結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

間も無く『仮面ライダーリバイス』も最終回を目前に控え、次回作の『仮面ライダーギーツ』も始まりを迎えようとしていますね。ギーツは『龍騎』以来、約20年ぶりに、明確なバトルロワイヤル形式の作風になるとの事で、不安(全員は生き残らないと、公式で明言しているので)を感じつつも、楽しみにしています。


EV6:屋台のチョコバナナって温くて好きになれない人多い説

神社からの依頼を受け、毎年恒例の夏祭りの準備に勤しむ勇者部一同。バーテックスによる妨害を受けながらも、巫女の力で穢れを祓う事に成功。

そうして炎天下の中、本番まで後僅かという所で、部員達の動きも慌ただしくなりつつあった。

 

「さぁ準備じゅんび!時間がないわよ。キリキリ働いて!」

「うるさいわね!やってるでしょ⁉︎相変わらず人使いが荒いんだから」

「しっかし、あっちいなぁ……」

「早く夜になってくれぇ〜……」

「が、頑張りましょう!」

「調、樹、大丈夫か?」

「「お、重い……」」

 

所々で愚痴がこぼれる中、調と樹は華奢な体つきなりに踏ん張って木材を上に運ぼうとしているが、途中で力尽き、木材がバラバラと地面に落下してしまう。

 

「2人とも大丈夫か⁉︎」

「あぁ、やっちゃった……。こんなの変身して、ワイヤーで吊り上げればすぐなのに……」

「……うん」

「アハハ。そりゃあ流石にマズいっしょ」

 

異世界といえど、勇者に関する事象はこの世界でもトップシークレットとなっている為、依然として人目が多い以上、戦闘以外で勇者の力を発揮するわけにはいかないのだ。

 

「俺がやる。司、反対側を持ってろ」

「おう!」

「ありがとうございます!」

 

その様子を見ていた誠也が、司と協力して木材を軽々と運んでいく。それを遠目で見ていた杏と須美もボヤき始める。

 

「でも、樹ちゃんがボヤくのも解るなぁ。変身していなければ、私達普通の子供だから」

「そうですね。いくら身体能力が一般人より高いといっても、変身している時だけですから」

「何言ってんだよ。俺達日頃から鍛えてきただろ?そぉらよっと!」

 

そう言って、紅希は残った木材を両手で担ぎ上げて、いとも簡単に運び始めたのを見て、園子(小)は感激した。

 

「うわ〜、いっぱい持った〜。三ノ輪先輩、百万馬力だ〜」

「そういう園子は、何運んでんだ?」

 

子孫からの問いに対し、園子(小)は、両手に抱えている茶色い物体を見えるように公開する。

 

「松ぼっくり〜。いっぱい落ちてたよ〜」

「真面目にやれ」

「放っとけ。園子相手に怒ってたら負けだ……」

 

その様子を、高い場所で櫓に釘を打ち終えた2人の巧が、やれやれといった表情で見下ろしていた。

 

「誰かー、釘とってプリーズ」

「あー、はいはい。これですね?」

「サンキューサンキュー」

「ほぉ!中々のお手並みと見た!」

「歌野も大工仕事は得意なのか」

 

ここで意外な才能を見せたのは、諏訪の勇者、歌野だった。普段から修復の依頼をこなしている巧にしかできないと思われていた大工作業だが、歌野も慣れた手付きで釘を打ち込み、木材を固定している。

 

「尊敬しちゃう!」

「そんな大袈裟な。諏訪では一応、出来る事は何でもやってたからね」

 

そんな中、友奈が屋台の看板として使う垂れ幕の向きに違和感を感じていた。たこ焼き屋の垂れ幕に記されている表記が、『き焼こた』となっている事に首を傾げているようだ。

 

「あれ?ねーねー東郷さん。この、暖簾みたいのって、裏返しじゃないの?」

「これでいいのよ。昔の日本は横書きの時、右から左へ書いていたから、その名残なの」

「そういえば、商店街にある古い店も、同じように右から左に読むようになってたな」

「へぇ、そうなんだ!」

 

歴史ある祭りという事もあって、そういった風流を残す店も少なからずあるようだ。

 

「さてと、これを運び終えたら……って園子⁉︎あんた何運んでんの⁉︎」

「松ぼっくり〜。……欲しい?」

「いらないわよ!この忙しい時に、あんたは……!」

「まぁまぁ、園子相手に怒ったってさ……」

 

青筋を浮かべる夏凜を、どうにかして宥める銀(中)。

とはいえ人手は充分に足りている為、本番までには何とか間に合いそうだ。

 

「後もうちょっと!よーし!お祭りの為に頑張るぞー!」

 

友奈の掛け声に後押しされ、一同は分担して作業に勤しむ。

 

「よし、これで8割方は出来たな」

「若葉ちゃん、少し休憩したらどうですか?ほら、こんなに汗かいて」

「ん、あぁすまん。ありがとう。タオルを貸してくれ。自分で拭くから」

 

汗だくになりながら作業をしていた若葉を労うように、ひなたがタイミングよくタオルを持ってきてくれたようだ。若葉は手を差し伸べるが、ひなたはそれを拒むように、手に持ったタオルを若葉の額に当てた。

 

「いいから、拭かせてください。これが楽しみで生きてるんですから」

「?な、何を言ってるんだ?」

「あ、そっちも休憩?」

 

すると、冷えたお茶とコップを乗せたおぼんを持って、美羽が誠也を引き連れてこちらに向かってきた。2人も休憩に入ろうとしていたようだ。

 

「丁度良かった。誠也ってば、休憩もしないで黙々と作業を続けてたから、そろそろ危ないと思って、お茶休憩にしようとしてたの。2人の分もあるから、座って飲もうね」

「俺はまだ平気だって言ったんだが、こうなると美羽は止められないっていうか……」

「こういう時期だからだよ、誠也。人って、自分が思うほど体温管理がしっかりできてないから、ちょっとでも喉が渇いたら、すぐに水分補給しなきゃ、だよ」

「うふふ。お気遣いありがとうございます、美羽さん」

「ひなたもそうだが、美羽さんにも敵いそうにないな……」

「だろ?」

 

妙な所で親近感を覚える若葉と誠也。

そうして近場に腰掛け、冷えたお茶で喉を潤していると、若葉がふと思った事を口にした。

 

「……所でみんな。祭りを穢す為の襲撃。先日の一件で終わりだと思うか?」

「?」

「あれ以来、特に神託はありませんが……」

「神託がなければ、来ないってわけじゃないからね……」

「敵さんも、何も考えてないって事はないと思うんだよね〜」

 

巫女2人が返答に困る中、不意にどこからともなく声をかけてくる人物が。

 

「うわっ!お、驚いた……!どこから出てきたんだ園子!」

「イチャイチャオーラを辿って来たよ〜」

「要はストーカーしてただけだろ……」

「ダメよ誠也、園子ちゃんだって悪気があったわけじゃないんだから。……所で園子ちゃん、さっきの言葉って」

「あの戦いで〜、向こうに気づかれちゃったかもしれないんだよね〜。巫女のパワー」

「どういう事だ……?」

 

園子(中)の発言に、首を傾げる4人。

 

「『そうか〜、少しくらい穢しただけだと、巫女が元に戻しちゃうんだな〜』って」

「!つまり……、私や美羽さん、それに水都さんが狙われるという事でしょうか……?」

「不吉な事を言うな。バーテックスにそこまでの知能があるとは思えん」

「……」

 

若葉がそう嗜めるが、園子(中)は知っていた。バーテックスの知能は、人間のはるか先をいくものである事を。ただ神樹を破壊する為に攻めてくる敵を侮った結果、共に戦った仲間達にどれだけの被害を被ったのかを。やはり伝えておくべきだろうか、と思い、口を開こうとした矢先。

 

「臆する事はない!例え敵がどのような策を練ろうとも、我々は真正面から迎え撃つ!それだけの事だ!」

「うわっ!お、驚いた……!流星もどこから湧いて来た!」

 

先程と同様、どこからともなく、腕組みをしながら現れた流星に、若葉は本日2度目となる脊髄反射を披露する。

インパクトのある登場に、園子(中)も一旦気を落ち着かせて、考えをまとめる。

 

「ま、まぁ、これはあくまで可能性の話だから〜。でもね、ひなタン、美羽っち」

「「はい?」」

「できれば……、勇者から離れないでね」

「「……!」」

「それじゃあごゆっくり〜。流君もこっちに〜」

「む?俺の出番はもう終わりなのか?」

 

そうして流星を引っ張りながら、鼻歌混じりにその場を後にする園子(中)。

 

「流星はともかく、園子はどういうつもりなんだ……。我が子孫ながら、思考が全く読めない」

「誠也……、あの……」

「皆までいうなよ。向こうがその気だろうが、絶対守ってやる。それが俺の、戦う理由だから、な」

「せ、誠也……!」

 

不安そうに見つめる美羽を勇気づけるように、何があっても守ると宣言する幼馴染みを見て、彼女も頬を赤らめる。

 

「うむ!よく言った!それでこそ勇者だ!」

「『それが俺の、戦う理由だから、な』……と。うんうん!変化球寄りだけど、いいセリフだね〜」

「って、まだいたのかお前達⁉︎こら園子!メモを取るなメモをぉ!」

 

既にその場を後にしたと思われていた2人がまた登場し、園子が誠也の言葉をメモしようとしているのを阻止しようとする若葉。園子には、ひなただけでなく、流星とも似ている部分があるように思えた巫女2人は、思わず笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?敵が私達を狙う……?それって、園子さんの冗談じゃ……」

 

休憩後、ひなたと美羽は、歌野達と作業を手伝っていた水都を捕まえて、緊急会議を開いた。議題は勿論、先程園子が発言した、バーテックスが狙う標的。当初は単なるジョークだと捉えていた水都だったが、他の2人は深刻そうな顔つきだ。

 

「それが、そうでもなさそうなのです。この世界に召還されてから月日も経ち、可能な範囲で調べてはみたのですが、この世界の結界は、簡易的なものがかなり多く見受けられます。恐らく、神樹様が結界だけに力を集約させないように施したものだと思われますが、それはつまり……」

「その気になりさえすれば、お互いにいつでも、踏み越えられる状態になっている、って事だと思うの。そう思わない?」

「言われてみれば確かに……。この神社も、未解放地域がすぐ裏手にありますし……」

「多分だけど、これまでは私達の力を伺って、敵が牽制をかけていただけなのかもしれないの」

「え、待ってください。それじゃあ、先日のは、前哨戦だったと?」

「それは分かりません。単なる取り越し苦労かもしれませんから」

 

今回ばかりは具体的な返答に困り果てるひなた。それだけ、造反神の勢力には未知数な面が多いからだ。

 

「きっとそうですよ。あれから何の神託も下されていないんですから」

「それに、敵が結界を踏み越えれば、すぐに警報が鳴るから、大丈夫なはず」

「えぇ。離れた所の結界に進入されたなら、警報が鳴ってからでも間に合いますが、ごく近くのラインを越えられた場合は……」

「そ、そんな事」

 

あるわけない、と言おうとした矢先、3人の持つ端末から、アラームが鳴り響いた。それだけならさほど驚きはしなかったが、空を覆う雲に重なるように、白い物体が急降下してくるのが見えた時には、開いた口が塞がらなかった。

 

「う、嘘⁉︎敵が……!」

「キャア!」

「危ない!」

 

咄嗟に美羽が2人を突き飛ばし、間一髪で敵の攻撃から逃れる。しかし、襲来した星屑は更に数を増やしていく。このままでは2人が危ない、と判断した美羽が、側に落ちていた石ころを星屑に当てて、注意を自分に向けた。

 

「ひなたちゃん、水都ちゃん!私が時間を稼ぐから、2人は隠れてて!」

「で、ですが美羽さんが……!」

「大丈夫!脚には自信があるから!だから……!誠也達が来るまでは、絶対に諦めないから!」

 

そう叫びながら、星屑の攻撃を回避し続ける美羽。

後から聞いた話によれば、美羽は元の世界では、バーテックスが襲来するまでは陸上部に所属していた事もあり、脚力においては勇者達とも対等に渡り合えるぐらいには鍛えていたのだという。

その言葉通り、巫女とは思えないほどに、広場を縦横無尽に駆け回り、敵を翻弄させている。が、次々と襲来する星屑を前に、逃げるスペースが段々と狭まって来てしまい、遂には祠を背にして、逃げ場を失ってしまう。

 

「「美羽さん!」」

「(大丈夫……!誠也は来てくれる……!だって……!私の全部を預けられるのは、私の大好きな、誠也だけなんだから……!)」

 

唸り声をあげて、飛びかかってくる敵を前にしても、尚目を閉じない美羽。彼女は知っている。

この世界には、勇者がいる事を。

 

「ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

横殴りの一閃を受けて、四方八方に吹き飛ばされる星屑を目の当たりにして、目を見開く美羽。その眼前に、白と紫の、ラベンダーの勇者が2刀のカットラスを携えて降り立つ。

 

「……美羽に手を出すなんざ、罰当たりにも程があるだろ、造反神」

「誠也!」

「私達もいるぞ!」

「みーちゃん!みんな!」

 

美羽を守るように降り立った誠也の隣に、後を追うように若葉と歌野の姿も。

 

「若葉ちゃん!」

「うたのん!来てくれたの⁉︎」

「当たり前でしょ!みーちゃんの為なら、何処へでも駆けつけるよ!」

「よく耐えてくれた、美羽さん!後は私達が相手をする!……これ以上、穢させるものか!」

「行くぞ!」

 

そう言って3人は戦闘を開始。星屑達を樹海まで誘導し、その隙に、美羽はひなた達と合流する。無事を喜び合う中、美羽は誠也達が駆け抜けていった方向に目をやり、祈りの念を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして巫女達から距離を離したのを確認した3人は武器を奮って星屑達を吹き飛ばしたが、いつの間にか、周りを囲まれている事に気づく。

 

「!囲まれたか」

「若葉、誠也さん、ナイスなアイデアをプリーズ……」

「それはまた酷な注文だな」

 

敵の猛攻に四苦八苦する中、突如として、周りを囲んでいた敵が、上空からの銃弾の雨を受けて消滅した。3人が驚く中、視線を感じた誠也が顔を上げると、銃を構えた東郷と真琴の姿が。どうやら先ほどの攻撃は、彼らの乱射によるものだと見受けられる。

その後方から、藤四郎達が飛び上がって、3人の近くに着地する。

 

「3人とも無事のようだな!」

「遅くなりました!」

「みんな、来てくれたのか!」

「しかし、ギリギリまで結界に引っかからない位置取りで近距離から進入とは、敵もそれなりに悪知恵を働かせてきたか」

「案外、敵の方が風より賢いんじゃないの?」

「うっさい!例えそうでも、女子力はあたしの方が上だからいいの!」

「それで良いのか、うちの部長⁉︎」

 

夏凜の皮肉に対する風の返答に、唖然とする一同。

一方で、仲間と合流した事で心に余裕ができた若葉が、今回の敵の襲来に苦い表情を浮かべる。

 

「園子の予想通りだった。敵にそこまでの知能があったとは……。しかも、戦う力のない者を襲うとは、許せん!」

「巫女を狙うというのなら、私の所へ来てくれても良かったのに」

「いや、それは……。俺がバーテックスなら、絶対避けてる」

 

東郷の発言に対し、尤もな事を呟く照彦。

 

「でも、もう敵の狙いが解ったから大丈夫!ヒナちゃんにも水都ちゃんにも、美羽さんにも、私達がついてる!」

「そうそう!こんなに勇者がいるんだもん!3人の事は、絶対に守りきるよ!」

 

自信満々に宣言するダブル友奈。この2人が口にすると、不思議とその通りになるような気がするのだ。この場にいる誰しもが、そう思ってしまう。

すると、東郷の様子を見ていた銀(中)が一言。

 

「……」

「……なぁ東郷。お前今、『私は?』って思わなかったか?」

「え……」

「……解るわ」

「わ、解るんだ……」

 

続けて千景が東郷に同情し、樹がボソリと呟いた瞬間、遂に堪えきれなくなった者達が。

 

「プハッ!ご、ごめん噴いちゃった。樹ちゃんのボソッと言うツッコミ、堪んない!」

「えぇ才能持っとるで、樹はんは!正に、金のスクランブルエッグや!」

「や、やめてください、私まで笑っちゃいそう……!」

「おかしい時は笑お〜」

 

などと、場違いな笑いが生まれたが、自然と肩の力がほぐれたのか、先んじて戦っていた3人も、まだまだ戦えそうだ。

 

「皆のお陰で肩の力が抜けたな。さぁ歌野、誠也さん。ここからが勝負だ」

「アンダスタン。バーテックスに、巫女を狙うとどういう事になるか、思い知らせてあげるわ!」

「守るって、約束したからな……!」

「東郷も、心配しなくたって、俺がちゃんと守るからな」

「遊月君……!はい!」

「皆の者!今日は完膚なきまでに叩きのめすぞ!俺に続けぇ!」

 

そうして流星が先陣を切ると、他の面々も後を追うように、向かってくるバーテックスを蹂躙する。

総動員で出撃した事もあってか、それからさほど時間もかかる事なく、全ての敵を撃退し、舞台は再び神社へと戻り、残りの作業を進めていく。

そして迎えた、祭り本番。

 

「あ〜!やっと無事にお祭りの日を迎えられたわね!」

「まさか、準備中に2回も来るとは思わなかったッスね」

「最近、あたしらが絶好調だったから、焦ってたとか?」

 

ようやく本番を迎える事が出来て心底ホッとした一同が、作業期間中の事を振り返る。

 

「でも、もう大丈夫だね。あれだけ思いっきりやっつけたんだから!」

「でも、凄かったなー、結城ちゃんの勇者パンチ!」

「いやいや、高嶋ちゃんの勇者キックだって」

「いやいや、結城ちゃんの方が」

「いやいや、高嶋ちゃんの方が」

「もうええわ!キリあらへんわ!」

 

これ以上は身がもたないと思ったのか、奏太がキレのあるツッコミを入れる。

すると、神社で作業を終えた巫女3人と、源道、安芸が姿を見せた。

 

「みんな、ご苦労だったな!」

「みんなのお陰で、今年も祭りは大盛況になりそうよ」

「それは良かった」

「それと皆さん、改めて、ご迷惑をおかけしました」

「私も、美羽さんみたいな勇気があれば……」

「そ、そんな。私には誠也みたいに戦う力はないし、あれでも、私なりの精一杯だったから」

 

水都が当時の事を思い出し、気を落とす中、彼女をフォローしたのは言わずもがな。

 

「何言ってんの。みーちゃんはそのままでいいの!」

「そうじゃな。今回の事だって、お前さんには、お前さんしかできない事があったじゃろ?戦うワシらに出来ない事を、ちゃんと果たしてくれとったからのぉ」

「また敵が来たって、この三ノ輪紅希様がいれば、バンバンぶっ倒してやるからよ!」

「よ、ご先祖様!」

「カッケェ!」

「ところで先生!もう仕事は全部終わったんだよな⁉︎」

 

球子が待ちきれないとばかりに、源道に催促する。

 

「うむ!改めて、ご苦労だった!これで、今回の勇者部の任務も無事に遂行できた!」

「じゃ、じゃあもう、遊んでも良いんだよな?たこ焼き買ってきても良いんだよな?な?」

「タマ、鼻息荒い」

「あと、涎もみっともないよ!」

 

興奮する球子を、どうにかして抑えつける調と杏。

 

「けどまぁ、さっきからいい匂い漂ってきてるしなぁ。俺も腹減ったぜ」

「早く食べたーい!」

「ふふ。まぁそう慌てずとも、先ずは今回の報酬を配布するのが先だ」

 

そう言って源道と安芸は、神社の管理人から渡された、屋台の無料券を配り始める。

 

「あの……。その券があれば、金魚すくいも?」

「えぇ。この境内に出店している屋台であれば、どこでも使用可能です」

「やったな千景!」

「私、三ノ輪君の為に……一杯すくうから、金魚……」

 

ガッツを見せる千景を見て、風が一言。

 

「さぁて!ここまで来ればもう襲撃なんてないだろうし、今日はみんなで羽を伸ばして、お祭りを楽しも」

 

と、その時だった。風の号令を遮るように、端末から聴き慣れたアラーム音が鳴り響いたのは。

 

「……ほえ?」

『あぁ……』

「フラグ回収だ……!それも過去最速の……!」

「……くも」

「えっ」

「よくも恥をかかせてくれたわねぇバーテックスぅ!みんなー!やっておしまい!ムキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

 

悲鳴にも程近い風の号令と共に、勇者達は戦闘区域へと進軍する。

祭りを楽しみたい一同の、怒涛の攻めが功を奏し、戦闘終了に至るまで、過去最速を叩きのめしたのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2度ある事は3度ある、だったね〜」

「て事は、4度目も〜……」

「フラグ禁止ィィィィィィィィィィィィィィ!」

 

そうはさせまいと、夏凜の全力ツッコミがシャウトする。

 

「ハッハッハ!心配要らずとも!4度だろうと1000度だろうと、この場に勇者が集う以上、奴らの好きにはさせん!」

「1000回も来たら流石に萎えるぞ……」

「でも、何があってもクイックリィに対応できるから、それほど警戒する必要はないと思うわ」

「うたのんに一票です」

「んだな!気にしてばっかだと、折角の祭りも楽しめないしな!」

「うん!今日はもう、全部忘れて楽しもうよ!」

「……全部忘れて、か」

 

高嶋がはしゃぐ姿を見て、ポツリと呟く照彦の真意は如何に……。

 

「でしたら、私、若葉ちゃんから離れませんから、いいですよね?それで」

「勿論だ。……それから園子。今取ったメモはすぐに消せ」

「ぴぇぇぇぇぇん⁉︎ご先祖様が鋭くなってる〜……!」

 

同じ二の轍は踏まないとばかりに、メモ用紙を後ろに隠した園子(中)を睨みつける若葉。

 

「さてと。じゃあ行くか東郷。射的をしたいんだったな?」

「えぇ。遊月君。欲しいものがあったら遠慮せずに言ってね」

「じゃあ、僕もそっちに……」

「あ、言い忘れていたけれど、東郷さん、一ノ瀬君」

「「はい?」」

 

早速悠々と射的屋に向かおうとするが、安芸が行く手に立ち塞がる。

 

「あなた達2人には、射的屋への出禁が、神社側から直々に下っているので、忘れないように」

「な、何でですか⁉︎」

「以前、この祭りに参加した射的屋からの苦情で、2人の射的が正確すぎて、商売にならないと報告を受けています。他のお客さんの迷惑になりかねないので、この場で警告しておきます」

「「そ、そんなぁ……!」」

 

まさかの禁止令に、目から光を奪われた2人の狙撃手。

 

「と、東郷だけじゃなくて、真琴まで白目になるなんて……」

「初めて見たかもな、真琴のあの顔は」

「げ、元気出せよ東郷。もしアレなら、俺が射的をやれば問題ないはずだから、な?」

「そうね。それに、景品が無理なら、金魚を撃てばいいじゃない」

「動物虐待……」

 

千景の一言を聞き、慰めのつもりが、逆に恐ろしいと思ったのか、調がボソリと呟く。

ツッコミの未来は安泰や。遠目でそう思わざるを得ない奏太であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?照彦君?」

「!お前らか……」

 

自由行動となり、例の如く、美羽は誠也と共に屋台を巡っていた。毎年祭りの季節になると、こうして2人並んで見知った街の中を歩いているが、今回は初めての土地でのお祭りという事もあって、新鮮な雰囲気を楽しんでいた。一通り屋台の下見を終えて、本格的に食事にありつこうとした時、鳥居の近くにある大木の根本で、見知った人物が背中を木につけて、夜空をボーッと見上げているのが見えたのだ。

 

「どうしたの?高嶋ちゃんは一緒じゃないの?」

「……さぁな。ここで待ってろとは言われたけど、来そうにないしな。ここで寛いでるだけだ」

「まだ来てないんだね。じゃあ、一緒に待ってよっか!」

「?お前ら、まだ屋台の無料券使ってないだろ?」

「ちょっと休憩するだけだ」

 

そう言って、誠也と美羽は、暇そうにしていた照彦の隣に並んで、高嶋を待つ事にした。が、10分経っても中々姿を見せなかった。

 

「ま、時間通りに動くようなやつじゃ無さそうだし、そのうち待ってれば来るだろ」

「……もう十分だぜ。俺の事放っといて、2人で楽しんでこいよ。何なら、この無料券持ってくか?」

「で、でも……」

「あいつの事だ。他のみんなと遊びに行ってるだろうし、俺なんかといたって、楽しくないだろうしな」

「どうして、そう思うの?」

 

美羽としても、引き下がれない案件だったらしく、彼に理由を尋ねてみる事に。やれやれと思いつつも、両手を後ろに回して、美しい夜空を見上げる。

 

「あいつとはまぁ、お前らと違って付き合いが長いわけじゃねぇけど、何となくは分かってきた。あいつは、自然と誰とでも仲良くなれる、俺とは真逆の才能を持ってる。だから、俺も何となく気にはなってきた。……俺は群れたり、ここにいる奴らみたいにワイワイはしゃぐのがそんなに好きじゃなくてな。正直、疲れるだけだと思ってるしな」

「そうか。それでお前、今回の依頼には後ろ向きだった訳か」

 

誠也は、依頼を聞かされた時の照彦の表情が、嫌々そうだった事を思い返す。

 

「ま、そういうこった。あいつだって、つまらなそうな俺なんかといるよりも、結城達といた方が楽しそうだし、俺もそう思ってる。だから、祭りが終わるまでは、ここでのんびりしてようと思ってな。案外居心地も悪くないし、それに……。独りには慣れてるしな」

 

分かったら、お前らも祭り楽しんでこいよ、と首を動かして屋台の方へ促す。が、話を聞いて尚、2人は引き下がらなかった。

 

「……私も、高嶋ちゃんとはまだそんなに話した事もないし、知らない事が多いけどね。私は思うよ?高嶋ちゃんは、照彦君の気持ちを、誰よりも理解してくれてるって」

「?だったら尚更」

「だって、照彦君が喜びそうな事を、真っ先に考えてくれてたから。ほら、和菓子の屋台を周りたいって言ってたでしょ。照彦君の幸せを1番に考えてくれてる証拠だよ」

「……!」

「……それでもまだ、高嶋の事が信じられないか?なら、屋台の方を見てみろよ」

 

何かの気配を察した誠也が、目線を屋台に向ける。照彦が顔を上げる直前、何度も耳にしてきた声色が近づいてくるのが分かった。最初は幻聴かとも思ったが、目線を誠也と合わせた時、それは決して、幻ではない事を悟った。

 

「ゴメンね遅くなっちゃって!……ってあれれ?お二人もここにいたんですか?」

 

視界に捉えて初めて気づいたのだが、そこにいた少女の格好は、制服に身を包んでおらず、淡いピンク色の浴衣を羽織っていた。その容姿も気になる所だが、照彦としては、時間に遅れながらも高嶋が来た事に驚きを感じていた。

 

「!お前、どうして……」

「え?だって約束したでしょ?遅れちゃってメンゴメンゴ!」

「高嶋ちゃん、可愛い浴衣だね!でもどうして?」

「ここに来る途中で屋台を下見してた結城ちゃんとバッタリ会ってね!この浴衣、貸してくれたの!着付けは東郷さんが!」

 

言われてみれば、高嶋が着ている浴衣には桜の花模様が散りばめられており、友奈のイメージカラーとそっくりだ。それなら、時間に遅れるのも無理はないだろう。

 

「さてと。んじゃ役者は揃った訳だし、折角なら一緒に屋台周るか」

「賛成さんせい!あ、先ずはさっき見かけた和菓子屋さんに行かないとね!早くしないと売り切れちゃうかも!」

「!お前、まだその事気にして……」

「へ?だって最初に決めてたんだもん!照くんの大好きな和菓子屋さんを一緒に見て周ろうって!」

「うふふ。ほらね。高嶋ちゃんは、約束を守る子だったでしょ?」

 

美羽にそう言われては、照彦も頷く他ない。

 

「和菓子もいいが、道中の飯も食べたい気分だな。腹も丁度いい具合に減ってきた」

「うん!もうペッコペコ!みんなが言ってた物、みーんな食べちゃいたいくらい!」

「食い意地張りすぎてお腹壊すなよ?……っと、それから、よ」

「?」

「浴衣、その……。に、似合ってる、と思う」

「……うん!それじゃあ、ギューっ!」

 

顔を赤らめる照彦の腕を掴みながら、誠也と美羽と並んで屋台を見回す高嶋。ぎこちない様子ではありながらも、高嶋と密着する照彦。その様子を見て、誠也と美羽も頬が緩んだ。

その日、祭りを心ゆくまで堪能した照彦は、祭りに対する価値観を改める事となった。

 

 

 

 




タイトルにあった通り、私は基本屋台ではチョコバナナは、温くて買ったりはしないですね。
何年か前に、TBSの『リンカーン』で、さまぁ〜ずさんが企画内で考案した、冷やしチョコバナナは食べてみたい気もしなくはないですが……。

とまぁ雑談はこの位にして、次回は本編に戻ります。


〜次回予告〜


「独自ルール……ですか?」

「中々前衛的なチョイスを……」

「増殖してる……!」

「第2戦術……」

「別に変わらんと思うんやけど」

「元の時代に、帰りたくないんじゃないのかな……?」


〜戦いの果ての現実〜


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