「えっと…ウィズさん?こんな墓場で何をしてんだ?さっきの話しを聞いてたら、死者の魂を成仏させるとか言っていたが、リッチーがやる事ではないんじゃないか?」
「ちょっと、ハチマン!こんな腐った蜜柑みたいなアンデッドと話してると、それ以上に目が腐るわよ!早く、ターンアンデッドさせなさい!」
おい、アクア。今は俺の目については、どうでもいいだろうが。
アクアは立ち上がってウィズさんに飛びかかろうとしていた。
そんなアクアの姿を見て、ウィズさんは俺の背後に怯えて隠れた。
そして、カズマよ。お前も、羨ましいのか悔しいのか分からんが歯ぎしりをするな。
俺だって、心臓バクバクなんだからな。
「そ、その……。私は、見ての通りリッチーで、ノーライフキングをやっています。……それで、アンデッドの王なんて呼ばれてるくらいなので、私には彷徨える魂の声が聞こえるんですよ。そして、この共同墓地には多くの方々がお金がないなどして、禄に供養なども受けられずに彷徨っているのです。そこで、アンデッドの王の私が定期的に墓地に訪れ、成仏をしたがっている魂を成仏をさせているのです。」
……めちゃくちゃいい人じゃねえか。
カズマなんて、話し聞いて泣いてるし。
やはり、この世界の人達は基本的に優しいんだな。まぁ、人じゃないけど。
「うっ…それは立派な事だ。良い事だと思うが……。だけど…そういった事は、街にいるプリーストとかに任せればいいんじゃないのか?」
カズマは、至極真っ当な質問した。
ウィズさんは、チラチラとアクアに申し訳なさそうな顔していた。
「えっと……とても言いづらいですが……。街にいるプリーストさん達は、拝金主義で……。いえ、その、お金が無い人を後回し……と言いますか……えっと……。」
アークプリーストのアクアが居るから、言いづらいんだろうな。
てか、拝金主義って……。やはり、どの世界でも金が無いとやって貰えないのが現実なんだな。
ちょっと切ない気分になったわ。
「って、つまり街のプリースト達は、金儲けを優先で、こんな共同墓地に埋葬された金がない奴らに関しては供養どころか寄り付きもしないと言うことか?」
「えぇ……、そ、そうなんです。」
………カズマ、流石だ。俺でも言いづらいことをずばっと言うとは。
また、ウィズさんの肯定したことにより、その場の全員がアクアに視線を向けた。
アクアは、視線が向けられるなり目をそらした。
おい、お前…女神なんだったら、こういう所にボランティアでも良いから来てやれよ。
「事情は分かった。だが、今回の依頼がゾンビメーカーの討伐なんだ。ウィズさん、ゾンビを呼び起こさずに成仏させることは出来ないのか?俺もウィズさんとは、戦いたくないしな。」
俺の言葉に、ウィズさんは困惑をしていた。
「あっ……そうなんですね。その、呼び起こしている訳ではないんですよ。私が来ると、死体の中に残っている魔力が反応して、勝手に目覚めてしまうですよ。その……私としては、埋葬された方々を成仏させれば、ここに来る必要が無くなるんですけど……。えっと…どうしますか?」
――――――――――――――――――――――――――――
「納得いかないわよ!」
アクアは、まだ怒っていた。
時刻は、すでに空が白く明るくなってきた頃合だ。
「しょうがねぇだろ。やってる事としては、プリーストと変わらないんだから。それに、元はと言えばプリーストが動かないのが悪いんだからな。それに、さっき俺と交渉したよな?」
「う、う…分かったわよ。でも……。」
結果から言うと、ウィズさんを見逃した。
これからは、暇を持て余しているアクアに、定期的に墓地を浄化しに行くという事で折り合いがついた。
そこは、腐っても女神だ。一応、迷える魂を成仏させる事には納得をしていた。
ただ、酒が呑む時間が減るなどやお金にならないとなどと駄々をこねていたが、俺が月初めに酒を買ってやる事を条件を提示したら、すんなり''やる''と言ってきたのだ。
んで、ウィズさんに関しては、最初はめぐみんとダクネスは見逃すという事に抵抗があったが、ウィズさんが今までに人を襲った事が無く、むしろ善行の方が多いと聞いて、ウィズさんを見逃す事に同意してくれた。
そして、カズマと俺は1枚のチラシを見ていた。
「それにしても、不思議だよな。ウィズが街の中で住んでんだもんな。街の警備とかどうなってんだ?」
そう、このチラシにはウィズさんが住んでいる住所が記載されていた。
リッチークラスが、普通に暮らして普通に生活をしているんだからな。
しかも、小さなマジックアイテムの店を経営しているらしい。
リッチーでも店を経営して働いてるんだから、世知辛い世の中だぜ。
「はぁ…この世界に来てから、オレが思っている異世界冒険のイメージが崩れている。ていうか、オレが期待していた世界と違う……。」
カズマは、隣でボソボソと不満ばかり垂れていた。
「しかし、穏便に済んでよかったです。いくら、アクアが居ると言っても、相手はリッチーですから。もし戦闘にでもなってたら、私やカズマは死んでいたでしょ。」
何気になく発言をした、めぐみんの言葉にカズマは顔面を蒼白させた。
「えっ?そんなにやばかったのか?」
「えぇ。ヤバかったって、レベルではありませんよ。リッチーっていうのは、魔道を極めた人が行う禁断の儀式でなれる者なんですから。強力な魔法防御の装備や支援魔法、アイテムを準備を万全の状態で挑む必要がありますし。それに、リッチーに触れられるだけでも、状態異常を起こしたり、生命力を奪われるという話し聞きました。多分ですが、爆裂魔法も使えると思います。なので、アクアのターンアンデッドが効いたのが不思議です。」
あっぶねぇ。
もし、戦闘になっていたら現状の能力のクウガやファイズの力を使っても、勝てるかどうか。
クウガもファイズも、''スキル項目''が出ていないから、ライジングやアクセル・ブラストを習得を出来ていない状態だ。
そうだよな、アンデッドの元締めみたいなもんだからな。
「ハチマン。とんでもない人からスキル教えてもらうつもりだったわ。名刺まで貰っちゃったし。」
「そうだな。」
「カズマ!その名刺寄越しなさい!あの女より先に店に行って、家の周りに浄化魔法掛けておくから!」
「おい!バカやめろ!」
アクアとカズマが1枚の名刺を取り合っていたら、ダクネスがぽつりと言った。
「ゾンビメーカーの討伐依頼どうなるんだ?」
「「「「あっ」」」」
駆け出し冒険者でも達成できる依頼を失敗した上級者が多いパーティとして、しばらくバカにされた。
そして、俺は気づいていた……カズマのズボンが濡れていたことに…。
墓場まで、持って行ってやるか。