結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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『ゆゆゆい』のバースデー会(銀のドレス会)、最高でした。運営も頑張ってますね。感心します。


10:信用しているから

敵の襲来と共に始まる、世界の『樹海化』。辺り一面が木の根で覆われる中、瀬戸大橋だけは完全に樹海化される事はない。唯一、四国と壁の向こう側を繋げており、バーテックスの通り道となったこの場所で、撃退できるようにわざとそこだけは結界を張らないようにしているのだ。

 

「来たわ……!」

 

晴人ら6人が橋の中央に到着して間もなく、その異形が露わとなった。

 

「うはぁ……。なんかビジュアル系なルックスしてるなぁ」

「と、尖ってて強そうだね〜」

「えぇっと、こいつのモチーフは……」

 

晴人が端末に目をやると、『山羊座』と表記されている。確かに下方に向けられている、4本の鋭く太い角がヤギを連想させる。

『山羊座』をモチーフにした『カプリコーン・バーテックス』は、悠然と前進していたが、途中で晴人達とは幾分か離れた距離で侵攻を停止し、地面に着地した。

 

「? あいつ、攻めてこないのか……?」

「なら先ずは私が、これで様子を見る……!」

 

巧が訝しみ、須美が牽制とばかりに矢をセットし、弓を引き絞る。

が、次の瞬間。4本の角の中心に見える突起物が、地面に突き刺さると同時に、6人のいた地点を含め、樹海全体が大きく揺れ始めた。

 

「うわっ⁉︎ 何だよこれ⁉︎」

「じ、地震⁉︎」

「あ、あの敵のせい〜⁉︎」

「うぅ……!」

「踏ん張れお前ら!」

 

巧が皆を励ます事で、どうにか持ち堪える一同。その間も、須美は再び体制を整えて攻撃しようと試みる。

 

「今度こそ……!」

 

脳裏には、前回の戦いで矢で射抜けず、樹海にダメージを与えてしまった記憶がよぎる。軽くトラウマになっており、失敗は許されないという念が、須美の全身を駆け巡る。

 

「(今度こそ、今度こそ……!)」

「落ち着け須美! リラックスだ!」

 

精神を集中させていたその時、須美の肩に手を乗せる者が。振り返ると、目の前には晴人がおり、その後方に他の4人が集まっていた。須美がいつも以上に鋭い視線をバーテックスに向けているのに気がつき、焦りを感じさせるその表情を抑えるべく、全員で須美の元に集結したのだ。

 

「市川君……」

「また勝手に1人で突出するな」

「私達で、倒そう!」

「おうよ! 合宿の成果を出す。そうだろ?」

「6人で協力すれば、問題ありません!」

「みんな……、うん!」

 

5人のフォローもあってか、須美はようやく落ち着きを取り戻す。

やがて揺れが収まり、6人は一斉に敵に目を向ける。山羊座は左の前足を地面から抜いて、それを晴人達めがけて放った。そうはさせまいと、昴が前に出て、右腕についた盾の面を山羊座に向ける。前足と盾がぶつかり、振動が昴の全身に伝わり、気持ち悪い感覚に見舞われるが、

 

「すばるん! 盾を上に向けて、押し流して!」

「分かりました! ヤァッ!」

 

後方からの、機転の利いた園子の指示通り、昴は盾の向きを変えて、上空に向かって腕を振るう。前足は弾かれるようにへ飛び、樹海へのダメージもない。

 

「良いぞ昴!」

「よぉし! 敵に近づくよぉ〜!」

「了解!」

「行くぞ!」

「はい!」

「オッシャア! 須美も行こうぜ!」

「りょ、了解……!」

 

園子が指示を出すと、盾持ちの昴を先頭に、山羊座めがけて一同は一斉に駆け出す。一気に接近戦に持ち込むようだ。

が、山羊座の方が巨大に似合わぬ俊敏さを発揮し、勢いよく急上昇した事で、全員が呆気にとられて足を止めた。

 

「なっ⁉︎ マジか!」

 

空に飛んでいく所までは予測していなかったのか、2人の隊長は言葉を失う。山羊座は右前足を動かすと、先程と同様に突き刺してきた。慌てて回避する6人。だがこれにより、前方に飛んだ銀と昴、後方に下がったその他の4人と、パーティが分断されてしまった。

須美が反撃とばかりに矢を放つが、地上から山羊座のいる地点までは、かなりの距離がある為、その矢は届く事はない。

 

「ダメか……!」

「制空権を取られた!」

「このまま逃げるつもりかよあいつ!」

「コラァー! 卑怯だぞ! 降りて勝負してこいー! ……って、えっ?」

 

山羊座に向かって怒鳴り散らしていた晴人だが、不意に薙刀使いの目に、異様な光景が飛び込んでくる。山羊座の4本の角が、収束し始めたのだ。

 

「何か、仕掛けてくる……!」

 

園子も何かを感じ取ったらしく、いつも以上に警戒心を強める。そうしている間にも、角は隙間なくくっつき、同時に回転を始める。

 

「(! まさか……!)」

 

嫌な予感の正体を真っ先に悟った昴が身構えると同時に、角は回転を加えたまま、地上めがけて急降下した。その軌道上には、銀の姿が。

 

「銀ちゃん!」

「なっ……⁉︎ 昴⁉︎」

 

それを察した昴が、咄嗟に隣にいた銀を突き飛ばし、昴自身は両腕で頭を覆うような体制に入る。急に突き飛ばされて困惑している銀の目の前で、上空に向けられた盾から薄いバリアが出現し、激しい音を立ててドリルと化した角と激突した。

 

「うっ、アァァァァァァァァァァァァァァァ……!」

「すばるん!」

「「「昴!」」」

「神奈月君!」

 

口からだけでなく、全身から悲鳴が溢れ出す昴を見て、一同に緊張が走る。昴は歯を食いしばりながらも、必死に耐えようと、腰を据えて踏ん張っている。

 

「グゥゥゥゥゥゥゥゥ……! い、今です! 僕が、抑えてるうちに、早く……! 敵を……!」

 

既にギリギリそうな掠れ声で、昴は皆に呼びかけた。山羊座の攻撃が昴に集中している今なら、確かに一気に攻め込む、反撃のチャンスとも言える。だが一方で須美は……。

 

「(でも、それじゃあ神奈月君が危ない……! ど、どうしよう……! 神奈月君を助けて一度間合いを取って体勢を立て直すべきか……! でもそうしたら樹海にダメージが入ってしまう……!)」

 

須美が迷う間にも、足元の樹海は侵食によって枯れ始めている。

 

「(このままじゃ、現実に被害が……! 神奈月君が……! どうすれば……!)」

「昴! 男なら、1分ぐらいは耐えろよぉ!」

「それまでに、俺達でなんとかする!」

 

だが、迷いを見せる須美とは裏腹に、昴と同じ武神2人の決断は早かった。否、それは須美と同じ勇者2人も同じく。

 

「園子!」

「うん! 私達で、敵を叩くよ〜!」

 

そう叫ぶが早いか、園子は槍を山羊座に向けて振り抜いた。すると槍の先端の形状が変化し、階段のようなものが出来上がる。

 

「わっしー! イッチー! 上へ!」

「えっ……? そ、それって」

「行くぞ、須美!」

「りょ、了解……って、きゃあ⁉︎」

 

須美が素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。中々前へ出ようとしない須美を先導するように、晴人が須美の手を引っ張り、そのまま抱き抱えられたまま、階段を昇り始めたのだ。側から見れば、お姫様抱っこにしか見えず、須美は戦場に似つかわしくないようなぐらいに頬を紅潮させる。だが一方で晴人は興奮しているからか、全く気にする様子を見せない。その表情には、身を呈して山羊座を足止めしてくれている仲間が作ってくれたチャンスを、無駄にしたくないという真剣さが表れている。

須美を抱き抱える晴人が階段の先に向かうまでに、既に数秒は経っている。空気を裂いて上昇する間にも、上からの攻撃を受け止めている昴への負担はどんどん増していく。それが証拠に、昴の体が段々と沈み始め、遂には両腕から赤い血が迸り始めた。

 

「すばるん!」

 

園子の悲痛な声が響き渡る。それを聞いて、昴は幼馴染みを不安にさせまいと、更に気合いを入れた。

 

「根性見せろぉ!」

「耐えるんだ、昴!」

 

銀と巧の声援を受けて、今一度足腰に持てる力の全てを注ぎ込む。普通に考えれば、如何に男性であろうと上からの比重が大きい一撃を1分も耐えきるのは、例え神の力を振るう勇者を持ってしても、ほぼ不可能に近い。だが昴は根を上げることは無かった。身体の節々からギシギシと錆れた鉄のような音が鳴るのを感じながらも、踏ん張れるだけの体力は残っていた。思えばこれも、合宿で源道によって徹底的にフィジカル面を鍛え上げられてきた事が要因かもしれない。

 

「耐えて、みせます……!」

 

そして晴人も頂点に到達し、須美を下ろすと、今度こそ標的を仕留めんと、弓を構える。昴の限界はすぐそこまで来ており、消し炭にされるまでもう時間がない。だが焦れば焦るほど、狙いが上手く定まらない。手に汗が滲んでいると、須美の背後から、覆いかぶさるように晴人が彼女の両手を掴んだ。

 

「大丈夫だ! 俺が支える! 一緒にやるぞ!」

「! うん……!」

 

背中に晴人の胸が密着し、須美の全身を温かいオーラが包み込む。不思議と緊張感が薄れ、須美は今一度山羊座の胴体に矢の先端を向ける。

 

「わっしー! 狙うのは胴体じゃないよ!」

 

下界から園子の指示が飛んで来た。ハッとなった須美に向かって今度は晴人が耳元で指示を出す。

 

「それなら、あの足の付け根を撃っちまおうぜ!」

 

晴人の視線の先には、ドリル状の角と胴体を繋げている、ワイヤーのような部分の付け根がある。そこを狙えという事だろう。過激な事を考えるな、と思いつつも、須美は限界ギリギリまで引き絞る。

 

「今だ!」

「届けぇ!」

 

渾身の力を込めた、大砲にほど近い矢が斜めから付け根へと潜り込み、着弾すると同時に、角と胴体が離れた。これによりコントロール不能となった角は勢いをなくし、受け止めていた昴への負担が軽くなった。

 

「昴!」

 

そこへ巧がバチを振るって、角を弾き飛ばした。勢いさえ衰えば、巧の力で弾き飛ばすのは造作もない。そして、削り取られていく樹海へのダメージも抑えられる。

 

「昴、大丈夫か⁉︎」

「大丈夫〜⁉︎」

 

銀と園子が真っ先に、両手をついて倒れこむ昴に駆け寄る。

 

「ど、どうにか、耐えました……! 後は、お願い、します……!」

「おう! この三ノ輪 銀様が、昴の分まで返り討ちだ!」

「私もいくよ〜!」

 

バランスを崩して落下する山羊座を見て、園子は一段と気迫のこもった声を出す。

 

「ここから……! 出て行けぇ! 突撃〜!」

 

晴人と須美が地上に戻ったのを確認してから、槍の形を元より数倍鋭いものへと変化させ、ロケットの如く、山羊座に突撃した。放物線を描き、容赦なく空間を斬り裂くような一突きが、山羊座の胴体を貫通する。そしてヨロヨロと空から勢いを衰えながら、バウンドしながら地上に落下した。

 

「ミノさん、たっくん!」

「隙を与えさせる前に、仕留める!」

「いっくぞぉ!」

 

なりふり構わぬ必死な攻めを見せられて触発させられたのか、銀と巧が、各々の武器に炎を宿すと、落下してくる山羊座めがけて飛び上がった。そして須美や園子が開けた風穴を中心に、銀は回転を加えて削り取り、巧は思いっきり腕を振るって力の限り叩き込む。

 

「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!」」

 

あらん限りの咆哮が樹海に響き渡る。山羊座の方も最後の足掻きを見せるかのように、胴体を振り回して抵抗している。だが、既に銀も巧も十分な程に胴体を削り取っていた。後は、最も頼れる隊長に任せるのみとなったのだから。

 

「晴人!」

「後は任せたぞ!」

「イッチー!」

「晴人君!」

「砕けぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

5人の声援に後押しされたかのように、地上で万全の体勢を整えていた少年は、足に力を込める。

 

「やられたらやり返す! 6倍返しだ! くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

刀身の長い薙刀を構える晴人は勢いよく飛び上がり、下からすくい上げるように薙刀を振るった。削られた部分に命中した事で、山羊座の胴体は中心部を除いて瓦礫と化した。だが、晴人の猛追はそこで終わらない。山羊座よりも遥か上空でバランスを整えてから、重力に従って落下しつつ、薙刀を構え直す。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

そしてそのまま、鍛え上げられた腕力だけで薙刀を振り下ろし、山羊座の中心部を、真っ二つに斬り裂いた。

しばらくして、周囲が明るくなり、壊滅状態まで追いやられた山羊座が光に包まれ始めた。

 

「へへっ。始まったな、巧」

「あぁ」

「鎮花の儀……! やったよすばるん!」

「はい……!」

 

銀は巧に、昴は園子に支えられながら、戦いの終わりを告げる合図を確認する。

 

「終わった……」

 

同じように、昴達から遠く離れた場所で鎮花の儀を目撃した須美は、ようやく安堵の表情を浮かべる……事はなく、呆然と、地面を見つめていた。

また自分の力が及ばなかったが故に、仲間を危険に晒してしまった。しかも今度は、晴人だけでなく昴も、命に関わりかねない状況下に置かれてしまった。胸の奥が痛むのを須美は感じ取った。どう謝ればいいのか分からぬまま、ふと顔を上げると、地面に仰向けに倒れこむ晴人と、彼に駆け寄る4人の姿が。晴人はいつもの如く身体中に傷を作りながらも、平気そうに会話をしていた。そして、須美と目が合うと、向こうは微笑んで手を振ってくれた。須美も気持ちを切り替えて、反射的に手を振り返す。

そして、樹海化が解除され、6人の勇者と武神は3度目となるお役目を無事に果たす事に成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例の如く瀬戸大橋記念公園の一角に戻された一同。6人は前回同様輪になって、芝生に倒れこんだ。疲労でボロボロになった一同に、しばらくは起き上がれるだけの余裕がないようだ。

 

「うぅ、イッテッテ……」

「銀ちゃん、大丈夫、ですか……?」

「ちょっと、キツかったけど……。っていうか、昴こそ、大丈夫かよ?」

「な、何とか……。ですが今日は、こう……。腰にくる、戦いでしたね……。鍛えてくださった、源道先生には、感謝しておかないと」

 

いつも以上にダメージを負った昴が、息を整えながらそう語る。

 

「いつも地味な事しかやってなかったもんな。でも、今回は助かったぜ、昴。あぁやって攻撃を受け止めてたから、俺達も攻め込めたしな」

「うんうん。ありがとう、すばるん〜」

 

園子が感謝の言葉を述べ、昴は照れながら口を開く。

 

「いえいえ……。でも、皆さんも凄かったですよ。園子ちゃんもそうですけど、晴人君の判断も早くて……」

「そういやそうだな。割とすぐに決めてたし」

 

銀がそう呟くと、今度は晴人が腕を伸ばしながら答えた。

 

「そりゃあさ。師匠の特訓を受けた昴なら、絶対あの攻撃を耐えきれるって信じてたからに決まってんだろ? 1分ぐらいならなんとかなるって思ってたし。まぁ、俺的には30秒で仕留めるつもりだったけどな」

 

ニヒヒと笑いながら、晴人は堂々とそう語った。

 

「そうだね〜。長引かせると危険だもんね〜。私も、すばるんなら絶対頑張れるって信じてたもん。みんなもそうでしょ〜?」

「まぁな」

「信じる……か。俺はそこまで考えていなかったが、今の昴なら問題ないとは思っていた」

 

頭の後ろで腕を組む巧も、内心では昴があの局面を耐えられると思っていたようだ。この1ヶ月間、お役目や学校生活を共にしてきた者達だからこそ、絶対の信頼を寄せる事が出来たのだ。

……たった1人の少女を除いて。

 

「(……あぁ。先生方は、見抜いていらしたんだ……。乃木さんの、いざという時の閃きを。そして、市川君の、仲間を信じて決断する行動力を)」

 

思い返せば、園子も晴人も、普段は少し頼りない面が見受けられるが、戦闘においては光り輝いている。それだけ仲間を信じ、気にかけている証拠でもある。

 

「(でも私は、迷ってばかりだった。それなのに、家柄のせいで乃木さんが隊長に選ばれたと思い込んで……。本当は、そうじゃなかった)」

 

それならば、富も名声も低い晴人が武神の隊長に選ばれるわけも納得がいく。園子の時と同じなのだ。事実、彼の存在感が、今のような関係を築いてくれたキッカケになるのだから。

 

「(大バカだ……! 自分がしっかりしなくちゃと思ってたけど、ただ足を引っ張っていただけなんだ……!)」

 

道理で幾度も自分が納得いかない結果になるわけだ。己の欠点を棚に上げて、大人びた納得の仕方ばかりして、言うなれば上っ面だけが先走っていたのだ、と須美は軽く酔っていた自分に悔しさを覚える。

 

「あぁ〜。お腹すいたー」

「うどん、まだ食べてる途中だったもんね〜」

「なら早く食べに戻ろうぜ! ここからならひとっ走りすれば」

「バカ。そんな体で戻っても不振に思われるし、この後は検査で学校に連れていかれる。それに、昴を見てみろ。満身創痍にほど近いだろ」

「あ、アハハ……。さすがにここからイネスに向かうのは、ちょっと時間がかかるかもしれません……」

「うぅ、それじゃあ仕方ないか……。お好み焼きはお預けって事で」

 

晴人ら5人が上半身を起こして起き上がろうとしたその時、近場からすすり泣く声が聞こえてきたので、振り返ると須美が一目で分かるほどに、目から涙を零していた。これにはさすがの5人も慌てた。

 

「えぇっ⁉︎ どうした須美⁉︎」

「ひょっとして、怪我でもしたのですか⁉︎」

「どこか痛むのか⁉︎」

 

晴人が須美を抱き起こすと、彼女はそのまま晴人の胸にダイブするようにしがみついた。

 

「違うの、私……! ごめん、なさい……! 次からは、初めから、息を合わせる……! 頑張る……!」

 

最初は驚いた一同だが、顔を見合わせると、頷いて須美に顔を向ける。

 

「おう! まだ戦いは始まったばかりだしな! 頑張ろうぜ!」

「あたしらもついてるからな!」

「はい、わっしー」

 

園子は懐からハンカチを取り出し、須美に渡した。須美はそのハンカチを使って涙を拭きながら、口を開いた。

 

「ありがとう……、『そのっち』」

『!』

 

須美が、初めて園子をそう呼んだ事に、一同は驚きと同時に喜びを感じる。

 

「わっしー! もう一回言って!」

「……そのっち」

「オォ〜!」

「ねぇあたしは⁉︎」

「……銀」

「おっ、オォ!」

 

園子と銀が喜ぶ中、正面にいる晴人も問いかける。

 

「じゃ、じゃあさ須美! 俺とか2人の事も……!」

「……うん。晴人、君」

「うんうん!」

「巧君、昴君……」

「! はい!」

「……やっとか」

 

初めて下の名前で呼んでくれた須美。それを見て、晴人はこう語る。

 

「やっと、友達になれたって感じだな」

「晴人君……。その、色々と、ごめんなさい。私、晴人君の事、理解しようとしないで……。でも、貴方こそ隊長よ(普段は私がサポートすれば良いけど、ここぞという時は、頼るようにするわ)」

 

不意に新たな使命に燃え始めた須美は、そのまま晴人の肩をガシッと掴んだ。

 

「?」

「晴人君は、私が面倒を見るわ。立派な愛国心を抱く紳士に、育ててみせるわ」

「……はい?」

「アハハ! なんじゃそりゃ! 母親か⁉︎」

「わっしー面白〜い!」

「……俺の中で須美のイメージが、何となく崩れた気がする」

「ぼ、僕もそう思います。晴人君、頑張ってくださいね……」

「お、お前ら⁉︎ からかってないでフォローしてくれよ⁉︎ 仲間だろ⁉︎」

 

それから、大赦の面々が来るまで、それまでの死闘を感じさせない程に、和やかな雰囲気の中で会話が弾んだのだそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1×6を、6ではなく100にする。それはある意味で達成されたのかもしれない。そうしなくては、きっとこれからも戦い続けるのは困難だったろうから。

敵の名はバーテックス。ウイルスの中で生まれた、忌むべき存在。これを退ける為に、人々の日常を守る為に、彼らは戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、ここで一つの疑問が生じる。

そんなウイルスの変異体との言える存在に、『頂点』という意味の言葉をつけるだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時はまだ、彼らは知らなかった。バーテックスが◼️に◼️られたものだという事に。

そして、迎撃され続けた知的生命体が、どういう行動をとって来るのかも……。

 

 

 




次回からしばらくは、本編から少し外れた内容に入ります。早い話が、オリジナル回です。


〜次回予告〜


「父の日ねぇ……」

「戦艦武蔵の魅力を伝える、良い機会よ!」

「大谷……?」

「どうしたんだよ巧?」

「彼の事を、君に頼みたい」


〜その男、大谷 巧〜


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