしているからな」

「はい、お疲れ様です若葉ちゃん」

 

普段から夏凜と銀(中)がトレーニングの為に訪れている有明浜には、若葉、流星、童山、誠也が、2人に誘われて共に鍛錬を積んでおり、ひなたも付き添いでこの場に訪れていた。

 

「ううむ。穏やかでえぇ浜辺じゃな。諏訪に来てからは海とは縁もなかったからのぉ」

「うむ!次の満月に備えて鍛錬するにはうってつけの場所と言えるな!」

「良かったですね、皆さん。いい修行場所を紹介してもらって」

「ここでの稽古は身が入るわよ。……んで、その」

「?どうした夏凜」

「よ、良かったら、これからも、っていうかこの世界にいる間は、一緒に鍛錬どうかしら。攻め込む時は互いに先頭にいるだろうし」

「?まぁ、構わねぇけど」

「敵の土地に行くわけだからな。しっかりと準備はしておきたい」

 

顔を紅くしながら提案する夏凜に首を傾げつつも、一同は同意する。

 

「!さすが初代勇者。いい心構えね」

「へへっ。良かったな夏凜!」

「うちの部長なんか、もうちょい鍛錬してもいいと思うわ」

「まぁ、人それぞれですし」

「ひなた、あんたも一緒にどう?もちろん独自にメニューを組むわ」

「わ、私は美羽さんほどではありませんし、良い運動程度に抑えてくれるのなら……。お手柔らかにお願いします……」

「そういえば、美羽さんって元の世界では陸上部だったって、こないだ言ってたな」

「あぁ。勇者や巫女になる前は、よくランニングしてたけど、タイムはあいつの方が早い」

「そうなのか!いつかは勝負してみたいものだ!それに今度は、皆で合同訓練もしてみたいものだ!」

「千景あたりは文句を垂れそうだがな……」

「?ってか、美羽さんどこに行ったんだ?さっきまでひなたと一緒にいたよな?」

「あぁ、彼女ならあそこに……」

 

ひなたが指差した先には、海岸線を歩くワンピースに身を包んだ美羽の姿が。散歩をしているのだろう。更にその奥には、どこか上機嫌な水都の姿もあった。歌野の姿がない事から、一人でこの場に訪れたようだ。

有明浜は讃州市のスポットである為、見知った顔ぶれの面々も、ここ最近見かけるようになったのだ。

 

「何だか上機嫌だね、水都ちゃん」

「わ、私やうたのんは、海、あんまり行った事ないので、珍しくて、ついはしゃいじゃって……」

「そっか。長野県は海に面してないから……。でも諏訪湖があるから、泳いだりした事はないの?」

「見慣れていますと、ちょっと……」

「成る程ね。……所で、水都ちゃん何やってるの?」

「綺麗な貝殻があったから、幾つかうたのんに持って行ってあげようと思って。……でも、うたのんならそのまま畑の肥料にしちゃうかもだけど」

「うふふ。歌野ちゃんらしいわね。でも、良いチームだよね。諏訪組は」

「美羽さんと誠也さんのペアも、中々に凄いと思いますけど……。色々な意味で」

 

水都のその言葉を聞いた途端、美羽の醸す空気が変わった、ように感じられた。

 

「……私が私らしくいられるのも、この世界のお陰なのかもね。だってここは名古屋じゃないし、知ってる人もいないから」

「えっ」

「ここだけの話。元の世界は、誠也はどう思ってるか分からないけど、私にとっては窮屈だった。お役目に縛られて、楽しい時間も減って、そのうち、誠也が遠くにいっちゃうような気がして……。それがどうしようもなく嫌で……。出来る事なら、この世界に……」

 

そこまで呟いた美羽はハッとなって、首を横に振った。

 

「う、ううん何でもない。造反神を鎮めたら、みんな元いた世界に帰らなきゃいけないんだから、私がそんな我が儘言ってちゃダメだよね。今のは軽いジョークだと思ってね、水都ちゃん」

「は、はい……」

 

そう頷く水都は、困惑に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

讃州市の商店街にて、銀(小)や巧(小)を先頭に、県外からやってきた面々の姿が。召還されてからまだ紹介していなかった事もあってか、銀(小)の計らいで、ツアーガイドよろしく、一同を商店街巡りにご案内したのだ。

 

「でもガイドさんも、地元はここじゃないんでしょう?」

 

得意げに解説するガイドに興味を持ったのか、雪花が話しかける。

 

「もう時間を見つけては探検して、その辺を歩き回ってますから。中学生のあたしにも協力してもらって、地理は極めました!」

「そら頼もしいわ!」

「元気な小学生ね。採れたてのトマトのように瑞々しくて」

「うたのんの例えは、一歩間違えれば相手に喧嘩を売りかねないから、気をつけてね……」

 

歌野らしい面を指摘し、相手に失礼がないようにと釘を刺す水都。

 

「ま、銀だけだと何かと不安だから、俺もついてきたわけだが……」

「という事で、何かあった時の苦情は、巧にお願いします!」

「先に謝っておいた方がいいか、これ……?」

「ふ……。仲良しだな。海もお前達を祝福している」

「「海が?」」

 

棗の褒め言葉に首を傾げつつも、商店街を案内する2人。食事処や雑貨店などを紹介いく中、雪花は洋服屋の前で足を止めた。

 

「ふむふむ。中々いい服もありますな。棗さんや美羽さんはどう?」

「私は動きやすければそれでいいからな……」

「私も特にこだわりがあるわけじゃないけど、男女兼用のものがあったら、気になるかもってぐらい。どうせなら、誠也とお揃いの方が良いから」

 

2人の反応が芳しくない事に、心の中でやれやれと思いつつ、歌野や水都にも声をかけようと振り返った雪花の目に飛び込んできたのは……。

 

「この服どうかな?水玉模様に大きな文字が面白くない?」

「んんっ?中々前衛的なチョイスを……」

「お、ええんじゃなかろうか。ワシはこれくらい一色の方が好みじゃな」

「私が選んだ服はどうかしら?この派手な柄に大きな文字!」

「ちょいと待ったぁ!あんた達、その服本気で選んでるって解釈でいいのかしら」

「そ、そうだけど……?」

「どうしたんじゃ雪花?」

「センスは人それぞれ。指摘するのは野暮だと分かっている。それでも言わずにいられない……!諏訪組は、服のセンスがそこまで宜しくない気がする。素材が良いのに勿体ない……!」

 

これには、さすがの歌野もムッときたのか、険しい顔つきだ。

 

「みーちゃんと童山君の服に文句をつけるなんて。ナスの光沢のように光ってるのに」

「どんな例えやねん⁉︎ほいでナスのようなって言うたら、歌野も似たようなもんやん!」

「うーん、センスよろしくないかなぁ……?選んだ服を着た2人、似合ってると思うけどなぁ」

「いやだから、素材が良いから勿体ないっていうか……。特に水都なんかは、もっと服選びに気をつければ、更に女子力は上がっていくだろうし」

「女子力ねぇ……。風が真っ先に飛びつきそうな内容だな」

「センスは普通だと思っていたわ……。ここらへん、あなた達はどう思う?」

 

困り果てた歌野が、棗らに意見を求めるが、結果は一目瞭然だった。

 

「ノーコメントだ。よく分からない。何ならこの位置からでも母なる海に聞いてみようか……」

「その言い方だと、海が万能アイテムみたいに聞こえてしまうんだが……」

 

早速海の言葉に耳を傾ける棗だったが、首を横に振るばかり。当然、小学生2人に答えが出せるはずもなく。ここは一つ、勇者部の面々に意見を募る事を決めた雪花であった。

計画はその日のうちに実行され、雪花が部室に顔を出すと、樹がタロット占いで高嶋を占っている光景が。

 

「……で、最後に恋人の正位置ですね。今、高嶋さんは健康運、金運、恋愛運といった面で、絶好調という事になります」

「わー色々と絶好調だ!恋愛運もかぁ。つまり今の私なら、照くんを口説いちゃう事も可能かな?」

「⁉︎ゴホッ、ゴホッ……⁉︎な、何を言い出すかと思えば……」

「大丈夫か照彦⁉︎」

「一度に頬張りすぎですよ……」

 

和菓子を口にした状態でむせてしまった為、慌てて照彦の背中をさする紅希と昴(中)。それを見て、千景がポツリと一言。

 

「どうかしらね。その手のゲームの攻略は難しいわよ。相手が相手だからね」

「およ?」

「そっかー。いっぱいアタックしないと、だね」

「成る程こうなると。千景先輩賢い〜、そして尊い〜」

「樹、あたしの恋愛運占ってどうぞ」

「お姉ちゃんは占うまでもないでしょ?今度、藤四郎さんとお出かけするって聞いたけど?」

「ど、どこでその情報仕入れたのよ⁉︎ハッ!まさか園子ズ……!」

 

怒りの矛先が園子(小)に向けられようとした時、タイミングが良いのか悪いのか、鍛錬から戻ってきた夏凜達が入ってきた。

 

「ただいま。ふぅ、良い汗かいたわ」

「さすがに若葉相手だと、疲れがいつにも増すなぁ」

「私は3年間、ずっと戦場に身を置いてきたからな。常に鍛錬を惜しまなかった。小休止したら、またやろう」

「そうね。という事で風、お誘いがあるんだけど?」

「ん?何よ」

 

これはマズい、と直感が働いた雪花が、割り込むように話題を投入する。

 

「ちょい待ち!いきなりで何だけど、ちょっとみんなに聞きたい事があるんだ。特に風さんに」

「んん?何よ、次から次に」

「ファッション……基女子力に関する話よ!」

「それはもうあたしがいなくちゃ始まらないでしょうねぇ」

 

女子力、というワードさえ挟めば、こちらに食いつくと分かっていたからこその先手だった。やはり雪花は侮れない、と認識する一同。

 

「ってちょっと雪花!緊急じゃないなら、声かけるの早かったこっちの話を優先しなさいよ。お役目についての案件よ」

「おおう、女子にもモテるあたしか……ん?」

 

不意に、室内に鳴り響く警報。バーテックスとの交戦の合図だ。

 

「OUCH!バーテックスにはモテたくなかった!……あ、今回は攻め込むから神樹様になるのかな?」

「お姉ちゃん、いいから準備しようよ」

「それにしても、風さんが言うように、攻め込むにしては、出撃タイミングが少し早いような……」

「今がその時って事でしょうか?」

 

昴(中)が首を傾げながら呟く。戦場とは刻一刻と戦況が変わるもの。ともなれば、攻め込むタイミングがズレるのもよくある事なのかもしれない。

 

「攻め込む、か。戦いは新たなステージに行くのね。第2戦術……」

「お、千景がやる気だな。なら、俺も人肌脱ぐとするぜ!」

「とにかく、話は後だ。行くぞ雪花!」

「あまり忘れてほしくないんだけどなぁ。可愛いだけに勿体ないし、まぁ、一旦切り替えますか」

 

服や鍛錬の話は保留となり、雪花達も仲間と合流するべく、樹海へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜♪相変わらずの樹海だねっと」

「?どうした雪花。やけに上機嫌のようだが」

 

ふと、雪花の様子が気になった藤四郎が声をかける。

 

「最近はこの任務にやり甲斐を感じてるわけよ。ここは雑音がないのが最高。味方か敵かだけ」

「……その様子じゃ、北海道では相当過酷な戦いを強いられてたようだな」

「戦いは、まぁ大変だったけど、それだけじゃなくてね……」

「?」

「とりま、もうみんなでずっとここにいれば良いんじゃないかなって思っただけ」

「さすがにそれは……」

 

嗜めようかと思った藤四郎だが、雪花の顔を見て、何かを察したのか、それ以上言及しない事に。

一方、いち早く敵の偵察に動いていた東郷と真琴が合流し、戦況を確認する。

 

「どうでしたか東郷さん、そちらの様子は」

「敵の姿があったわ。でも、一つの所から動いていない」

「何かを守っている、という事でしょうか?」

「神樹様曰く、敵はあの位置を守護しているから、攻めてくる事はない。こちらから仕掛けるしかないわね」

「それって、神樹様曰く……ご神託という事ですか、東郷さん」

「ってかよ、東郷ってひなたみたいに神樹様の声が聴けるのか?」

 

2人を会話が気になった杏と司が確認する。

 

「えぇ。私はそういう素質もあるみたいなので」

「東郷さん万能だなぁ!凄いね!」

「友奈ちゃんの方が凄いと思うけど」

「って事はさ、須美にもそういう才能があるって事じゃねぇか?やっぱ凄ぇな須美は!」

「どう、かしら?私には何も聞こえないけど……」

「わっしーは無限の可能性を秘めているよ〜。イッチー共々ね〜」

「じゃあタマにもあるかもしれんな……。そういう秘められた特異の才能ってものが!」

 

何にせよ、敵を叩かなければ何も始まらない。雑談を終わらせると、一同は武器を持って攻め上がる体勢に。

 

「善は急げだ!自分の斧でスライスしてきます!」

「俺も続くぜ!」

 

早速銀(小)と晴人が特攻しようとするが……。

 

「!待て銀!」

「「晴人君!」」

「な、何だよ巧⁉︎」

「&ダブル須美ブロック⁉︎何で止めるんだよ⁉︎」

「動かない分、近寄ってきた敵に対して、不意打ちを仕掛けてくる可能性があります!ここは慎重に攻めるべきかと」

「……君子危うきに近寄らず」

「ゲームでも、そういう敵が厄介だったりするわ。早まらないでね、三ノ輪君」

「って、何で俺なんだよ⁉︎」

「元の世界で、先走りすぎて、何度も怪我してきただろお前は」

「……フフ」

 

その様子を見ていた若葉がフッと笑みを浮かべていた。

 

「何を微笑ましい目で見てるのよ気持ち悪い」

「そこまでいうか……。いや、良い先輩勇者だと思ってな、千景」

「……ゲームの話をしただけよ」

 

これ以上掘り下げられたくないのか、そっぽを向いてその場から遠ざかる千景。

 

「行くぞ勇者達!慎重に敵を叩く!」

 

童子切を敵に向けた流星の号令で、一同は足を動かす。目の前の敵を薙ぎ払い続け、変化があった時には立ち止まって様子を見る。といったスタンスで行動を開始した友奈達だったが、どういうわけか、敵は反撃する素振りもなく、その場に留まっているようだ。

気になった兎角が足を止める。

 

「全く反撃の気配なし、か。どう思う?」

「これは楽勝ムードだな。油断はしないけどな。そこがタマの強い理由だ」

「おぉ、流石球子さん!尊敬するなぁ!」

「いい声だぞ晴人。尊敬と情熱が入り交じってる。26タマポイントをやろう」

「前から思ってたけど、そのポイント制何なの?」

「とにかくよ、この調子でガンガン攻めていくべきだぜ!」

「そうだな。海もそう言っている」

「畳み掛けるぞ!」

『諸行無常』

 

夏凜の隣に現れた義輝も、躍起になっている様子だ。が、そんな彼らを引き止めるように、真琴の声が響き渡る。

 

「!皆さん待ってください!バーテックスの様子が変です!」

「え、何や?別に変わらんと思うんやけど」

「!本当だ。何か、オーラのようなものを纏っているような……」

「何かヤバそうな雰囲気……!」

「よく気づいたな、真琴」

「へっ?いや、僕は別に……。自分で言うのもなんですが、臆病すぎるといいますか、とにかく、相手の動きには敏感でして。鍛錬で走れるようになったお陰で、前衛でも後衛でも、色んな所から敵の動きが見えるようになったんです」

「いい事よ。臆病は生存に直結するわ」

 

真琴のシャイな性格が、結果として被害を食い止めているともなれば、これほど頼もしい事はないだろう。夏凜の口も、微かにつりあがっている。

 

「にしてもこのバーテックスもどき、個性豊かだよなぁ。守りに専念するやつなんて、初めて見たぜ」

「色々な顔を見せる……。造反神の特徴に起因しているのかもしれません」

「何故だろうか……。こいつらからは海の香りがする」

「いやいや棗はん。あんさん、何かと海ってワードつけすぎやろ……。まぁ別に構へんけど」

「そ、それは誤解だ。……いや、海うみ言ってるか。だがよく考えると、それは恥ずべき事ではないな、うん」

「それって、夏凜が何かと煮干しを貪り食ってるのと同じ感じ?」

「そこまで頻繁に食べてないわよ!……って、何か敵のオーラ増してない?」

 

夏凜がツッコミを入れている最中、確かに陣取っている敵のオーラが増大しているようにも見える。

 

「うむ!話しながらも敵から目を背けず!見事なり、夏凜!」

「敵も反撃開始、か」

「突っついてやるか!この三ノ輪紅希様に、任せときな!」

「ったく。一度に倒せないのはもどかしいな……」

「まぁ、1匹の怪人を倒すのに2話使うとか、特撮でもよくある事ですんで」

「そ、それは確かに……」

「そういえば、三ノ輪君もそうだけど、銀ちゃんにも弟がいるのね。だから詳しいのね」

 

千景が言うように、紅希にも歳の離れた弟がおり、常日頃から自慢の弟だと言いふらしていたのを思い出す。

 

「そ、それでは皆さん、頑張りましょう!」

「お、いい声出しだな樹」

「おうよ!気合い入れていくぞい!」

「樹がみんなに檄を飛ばしている……!あるのね、樹にもリーダーの素養が……!」

「本当にシスターラブなのね。良きかな」

 

今度は樹の号令で動き出す面々。

真琴の判断で、初手は飛び道具を扱う面々の攻撃で様子を伺う事に。

 

「南無八幡大菩薩!」

「文字通り、突っついてやりましょ」

「ハァッ!」

「狙撃します!」

 

そうして、須美や雪花、遊月、東郷、杏、そして真琴が敵に攻撃を仕掛ける。尚、歌野や樹、球子、調、昴(中)、ダブル巧、司といった中距離攻撃タイプの面々は、負傷リスクが高いという観点から、攻撃には参加していない。

 

「!おい見ろ!攻撃を受けたバーテックスが……!」

「何かするよ、って感じだね!」

「!こっちに来てます!」

「そっちから来るなら……!ハァッ!」

「フンッ!」

 

向かってきた相手に、火球を浴びせるダブル巧。遠距離組の援護に回るようだ。樹も負けじと応戦する。

 

「お仕置きっ!」

「ほっほっほ。これが樹の実力じゃ。バーテックスがまとめてスライスよ」

「何であんたが得意げになってんのよ!」

「糸の網でくるんで、ザクーって細切れだね。樹先輩の武器は、応用利くんだねぇ〜」

「園子ちゃんのその槍も、相当自由自在だと思うよ……。盾になったり階段になったり」

 

そんなこんなで交戦していくうちに、何人かが違和感に気づいた。

 

「つーか全然減らねぇな、敵の数」

「!まさか……」

 

これを聞いた遊月は、矢を装填し、奥で待機している巨大な敵を射抜く。

 

「目標に着弾した!」

「さすが遊月、ナイスヘッドショット!……ヘッドかどうかは分からないけど」

「あっ、見てみて〜!」

「増殖してる……!」

 

真琴がそう呻くように、攻撃を受けた敵は、次々と吐き出すように別の個体を生み出して侵攻している。これが敵の能力のようだ。

 

「まったく行儀の悪い奴だ。母ちゃんに叱られるぞ……って、またこっちに飛んできた⁉︎」

「伏せろ銀!」

 

銀(小)の所に飛んできたバーテックスを、彼女の頭上を越えるように跳び上がった巧(小)が、オーバーヘッドキックの要領で、敵を弾き飛ばした。

 

「このまま闇雲に攻撃しても、敵の数が増えてこちらの戦線が崩れてしまいます!」

「ここは、攻撃力の高い人に陣取っている本体を任せて、他の人は増えた星屑と戦いましょう!」

 

ダブル昴の立案で、2手に分かれる事となり、戦況は一気に傾いたといっても過言ではない。

 

「んじゃ俺らは星屑倒しに専念ってわけか。行くぜ千景!」

「そうね三ノ輪君。どれだけ増えても纏めて倒すだけよ、この鎌でね。命を刈り取る形をしているでしょう」

「国土は返してもらう……!晴人君達とお役目を果たす!」

 

敵の能力が解れば、最早敵うものなし、と言わんばかりに、そこから事態の終息は早かった。誠也の回転斬りによる星屑の一掃、雪花の槍投げによるトドメの一撃で本体を射抜き、本日の戦闘は終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誠也!無事で良かった……!」

「お、おう」

「いつもの事ながら、見るに耐えないというか……」

 

帰還後、早速誠也に抱きつく美羽を見て、やれやれといった様子の夏凜。その様子を見守りながら、源道や安芸も会話に入ってきた。

 

「お役目ご苦労!皆、大戦果を上げたな!」

「守っていた敵を倒したお陰で、土地を一つ取り戻せたよ。うたのん、童山君、みんな、本当にありがとう」

「所で……。取り戻した土地には、出入りは自由になるのか?」

「えぇ。とはいえ、生活するだけならこの讃州地域だけでも事足りると思いますが、相手の力を削ぎ、神樹様の力を取り戻す以上、より多くの土地の奪還は必要です」

「んじゃ、後3、4回ぐらい土地を取り返せば、造反神は手も足も出せなくなるとか?」

 

司がそう呟くが、ひなたは首を横に振った。

 

「いいえ、前にも言った通り、造反神は、元・天の神。それはもう強力な神様ですから」

「そうだよ。焦る事もないから、これからゆっくり時間をかけて、取り戻せばいいんだよ」

「……美羽の言う通りだな。急いては事を仕損ずる、だっけ」

「負ける気しねぇからな!」

「うんうん。まったりが1番。焦って帰る事なんてないし」

「……」

 

美羽と雪花の様子を見て、不安な表情を見せる水都。それを見た友奈が、首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、源道の号令で解散となり、銀や球子といった、元気が有り余っている面々は、早速奪還した土地の探検に出かけ、残りは部屋で休むなど、リラックスした表情で部室を後にした。

 

「……ふぅ」

 

ただ1人、諏訪の巫女だけは、浮かない表情をしながら、学校の屋上から下界を見下ろしていたが。

 

「水都ちゃん。さっきからちょっとだけ辛そうだよ。何か悩み事?」

 

そこへ、水都の様子がおかしい事に気づいた友奈が現れた。

 

「えっ⁉︎いや、全然そんな事じゃない……事も……ない、かな?ちょっと気になる事があるというか……?」

「良ければ聞いてあげるよ!水都ちゃんは大切なお友達だし、勇者部五箇条!『悩んだら相談』だよ!」

「ありがとう。……でも、よく気づいたね、私の表情。うたのん達も分かってなかったと思うけど」

「そうかな?」

「えっ?」

 

友奈が振り向いた視線の先には、同じく諏訪で苦楽を共にしてきた2人の仲間の姿があった。

 

「みーちゃん。さっき気になる事があったんだけど」

「お、結城も一緒じゃったか」

「ねっ?」

 

友奈のウインクを見て、笑みを溢す水都。この2人も自分の事を理解してくれていると分かって安心したのだろう。それから話題は、ここ数日間での雪花と美羽の言動に関する内容となった。

 

「……あの2人、元の時代に帰りたくない思いが、凄く強い気がするんだ。特に、雪花さんはその願望が強いというか……。今のままで全部お役目を終わらせると、帰る時に、一悶着起こるかもしれないって……」

「それは神託じゃなくて、みーちゃんの考えなのね」

「じゃが、よく気づいたのぉ」

「……だって、私も何となく、気持ち分かるから。うたのんや、童山君と会う前の時代に、戻りたくないもん」

 

水都もまた、このままお役目が終わり、過酷な現実と向き合う事に不安を抱いているようだ。そんな彼女に寄り添うように、3人が静かに、されど力強く頷く。

 

「……分かった!私に……私達に任せて!何とかしてみせるよ!」

「うへへっ。水都も随分我儘になったもんじゃ。なら、ワシらも一肌脱ぐとするかのぉ」

「そうよみーちゃん、安心して。畑も心も耕せば、いい芽が出るものよ」

「……ありがとう3人とも。もちろん私も、出来る事があればするよ」

 

不思議と安心感を得た水都の口調は、少しだけ軽くなっていた。

帰る時に一悶着あるかもしれない。漠然とそう呟いた諏訪の巫女の一言が、思わぬ形で実現する事になろうとは、この時はまだ、知る由もない。

 

 

 

 




サービス終了まで、ゆゆゆいを存分に楽しみましょう!


〜次回予告〜


「部長を決めよう〜」

「適当すぎだろ……」

「即答⁉︎」

「やるからには全力だ」

「短けぇよ⁉︎」

「……良い方法、教えてあげる」


〜開幕!勇者部部長総選挙!〜


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