赤髪がオラリオにいるのは間違っている   作:月光法師

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赤髪の

赤髪のヤベーやつがオラリオにいるらしい。

 

なんでも朝も昼も夜も宴だなんだと酒を飲み、周りにいる者を巻き込んでのドンチャン騒ぎが大好きなおっさんとのこと。

 

ときに遠征帰りの道化のファミリアを巻き込んで、キレた銀髪の狼人が足を出しても簡単にあしらってはおちょくったり。

 

ときにオラリオ最強の猪人を宴へと強制招待しては、主人を守る務めを邪魔された怒りから剣を抜く猪人と笑いながら打ち合ったり。

 

ときにダンジョン帰りの白兎を捕まえては、渋る兎に自身がこれまでに体験した冒険話を聞かせてその気にさせたり。

 

いつもいつもオラリオ中の人物と騒ぎあっている赤髪の男。

 

太っ腹なことに宴の代金は全て男がもっていた。それゆえにか、進んで宴に参加する者の多いこと多いこと。神も人も、男も女も、老いも若いも、貧しき者も富む者も。この世に在るものに差などないと言わんばかりに、宴の参加者は闇鍋の様相だ。

 

だがそこには笑顔と笑い声に溢れた光景があった。

 

初めて会うものにも嫌みのない気安さと懐の深さで接する男に、皆もしかすると引き寄せられているのかもしれない。

 

酒が入れば熱くなり、ついつい喧嘩もしてしまうかもしれない。けれど男は馴れたものと言うように。殴り合いの喧嘩をする両者を見ては囃し立てて酒の肴にする始末。

 

力尽きるまで殴り合った者たちも、地面に倒れてふと冷静になることで周囲を見る。其処には悪感情など微塵もなく笑い合い騒ぐ者たち。

 

酒が少し抜けてもいたのだろう。くだらないことで喧嘩になったことが馬鹿らしくなり、少し照れ臭そうに笑い合えばまた酒を煽り騒ぎ出す。

 

男はそれを茶化しに酒片手に近付いて、また場が一層騒がしくなる。

 

そんな毎日が昼夜問わずに続いている。しかし例外もある。

 

時折フラりと男が姿を消すのだ。

 

それは一日のときもあるし数日のときもある。だが帰って来たときは決まって大金を片手にしている。そしてまた宴をしだすのだ。

 

ある時、男が持っていた大金が盗まれたことがあった。男は顔が広かったこともあり、周囲が勝手に騒ぎ立てて犯人探しが始まってしまったのだ。

 

結果としてオラリオ中に捜査網が敷かれてしまい犯人はお縄となった。犯人は捕まったあと男の前に連れてこられた。男は言った。

 

「盗まれてしまった俺に落ち度がある。だが俺は気にしていないから、今回はみんな許してやってくれ」

 

周囲の者は驚いた。

 

当然だ犯罪者を、それも自身の大金を盗んだ者を許すなど、どうかしている。

 

「こいつは盗人だぞ」

「そうだ、犯罪者として罰するべきだ」

「許すべきじゃない」

「金を盗まれて腹が立たないのか」

 

どうにか考えを改めさせようと周囲が口々に言うなか、男は少し考えて言った。

 

「じゃあ罰を与えよう」

 

周囲は頷いた。それが正しいと。

 

だがまたしても驚かされた。

 

「その金で宴を開け!」

 

(((いやそれアンタの金だろ!!!!)))

 

皆の心が一つになった。

 

男にツッコミが入るときは大体の者もそう思っているため、皆の心が一つになる瞬間は多いのである。無駄に連帯感が増すオラリオ住民。

 

そんなこんなでまた宴が開かれ。盗人は謝罪と共に盗んだ理由を話した。

 

なんでも盗人は冒険者らしい。その盗人の冒険者仲間が引退しなければならないほどの大怪我をしたとか。そのためエリクサーを買いたいが金がない。集めきる頃にはエリクサーを使っても無意味となろう。そんな中で目をつけたのが男の持っていた大金なんだとか。

 

男は一つ頷いて宣言した。

 

「仲間のためならしょうがない!俺がそのエリクサーとやらを取ってこよう!」

 

明くる日の夜。

 

盗人のファミリアに一つの届け物があった。

 

盗人と冒険者仲間は泣いて喜び、男に感謝したとか。

 

男はいつからかオラリオに姿を現したが、男に助けられた話は意外と多い。いつも宴だなんだと酒を飲んでは騒いでいるようにしか見えないのに。意外と多いのだ。意外と。

 

そういった話は男と宴を共にした者たちは常識として知っている。そうでなくともオラリオ中に知らぬ人なしと言わしめるまで顔が広く、人望が篤い男だ。男の噂はよく流れてはオラリオの住民の感心を引き、その噂を疑う者もまたいない。

 

オラリオの住民たちはいう。

 

─────まるで英雄のような男だ

 

いつも宴を開いてはドンチャン騒ぎ。常に腰には剣を、手には酒を携えている。そのくせオラリオ最強と遊びのように剣で打ち合い、第一級冒険者の狼人を子供のようにあしらってはおちょくる。嫌みのない気安さと懐の広さは長年連れ添った友のよう。その情の篤さは頼りになる兄貴のよう。かと思えば飲むは騒ぐは大人気なく子供をおちょくるはでガキっぽい。

 

かと思えば、親しくなった者に危害を加えた犯罪者を前にしたとき、男は覇王のようであった。皆の記憶には強烈だった。

 

そんな男の在り方。

 

人どころか神までもが認めていた。

 

その英雄性。

 

誰もが認めざるを得なかった。

 

ただ一人男を除いて。

 

 

宴の席である者が言った。

 

「あんたこそ英雄に相応しい!」

 

だが男は力強く言い返した。いや、周りに聞こえるように間違いを訂正した。

 

「俺は!海賊だ!!!」

 

(((……海賊って何?)))

 

皆が疑問符を浮かべたことを男だけが知らない。けれど男は間違いを正せて満足そうであった。悲しき(世界の)行き違いである。

 

オラリオの者たちは知らない。

 

その男がどのような存在なのか。

 

しかしその本質はどの世界であっても似たように受け止められるだろう。

 

そんな男は海賊にしてその頂点に君臨する者。犯罪者と揶揄され、海の無法者として恐れられる存在だと誰が思うだろう。

 

名を四皇。赤髪のシャンクスと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 






ガキをよくおちょくるらしい
ヒント:ロキファミリア

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