結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

日本のみならず、世界では大変な事がわんさか起こってますが、目を背けず、しっかりと事実に向き合う事が大切だと考える、今日この頃です。


15:孤高の雪花 護りたい想い人

神託を受けて、本格的に土地の奪還が始まってから、数日が経過した、ある日の昼下がり。

 

「せっちゃん、せっちゃん!」

「んー?何、結城っち?」

「東郷さんがね、牡丹餅作ってきてくれたんだ!だから、一緒に食べよう!」

「東郷先輩の牡丹餅、凄く美味しいんですよ!そうですよね、遊月先輩!」

「あぁ」

「へー。……なら、折角だしご相伴に預かりますか」

 

人数も増えてやや窮屈に感じる部室では、今日も賑やかではあるが、ここ最近、注目の的になっているのは、北海道から参戦した雪花だった。

 

「あ、雪花さん、聞きたい事があるんですけど、良いですか?」

「いいよ?雪花さんにどんどん聞いちゃって」

「ほら、わっしー、すばるん。いいってよ〜」

「あの……。北海道の事、詳しく教えてもらえませんか?歴史に興味があるので、お願いします」

「僕も、北海道の郷土料理の事とか、聞いてみたかったんです。今の時代、文献だけでは調べ切れないので、この機会に、と」

「うーん……。じゃ、牡丹餅食べながら、先ずは北海道のお城の話でもしよっか。それから、ラーメンと同じぐらい、ウチではポピュラーな料理の事も話してあげる」

「それは私も興味があるわ」

「僕も、お邪魔でなければお聞かせください」

「オッケー。北海道のお城といえば、函館の五稜郭が有名だけど……」

 

須美と昴(小)の頼み事を聞き入れた雪花が話し出そうとすると、2年後の同一人物である2人も参戦する。

 

「雪花も馴染んできてるみたいだな」

「そうね。ここのみんな、とってもフレンドリーだもの!」

「じゃな。すぐに仲良くなれるのはいい事じゃ。……それにしても、この牡丹餅、本当に美味いのぉ」

「……まぁ、悪くない」

「と言いつつ、照彦、お前牡丹餅頬張りすぎだろ。今日何個目だよそれ?」

 

雪花の様子を見ていた面々は東郷作の牡丹餅を食べながら、口々にそう呟く。中でも人一倍甘党な照彦は、目の前の和菓子に夢中になり過ぎて、今日自分が何個食べたか覚えていない様子だ。

 

「あの子も大変ね……」

「でも、仲良くなるのは良いことですから。ね、夏凜さん」

「……」

 

元々人付き合いの苦手な千景は、雪花の苦労ぶりに同情し、ひなたが夏凜に話しかけるが、どういうわけか、当の本人は腕を組みながら、雪花の方を見てやや険しそうな顔をしている。

近くにいた真琴も気になって声をかけてみる。

 

「夏凜ちゃん?」

「!そ、そうね。仲が悪くて戦う時に連携が取れなかったりしたら、困るわね」

「夏凜……」

 

銀(中)も、夏凜の様子がおかしい事を察したのか、声をかけようとするが、グッと堪える事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

小学生組が用事で部室を抜けたのを境目に、他の面々も部室を後にする中、雪花も部室を離れ、ようやく束縛から解放されたかのように腕を伸ばしながら、ホッと一息つく。

 

「ふぅ……。今日もモテモテでした。人気者ってのも意外と大変だねぇ……、どーしよ(悪い子達じゃないのは分かってるんだけどねー……。自分の部屋にいても結構な頻度で突撃されるし……)」

 

雪花自身、声をかけられる事は嫌ではないのだが、勇者部の面子は、自分からグイグイ寄ってくるタイプが多い為、質疑応答の数も多く、結果的に疲労が溜まってしまい、逆に変なストレスがかかってしまうのだ。

 

「ちょっと……、1人になりたいなぁ」

「雪花」

 

不意に声をかけられてビクッとなる雪花。振り返ると、そこには夏凜と銀(中)の姿が。

 

「⁉︎誰かと思ったら、夏凜と銀かー。どしたの?先に帰ったんじゃなかったの?」

「まぁ色々あってさ。所で、雪花はこの後何か用事でもある?」

「?別に、無いけど?」

「なら、ちょっと付き合ってもらえる?」

「?良いけど……」

 

また部員に絡まれてしまった事に、やれやれと感じつつも、どこか違和感のある態度に、首を傾げる雪花。

そうして2人に連れられてやってきたのは、夏凜が住むマンション。相変わらず必要以上に物が置かれておらず、やや殺風景なリビングに案内されて、戸惑う雪花。

 

「えーっと……、夏凜の家っぽいとこにご招待されちゃったみたいだけど、どういう事?」

「さっき言ってたでしょ、『1人になりたい』って」

「あー、やっぱし聞かれてたかぁ……」

「気持ち、ちょっと分かるから……」

 

どうやら夏凜は、雪花が周りから引っ張りだこにされている事を心配していた様子だ。

 

「ここにいる銀もそうだけど、みんな距離感が近いっていうか、お構いなしにグイグイ来るでしょ。最初、私も割と困惑したわ。でも、悪い奴らじゃないから……」

「へへっ!夏凜も言うようになったな!初めて会った時とはえらい違いじゃん!」

「う、うっさい!……と、とにかく、私はここで一人暮らししてるから、好きな時に使って良いわよ。これ、合鍵」

「あ、ありがと……」

「じゃあ、私はこれから銀と鍛錬に向かうから……。戸締まりとかガスとかには気をつけるのよ」

「んじゃ、また明日な!」

 

そう言って夏凜と銀が背を向けて、雪花が手を振ろうと

 

「……んん⁉︎いやいや待ってまって!」

「「……何?」」

 

ハモるように振り返る2人。

 

「いきなり他人の家で1人とか、居心地悪いというか、落ち着かないんですけど⁉︎」

「うっ……。それも、そうね」

「アッハッハ!いきなりはやっぱ厳しいか!」

 

言われてみれば、出会ってまだ間もない部員の家でいきなりくつろげと言われても、実行するには無理があるような……。

 

「大体さ。合鍵なんて、もらっちゃって本当にいいの?」

「良くなきゃ渡さないわよ。真琴や銀にも渡してるし……。そりゃ、大量にサプリを持っていかれると困るけど」

「サプリを頬張ってる女子中学生なんて、夏凜ぐらいしかいないと思うし、そっちの方は心配ないでしょ。けど……、ふーん、夏凜も銀も、信用してくれるんだ」

「まぁ、ね。……というか、私は自分の人を見る目を信用してるのよ!」

「あはは。それはどっちでも良いかな。……でも、ありがとう。ありがたく使わせてもらう事にする」

「……最初からそう言いなさいよ」

「へぇ意外。素直さなんて欠片もなかった夏凜がそんなセリフをねぇ……。風にまたイジられるぞ?」

「う、うっさい!あいつには黙っておきなさいよね!それと園子ズにも!絶対小説のネタにされるだけだし!」

 

などと2人のコント(?)を観察していた雪花は、先ほどと打って変わって、関心したような顔つきだ。

 

「それにしても、2人とも息ぴったりだにゃー。幼馴染みってわけじゃないんでしょ?」

「へへっ。まぁ何てったって、最強コンビだしな!」

「何だかんだで、鍛錬に付き合ってくれてるし、一緒にいると、悪い気がしないのよね。それに戦闘スタイルだって、私が使ってる勇者システムも、実は銀が小学生の頃の時のデータを基に設定されてるみたいだから、色々と合ったりするのよ。それがまぁ、こうして日常にも表れてるだけの事よ」

「へぇ〜、何かそれだけじゃ無さそうだけど、一応納得したわ。……んじゃ、してもらってばかりじゃアレだし、今度ラーメンをゴチしてあげよっかな」

「麺類はうどんが最強って決まってるけど、食べてあげるわ。勿体無いし」

「だな!」

「ふふっ。そう言うと思った。2人とも、楽しみにしといて」

 

そう宣言する雪花の表情は、部室にいた時と違って、何処となく自然体な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪花が、夏凜と銀(中)の2人と親睦を深めていた頃。

他の時代から召還された面々が暮らす寮に、買い物袋を提げた者達の姿が。

 

「ゴメンね。買い出しに付き合わせちゃって。普段は私1人でやってたんだけど、一からのスタートってなると、誠也の分も含めると、量も多くなっちゃって……」

「気にしないでください!こういうのは歳下の役目ですから!」

「うふふ。杏ちゃんから聞いてたけど、健気なのね、小学生のみんな」

 

両手に買い物袋を携えた美羽が微笑みながら、寮の入り口へと入っていく。

雪花や奏太などの面々の分も含め、必要最低限の買い出しは済ませてあるのだが、美羽としては、この世界にいる間はしばらく長居する事になると考え、大量に買い溜めしようと考えていたのだが、いざ必要なものをリストアップしてみると、これが中々に多い。何往復する必要があるかも、と思考を悩ませていた際、小学生組が気を利かせて、買い出しの手伝いを自ら申し出た為、こうして7人がかりで、必要なものを全て買い揃える事が出来たのだ。

 

「手伝ってもらっちゃったからね。このまま部屋でお茶休憩でもしよっか。ろくにおもてなしも出来ない感じだけど」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「重かったね〜」

 

そうして一同は、用意してもらった部屋に入って、買ったものを一旦開けた場所に下ろす。

巧(小)は、下ろした荷物の中を覗きながら、ポツリと呟く。

 

「それにしても、結構な量だな……。これ、誠也さんの分も入ってるのか?」

「うん。元の世界でも、私が誠也の分を買い出ししてたから」

 

因みに、誠也はというと、勇者部の依頼で外に出かけており、戻ってくるまでしばらく時間はかかりそうだ。

 

「それじゃあ、先ずは誠也さんの分と仕分けする所から始めましょう。後で誠也さんの部屋に運ばないと」

 

そう言って須美が袋から雑貨類を取り出そうとすると、美羽がそれを制した。

 

「あ、大丈夫だよ。誠也の部屋もここにあるし。共同だから、後は物を置くだけだから」

「ははぁ……って、え?誠也さんの部屋、用意してもらってないんですか?空きがなかったとか?」

 

美羽の発言に違和感を覚える晴人。他の面々も注目する中、美羽はあっけからんとした口調でこんな事を話し出す。

 

「そうじゃないよ。管理人さんにお願いして、元の世界と同じように、私と誠也の部屋を、一緒にしてもらってるの。その方が何かと不都合もないから」

「い、一緒に……⁉︎」

「ま、まさかの同棲……⁉︎」

「ビュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!これは……、これはぁ……!」

 

流石に一緒の部屋で暮らしているとは想像だにしなかった小学生達の反応は様々だった。

 

「そんなに不思議がる事……なのかな?」

「いやいやそりゃビックリしますよ!じゃあご飯も一緒に食べてるって事ですよね⁉︎」

「うん。時間がある時は一緒に料理したりするけど、基本的に誠也はお役目やスケートの練習で疲れてる時が多いから、私がご飯を作ってるの。……そんなに上手くはないけどね。だから昴君」

「は、はい」

「昴君、料理がとっても上手ってひなたさんから聞いてるよ。今度、料理のレパートリーを増やしたいから、色々と教えてもらえるかな?」

「ぼ、僕でよければ構いませんが、レパートリーという観点なら、昴先輩の方が多そうですから、そっちも誘ってみても良いかもしれませんね」

「ありがとう、昴君。……それで、話を戻すけど、ご飯もそうだし、洗濯物も掃除も、とにかく家事全般は、基本的に私の役目なの。勿論、お風呂に入る時も、寝る時も一緒だよ。その方が家計にも優しいし」

「お、お風呂⁉︎」

「うん。いつも一緒に入って、誠也の背中を流すのが日課だから」

「そ、それは凄すぎる……!」

「おぉ……!どれもこれも美味しいシチュエーション……!早く文字に起こさないと〜……!」

 

園子(小)は、早くも小説の次回作のネタにする気満々のようで、おでこがテカテカと輝いているようにも見えた。

 

「で、でも、ちょっと恥ずかしい気持ちには、なったりしないんですか?だって、その……,。異性の人に、下着とか見られたりするんですよ?私だったら、とてもそんな勇気は……」

「う〜ん。周りのみんなもそんな感じだけど、私も誠也も気にしてないよ?昔からいつも一緒だったから、もう慣れっこみたいな所があるから」

 

それに……、と、ここで美羽はいつになく真剣な表情で、部屋を見渡す動作を見せた。

 

「今はここが、誠也の帰ってくる場所だから」

「帰ってくる……場所……」

「うん。讃州中学も、勇者部も、この部屋も、それから元の世界も、全部誠也が帰ってくる場所だから。誠也はいつも頑張って戦ってるけど、私は一緒に戦う事は出来ない……。それがいつも心残りで、嫌な事だから……。だからせめて、誠也が安心して帰ってこられるように、こうして全身全霊で、彼の身の回りをサポートする。それが、私に出来る精一杯なら」

「美羽さん……」

「そっか……」

「……まぁそれでも、結局はこれくらいしかやれないのが、もどかしいんだけどね」

 

巫女である彼女もまた、ひなたや水都と同じような悩みを抱えていたらしく、それでも彼女は、自分にやれる事をしっかりと見据えて、幼馴染みの生活の手伝いを全力で頑張る。それが、彼女の原動力となっているようだ。

 

「けど、誠也さん、幸せ者だよな。そんな風に想われてるんだからさ!」

「うんうん〜!誠也先輩、お背中流してもらえるとか、いいなぁ〜!」

「そこかい⁉︎」

「お、想ってるなんて、別にそんな……。ただ、無事に帰ってきてほしいだけで……」

 

顔を紅くする美羽を見て、ニヤニヤが止まらない一同。

と、そこへ。

 

「ただいま……。っと、お前らも来てたのか。それにその荷物の量は何だ?」

 

噂をすれば何とやら。誠也が、商店街でのお手伝いを終えて、そのまま部屋に帰宅したようだ。

 

「あ、いけない……!もうそんな時間だったの……⁉︎」

「休息も十分とれましたし、そろそろ仕事を再開しましょうか。私達もこのまま手伝いますから」

「よ〜し!銀さん頑張るぞぉ!」

「なら、俺もやるか。夕飯までまだ時間はあるし」

「え、でも誠也。疲れてない?」

「これくらい、いつもと比べれば大した事ねぇよ。ほら、みんなでパパッとやっちまおうぜ」

 

そう言って誠也を含めて8人で、買ってきたものを所定の位置に並べ始める。

台所の引き出しに皿を入れながら、晴人は誠也に話しかけた。

 

「誠也先輩と美羽先輩、ホントに仲良いですよね」

「ん?」

「先輩がいつも頑張れる理由って……、やっぱ、美羽先輩の存在が大きい、ですか?」

「……否定はしねぇよ。あいつがそばにいてくれたから、スケートも、バーテックスと戦う事も、折れずにやってこれた」

 

それに……、と、誠也は手を止めて、すぐそばに置かれている、動植物園と思しき施設で2人が手を繋いで並んでいる写真を見つめながら、確固たる意志を持って口を開く。

 

「俺は、期待されてるからな。親にも、コーチにも、応援してくれるみんなにも、そして何よりも、美羽の為にも、俺は負けたくない。失敗はしない。失敗したら、あいつも悲しむ。そんな姿は見たくないから。だから俺は、美羽の日常を守りたい。その気持ちが、俺に勇者としての存在意義を奮い立たせてくれるんだ。この部屋も、部室も、元の世界も、美羽が待っててくれる場所だから」

「!」

 

そのセリフは、多少の差異こそあれど、幼馴染みのそれと酷似している。改めて、お互いがどれほど想いやっているのか、恋愛事情に疎い晴人でさえ、言葉にならない凄みを感じた。

 

「……って、小学生相手に何を洒落れた事言ってんだか。らしくねぇから、この事はこれっきりにしてくれよ。俺はそこまで大それた事を言えるほど、偉くもねぇんだからよ」

「……そう言う事にしときます」

 

ニヤつきながらも、再び作業を始める晴人。いつの間にか、彼も手が止まっていた様子だ。

互いに、護りたい人がいる。それが2人を強くしているのだとしたら、未来の自分や須美があそこまで強くなっているのも、納得がいくかもしれない。そんな事を考えながら、明日も頑張るぞ、と決意を新たにする、神世紀298年に誕生した、武神のリーダーであった。

 

 




次回はイベントを軸としたストーリーを進めていきます!
尚、全てのイベントをやれるとは限りません。執筆する時間もそうですが、個人的に『このストーリー面白かったなぁ、印象に残ったなぁ』と思ったやつしかやりませんので、そこはあしからず……。


〜次回予告〜


「防衛戦ねぇ……」

「よく言われるよ」

「タマっち先輩のバカ!」

「俺は諦めねぇぞ!」

「な、何の話だ⁉︎」

「これがデフォよ」

「私の、初めての水着……!」


〜水着は着る時よりも、選ぶ時の方が楽しかったりする〜


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