結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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前回の投稿から結構時間が経ってしまい、ゆゆゆ3期も完走しましたが、皆さんいかがでしたか?
私は、これ以上にない大円団ではないかと思っております。

ついこの間、同じゆゆゆファンの方と聖地巡礼をしたのですが、観音寺のみならず、瀬戸大橋や丸亀城でもゆゆゆを推奨している所があり、ファンとして歓喜しております!

世間では『ゆゆゆロス』などという言葉が飛び交っているようですが、私は敢えて宣言します。
私達のゆゆゆは終わらない!寧ろ物語に一区切りついたここからが正念場なのです!私達の手で後世にこの作品を伝えていく事が、このコロナ禍という大変な状況で生き続けている我々の責務ではないか、と考えております。

……長くなりましたが、本年度最後の投稿となります。あと、この投稿日は白鳥歌野の誕生日でもあります。おめでとうございます!




12:憧れの存在

 

「ただいま、みーちゃん!怪我はない?」

「うたのん、それはこっちのセリフだよ。童山君も大丈夫みたいで、良かった……」

「中々の大物じゃったが、そう簡単にやられはせんよ」

 

戦闘後、部室に戻ってきた諏訪組は互いの無事を確認する。

 

「そういえば、元の世界では普通に動けとったわけじゃが、樹海化しとる時、水都はどうなっとるんじゃ?」

「うむ。我々が元いた時代では、樹海化と同時に時が静止していた。唯一動けるのは、神樹に見定められた勇者と武神のみ。だが、この世界に於いてはそういったシステムは働いていない。故に、勇者ではない大人の俺や安芸君、それに巫女2人も自由に動く事が可能だ。無論、心配せずとも水都君には我々が付いている」

「アンダースタン!それを聞いて安心したわ。くれぐれも、ウチのみーちゃんをよろしくお願いします」

「う、うたのん恥ずかしすぎるよ……!」

「では歌野さん達も揃った所で、じっくり説明していきますね」

 

歌野が源道に頭を下げている所を水都に止められている中、ひなたが省略していた残りの説明を始める。

 

「成る程のぉ……」

「ありがとう、理解できたわ。外の世界が止まってるなら、諏訪の畑も大丈夫ね!」

「……!」

 

歌野の口から諏訪の話が上がった途端、若葉の表情に変化が。

 

「所で私達、お役目の途中でここに飛ばされてきたんだけど……、未来の時間軸で、諏訪がどうなっているか、誰か知ってる?」

「えっ?それ、は……」

 

深い事情を知らない紅希は返答に困っている様子だ。一方で、後方にいた東郷と遊月の表情は険しくなる。2人を初め、この場にいる何人かは、壁の外の真実を知っている。思わず遊月達に顔を向ける若葉。無言で頷いたのを確認した若葉は、重苦しい口調で話しかける。

 

「……そこらへんについては、この神樹様の世界を救ってから考える。そう決まっているんだ……」

「あら、そうなのね」

「……じゃが、その様子じゃと諏訪はかなり大変そうじゃな。主らの顔を見てて分かるようになったわい」

 

童山は隣にいる流星の顔色を伺いながら口を開く。流星も何も言い返せない。

 

「とにかく!変な未来にならないように、諏訪に戻ったらまた全力で頑張りますかね!ね、みーちゃん」

「……うたのんなら、そういう前向きな事を言うと思ったよ。だって、うたのんだからね」

「まぁそれは、未来の私達に任せましょう!今の私は、みなの名前を覚える事から始めないとね!」

「……成る程。歌野が勇者に選ばれた理由が、今ならとてもよく分かる気がする」

「うたのんは、あんな感じでいつも、童山君と肩を並べて、諏訪のみんなを鼓舞していたから。後は、畑の一つでもあればうたのんは大丈夫」

「水都さんもついてますしね。うふふ」

「それなら、活動しがてら、耕せる土地を探してみるか」

 

藤四郎がチュッパチャプス(カルピス味)を舐めながら、歌野の要望に応えられそうな場所を思案する。

 

「歌野。語りあいたい事がある。後でゆっくり話そう」

「こちらも同じよ、若葉」

 

この頃になると、若葉も先ほどとは打って変わって朗らかな表情になっていた。それだけ盟友との会合が嬉しかったのだろう。

 

「うたのん早速モテてる……」

「うふふ、巫女は巫女でじっくり話し合いましょうね、水都さん。ぎゅ〜」

「あわわっ……!」

 

突然同じ巫女に抱きしめられて困惑を隠せない諏訪の巫女。この光景に色めきたったのは、他ならぬこの3人だ。

 

「逸材が加入して、小説の創作意欲がドボドボと湧いてくるよ〜!まったくここは素敵な世界だね〜」

「こっちは、70ページまで仕上がりました〜!こういう時、自分が2人いると便利だね〜」

「新しい小説が今、生み出されている……!ドキドキ……!」

 

この数日で、元々読書好きの杏は、小説家のダブル園子を崇拝するまでに至ったようだ。

 

「(馴染めるか不安だったけど、皆良い人そうで良かった……。私も巫女として、出来るだけひなたさんのサポートを頑張らないと。うたのん、童山君、ついていくからね)」

 

そんな決意を固める一方で、何処となく物悲しげな表情を滲ませる水都の顔を、樹は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水都の表情が曇っていた理由が判明したのは、それから3日経過した放課後だった。

 

「こんにちは……って、あら?今日は4人だけ?」

「あ、こんにちはッス!」

「他の……、流星達はどうしたんじゃ?」

「勇者部の活動中ですよ」

 

部室を訪れた歌野達だったが、そこにいたのは樹と冬弥、真琴、そしてひなたの4人だけ。ひなたが童山の問いに答えると、水都が口を開いた。

 

「勇者部って確か……。樹ちゃん達がやってる部活だっけ?」

「はい。困ってる人を助ける部活です」

「へぇ、困ってる人を……。それは素敵ね!私にも出来る事ってあるのかしら?」

「うたのん?」

「えっと、多分あると思いますけど……。冬弥君、何かあるかな?」

「お、おいらに言われても……。兄貴や風姐さんの方が知ってそうスよね……」

「風さんに、藤四郎さんね」

「お二人は部長と副部長ですからね。確か2人とも、校庭にいるはずですよ」

「ワシにも何か手伝える事はあるかね?」

 

話を聞いていた童山も、歌野と同様に志願するようだ。

 

「それでしたら、もうすぐ体育倉庫の掃除の為、重い機材を運ぶ為に、何人か男手が必要でして、大半はそちらに駆り出されているものかと」

「なら、ワシはそっちに向かうとしよう。力仕事は、ワシの取り柄じゃ」

「じゃあ私も行ってくるから!」

「あ……」

 

水都が何かを呟くよりも早く、2人は颯爽と部室を後にする。水都は動く事なく、深く息を吐く。

 

「水都さんは、一緒に行かないで良かったんですか?」

「……うん。私が行っても、何も出来ないと思うから。……えっと、じゃあ私はこれで」

 

そう言って溜息混じりに部室を後にしようとした水都だったが、そんな彼女を引き止める者が。

 

「あ、あの!水都さん、この後、何か予定ありますか?」

「んー、どうしよう?考えてなかった」

「だったら、一緒にお話し、しませんか?」

「私と?」

「はい。きっと、歌野さんも童山さんもここに戻ってくると思うんです」

「……うん。だったらそれまで」

「じゃあこっちもキリがついたから、休憩も兼ねて。今、お茶を淹れるから」

「おいらも手伝うッス!」

 

そうして樹の提案で、真琴と冬弥が淹れたお茶を飲みながら席に座る5人。

 

「……それで、何の話をしよっか」

「じゃあおいらが。水都先輩に聞きたい事があったんスよ」

「聞きたい事?」

「歌野先輩と童山先輩の事ッス!2人ともカッコよくて、前向きでリーダーシップがあって、兄貴と似てるような気がするんスよ!まぁ、まだ日も浅いから勝手に想像してるだけなんスけどね……」

「……ううん。間違ってないよ。2人とも、本当に凄いから」

 

そう言って、水都の口から語られたのは、諏訪での2人の活躍だった。

 

「諏訪ではね。うたのんはみんなのリーダーで、童山君がそれを補助する形で、農作業をこなしてきてた。2人がいたから、みんな頑張れたんだ」

「みんな、ですか?あれ?勇者って、歌野さんと童山さんだけですよね?」

「諏訪のみんな。……私を含めて」

「!それって、普通に暮らしている人も含めてって事ですよね……!同じ中学生なのに、凄い……!」

 

真琴がそう呟くように、中学生の少年少女が今以上に過酷な環境下で、皆の代表として畑仕事を進めてきた事を考えると、感心してしまうのも無理はない。

 

「私だったら絶対無理です!自分の事だけでも精一杯なのに……!あ、でもお姉ちゃんだったら……」

「兄貴ならやれそうな気がするッスね」

「夏凜ちゃんも、みんなに気を遣う所があるから、きっと……」

「そうですね……多分ですけど、立派にリーダーを務めていたと思います。もちろん歌野さんや童山君とは違った形にはなるでしょうけど、各々のやり方で、精一杯」

「はい!私もそう思います!とっても頼りになるお姉ちゃんですから!」

「おいらも!」

「うん。夏凜ちゃんは面に出さないだけで、本当に頑張り屋さんだから」

 

樹と冬弥、真琴の3人が、各々が憧れている3人の名を挙げる中、水都は何かを言いたげな表情だった。

 

「でも、樹ちゃん達は……」

「「「?」」」

「さて、次は若葉ちゃんの番ですね!」

 

その疑問が解決するのを遮るかのように、ひなたが若干興奮気味に、若葉の魅力について話し始めた。

 

「え、あ、若葉さんもカッコいいですよね!西暦の風雲児!」

「はい!若葉ちゃんはカッコいいだけでなく、とっても可愛いんです!」

「可愛い……?」

「困り顔で相談事を持ちかけてきたり、膝枕で耳掃除をねだったり……」

 

これを聞いた4人は思わず目を見開いてしまう。

 

「わ、若葉さんが膝枕⁉︎」

「想像つかないッス⁉︎」

「若葉ちゃん、本当に中学生なのかな……?」

「あれはとても、とてもいいものです……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘクシッ!」

「ちょ、乃木さん⁉︎いきなり隣でくしゃみしないでちょうだい……!整理してた資料が飛び散るでしょ」

「若葉ちゃん、大丈夫?どこか具合が悪いの?」

「あ、いや。それは大丈夫なんだが……。何故か今、ひなたが私の事を話しているような気がして、悪寒が止まらないというか……」

「「……?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして舞台は再び勇者部室へ。

 

「若葉さんに、そんな一面が……」

「はい。でも、普段の若葉ちゃんはイメージと同じだと思います。いつも先陣を切って、バーテックスと戦ってましたから。……まぁ、突出しすぎて、一度揉め事に発展した事もあって、今は大分落ち着きましたけど」

「それはお姉ちゃんも同じかな?私達の前に立ってくれてた」

「そうッスね。あの頃は、兄貴の背中を追いかけるだけで必死だったッスよ」

「夏凜ちゃんも、誰よりも早く前に出て殲滅を心がけてたね」

「うたのんも童山君も、とっても頑張ってたよ。私は……、何の力にもなれなかったけど」

 

と、ここで水都がずっと押し殺していた感情を曝け出し始める。

 

「……私は、何で呼ばれたんだろう?うたのんや童山君と違って、戦えるわけじゃないのに……。ここには沢山勇者がいて、戦える人がいっぱいいて……」

「……」

「うたのん達と一緒にいられるのは嬉しいけど、私が呼ばれた意味って、あるのかな……?」

「見てるだけは……、辛いですよね。分かりますよ。私も水都さんと同じ巫女ですから」

 

表立って戦場に動向できないという点では、ひなたも思う所があったのだろう。幼馴染み達を見守る立場というものがどれだけ辛いものかを知っているひなたは、水都に同情の意を示すが、水都はひなたの気を悪くしてしまったと思い、慌てて弁解する。

 

「あ……!ひなたさんを悪く言うつもりは……」

「大丈夫です。ちゃんと、分かってますから」

「ありがとう、ひなたさん……」

「あ、あのっ!」

 

重苦しい雰囲気が部室内に漂う中、それらを振り払うように立ち上がり、割り込んできたのは、姉の陰に隠れている事の多かった妹だった。

 

「わっ⁉︎」

「あぁごめんなさい……!」

「ううん、ちょっとびっくりしたけど、大丈夫」

「あ、あの……、私も同じなんです!私も同じで、お姉ちゃんがいないと、何も出来ないって思ってた!」

「う、うん」

「だけど、それは違うんです。諦めて下を向いてちゃ、ダメなんです!お姉ちゃんに頼ってもらえるような、そんな私に変わっていかないと!」

「樹の言う通りッスね!おいらもまだまだ兄貴の足引っ張ってばかりッスけど、背中ばかり見てるんじゃなくて、その隣に立って、本当の兄弟にはなれなくても、ちゃんと隣に並んで、前に進みたいんスよ!」

「私も、私達も頑張ってる最中ですけど、水都さんも一緒に頑張りませんか?」

「頼ってもらう……?私が、2人に?」

「はい!」

「そんなの、無理だよ」

 

突然の事に面食らう水都。頼ってもらえるような自分をイメージするものの、2人の事を知っているが故に、すぐにかき消されてしまい、首を横に振る水都。

だが、今回ばかりは1年生達も引き下がらなかった。

 

「無理じゃないです!頑張っていれば、きっとなれます!絶対になれますから!」

「そうッスよ!」

 

この剣幕ぶりには、少し離れた位置で見守っていた真琴とひなたも、そのやりとりに見入ってしまう。驚いた表情の水都は、2人の隠れた本性を前に、ネガティブな思考が消えかけていた。

 

「……冬弥君もだけど、樹ちゃんってこんなに強引だったんだ」

「強引だとしても、絶対なんです!」

「……なら、少し頑張ってみよう……かな。先ずは、畑の知識……とか?」

 

ここまで詰め寄られては、さすがの水都も折れたようで、やる気の片鱗を見せ始める。

水都の発言を聞いて、真琴はある事に気づく。

 

「?水都ちゃんも、畑仕事が好きで2人と一緒にやってたわけじゃないの?」

「うーん、私は2人について行ってるだけだから、何となくの感覚でしか農業を手伝ってないから……」

「他に何かやりたい事でもあるの?」

「やりたい事……。強いていうなら、私がやりたいのは……、宅配屋さんかな」

「えぇ⁉︎こっちも想像つかなかったッス⁉︎」

「……相手がどう思っているかは、本人には伝わりにくいものですね。どんなに強い人だって、1人じゃ寂しいです。それはきっと、歌野さんや童山君だって……。諏訪を背負うという重圧に負けなかったのは、水都さんが側にいたからだと思いますよ」

「ひなたさん……」

 

ひなたも、若葉達が背負ってきたものの重圧が分かるからこそ、こう言えるのだろう。だからこそ、どれだけ自分の無力さに打ちひしがれようと、彼女は自分に出来る精一杯の事をやろうと決めたのだ。その一例が、膝枕を介しての耳掃除なのだ。

 

「ひなたちゃんのいう通りだよ。僕も、夏凜ちゃんがいてくれたから、ここまでこれた。でもそればかりに頼ってちゃダメだから、少しずつ変わっていこうって決めたんだ。だから、今は巧君から技術を教わってる最中。大変かもだけど、一緒に頑張ろうね!(勿論、夏凜ちゃんだけじゃない。今は中々会えないけど、いつかは、親友である彼のように強くなるって、決めたから……)」

 

4人の言葉を聞き、水都も憑き物が落ちたような表情を見せる。

この日以降、歌野と童山の畑仕事のみならず、子猫の里親探しや海岸のゴミ拾いに、諏訪の巫女の姿が度々目撃されるようになったのは、また別の話。

 

 

 




正直な話、ゆゆゆ3期の7話を観た時、自分の中でこのまま執筆していく事に対する不安が凌駕し、本当に自分の手で彼女らに救いのあるストーリーを提供出来るのか、迷いが生じてました。
そんな私を救ってくれたのが、その翌々日に流れた、「仮面ライダーリバイス」10話、仮面ライダーライブ覚醒回に流れた主題歌でした。あの放送がなかったら、今後の更新に支障をきたしていたかもしれません。この時ばかりは、駅伝で1週間伸びてくれた事に感謝します……。

では、来年度もよろしくお願いします。


〜次回予告〜

「ちょっと特殊なケースという神託が……」

「花により散れ」

「創作意欲を高める波動を感じるね〜」

「大体分かった」

「試される大地!」

「もっとそこそこでいいのににゃあ」

「怪我しないようにね」

「気合い入れていくぜ!」

「よろしゅう頼むな!」


〜新たな出会い〜


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