結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

110 / 127
お待たせしました。

今回もイベントストーリーを軸に進めていきます。尚、今回はノーマルストーリーのみを進めていく方針です。


EV5:『祭り』を前にして、テンション上がる人は多いはず

「みんな聞いて!勇者部にビッグな依頼が来たわよ!」

 

バーテックスのみならず、夏の蒸し暑さが、本格的に四国を襲い始めた頃。

扇風機で涼んでいた部員達に、風の口から新たな依頼が伝えられた。

 

「一体どんな依頼が?」

「神社でやる、夏祭りのお手伝いよ!」

「そっか。もう8月ですもんね!」

「具体的には何をすれば良いのですか?」

 

真琴からの問いに答えたのは、風と並んで部室に入ってきた、顧問の源道だった。

 

「神社から依頼されたのは、盆踊りの櫓を組み立てる作業。それから、屋台の設置。どちらも人員が足りていないとの事で、昨年……元いた世界でも依頼を受けた事のある、讃州中学勇者部に引き続き依頼をした、というわけだ」

「それを、私達がやるの……?」

「重労働、ですね。何だか、あんまり中学生に頼む事ではないような……」

「……つーか面倒」

 

手伝い、と言う割には重労働が多そうな内容を聞いて、早くも不安を覚える千景と杏、そして照彦。

 

「やる前から何言ってんだ。困っているからお願いしてきたんだろ?」

「そうだぜ。こんだけの部員がいるんだし、チョチョイのちょいってな!」

「ご先祖様の言う通りですよ!手伝ってあげよう!」

「うむ!困っている人を助けるのも、我々勇者の大切な務めだからな!」

「照くん、ぐんちゃん、あんちゃん!一緒にお祭りを成功させようよ!」

 

紅希、銀(小)、流星、そして高嶋の説得を受けて、3人もそれならば、と一応納得はしてくれたようだ。

 

「まぁ、男手も多いけど、あたし達は訓練してるから、普通の女子より力が強いからね。あ、女子力も」

「(何で最後、付け足した……?)」

「所でお姉ちゃん。さっき源道先生もちらっと言ってたけど、去年もちょっと手伝った神社の夏祭りだよね?」

「ま、時空も違うから、去年という表現も変だが、勝手はそれなりに分かっているし、みんなも協力してくれ。幸い、前回の倍近くの人員が事足りているからな。経験者を筆頭に作業を進めていけば、問題ないはずだ」

「オフコース!肉体労働は大歓迎。鍬を金槌に持ち替えるだけの事だから」

「……俺はどちらも持った事ないし、役に立てそうにないだろこれ」

 

そうボヤく照彦だが、この場にいる、歌野以外の面々は誰も鍬を持った事がないのだ。

そんな彼の背中を押すべく、風から新たな情報が開示された。

 

「まぁまぁ、これを聞いたらヤル気出るわよ」

「?」

「なんと……なんと、なんと!この依頼達成の報酬として、勇者部全員に、お祭りで使える『屋台無料券』が貰えるのだぁ!」

「オォ!ホンマか⁉︎」

「やったぁ!屋台で食べ放題だー!」

「ワッショ〜イ!」

 

豪華な報酬を聞かさせて、早くもお祭りテンション全開の様子が。

 

「凄いね!無料券だって!照くん、お祭りで遊び放題だよ!美味しい和菓子も食べ放題だよ!」

「(友奈、テンション高……)……ま、やれるだけやってみるか」

 

高嶋の笑顔が最後の一押しになったのか、照彦もようやく前向きになったようだ。

 

「楽しみだなぁ!りんご飴にチョコバナナ……、焼きそばと綿飴も外せないぞ!」

「フッフッフ。まぁそう慌てなさんな。先ずは各自の役割分担を決めなきゃね」

 

そうして早速、部員達の話し合いの下、祭りの準備における役割分担が決められた。

鉄パイプを運ぶ係。櫓の足場を組み立てる係。組み立てた櫓に電球を吊るす係。何れも順調に人員が配置されていく中……。

 

「やはり、どれも力仕事ばかりですね」

「非力な私達には無理かも……」

「どうしよう……。何か手伝える事があれば良いんだけど……」

 

巫女であるひなた、水都、そして美羽は、特別な訓練を受けている訳ではない為、結果的にどの任務にも志願できずに、途方に暮れていた。すると、つい先ほど呼び出しを受けて途中退席していた源道が戻ってきたかと思えば、開口一番ひなた達に話しかけてきた。

 

「その事なら心配いらないぞ、君達。君達にも手伝ってもらいたい事が、つい先ほど決まってな。言ってみれば、これは巫女である君達にしか頼めない事だ」

「巫女限定って……?」

「うむ。先ほど神社から連絡が入ってな。追加で、お清めの神事の手伝いをしてもらいたいそうだ。お願い出来るだろうか?」

「成る程。それでしたらお任せください」

「はい!精一杯頑張ります」

「では、当日は巫女装束を身に纏ってもらう事になるから、宜しく頼む」

 

それともう一つ、と、源道の口からこんな内容が。

 

「今回の神事に参加する巫女の事なんだが、最低でも5人は必要なのだそうだ。ひなた君、水都君、美羽君の他にもう2人……。これは巫女の素質がある美森君、それから安芸先生に一任しようと思っている」

 

この案には、さしもの2人も、難色を示していた。

 

「え、そ、そんな、源道先生。私は正式な巫女ではないので……」

「東郷さんはともかく、私はこの子達とも歳がかけ離れていますし、いくら家系が代々巫女の役目を務めていたとはいえ、私にはとても不似合いかと……」

 

が、2人の巫女服が観れるかも、と聞かされて、テンションがもう一段階上がったメンバーが乱入してきた。

 

「東郷さんの巫女服⁉︎私それ、すっごく見てみたい!」

「私も〜。安芸先生のお巫女さん姿、見てみた〜い!」

「私も〜。良いネタが舞い降りてきそう〜」

「「「見たいみた〜い!」」」

 

友奈とダブル園子が押し寄せてきた為、困惑する2人だったが、最終的には折れてくれた為、こうして東郷と安芸を含めた5人の巫女は、ある意味重大なお役目を授かる事となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして迎えた祭りの前日。この日は朝早くから舞台となる神社に現地集合となり、皆が集まった頃には、大人達は次々と資材を搬入し始めていた。

 

「ほぉ、ここがこの世界の神社か」

「で、俺達は何から始めてけばいいんだ?」

「今、先生方が神社の方々を連れてくるそうなので、それまでここで待っていましょう」

「んじゃ、早速どんな屋台が出てるか、下見に行くか!」

「了解!」

「あんまり遠くに行くんじゃないぞ」

 

初めて訪れる面々は、見るもの全てが新鮮に映っている為、待機場所から離れすぎない程度に、辺りを彷徨き始めた。

そんな中、諏訪で生活をしていた3人は腰を下ろし、感心した表情で周りを見渡していた。

 

「ふぅー。清々しい空気ね。神社でお祭りなんて、まさに『平和』って感じ」

「本当……。なんて静かなんだろう……」

「あぁ。本番が待ち遠しいのう。その為にも、ワシも頑張らんとな」

「神社は本来、こうあるべきなんだよね」

「?本来って、どういう事ッスか?」

 

歌野の言い方に疑問を抱いた冬弥が、首を傾げる。

 

「あ、ソーリー。諏訪の神社は、こんなに安らげる環境じゃなかったから」

「もっと賑やかだったって事か?」

「いや、その逆じゃ。この世界じゃ、敵がやってきても樹海で戦えたじゃろ?じゃが諏訪では、主に神社が標的にされとった」

「マジか……。神樹様だけが狙いかと思ったら」

「ひょっとして、神社そのものが、神樹様として崇められ、バーテックスにとっては厄介な存在だったりしたのでしょうか?」

「ザッツライトよ昴君。神社が結界の要になっていたからね。だから私達は、常に神社で戦ってたの」

「正直、ピリピリして張り詰めた空気の神社しか、私達の記憶にはないから……」

「そうじゃな。ワシも最初の頃は、驚いたもんじゃ。流星と一緒にいた頃に見てた神社の有り様とは変わっとったからの」

「ううむ。そうだったのか……」

 

同じ300年前の世界でも、神社1つで捉え方に違いが生じていた事に驚きを隠せない流星。四国で戦っていた面々にとっては、神社といえば、勇者である自分達を奉る為のスポット、という印象が強いのだ。

 

「あ〜、でも〜、私達の世界だって、こうやって神社で神事をするのは〜。神樹様の御力を高めるとか、そういう意味もあるんだよ〜?」

「そうね。だから、神社が大切な守るべき場所というのは、ここでも変わらないわ」

「アイシー!そう聞いたら、益々ヤル気が出てきた。このお祭り、絶対成功させましょうね」

「そうだね、うたのん」

「うへへ。腕が鳴るわい」

 

それを聞いて、俄然ヤル気になった3人。そんな中、会話を聞いていた友奈が関心したように呟く。

 

「神社でお祭りをすると、神樹様がパワーアップするなんて知らなかったよ。ね、兎角」

「……は?俺は知ってたぞ」

「え⁉︎そうなの?」

「っていうか友奈!前にもお祭りに来た時にその話したの覚えてないの?あんたバカ⁉︎」

「うぅ、ごめん……」

 

本気で叱られて凹み気味な友奈。やれやれとため息をつく夏凜は、準備中の屋台を見渡しながらポツリと呟く。

 

「しかしまぁ、敵さんにとって、こんなイベントは許し難い事よね」

「え?何で?」

「何でってそりゃあ、向こうにとって神樹様の力を高められるって事は、それだけ侵攻の妨げになるわけだしな」

「もし私だったら、全力で邪魔しにかかるわよ」

「ちょっと夏凜!妙なフラグ立てるんじゃあないわよ!縁起でもな」

 

刹那。風の言葉を遮るかのように、樹海化警報が発令。それまでせっせと働いていた大人達の動きが止まってしまう。

 

「あ……」

「高速フラグ回収だ……」

 

一斉に、困惑に満ちた視線が風達に向けられる中、巧はボソリと呟く。

 

「……全員直ちに、戦闘準備ィィィィィィィィィィィィィィ!」

 

そんな空気を払拭するかのように、風の号令が静かになった神社に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!……ハァッ!」

「っ!なんだよこの数……!」

「何か……!いっくらやっつけても……!ワラワラ出てきやがるぞ⁉︎」

「う、うん……!いつもみたいにでっかいのが来てワーーッて感じじゃないね〜」

 

園子(小)がそう語るように、今回の敵の動きに違和感を覚える一同。向かってくる星屑は、まるで波のようにうねっており、消滅させても直ぐに後続が侵攻してきて、一息入れる間もないのだ。

 

「気をつけろ!全方向から来てやがる……!」

「な、何だかいつもより、敵が多いような……!」

「き、キリがないッス……!」

 

途切れる事なく侵攻してくる敵を前に、勇者、武神達もジリジリと後退せざるを得ない。そんな中、流星は童子切の力強い一閃で星屑を吹き飛ばしていた。

 

「怯むな!どれだけ数を揃えようが烏合の衆!正面から薙ぎ払え!」

「簡単に言ってくれる……!けど、それしかないか……!」

「流星に負けてらんねぇ!俺も続くぜ!」

「昴!どうだ敵の侵攻状況は⁉︎」

 

予想だにしない敵の猛攻を見た藤四郎は、高台から状況を観察してもらっている昴(中)の指示を仰ぐ事に。

 

「敵は、全方向に拡散しながら向かってきています!侵攻速度にばらつきはありますが、何れも神社の本殿がある方向に向かっています!」

「狙いは神社……」

「って事は、やっぱ夏凜が言ってたみたいに……」

「え⁉︎私何か言った⁉︎」

 

突然兎角の口から自分の名が出てくるとは思わず、動揺する夏凜。

 

「忘れたのか⁉︎祭りを穢して、神樹様の充電を阻止するのが敵の目的ってやつだよ!」

「成る程ねぇ。道理で気合い入ってるわけだ。向こうにとって、この土地は最重要地点だもんね」

「どうあっても、神樹様の御力を高めさせないって算段か……!」

「何て忌々しい事を……!」

「バーテックスの目的は解った。ならば我らは、迎え撃つまで!」

 

憤然としながらも、敵の好きにはさせまいと、本殿を背にして武器を構える一同。

 

「おうよ!奴らの好きにさせるかってんだ!」

「お祭りの邪魔はさせないぞ!」

「チョコバナナの為に!」

「綿アメの為に〜!」

「タコ焼きめっさ食う為に、やったるで!」

「わ、私は……し、神樹様の為に!」

「須美ちゃん、いい心掛けよ。お祭りでは一緒に射的をしようね」

「あ、はい!」

「僕も一緒に参加できるように頑張らなきゃ!」

「千景!これ片付いたら、先ずは金魚すくいで勝負だ!」

「三ノ輪君……。えぇ。私、すくうわ!金魚を!」

「な、何かが間違っている気がするけど、千景さんから凄い闘気が……」

 

約1名、不安要素がありげな勇者がいるようだが、全員の目的は一致している。消耗戦になるのを避けるべく、風が指示を出す。

 

「全員広がって、防衛線を張るのよ!そして、全ての敵を殲滅する!」

「ラジャー!何としてでも、この世界の神社を守ってみせる!」

「突撃だぁ!」

 

奮起する歌野を中心に、攻勢に出る一同。そうして星屑をあらかた倒し終えた所で、巨大なシルエットを捉える昴(中)。

 

「!1時の方向から敵影です!大型です!」

「うわぁ〜……」

「口開けて突っ立ってる場合じゃないぞ園子!一旦離れるぞ!」

「いよいよラスボスのお出ましって事か!」

「流石に小型だけでは目的が果たせないと思ったみたいだな」

「上等!あのデカブツさえ倒せば、一旦は侵攻も止まるわけだしな!」

「おっしゃあ!このまま一気に倒して」

「!待って晴人君!上空から何か来てるわ!」

「何⁉︎」

 

晴人が前進しようとしたその時、上を見上げた東郷が、奇妙な形をした球体らしきものが降下してくるのを確認する。一同が身構える中、1番近場に落下したその球体はボールのように地面を2、3回跳ねた後、ピタリと静止した。

 

「?な、何だ?」

「ボール……?」

「!待て友奈!迂闊に触るな!」

 

近くに止まったボールに訝しみながらも、手に触れようとする友奈を見て止めようとする兎角だったが、時すでに遅し。得体の知れない球体にコンコンとノックするように叩いた友奈を、突然緑色の煙が襲いかかった。

 

「友奈ぁ!」

 

反射的に危険を察した兎角が駆け寄り、友奈の腕を掴むと、一目散にその場を離れた。煙に近づいた際、異臭が鼻をつき、一瞬目眩が生じたが、どうにかして効果範囲外に逃げる事に成功する。

が、次々と周囲の球体から同じように煙が噴き出ると、一斉に勇者達に襲いかかる。

 

「ギャア⁉︎何だこりゃ⁉︎」

「目が……目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ゲホッ、ゲホッ……!の、喉まで……!」

「ど、毒ガス⁉︎」

「何て姑息な……!」

「ラスボス登場と見せかけて、雑魚が奇襲攻撃を仕掛ける作戦だったわけね」

 

ゲーム通の千景が冷静に状況を見据える中、真っ先に被害を受けた友奈と、煙を吸い込んで息苦しさを感じている兎角に、東郷と遊月が駆け寄る。

 

「友奈ちゃん!兎角君!」

「2人とも大丈夫か!」

「ケホッケホッ……!だい、じょうぶ……!」

「お、俺はまだ良い方だが。流石にこいつはヤバいな……!」

 

異臭を放つ攻撃に翻弄される中、煙をものともしない星屑が、勇者達の合間をすり抜けていくのが確認できた。

 

「!大変です!小型が防衛ラインを突破しそうです!」

「っ!大型が邪魔くせぇ!」

「こんな所で手間取る訳にはいかない……!昴、応援を向かわせる!それまで、出来る限り防衛を!」

「了解!この場は持ち堪えます!」

「樹と調で、小型の群れを食い止めて!」

「分かった!」

「任せて」

「杏と雪花、真琴と小学生組は、動きを止めた小型に集中砲火を!それ以外の奴は大型を狙うぞ!」

 

今まで以上に緊迫した空気の中、敵の侵攻を阻止するべく、テキパキと指示を送る上級生達。

 

「となると、後はあの爆弾だな」

 

しかし、課題はまだ残っている。地面に転がった球体を無視しようにも、大型の周囲に散らばっている為、戦闘中に接触してしまう可能性が高い。不用意に触れば、友奈の二の舞だ。

一同が立ちすくむ中、彼が真っ先に志願する事に。

 

「俺がやる。あの球体さえ全部壊せば、問題ない筈だ」

「誠也……!けど、近接のお前が攻撃したら、毒ガスが……!」

「ガスの噴出箇所は確認した。まともに浴びないように立ち回って攻撃を仕掛けるしかない。それとも、他に良い案でもあるのか?」

「そ、それは……」

「時間がない……!ここは、誠也さんを信じよう!」

 

皆が躊躇う中、友奈を介抱していた兎角の一言で、誠也が頷くと、カットラスを構えながら、地面を駆けていく。

 

「(一歩間違えれば毒ガスをまともに喰らうが……。失敗はしねぇ。あの神社で開かれる祭りの為にも、神社で帰りを待ってて、祭りを楽しみにしてる美羽の為にも……!)」

 

カットラスを振り下ろし、真っ二つに割れた球体から、緑色の毒ガスが噴射されるが、噴射口を避ける形で、直撃を避ける誠也。そうして次々と球体を破壊していき、煙が立ち塞がるものなら、体に回転を加えて、煙を吹き払う。そうして決死の行動が実り、遂に大型へ続く道が出来上がった。毒ガスも既に充満していない。

 

「今だ!勝機を零すな!」

 

若葉の号令で、一斉に攻め上がる勇者達。

後方で待機していたメンバーが突撃していくのを遠くから目視した誠也は、ようやく役目を果たしたとばかりに、息を整えるべく、その場に片膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。皆さんのお陰で、敵を退ける事が出来ました」

 

大型を倒し終えると同時に、樹海化も解除され、元の神社へと帰還した一同に、ひなたが労いの言葉をかける。

 

「誠也!大丈夫なの⁉︎」

 

いつものように幼馴染みに駆け寄る美羽だったが、彼の様子がいつもと違う事に気づき、切羽詰まったように彼を支える。

 

「あぁ。まだ目が沁みるが、取り敢えずは生きてるぞ」

 

そう呟く誠也の両目は、花粉症に見舞われた時のように腫れていた。やはり、完全には払いきれなかったようだ。

 

「大変!すぐに消毒しなきゃ!こんな事なら目薬も持ってきてたら良かった……!とにかく、近くに水道があるみたいだから、そこで顔を洗おう!」

「友奈ちゃん!友奈ちゃんは大丈夫なの?」

「だ、だいじょう……ゴホッゲホッ」

「ダメみたいだね〜」

「兎角も大丈夫か?」

「っ。目に沁みるっつうか。涙が止まらねぇんだ……」

「目が真っ赤……」

「2人も洗顔した方が良さそうですね」

 

どうやらメンバーの中で毒ガスの影響をまともに受けたのは、真っ先に球体に触れた友奈と、彼女を助けようとした兎角。そして全ての球体を破壊するべく動き回った誠也の3人だけのようだ。

そんな中、ただ1人夏凜だけは呆れた表情を浮かべている。

 

「ったく。兎角と誠也はともかく、友奈は反省の意味も含めて、ほっといても良いでしょ。落ちてる物に触っちゃダメって教わらなかったの?」

「ウゥ……」

「そうはいかないでしょ夏凜ちゃん。このままにしてたら、友奈ちゃんのお顔が治らなくなっちゃうかもしれないよ?そんなの、夏凜ちゃんだって嫌でしょ?それに、夏凜ちゃんが心配ばかりしてると、友奈ちゃんも困っちゃうでしょ?」

「なっ……⁉︎そ、そりゃあ困るけど、べ、別に心配なんてしてないし!誠也に迷惑かけてた事を怒ってるだけだし!」

 

何故か顔を真っ赤にして唾を飛ばす夏凜。

そこへ見兼ねた安芸が手を叩いて注目を集める。

 

「反省会はそこまでにして、先ずは目の前の仕事を進めていきましょう。日向さんは3人の介抱をお願いします。白鳥さんと藤森さんも手伝ってあげてください。上里さんと東郷さんは、私と一緒に行動を。それ以外のみんなは、源道先生の指示で機材の搬入作業を進めてください」

「疲れている所申し訳ないが、もう一踏ん張り頼むぞ!」

『はい!』

 

そうして美羽達は水道水で3人の顔洗いを手伝いに、東郷達は神社の本殿へ、残りの面々は源道と共に大人達に混ざって仕事に取り掛かる。

入り口から少し離れた手洗い場の蛇口を捻り、可能な限り水で目を洗い流す中、手伝っていた歌野がふと、隣に植えられていた木に着目する。

 

「あ……」

「どうした?」

「木が、枯れてきているわね……。無傷で守りきる事は出来なかったみたいね」

 

歌野が消沈気味に呟くように、所々に植えられた、緑色に輝いていたはずの樹木が、冬を先取りしたかの如く、葉が全て抜け落ちていた。小型が神社まで急接近した際に暴れた反動で、現実世界の樹木に影響を与えたのだろう。誠也もそれに気づいて、顔を拭う手を止めてしまう。

そんな2人を見て、水都は力強く語りかける。

 

「それは……、多少は神域も影響を受けてしまったけど、でも、うたのんは立派だったよ!」

「うん!さっき友奈ちゃんから聞いたけど、誠也が頑張ってくれたから、この神社を守る事が出来たんだよ。だから、誠也はもっと、胸を張って良いんだよ」

「そうですね。それに、この程度の穢れなら、私達巫女のお清めで、祓う事が出来ますから」

「あれ、ひなちゃん?東郷さん達と一緒じゃなかったの?」

 

そこへ、東郷や安芸と行動を共にしていたはずのひなたが現れた。

 

「先生が、準備が出来たから迎えに行くように指示を受けたんです。お二人とも、準備は宜しいですか?」

「うん。出来てるよ」

「私達に任せて。みんなの努力、無駄にしないから」

 

美羽が力強く呟き、歌野と誠也は安心した表情を見せる。

そうして本殿へ向かう彼女達の後ろ姿を見送った友奈達は、丁度作業を終えた遊月達と合流し、本殿へと歩いて向かう事に。

 

「それにしても、今回は危なかったわね」

「これまでより、敵が狡猾になってきているようだ」

「こう……こつ?」

 

棗が使ったワードの中に、聞き慣れない単語が入っている事に気づいた銀(中)が首を傾げる。

 

「ミノ先輩。それはフハァ〜ンてうっとりする表現だよ〜」

「?バーテックス、フハァ〜ンってしてたっけか?」

「それは『恍惚』だ。棗さんが言ってたのは、『狡猾』。ずる賢いって意味だ。まぁ確かに、今回の敵には随分と意表を突かされたからな」

「「勉強になるなぁ」」

 

巧(小)の解説を聞いて、同じタイミングで感心したように呟く友奈ズ。それを見ていた夏凜がボソリと呟く。

 

「……友奈ズって、小学生レベルの知能だったのね。中でも低い部類の」

「おいおい夏凜さんや。本音でも東郷や千景さんの前で言わないようにしとけよな。後で塵にされるかもだし」

「あ、あんただって似たようなもんでしょ、友奈ズと!」

「どういう意味だよそれ⁉︎」

「ほら2人とも。お喋りはその位にして、そろそろひなた達の出番だぞ」

 

夏凜と銀(中)のやり取りを制止する若葉。

見ると、本殿の前にある、少し開けた舞台の上で、巫女装束を身につけた仲間達の姿が。最年長の安芸を先頭に、東郷、ひなた、水都、美羽が『衵扇(あこめおうぎ)』や『神楽鈴(かぐらすず)』を持って、祈りの舞を踊っているのが見えた。普段とは一風変わって神秘的な姿を目の当たりにした兎角達は、思わず口を開けてしまうほど、釘付けになっていた。

 

「……!おい見ろよ!枯れてた枝が緑に……!」

「これが、巫女の力……」

「綺麗だね……!」

「(やったな、美羽)」

 

真剣な眼差しで舞う姿を見て、賞賛する誠也。いつの間にか、目の腫れも治ったように感じられる。

いついかなる時も、陰ながら支えてくれた、大切な幼馴染み。この先彼女を脅かすものが現れるようなら、全力で守ってみせる。緑色を取り戻しつつある樹木に囲まれながら、そう心に誓う愛知県の勇者は、舞が終わるまで、彼女達からジッと、目を離さないでいた。

 

 

 

 




ここ最近、各地で感染者が増大し、地域によっては祭りそのものが中止になっている所も少なからずあるようです。現実世界でも、水都達のような巫女の力で沈静化できれば、とつくづく思ってしまいます。
夏場は暑さだけでなく、コロナとも戦わなければなりませんので、体調管理にしっかりと気をつけてくださいね。


〜次回予告〜


「敵が私達を狙う……?」

「松ぼっくり〜」

「キリあらへんわ!」

「独りには慣れてるしな」

「動物虐待……」

「守るって、約束したからな……!」


〜屋台のチョコバナナって、温くて好きになれない人多い説〜


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。