仮面ライダートライ KAMEN RIDER TRY 作:名もなきA・弐
今回はインジェネミーではなく、キリングリッターの容赦ない冷酷な戦いぶりを楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、どうぞ。
巨大な鉄球が右腕と同化した灰色の怪人『ブレイカー・インジェネミー』は目的の場所へと向かうべく、周囲の器物を破壊しながら歩いていた。
目指すはかつて妻だった女性のマンション…愛してやったのにあっさりと自分を捨てた彼女に対して怒りを燃やしながら移動を続ける。
自分を捨てた妻も、自分の親切も言えないバカ共に天誅を下してやる……。
小さな物差しでしか自分を測れない小さい男、それがブレイカーの変身者でありどうしようもない小物。
しかし、そんな彼の気分に水を差す存在が現れたのだ。
黒いフードで詳しいことまでは分からなかったが、少なくとも身体つきから少年であることが分かる。
目の前にいる少年にブレイカーは訝しげに不愉快な感情が入り混じった視線をぶつけるが、気にすることなく彼は口を開いた。
「随分と派手に暴れてるな、ブレイカー。だけど、そろそろ遊びは終わりだ」
『はっ?』
「もう実験は終わったんだよ。お前はこれ以上進化はしない、さっさとドラッグエナジーカードを渡せ」
気軽に話し掛けてくる少年の言葉に、ブレイカーは間抜けた声を出す。
最高の力を手に入れた自分に一方的な要求を告げる彼にすぐ憤怒の感情が湧き上がる。
『おい、あんまり俺を怒らせるなよガキ。お前も痛い目に合いたいか、あっ?』
「怖いものはない」と言わんばかりの態度を見せるブレイカーを見た少年はため息を吐く。
実験として負の感情を人目も憚らずに出す人間にDEカードを渡していたが、大半のモルモット共は尊大な態度を取り始めるのだ。
少しばかり、痛い目に合わせるか……。
呆れたように首を振った少年は、ハンドボウガンのような不思議な武器を取り出す。
紫と緑色のカラーリングがれた禍々しい印象のあるボウガン『チェンジクロスボウ』の上部にあるスロットに一枚のDEカードを挿入する。
毒々しいクモの装甲を纏った戦士のイラストと、「混沌の殺戮者スパイダー」と書かれたそれをセットした瞬間、禍々しい待機音声が流れる。
『っ!?』
それに動揺するブレイカーに気にする様子も見せず、彼はチェンジクロスボウを上空へと向けた。
「ヘンシン…」
【TYU-NYU-…! SPIDER! KILLING THE KILLER…!!】
掛け声と共にトリガーを引いた途端、チェンジクロスボウから注射器やダーツを模した太い矢型のエネルギーが発射される。
低い電子音声と共に少年の右上半身と左下半身は黒い糸に、左上半身と右下半身は白い糸に包まれて洗練されたスーツの形状へと変貌する。
クモ特有の白く濁った三つ目がブレイカーを捉えると、チェンジクロスボウから更に電子音声が鳴り響いた。
【ENFORCEMENT!!】
チェンジクロスボウが「強制執行」を告げたその瞬間、発射されたエネルギーが色取り取りの花火のように爆ぜると今度は雨のように矢型のエネルギーがスーツに降り注ぐ。
やがて両肩と胸部、頭部には蜘蛛を模したパーツとバイザーがセットされた。
インジェネミーでありながら、有害となる同胞を葬る怪人…彼の名前は。
『俺は「キリングリッター」…最後の手向けだ。花火のように散らしてやるよ』
『…調子に、乗ってんじゃねえよおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』
素性を隠すためのボイスチェンジャーシステムを作動させながら、キリングリッターは挑発するように指を動かす。
刺激されたことで凄まじい勢いで駆け寄ったブレイカーは鉄球を振り下ろす。
しかし。
『おっと』
大振りで単純なその攻撃が当たるはずもない、キリングリッターは難なくそれを躱してバックステップすると僅かに笑みを漏らす。
それに気づいたブレイカーは相手を叩き潰そうと滅茶苦茶に腕を振り回すが何れも空振りで終わってしまう。
不意にキリングリッターが腕を振るう、何かと思った瞬間にブレイカーの側頭部に重い衝撃が与えられ、地面を転がる羽目になる。
キリングリッターの左腕には長い糸があり、先端には高質化した糸の塊がある…モーニングスターの要領でブレイカーを思い切り殴り飛ばしたのだ。
『今度はこれでどうだ?』
両腕から蜘蛛の糸を張ると、今度は曲芸師のように縦横無尽に回ってチェンジクロスボウからエネルギーを乱射する。
『ぎゃああああああああああっっ!!?』
直撃を受けたブレイカーは、今まで味わったこともない激痛によって地面に叩きつけられる。
着弾された箇所は紫色に染まっており、そこから更にダメージを重ねているのだ。
『おいおい、そんなに痛がるなよ』
『がっ、ゲボッ!!』
楽しそうに笑いながら、糸から降りたキリングリッターは毒に染まった箇所を蹴り飛ばす。
追い打ちを掛けるように、執拗に急所を攻撃する彼の冷酷な戦法にブレイカーの精神は限界に来ていた。
しかし、自分中心の考え方をしている彼にとって逃走という手段はなく、一矢報いようと鉄球をぶつけようとする。
だが、その選択肢を取ったことを彼は後悔することになる。
『その目、ちょっと気に入らないから潰れてくれ』
【スキルカードTYU-NYU-…! POISON BOMB!!】
『あっ?…ぎゃあああああああああああああああっっ!!!』
日常会話のような軽い口調でスキルカード『ポイズンボム』による毒の爆発がブレイカーの顔面に直撃した。
紫色の爆風によってブレイカーの頭部に皹が入り、視力もまともに機能しなくなる。
本来ならばインジェネミーのダメージは変身者には残らないのだが、その猛毒はブレイカーの変身者自身も浸食を始める。
『あっ、ひっ!?来るな、来るなああああああああああっ!!』
視界も暗くなり、キリングリッターの声と足音が耳に入ってくる彼の精神はとうとう破壊された。
ただ自分に襲ってくるクモにただ恐怖することしか出来ず、最後の抵抗をするように腕を振るって大きく暴れる。
その見苦しい態度にキリングリッターも呆れることしか出来なかった。
『…はぁ、やれやれだな』
あまりの見苦しさにため息を吐いた彼は、再度スパイダーのカードをスキャンさせて必殺技のシークエンスを開始する。
【必殺技TYU-NYU…! POISON BREAK…!!】
声を放つこともなく放たれた紫色のエネルギーは、高圧の猛毒を凝縮させた一発の矢…。
凄まじい速度の『ポイズンブレイク』は寸分の狂いもなくブレイカーの鳩尾へと命中した。
『ひっ!?あっ、ぎゃあああああああああああああっっ!!!』
猛毒の一撃をその身に受けたブレイカー・インジェネミーは恐怖に染まった悲鳴と共に爆散する。
変身者である男性は破壊されたDEカードとIスキャナーの近くで激痛の走る、光すらも見えなくなった両目を抑えて悶え苦しむ。
「痛てぇ、痛てぇよ…誰か、誰か助けてくれえ…誰かっ、誰かぁぁぁ……!!」
『さて、モルモットはこれで全部か…』
「苦労したな」と耳障りな声を発する実験体を蹴り飛ばして、無理やり黙らせたキリングリッターは上機嫌にその場を後にする。
混沌を巻き起こす毒蜘蛛は、ゆっくりとこの街を侵食しようと動き出すのであった。
混沌の殺戮者というやや中二病チックになった由来。「毒蜘蛛」→「蜘蛛って害虫扱いされるけど、元々は益虫だったよな」→「悪にも善にもなれる」→「混沌の殺戮者」といった感じです。
イメージとしてはベテランっぽい殺し屋です。口調はブラッドスタークなどを意識しました。
ではでは。ノシ