結果から言おう。
クエストに関しては成功だ。
そう、ハチマンいない状況だがクエストをクリアーできる。
だが、失う物は大きかった。
「お、おい、アクア。そろそろ、歌うのやめてくれないか。ボロボロの檻の中に膝を抱えた女を運んでる時点で、注目が集まるんだからな?」
''檻''の中にいるアクアに話しかけたが
「ドナドナドーナードーナー……。」
と目を虚ろして膝を抱えて、歌っている続けている状態だ。
クエストから帰る際に、頑なく檻から出ようしなかったので、仕方なく馬に檻を引かせている状態だ。
8時間近く、紅茶のティーパックのように水に浸らせ、その内3時間近くはブルータルアリゲーターに襲われたからな。
それは、トラウマにもなるが……それ以外被害らしい被害はない。
ウィズから教わったスキルの1つを試して見たかったが、戦闘にならなかったから使えなかった。
まぁ、戦闘にならずに済んだのだからそちらの方が良いに決まっている。
今回のクエストは、大したことも無く済んだとも言える。
そんなフラグみたいな事を考えたせいでもあるだろう。
「め、女神さまっ!?女神さまじゃないですかっ!何をしているんですか、こんなところでっ!」
突然そんな事を叫び、檻に引きこもっているアクアの元へと駆け寄り、鉄格子を掴む男。
そしてあろうことか、ブルータルアリゲーターでも壊せなかった鉄格子をいとも簡単にグニャリと捻じ曲げ、アクアに手を差し伸べた。
その光景に唖然としていたオレとめぐみんを尻目に、アクアの手を……。
「おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様何者だ?それに、貴様の言葉にアクアは反応していていないではないか。」
あれ?今のダクネス、ちゃんとクルセイダーしてる。しかもどこに出しても恥ずかしくないクルセイダーに。
あぁ……、いつもこれならいいんだけどな。
男はそんなダクネスを一瞥すると、ふうと一つ、ため息を吐きながら首を振る。
いかにも、自分は厄介ごとに巻き込まれたくは無いのだが仕方ないといった感じで。
その男のその態度に、普段はあまり表情をあらわにしないダクネスが、明らかにイラッとした。
何だかきな臭い雰囲気になってきたので、俺はこの期に及んでも膝を抱えてオリから出ようとしないアクアに、そっと耳打ちしようとした時、
「……今の声……それと女神?…ハチマン?……ハチマン!そして、私は女神!そうよ、ハチマン、やっと私が女神だと…。」
アクアは檻から出てきた。
と言うかコイツは、自分が女神だと言うことすら忘れているのか。しかも、絶対に声はハチマンそっくりだがお前のことは絶対に女神とは言わんぞ。
もぞもぞと檻から出てきたアクアは、笑顔からガッカリした顔をしながら首を傾げた。
「カズマ、このパチモン誰?」
おい、お前の知り合いじゃないのかよ。てか、パチモンって……。
いや、知り合いのようだ。
男の方が信じられないと言わんばかりの顔しながら目を見開いたいた。
多分、アクアが忘れているんだろう。
「な、何を言っているんですか、女神様!御剣響夜ですよっ!あなた様から魔剣・グラムを頂いた!それに、パチモンって、なんですか!!」
「…………?パチモンにパチモンっていって何が悪いの?」
アクアは首を傾げながらえげつない事を言った。
アクアは、まだピンと来ていないみたいだが、オレは何となく分かった。
このうるさい奴は、オレと同じ日本から来たやつだ。
漫画とかアニメでは、主要人物っぽい立ち位置にいそうな感じだが、ヤツは、オレよりも先にアクアからチートアイテムを貰って、ここに来た感じだな。
何だか正義感強そうで、しかもイケメンときた、しかも、後ろには戦士風の美女と盗賊風の美少女を連れている………気に食わん!
まぁ、一応アクアには日本から送り込んだ奴だろと説明した。
「あー、そう言えば居たわね、そんな人が。ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって、あなた以外にも多くの人を送ってあげたんですから、仕方ないよね!」
やっと思い出したみたいだ。
ミツルギは、顔を引きつきながらも、笑顔を浮かべていた。
「えっと、お久しぶりですアクア様。勇者として送られてから順調に頑張ってます。レベルも37になりました。……えっと、アクア様はなぜこちらにいるのですか?あと、なぜこちら方々に檻に閉じ込められているんですか?」
ミツルギは、チラチラ警戒しながらこちらを見ながら言ってきた。
なんだろうか、イラッとしたが確かにはたから見たら、閉じ込めているように見えるから仕方ない。
しょうがない…。オレとアクアは、オレと一緒にアクアがこの世界に来た経緯や今までの出来事などを話した。
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「……バカな!ありえないそんな事が!あなたは、一体何を考えているのですか!?女神をこっちに引き込んだあげくに、湖に浸けた?!」
いきり立ったミツルギが、オレの胸ぐらを掴んできた。
それをアクアが慌てて止めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと!いや別に、こっちに連れられてから、私としては毎日楽しく過ごせてるわ!それに、私としては連れてくられた事を気にしてないわよ!あと、今回のクエストで貰える報酬が30万エリスよ、怪我も無く無事に30万よ!」
そんなアクアの言葉に、ミツルギは憐憫の眼差しでアクアを見た。
「……アクア様……、あなたがどのようなに丸め込まれたのかは分かりませんが、今のあなたは不当ですよ。そんな目にあって、たった30万エリスだなんて……。ちなみに、今どこで宿泊を?」
ミツルギの言葉に、アクアは若干押されながらおずおずと答えた。
「えっと……今は私とカズマで馬小屋で生活を……。」
「てめぇ!」
ミツルギの胸ぐらを掴んでいた力が強くなった。
ちょ、ちょっと、マジで痛いんだが。
「おい、そこのお前。流石に初対面の人に対して失礼じゃないか?」
ダクネスは、オレを掴むミツルギの手を横から掴んだ。
普段は全然ダメ人間だが、今は静かに怒っていた。それに、めぐみんも杖を構えては、今にも爆裂魔法を撃とうとしていた。
めぐみん、気持ちは嬉しいがここでは撃つのはやめてくれよ。だから、詠唱をやめろ!
ミツルギは、胸ぐらを掴んでいた手を離すとめぐみんとダクネスを観察をしていた。
「……アークウィザードとクルセイダー……。それに随分と綺麗な人達だな。君はこんなにも恵まれたパーティなのに、アクア様を馬小屋に住まわしているのかい?恥ずかしいと思わないのかい?それに、君は初期クラスの冒険者らしいじゃないか。」
ダストとテイラーが絡んできた時の事を思い出した。
確かに、傍から見たらオレはかなり恵まれいるように見えるらしい。
そして、ミツルギは徐々にヒートアップしていった。
「それに、確かもう1人仲間が居るらしいじゃないですか。その仲間はどうしたんです?まぁ、居たとしても初期クラスの冒険者では役に立たないでしょ。居ても居なくても変わりませんか。」
「ちょっと、カズマの事はバカにしてもいいけど、ハチマンの事はバカにしないでくれる!」
アクアがキレた。
てか、おい!オレがバカにされるのは良いのかよ!
「ど、どうしましたかアクア様?!」
流石にミツルギもアクアがキレた事に驚いた。
「そうですよ!カズマはバカにしてもいいですが、ハチマンをバカにしないでください!」
「そうだ、カズマをバカにしてもいいが、ハチマンをバカにするな。」
おい、お前ら!
なんで、オレがバカにされる事はいいんだよ!
ふざけんなよ!
「アクア様や美人達から擁護されるとは……。だが初期クラスの冒険者だぞ。まさか、洗脳を!洗脳をされて…!」
いつの間にか、ミツルギの近くまできためぐみんが、杖を大きく振りかぶりミツルギの股間へと振り下ろした。
「る…………うぐっ…………!」
ミツルギは、股間に衝撃が走った。
そう、男の誰しもが共通する弱点部位をフルスイングのされた杖の装飾であろう丸い球が直撃したのである。
いくら鎧の1部がガード機能があるとしても玉突き事故の衝撃は計り知れない。
オレは、その光景を目の当たりした途端に下半身の方がブルっときた。
「…………いい加減にしてください。ハチマンに洗脳なんかされていませんし、バカにするなと言いましたよね?」
地面で悶え苦しんでいるミツルギに対して、めぐみんはゴミを見るような目で見下ろしていた。
なにあの子!?めちゃくちゃ怖いんですけど。
「うぐっ……あっ……あっ……。うく……。はぁはぁ……。」
ミツルギは、何とかその場で立ち上がった。
めっちゃ足をプルプル震わせながら。
「はぁはぁ……。クソっ……。よくもやってくれたな。お前だけは許さないぞ。」
ミツルギは、オレに向かって言ってきた。
おい、やったのはめぐみんだろ!
オレは関係ないだろ。
「アクア様だけではなく、こんな幼子まで……。」
「誰が幼子ですか!」
めぐみんは、今にも第2打を打ち込もうと言わんばかりの勢いで吠えた。
そんな光景を見て、アクアは止めに入った。
「わ、私やめぐみん、それにダクネスは洗脳なんかされてないわ 。自分の意思で仲間になったのよ。」
「で、ですが……!」
「あー、もうめんどくさい!だったら、あなたとカズマが勝負して、カズマが負けたらあなた達の仲間になってあげるわ!」
アクアは、ミツルギが納得しない事やハチマンがバカにされた事などが積み重なって、勢いでとんでもない事を言い出した。
おい!おまえ!なんつう事言ってやがる!
あっ、でも、コイツらが居なくなってもオレとハチマンは得しかしない気がするぞ。
よし、盛大に負けてやる!
「アクア様、いいんですか?そんな提示をしても?相手は、初期クラスの冒険者ですよ?しかも、装備も……ぷっ……大した装備もしてませんですし。どうせスキルなんかも初期魔法しか覚えてなさそうですが。」
あーん?今のは、イラッとしたぞ?さっきからネチネチネチネチ言いやがって。
コイツらの事はどうでもいいが……ぶっ飛ばしてやりたくなったぞ。
「ふん!女神に二言はないわ!」
「分かりました、後悔しないで下さいね。では、もし、君が勝てたらなんでも言うことを聞いてあげましょう。」
「よし、分かった!行くぞ、コラっ!」
なんだかんだイライラが限界を超えていたオレは、速攻で襲いかかった。
腰に装備している短剣を右手に持ち、左手をワキワキさせながら斬りかかった。
卑怯もクソもあるか!
こんな負イベだが、やるからには勝つ気で行く!
そして、そのスカかした顔に1発入れる!
ミツルギも、合図もなく始まった決闘に困惑をしていた。
「えっ、ちょ!待っ……!」
奇襲をかけたが、そこは流石にオレよりも高レベルだけの事はある。
咄嗟に背中携えた魔剣を構えては、短剣の攻撃受け止めようとした。
オレは魔剣に短剣が当たる寸前に、左手を突き出し叫ぶ!
『スティーーーールッッッ』
左手にずっしりとした''剣の重み''を感じた。
よっしゃー!いきなり大当たりだ!
短剣を受け止めるはずだった魔剣が、ミツルギの手から消え失せた。
「「「はっ?」」」
一同は、何が起きたのか言わんばかりに気の抜けた声が発せられた。
そう、盗賊スキルで、魔剣を奪ったのだ。
だが、短剣よりも魔剣の方が重く奪った際に、オレの体がよろめき魔剣のブレイドのフラー部分がミツルギの脳天を直撃。
ミツルギはその場で倒れ、オレの勝利で決着が付いた。
情けない勝ち方であるが、勝ちは勝ちだ!
あーん?文句あるのか!