結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

101 / 127
お待たせしました。

ゆゆゆの3期も折り返し地点に辿り着きましたが、5話の中盤であの描写は度肝を抜かれました……。
でも、小説版の世界観を残しつつ、原作では分からなかった、高嶋友奈の一面を少しでも多く見られたのは高ポイントだと思います。原作を未読の人には若干分かり辛い所もあるかもですが、一応小説の増版も決まってるみたいなので、是非この機会に読んでもらいたいですね。

話は変わりますが、今回から四国外の(オリキャラ含む)勇者達が参戦!


11:諏訪の守護者

「光が収まったか……って」

「!これは……!」

 

突如、若葉の部屋が光り出し、動揺していた面々も、ようやく落ち着きを取り戻す。ひなた曰く、土地神が力を取り戻した事により、新たな援軍を召還する手筈が整ったようなので、それがこのタイミングで起きた、という事だろう。

まだ見ぬ勇者達の登場に期待が高まる中、若葉と流星は、思わず目の前の光景を疑ってしまう。

 

「……?あら?あらら?こ、ここはどこかしら?」

「何じゃ?突然光ったと思えば、何故にこんな所に?」

「うたのん、童山君。ほら、さっき話してたやつだよ。私達、神樹様に呼ばれたんだよ。神樹様は、土地神様の集合体。私達を護ってくれていた神様、と関わりが深い神様がいっぱいいるから」

「なるほどのぉ……」

「あー!するとここにいるのはフレンド!オーケーオーケー!」

 

胸にカエルの刺繍が縫ってある短髪の少女の説明を受けて、深緑色の髪の少女と、小柄ではあるがどっしりとした体格の少年が納得したように頷く。

 

「お、おぉ!童山ではないか!久しいな!」

「!その声はもしや……!流星!お前さん何故ここに⁉︎」

「うむ!実は色々あって、俺達もこの世界に一足先に呼ばれていたのだよ。しかし、このような形でまた会えるとは、嬉しい限りだ!」

「うへへっ。その熱い性格も相変わらずじゃな!」

 

類は友を呼ぶ、と言うべきか、どちらも暑苦しそうな雰囲気の2人は、すぐに握手を交わす。そんな2人の様子を見て、司が声をかける。

 

「なぁ流星。童山って確か、お前がよく話してた奴の……」

「うむ!童山は俺の、小学生時代の同級生でな!あの一件以来、会う機会さえ無くなってしまったわけだが……」

「そうじゃな。色々あって、ワシは諏訪を、流星は四国を護る立場になったわけだからのぉ。元気そうで何よりじゃ!」

「あぁ!通信が途絶えてしまったと聞いて、心配していたが、ともかく声が聞けて良かった!」

「……?途絶えた、じゃと?はて、ワシらが飛ばされる前は、そこまでの事にはなっておらんかったはずじゃが……」

 

認識の違いに、流星の同級生は首を傾げるが、その傍らでは……。

 

「雰囲気は違うが……、しかしこの声は……!まさか……、まさか、白鳥さん、なのか……!」

「およよ?私を知ってる?それは話が早いわね。……ん?その声は、まさか……」

「乃木、若葉だ。乃木若葉だ!白鳥さん!」

「!本当に……本当に、乃木若葉さん……?……うどんと蕎麦、優れているのはどっち?」

「うどんだ!」

 

諏訪の勇者の問いかけに対し、四国の勇者は即答する。

 

「!間違いなく乃木若葉さんね!こうした形で会えるなんて!」

「いやその前に、どんな確認の仕方なんだよ……?」

 

あまりにも突拍子もないやりとりに、申し訳程度にツッコミを入れる照彦。

 

「(う、うたのん⁉︎童山君もいきなりなのに、会話が弾みすぎだよっ。私、どう自己紹介したら良いか……)」

 

一方で完全に出遅れた少女は、2人の様子を見て内心慌てふためいている。一連の流れを見ていた風は、次の指示を出す。

 

「これは緊急で、部室に全員招集ね」

「皆を集めるのは、私達小学生組に任せてください。さぁみんな、先輩達の役に立つわよ……って、晴人君はどこに?」

「イッチーなら、もう駆け出してるよ〜」

「ついでに銀もいないな」

「2人とも張り切ってますね。僕達も向かいましょう」

 

そうして小学生組が、他の勇者や武神、そして顧問と副顧問に連絡すると、ものの30分ほどで、新参を含めて36人が集結した。

 

「改めまして、諏訪の勇者、『白鳥(しらとり)歌野(うたの)』です。皆さん宜しくお願いします。趣味は農業です」

「ワシは『畠中(はたなか)童山(どうざん)』じゃ。何人かは知ってると思うが、流星とは小学生の時から縁があっての。趣味は……農業以外なら、最近はやれとらんが、相撲は好きじゃぞ」

「す、諏訪の巫女、『藤森(ふじもり)水都(みと)』、です。宜しくお願いします。……趣味は、特にないかなぁ、と」

 

3人の自己紹介のうち、勇者2人は堂々と趣味まで教えてくれたのに対し、巫女は内気な性格からか、若干一歩身を引いている様子だ。そんな彼女を見て、ぐいぐい引っ張ってあげようと思ったのか、友奈が率先して前に出る。

 

「水都ちゃんかぁ!今回は巫女さんまで来てくれたんだね!良かったね、ヒナちゃん」

「はい。私1人だと、そろそろキツかったので。もう大歓迎ですよ、水都さん」

「は、はい!色々、その、至らぬ所があると思いますが、宜しくお願いします!」

 

緊張して声が上擦っていたが、何とか皆の輪に溶け込む事は出来そうだ。その一方で、この2人は部室についてからも会話を弾ませていた。

 

「声だけは何度も聞いた事があるが、こうして直接会えるとら思わなかった」

「こちらこそ。若葉さん、握手しましょう」

「若葉で良い。私も歌野と呼ぶぞ」

 

どうやら面と向かい合う機会はなかったらしく、最初こそ堅苦しい言葉遣いだった2人も、握手できるほどに緩和した様子だ。

そんな様子を見て、源道も安心したのか、口を開いた。

 

「うむ。順調な滑り出しと見えるな。では折角だ、趣味の農業や相撲について、存分に語ってもらえれば」

 

だが、そんな源道の言葉を遮るかのように、突如勇者達の懐にある端末が警報を鳴らし始めた。

 

「⁉︎何じゃ⁉︎」

「んん⁉︎何の音かしらこれ⁉︎この時代特有のハザードか何かかしら?」

「何って、樹海化警報に決まってんだろ?」

「敵が来たみたいです!」

「来たばかりで悪いけど、戦闘よ」

 

突然鳴り響いた音に動揺する童山と歌野。紅希が首を傾げる中、昴(中)と夏凜が、2人に戦闘準備を促す。

 

「成る程、随分手荒い歓迎じゃの」

「上っ等!諏訪パワーを見せてあげる!」

「ともかくお二人とも、この携帯端末を持っていってください」

「?何じゃこの端末?2つ折りじゃなくなっとる⁉︎」

「それが最新型の変身用端末です。使い方は皆さんが教えてくれます」

「うたのん、童山君、ファイト!」

「任せてみーちゃん!勇者、白鳥歌野!征きます!」

「暴れてやるわい!」

 

2人も水都からのエールを受け、気合いを一つ入れて、樹海化した世界へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく敵を見渡しやすいポイントに到着した所で、ダブル友奈が先陣を切る。

 

「敵が来た!という事で……、よーし、行こう!勇者になーる!」

「私も、勇者になーる!」

「や⁉︎やや⁉︎」

 

端末の画面をタップした途端、2人の姿が勇者服になったのを見て、同じ勇者である歌野は、何故か驚いたような表情を浮かべる。

 

「よし、俺達も続くぞ!」

「……速攻で終わらせてやる」

「な……、そんな一瞬で……!」

 

兎角や照彦に続き、他の面々も勇者、武神に変身。歌野と同じく、童山も動揺を隠せない。

 

「よぉし、迎撃態勢完了……って、どうしたのよ2人とも?何で変身しないのよ?」

「敵、来るよ……?」

 

驚いて固まっている2人を見て、夏凜と調が心配のあまり声をかける。

 

「さ、サプライズにも程があるわ……!皆、ボタン1つでチェンジ出来るなんて、都会だわ……!」

「は?都会って、それどういう……」

 

歌野の不自然な言い方に、紅希が首を傾げていると、若葉が不意に思い出したようにハッと顔を上げる。

 

「!そうか、歌野は変身する時、着替えてから出動すると言っていたからな」

「えぇ⁉︎手動で着替えてたんスか⁉︎効率悪すぎるッス!」

「じゃあ童山さんも……」

「そうじゃ。ワシらは敵が現れたと通報を受けたら、神楽殿……じゃったか?そこに保管されてる武器と装束を取りに向かっておった」

「えぇ。せいって、脱いで、そいって着て……。で、私の勇者服ってこの世界じゃどこにあるのかしら?……まぁとりあえず、せいっ」

『オワッ⁉︎』

 

突然多くの男性陣が声を上げたのも、歌野が何の前触れもなく上の服を捲り上げ、果てには地味めなブラジャーまで見えてしまったのだから、無理もない。

 

「脱ごうとしなくていいから!アンタらの勇者システムは、この世界なら最新版よ!」

 

見兼ねた風が、慌てて半ば強引に服を戻し、2人にも自分達と同じように、端末で変身できる事を伝えた。

 

「という事は、私達もボタン1つで大変身?……都会だわ。というよりも、未来か」

「うーむ……。随分と薄っぺらい携帯じゃのぉ……。勢い余って押しただけで壊してしまいそうじゃ」

「そ、そこは大丈夫だと思います。一応耐久性も上がってるみたいですし……」

「そーいう事なら、ヤッ!メタモルフォーゼ!」

「とりあえず……、こうじゃな」

 

そうして2人も種の画像を押してみると、歌野は黄緑色の勇者装束に、かつて諏訪を治める神が使用したとされる『藤蔓』と呼ばれる鞭を携えた勇者に。童山は、赤色のタチアオイをモチーフとした、ガントレット型の武器『鬼瓦』を両手にはめた勇者へと、変貌を遂げた。

早速2人は、その一瞬の出来事にテンションが上がる。

 

「ほぉ、これが……!」

「お、おぉ!いけた、いけたわ!すごい便利!」

「それはそうと、この辺りは随分と木に覆われておるようじゃが、何故このような事に?」

「樹海化も知らないのか……」

「ひなた風に簡潔に言うと、かくかくしかじか……。どうだ、伝わったか?」

 

藤四郎から、略式的に説明を受けた2人は感心するばかりだった。

 

「樹海化……そんなハイテク?な技術があるなんて」

「ワシらの時は、敵が侵攻してきた際には、警報が鳴って、全員安全な場所まで避難しておったからな」

 

どうやら西暦時代……四国以外の土地では、神樹の機能が行き届いていなかったからか、樹海化によって時が静止する事もなかったようだ。

 

「そりゃー驚くよな。タマ達も精霊が具現化?実体化?してるの見て驚いたし」

「あぁ。私達の時代では、体の内部に入れていたからな」

「へぇ。そんなのがあったんですね。何で俺達の時はそういうのが無くなってるんだろ?」

 

球子と若葉が西暦時代の、晴人が神世紀298年の頃の、精霊の存在に言及する中、その本質を知ってしまっている遊月は、少し複雑そうな表情を浮かべた。

その一方で、歌野は聞きなれないワードに戸惑い始めていた。

 

「精霊って、神樹の野菜か何かかしら?私の知識にはないんだけれど」

「精霊もなかったんですね……」

「マジか……」

「……というか、戦闘力も飛躍的に向上している気がするわ。パワーが漲るの」

「そうそう!戦闘力も最新式に揃えられてますから、もうガンガン行けますよ!」

「素敵な事よね。思う存分リスクを気にせず、敵を刈れるのだから。この世界に来て、嬉しい事の一つね」

 

銀(小)と千景も、この世界での利点を多大に受けている影響からか、脳筋思考になっている様子だ。

 

「し、神世紀の勇者システムは、基本的な部分では恵まれてたんですね」

「ねー」

「これも、積み重ねのおかげ、か」

「私達は感謝しないとね」

 

遊月と東郷が、これまでの事を振り返りながら思い耽っていると、偵察に出ていた昴(中)が、報告をしに降り立った。

 

「綺麗にまとまった所で、報告です!敵影を確認しました!あと5分でドッキングします!」

「うむ!流石は子孫だ!生真面目で目も良し!」

「ここから私と童山の初参戦、記念バトル!諏訪の誇りを胸に、いざ出撃!」

「ここから先は、一歩も通さん!」

 

そうして昴(中)の情報を頼りに、歌野と童山にとって初陣となる戦闘が始まった。とはいえ相手は星屑ばかりで、元より過酷な環境に身を置いてきていた2人には、さほど苦にならなかった。歌野は鞭を振るい続けて、星屑を全くと言っていいほど寄せ付けず、童山もダブル友奈と同様に、向かってくる敵を殴り倒し続けていき、ようやく最後の1体を地面に叩きつけて消滅させた所で、全員息を整える事に。

 

「一先ず勝利しましたが、まだ敵の反応が遠くにありますね」

「この場で待機して、戦線を整えましょう」

「なら、各員休憩だ。変身は解かないようにな」

 

隊長達とは違った形でブレーン役を担っている昴(中)と杏の指示を受けて、肩の力を抜く一同。

 

「ふふふ!タマ達もこの世界に来て調子が良いし、助っ人も加わってるし……、勝ったな!」

「おうよ!この三ノ輪紅希様が元気モリモリなら、負ける気がしないからな!」

「だが、敵も強くなってるのも事実。油断はするなよ」

「そうですね。これだけの戦力だから、連携についても、今一度話し合っておいた方が良いと思います」

「ですね。仲間が増えるのは心強い限りですが、増えた数をしっかり活かさないと」

「はい。誰が指示を出して、どのような陣形を作り出すのか、形成しておいた方が宜しいかと」

「これは、色々と議論になりそうね」

 

杏や須美、昴(中)が語るように、確かに個々の戦力は申し分ないが、敵も強くなっている事を想定すると、ある程度連携を交えた戦法が必要になるかもしれない。出会った当初はお互いの事が分からなかったのもあって、邪魔しない程度に戦っていたが、そろそろ噛み合った戦い方も用意しておいた方が良いだろう。

そんなやりとりを見て、歌野は感心するばかりだった。

 

「……そういう風に話し合える仲間がいる。エクセレントじゃない。いっぱい会議しましょう」

「そうね。仲間がいるって、当たり前に思えたけど、素敵な事よね」

 

勇者部設立当初は、個性溢れる人員に恵まれていた事もあって、話し合い等に事困る訳では無かったが、ひなた曰く、西暦時代には、各地で1人ないし2人で厳しい戦いを切り抜けてきた者達もいた事を考えると、自分達がシステムだけでなく色々な面で恵まれていた事を認識させられる。

 

「今回の出撃が終わったら、皆で食事しましょう。より分かり合えると思うので!」

「良いわねぇ、そういうコミュニケーションの取り方、大好きよ!」

「皆で美味しい『蕎麦』でも食べましょう!蕎麦は、至高の食べ物だから!」

「え?」(by風)

「えっ?」(by須美)

「へっ?」(by球子)

「はい?」(by真琴)

「はっ?」(by小学生の巧)

「ん?」(by照彦)

 

蕎麦というワードが出た瞬間、思考がフリーズする一同。そしてそれは、提案者にも感染する。

 

「……え?(何、今のエアー……。ま、ま、まさか……。ここにいる皆……、若葉と同じように、うどん派⁉︎)」

 

内心愕然とする諏訪の勇者。歌野や童山、そして水都以外の面々は、出身地にばらつきこそあれど、うどん県としても有名な香川に縁がある以上、うどんを好むのは致し方なき事なのだ。

改めて、自分がアウェーな土地に召還された事を自覚する歌野であった。

 

「(……仕方ない、か。土地が土地だしね。畑と同じかもしれないわ。先ずは種を蒔くことから初めて、ゆっくりと、蕎麦派を育てる所から始めましょうか……」

「いや心の声、全部丸聞こえッス⁉︎」

「愉快な奴のようだ。タマは気に入ったぞ」

「なっはっは。まぁ仕方ないじゃろう。ワシは腹に入るものなら何でも歓迎じゃ!蕎麦もうどんも、じっくり堪能するとしよう!」

 

やはり流星の親友と名乗るだけの事はあるのか、同じく大食漢の童山は、笑いながら歌野の肩を叩く。

 

「……まぁ、蕎麦もうどんも、どちらも美味しいで良いんだけど、……良いんだけども。それでも、何か捨てられないこのこだわり……!何かしら……?」

 

その何気ない問いに、各々は堂々と答えた。

 

「愛よ」(by風)

「ダチ公!」(by紅希)

「或いは魂!」(by小学生の銀)

「絶対食べたいという約束……なんてどうでしょうか?」(by真琴)

「ラブに、フレンドに、ソウル、そしてプロミス……!どれもエクセレントよ!」

「どちらも認め合いつつ、切磋琢磨していこう」

「そうね、そうだわ!」

「いや、うどんと蕎麦の切磋琢磨って何よ、おっかない……」

「(もうカオスすぎて、何も言いたくない……)」

 

議論がヒートアップする傍らで、早くも本来の仕事を放棄しつつある巧(中)であった……。

そんなこんなで、あっという間にクールタイムは終わりつつある中、昴(小)は、隣で座り込んで目を閉じている園子(小)に語りかける。

 

「園子ちゃん、園子ちゃん。そろそろ敵の第二波が来るから起きないと……」

「……おおう。一瞬寝ちゃった〜。でも集中力はバッチリ回復したよ〜」

「しっかしまぁ、これで戦闘時は冴え渡ってるわけだろ?スゲェよな。俺なんて1度寝たら30分は起きられないし」

 

その様子を見ていた司は、園子(小)の底知れぬ何かを感じとり、ううむと唸ってしまう。

 

「歌野ちゃんって呼んでいいかな。連戦だけど、体は大丈夫?」

「オールオッケーよ。どんな敵が来ても、畑の肥料にしてあげる。絶好調だし」

「って、バーテックスを畑の肥料⁉︎若葉ぁ、そんな事を言ってると、またひなたに怒られるぞ」

「今のは私の発言じゃないだろうが!冗談でも、ひなたにはその事を言うなよ、歌野!絶対言うなよ。フリじゃないからな」

「?どういう事ですか?」

「あ、はい。実は初めて勇者に変身した時の戦闘で、最後に若葉さんが、報復とばかりにバーテックスを噛みちぎって食べた事があって、その事でひなたさんに叱られて……」

「あの時のひなたはヤバかったよなぁ……。みんなも怒らせないように気をつけるんだぞ」

「(バーテックスを、食べた……?)」

「(それって……)」

 

杏と司の話を聞いて、東郷と銀(中)は、自然と、晴人と会話をしていた園子(中)に視線を向けていた。記憶違いでなければ、2年前のお役目……負傷した武神に代わって出向いた戦いの中で、園子も怒りに身を任せて、乙女型の一部を噛みちぎって食べていたような……。

 

「……ふふ。改めて思うけど、若葉って通信の時に抱いてたイメージと、ほんのり違うみたいね」

「ふ……、それを言うなら、歌野も同じだろ」

「!敵の姿が見えました!かなりの大型です!」

「来たか……!」

 

不意に、昴(中)から連絡が入り、流星がいち早く武器に手をかける。

端末からの情報によれば、敵の名は『コンフオーコ』。サソリのような形をして、その巨体で地面を震わせながら、こちらへと進軍している。

 

「んんー、すっごいビッグね……。あれはちょっと肥料には大きすぎるわ」

「……本気だったんだ」

「私達でも、初めて見るサイズだな。これは強敵だぞ」

「敵も進化してくるとは思っていたが、それにしてもデカいな」

「見るからに威圧的ね。ボスといったところかしら」

「ど、どんな攻撃をしてくるのでしょうか……?」

「大丈夫だよ!こっちにはこれだけの勇者がいるんだもん!」

「そうだね、みんなで力を合わせて、えいやーってやっつけちゃおう!」

「おぉ、双子がいい事を言ったわね。全くその通り!皆、合体奥義よ!」

「そんな技ないけど、力を合わせるのは分かったわ!あ、ついでにそこの2人は双子じゃないから、詳しくはまた後で!」

「敵は強大。されど、勇者部五箇条一つ、成せば大抵……」

「何とかなる、だな。良し、行くぞみんな!」

 

遊月が声をかけた所で、我先にと、前に出る者が。

 

「それなら先陣は、ワシに任せぃ!」

「童山さん?」

「ようやっと体が温まってきたところじゃからな。ワシが一つ、正面からぶちかましてやるとしよう!怯んだ所を、流星、皆、頼んじゃぞ!」

「童山……、うむ!ならば我々は援護だ!危険だと思ったら身を引くんだぞ!」

「うへへっ。身を引くのはどちらじゃろうな……?」

 

早くも自信満々な表情の童山。未知の敵という事もあって危険ではないか、という意見もあったが、依然として童山の実力を見れてはいない。歌野の説得もあり、一先ず童山のサポートに徹する面々。

コンフオーコの前に降り立った童山は、腰を低くして身構えると、先ほどと打って変わって真剣な眼差しで敵を捉え、右脚を大きく上げて、体重を乗せて地面を踏みつける。続いて、左脚を、そしてまた右脚を。その独特な構えを見て、司は気づいた。

 

「!おい、あれって……」

「四股を踏む動作ですね。力士が地中の邪気を祓う為の、一連の流れです」

「相撲好きというだけあって、確かに凄そうね……」

 

一同がゴクリと息を呑む中、四股を終えた童山は、両拳を地面につけて、体制を低くし、一瞬静寂が流れたかと思うと、目にも止まらぬ速さで敵にぶつかっていった。

樹海に激しい音が響き渡る。さながらその姿勢は、テレビでよく見かける相撲取りを彷彿とさせるものがある。最初のうちは五分だった。どちらも押し倒そうと、足に力を込めて、地面を踏ん張っている。神樹が作り上げた世界で戦闘力が向上しているとはいえ、敵も一筋縄ではいかないようだ。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 

だが童山は、更に気迫を上げて、腕や腰に力を込める。遂に均衡が崩れ、コンフオーコが後退り始めた。こうなってはプライドもへったくれもないのか、鋭い尾を動かして、童山を突き刺そうとしたようだが、真琴や須美、杏といった、遠距離射撃型の勇者達の援護によって、怯んでしまう。

その隙を逃さなかった童山が、敵の懐に潜り込み、腰を捻って雄叫びをあげると同時に、自分よりも何百倍もある巨体を放り投げて、地面に叩きつけた。敵はひっくり返ってしまったからか、すぐには起き上がれない様子だ。これを見た流星は、童子切を敵に突きつける。

 

「今だ!一斉に斬りかかれぇ!」

 

その掛け声と共に、近接型の面々は飛び上がって、コンフオーコに突撃する。疲弊したとあっては、数の差もあって、決着がつくまでにさほど時間はかからなかった。

畠中童山。白鳥歌野と共に、3年近く諏訪を守り抜いてきた勇者の底力を、その身に直に感じ取った神世紀の勇者達であった。

 

 

 

 

 




キリがいいので、今回はこの辺で。

それと申し訳ないのですが、諸事情……主に、ハーメルンで掲載している『まほいく×龍騎』を年内で完結させるべく、ゆゆゆの小説投稿は、次回が年内最後の投稿になるかもしれませんので、次回を楽しみにしている方はそのつもりで。


〜次回予告〜


「一緒に頑張ろうね!」

「とてもいいものです……!」

「アンダースタン!」

「70ページまで仕上がりました〜!」

「力仕事は、ワシの取り柄じゃ」

「絶対なんです!」

「私がやりたいのは……」


〜憧れの存在〜


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。