仮面ライダートライ KAMEN RIDER TRY   作:名もなきA・弐

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 ぱっと思い浮かんだ設定で短編を書いてみました。多分風都探偵を読んだ影響だと思います。それでは、どうぞ。


仮面ライダートライ KAMEN RIDER TRY

時刻は正午近くのある広場。

そこには働くサラリーマンや買い物客、家族サービスを提供する父親とその家族で賑わっており、ありきたりながらも何処か穏やかな時間が流れていた。

そんな中、一際目立った男性がいた。

これといった特徴はない、中肉中背の特徴のない地味な服装をした少年……年も十九だろうか、何処にでもいる人間の一人だ。

しかし二つだけ、異常とも言える部分があった。

まずは目……陰鬱さと狂気が入り混じったその瞳は獲物を求めるように忙しなく動かしており、時折肩を震わせている。

彼の左腕には試験管のようなクリアカラーパーツが取りつけられた無骨なデバイスが取りつけられており、そこにはカッターナイフやら包丁などの刃物がイラストされた一枚のカードがセットされている。

そんな奇妙な道具と雰囲気を纏った少年は、注射器を模したデバイスのボタンを押した。

 

【TYU-NYU-…!! EDGE】

 

低く、不気味な電子音声が流れたと同時に彼の身体は紫色のコアのような物体へと変わる。

そして景色が浮き出るように白い異形の身体が召喚されると、コアは中央の窪みにセットされる。

瞬間、白い身体は脱皮するように内側から真の姿を現した。

左腕にはカッターナイフを大きくしたような刃を装備し、首元と頭部には無数の刃がハリネズミのように生えている。

 

『はは…ひゃははははははははああああああああああっっ!!!』

『うわああああああああっっ!!?』

 

突然現れた化け物にその場にいた人間が恐怖でパニックとなり、怪人のいるその場所から逃げ出す。

怪人『エッジ・インジェネミー』は常軌を逸した笑い声と奇声をあげながら左腕を振り回して周囲の物体を切断する。

しかし、そこで怪人がある人影を見つける。

 

「う、ひっく…ママァ……」

 

母親とはぐれてしまったのだろう、小さな背丈の少女がこの場にいない母親のことを呼びながら泣いていた。

エッジはそれに対して、言い知れぬ高揚感を覚える。

不気味な笑みを浮かべて、ゆっくりと近づきながら彼を左腕と同化したカッターナイフを構え、少女に向かって振り下ろそうとした瞬間だった。

 

「ちょっと待った」

『っ!?ぶへっ!!』

 

突如聞こえた少年の声と共に、動揺した隙を狙われてしまったエッジは蹴り飛ばされてしまう。

地面を転がる羽目になったエッジが慌てて起き上がるが、既に少女は母親らしき女性と共に逃げ去っており、追いかけようとするがそれを阻むように少年が立ちはだかる。

 

「…たくさー。こっちは学校だってのに、お前のせいで早退したじゃねーかよ」

 

ぼやく少年を、エッジは黙って観察する。

彼の言葉通りなのだろう、服装はブレザータイプの学生服を着ており肩には学校カバンを下げている。

何処からどうでもただの少年に安堵したエッジは不気味な声で威嚇をする。

 

『ひゃはは、誰だか知らないけど僕の楽しみを邪魔した罪は重いよぉ…その肉体を思い切りズタズタにしてあげるよっ!!』

「ノーサンキュー。自分より弱い奴しか狙わない腰抜け野郎に倒されるつもりはないし、そもそもお前の悪ふざけはここで終わりだよ」

 

エッジの言葉に、ため息交じりに答えた少年は懐からある物体を取り出した。

サイドにはエッジが使用したデバイス『Iスキャナー』と酷似した試験管のパーツがあり、右斜め前のスロットがある。

動揺するエッジを余所に少年はそれを、軽く腰に当てるとそこから緑色のベルトが伸びて固定される。

するとベルトの左側にホルダーケースのようなデバイスが出現すると、少年はそこから一枚のカードを取り出した。

そのカードには「武術を究める戦士スタッグ」と書かれており、クワガタを模した紫色の甲冑を纏った戦士のイラストからまるでTCGのように見える。

紫色のカード…『ドラッグエナジーカード』をスロットに装填すると、Jポップを連想させる待機音声が鳴り響く中、少年は両腕をクロスさせて左側にあった丸いサイドレバーを押し込んだ。

 

「変身っ!!」

【TYU-NYU-! STAG! 道を究めて武士道・騎士道!!♪】

 

何処かコミカルな電子音声が鳴り響くと、スロットに装填されていたドラッグエナジーカードが紫色に光り、それが試験管のパーツに蓄積される。

装填したカードと同じ絵柄のエネルギーが少年と重なった瞬間、その姿を変えた。

紫色のスーツを纏った姿をしており、クワガタを彷彿させる二本に伸びたアンテナが特徴で武者と騎士のような紫色の軽鎧が左右に配置されている。

 

『な、何だお前っ!?もしかして僕と同じ…』

「惜しい、不正解だ。俺は『仮面ライダートライ』…お前を倒す正義の味方さ」

 

そう名乗った戦士…トライは地面を蹴って距離を詰めると、エッジの胴体に拳を叩き込む。

今まで感じたことのない激痛に、動けなくなるエッジの隙を逃さず続けてコンボを叩き込む。

 

「オラ、オラッ、オラッ!!」

『ぐっ、がっ!ゲボッ!?』

 

ストレート、フック、アッパーカットからの下段から中段のキックを次々と打ち込まれるエッジは負けじと反撃しようとするが、止めに放たれたパンチが顎に打ち込まれた。

着実に追い詰めるトライはホルダーから先ほどとは異なる、ドラッグエナジーカードを左側のスリットにスキャンして読み込ませる。

 

【スキルカードTYU-NYU-! ATACK CHAIN!!】

「そらっ!!」

『があああああああああっっ!!?』

 

試験管に入った光が点滅すると、スキルカード『アタックチェーン』の効果を発動する。

両手両足に淡い光を纏ったトライは目にも留まらぬ速さでコンボを繋げていく。

止めに放った勢いのあるキックを受けたことで地面に転がる結果となってしまい、這い蹲るエッジ目掛けて強烈なサッカーボールキックが炸裂する。

 

『ひ、ひぃっ!!』

 

勝てるわけがない……そう判断したエッジは地面を這ってそのまま逃げ出そうとする。

しかし、それを止めたのはトライだ。

 

「させねーっての」

『っ!?ぐほあっ!!』

 

肩を掴んで無理やり振り向かせると、顔面に拳を叩き込む。

再び地面に転がる結果になったエッジの脳裏に浮かび上がるのは力を手に入れる前の平凡だったころの自分…他人のブログを炎上させることしか出来ない情けない自分。

冷たい視線を浴びせる他人に対して、見当違いにも程がある負の感情を爆発させた。

 

『ああああああああああああああっっ!!!』

「うわっとっ!?」

 

全身から生やした刃物を剥き出しにしたエッジに対して驚きながらも、トライは繰り出される攻撃をバックステップで避ける。

明らかにパワーアップしている彼を見たトライは冷静にホルダーから緑色のドラッグエナジーカードを取り出す。

 

「だったらデッキチェンジだ」

【TSUIKA TYU-NYU-! HOPPER! 勇気を力に、Im a BRAVER!!♪】

 

「力と魔法の勇者ホッパー」と書かれたカードをスタッグの代わりにセットしてレバーを押し込むドライバーの試験管のパーツに緑色の光が溜まる。

トライのスーツは緑色に変わり、勇者を彷彿とされる重厚な西洋甲冑とマントを上半身に装備した形態『仮面ライダートライ ホッパーモード』へと変わる。

 

【武装カードTYU-NYU-! YUUSHA SWORD!!】

「オラッ!」

『ぐぅっ!お、重いっ!?』

「まだまだぁっ!!」

【スキルカードTYU-NYU-! POWER UP!!】

『ぎぎゃああああああっっ!!?』

 

専用武器『ユウシャソード』を召喚したトライは相手を斬り裂き、続けてスキルカード『パワーアップ』を発動させて強化された斬撃でエッジを吹き飛ばした。

再び地面へと転がった彼を見たトライは、再びスタッグカードを装填して元のモードへと変身する。

 

「これで決めるぜっ!!」

【必殺技TYU-NYU! ファイターキック!!】

 

宣言したトライはスロットからスタッグのカードをスキャンさせる。

電子音声が鳴り響いた途端、エネルギーが両足に蓄積させると彼は空高く跳躍して急降下キックを繰り出した。

 

「はああああああああああっっ!!!」

『があああああああああああっっ!!?』

 

ファイターキックを受けて吹き飛ばされたエッジ・インジェネミーが爆散すると、泡を吹いて気絶している少年がおり、粉々に破壊されたIスキャナーと焼却されたドラッグエナジーカードの切れ端が残る。

戦闘が終わったのを確認したトライは自前のスマートフォンで連絡を取った後、愛車であるスーパーバイク『マシンインセクター』へと向かい、そのままエンジンを蒸かせて何処へと去ってしまった。

仮面ライダートライ……彼の目的は、邪心へと飲み込まれた人間『インジェネミー』へと変貌させる禁断の秘薬『ドラッグエナジーカード』を殲滅させること。

そのために、彼はただ戦うのだ…己の正義と、自らの記憶のために。

 

 

 

 

 

『実験結果その3。負の感情を常に出している人間がドラッグエナジーを注入した場合、誕生するインジェネミーは最弱となる……か』

 

先ほどのトライとエッジの戦いを観察していた異形は、そう一人ごちた。

全身を覆う姿は白いスーツとなっており、何処かダークヒーローのような洗練された姿をしている。

身体にはクモを思わせるような青いパーツとバイザーがあり、その下には不気味な三つ目が見える。

彼はエッジにドラッグエナジーカードとIスキャナーを渡した張本人なのだが、加勢するつもりはなかった。

今回はあくまでも仲間の一人に頼まれた実験の協力であり、エッジはただの観察対象でしかなかったからだ。

しかし、おかげで面白いものを見ることが出来た。

噂のヒーローがどういった存在なのかを知れたし、興味深いデータを得ることも出来た。

こちらとしても万々歳なのだろう、感情こそ分からぬがこの状況を愉しんでいることだけは確かなのだろう。

 

『精々足掻けよ、仮面ライダー』

 

加工された青年のような声色で楽しそうに、嘲笑うように言い放った異形…『キリングリッター』は姿を消すのであった。




 設定としてはドラッグエナジーと呼ばれる未知のエネルギーを使用して変貌する怪人を、同じ力を使う仮面ライダーで戦うといった感じです。
 カードのテイストがTCG風なのと昆虫がモチーフなのは、薬物という題材に対して変わった組み合わせで書いてみたくなったからです。
 ではでは。ノシ

ちなみに、キャスティングとしては……。

仮面ライダートライ…ICV田丸篤志
キリングリッター…ICV佐藤せつじ(人間態のICV:???)

といった具合です。

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