ミューズの頑張り物語   作:月日星夜(木端妖精)

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第十二話 月面戦争

 黒ひげが七武海入りした。

 

 ………………なんで?

 バナロ島の決闘はいつ起こった?

 彼はいつ七武海入りした?

 

 私、それを止められるようあの島に赴いて、電伝虫を渡しておいたのだけど?

 

 本部の自室にて、用意された電伝虫を通して連絡を試みるも、受信先が死滅していると判明しただけだった。

 ……ああそうか。私、失敗したのか。

 

 襟元を正し、帯を締め、刀の柄に手をかけて扉へと歩む。

 

「ちゅ、中将殿、どちらへ……?」

 

 いつかのように怯えた声で問いかけてくるミサゴさんに振り返って、にっこり笑いかける。

 そうすれば、きっとほっとしてくれると思ったのだけれど、彼女は縮こまるばかりで笑ってはくれなかった。

 なので笑みを引っ込めて、用件だけ残す。

 

「ちょっと月まで」

「……え?」

 

 扉を押し開き、足早に外を目指す。

 目論みが頓挫した以上、もはや一刻の猶予もない。

 ならば次の手を打つまでだ。

 

 私は、誰を敵に回したって、何がどうなっていようと必ず恩は返す。

 そのためにはどうしたって神様の力が必要なのだ。

 だから、仲間にしに行く。

 ただ、それだけ。

 

 

 

 

 月まではかなり時間がかかる。

 多少の無茶はきくが、この後の事を考えれば体力を温存したいし、けれど時間は差し迫っている。

 ちょうど良い速度を模索しながら月につけば、不得手な見聞色を広げて、かつてここで見た小さな兵隊を見つけ出した。

 

 クレーターに逃げ込んだ彼を追って、巧妙に隠された入り口から月の内部へ入り込む。

 そこは何かの施設だった。機械がたくさんあって、壁に何やら絵が描かれていて、ついでに髭もじゃの小人兵団が手に手に武器を持ってやってきた。

 

「「嵐脚(ランキャク)」"雷鳥(ライチョウ)"」

「――――ッ!!」

 

 飛び上がり、広範囲に向けて電気を帯びた空気の刃を飛ばす。

 無力化が目的の技ゆえに切れ味は鈍い。当てられた兵士達は痺れるように倒れ伏し、動かなくなった。

 先に進む。ワクワクモドキドキもなく、かすかな焦りを内包して、奥へ。

 

 やがて王の間とでも言うべき場所に出て、黄金で作られた巨大な椅子の中央、憧れの神様が偉そうに座っているのを見つけた。

 

「来たか。いつぞやの青海の女」

「……、……ええ。土足で失礼いたします」

 

 私が月まで来たのは筒抜けだったらしい。それもそうか……。

 まずは非礼を詫びる。

 頭を下げれば、ヤッハハと愉快そうに笑われた。

 

「また私を仲間にしようなどと戯けた事を抜かすのではあるまいな?」

「覚えていてくれたのですね。……ええ、そうです。神様、(わたくし)の仲間になってくださいません?」

「ヤッハッハ……!」

 

 頭に手を当ててからからと笑う彼にもう少し近づくため、一歩、足を前に出す。

 

「不届き」

「!!」

 

 瞬間、バリッと目の前に神様の顔が現れた。

 まるで跳躍してきたかのような体勢のまま制止する彼が、揺らいだ腕を勢い良く突き上げた。

 

 

 

 

 月面から立ち上る光の柱に、辛くも直撃を避け、Dの羽衣を伸ばして広げて雷を遮った私は、「月歩(ゲッポウ)」にてクレーターから距離をとって降り立った。同時、直線上にバリリと神様が立つ。

 片手で耳をほじくり、もう片方の手で黄金の棍を持つ彼へ、刀を構えて緩やかにフェンシングの構えへ移る。

 雷速はきっと、勘が追いついても体が反応しきれないと思う。私は光速にすら対応しきれないんだから、一瞬の油断が命を落とす要因になる。

 

 だから、できれば一撃で決着をつけたい。

 実力を示し、まずは私の声が届くようにする。

 その上でお願いを聞いてもらう。私の恩返しに力を貸してほしいって。

 それと、一緒に大冒険しようって。

 

「…………」

 

 耳から手を離した神様は、胡乱気な目を私に向けた。

 柄を握り込み、体全体を引き絞る。力を溜め、瞬時に爆発、突進!

 

「"革命舞曲(ガボット)ボンナバン"!!」

 

 矢となって迫る私に、神様は表情を変えずゆらりと体を揺らして避けた。

 心網(マントラ)……卓越した見聞色の覇気!

 

「ヤッハハ、丸聞こえだ。青海の女……なるほど、海の力を持つ石か」

「あなた様が"自然系(ロギア)"でも、これは恐ろしいでしょう!」

「そうだな。確かに恐ろしい」

 

 突き出した足が月面を擦れば、ザアッと土埃が舞い上がる。

 ううっ、体が軽くて仕方ない。今にも勝手に浮かび上がってしまいそうだ……!

 

「だが、当たらなければどうという事はない」

「でしょうね!」

 

 力任せに刀を振るっても、電気を弾けさせて神様は姿を掻き消し、避けてしまう。

 流れるように鞘へ刀を仕舞い、地を蹴って跳躍。宴舞-"黒足の型"! "悪魔風脚(ディアブルジャンプ)"!!

 

「"空中歩行(スカイウォーク)"!」

 

 飛び立つ前に急速回転で赤熱させた足を保ったまま空を蹴って空へ。

 火傷しそうな痛みに歯を食いしばり、思いっきり体を伸ばす。

 

「!」

 

 空気を鳴らして空へ現れた神様へ、本気の蹴りをお見舞いだ!!

 

「"画竜点睛(フランバージュ)"!!」

「"雷龍(ジャムブウル)"」

「――ッ、きゃあ!」

 

 けれど、辿り着くよりも早く太鼓が叩かれ、それが変じて雷の龍となると、私に避ける以外の道はなく。

 しかし侮る事なかれ。ぐるんと横回転した勢いを乗せて、思いっきり足を振るう。

 

「「嵐脚(ランキャク)」"大竜頭(だいりゅうとう)"!!」

 

 放った刃が竜を(かたど)り飛んでいく。ドラゴンの吠え声が響いても、神様は顔色一つ変えずに私の技を受けた。

 ――とはいえ、それは雷の体を擦り抜けるのみ。直接攻撃じゃないと、覇気を乗せてもやっぱり無意味か!

 というか、私の方が避け損なって体に掠ってたみたいで、うあ、水筒が! 海水が!! 鞘が燃えてる!!

 

「私の天下だ!」

「っく、「Dの羽衣」!!」

神の裁き(エル・トール)!!」

 

 雷に変じた腕を空へ伸ばす神様に、最大速で羽衣を抜き取って構える。

 雷鳴が轟く。かあっと天が光に染まり、膨大なエネルギーを持つ光の柱が降ってきた。

 

「"安らぎの舞い"ッ!」

「む」

 

 柔の動きだなどと余裕ぶる事もできず、必死に羽衣を振り抜いて大熱線を弾いて逸らす。

 ここで安心して手を止めたりはしない。弾いた勢いのまま横回転し、円状に羽衣を広げて再び神様を見据える、その時にはもう、左手を突き出して照準を合わせていた。

 宴舞-"麦わらの型"!

 

「"ゴムゴムの"!!」

 

 放つ拳がゴム布の羽衣を叩けば、拳の形にぐんと突き抜けて伸び、神様めがけて飛んでいく。

 元よりこの技は空気の塊を飛ばす技! 私の腕は伸びないから、神様の体に当てるにはこうするしかない!

 

「"JET(ピストル)"!!」

 

 そのために私、科学部に頼み込んで伸縮自在の羽衣を作ってもらったんだから!!

 

「不愉快な……これは"ゴム"か」

「っ、」

 

 けれどそれは空振りに終わり、真横で囁く神様にはっとして拳を引き戻す。

 慌てて羽衣を広げようとすれば、半ばを掴んで引き下ろされた。

 目前に現れる神の笑みに背筋が凍る。

 

「"放電(ヴァーリー)"」

「ふぎゅっ」

 

 額と後ろ頭を挟まれて、一瞬の放電。

 尋常じゃない音をたてて消し飛ぶ私の体をやや離れた上空にて見下ろせば、神様と目が合った。

 離脱はなんとか間に合ったけど、補足されてる……! ここまでの見聞色の使い手だとさすがに(あざむ)けないか!

 

 これ見よがしに私の羽衣を捨て去った神様が、私を見上げて笑う。

 

「ヤッハハ……どうする? 青海の女。ゴムはもはや使えまい。その刀で私を斬りつけてみるか?」

「ふぅ、ふぅ……無駄でしょうね。さすがに……でも諦めませんわ……!」

「ふむ……なぜだ? 私にこだわるのは……私はお前の事など知らん。求められるような理由はない」

「そんなの(わたくし)の頭の中の誰かに聞け、ですわ! とにかく(わたくし)の仲間に――ッ!」

 

 にんまり口を歪めた神様に、左足を武装・硬化させて技を繰り出す。

 雷速で迫る長い脚へ、放物線を描いて飛びこんで、しなる鞭のような高速の蹴りっ!!

 

「"電光(カリ)"」

「"雪華(セッカ)"!!」

 

 交差した足を中心に光が弾け、鼓膜を叩く爆音が月面さえ揺らして広がった。

 ビリビリと髄まで響く衝撃に歯を食いしばり、身を捻って全力一蹴。

 

「"神撃(しんげき)"!!」

「!! ぬおおっ!!?」

 

 足から発する究極の衝撃が神を吹き飛ばし、遠心力を乗せて月面へと叩き込む。

 神撃は何も拳限定ではない。足でも頭でも、なんなら背中でもお腹ででも放てる。だから私の究極の必殺技なんだ。

 

 地に下り立ち、膝を曲げて衝撃を殺す。

 倒れ伏す神様は、やがて腕をついて体を起こすと、不愉快そうに顔を歪めた。

 

「っは、はあっ、はあっ……!」

「口だけではないようだ……それほどまでに私が欲しいか」

「はあっ、欲しい!! だからお前っ! はぁっ……あなた様! (わたくし)の仲間になってくださいませ!!」

「くどい。なんのためだ」

 

 ドン。太鼓を叩く音がする。

 立ち上がった神様は私に質問しながらも手を休めず、もう一度太鼓を叩いた。

 そのたびに高まる雷のエネルギー。三度、太鼓が叩かれるのを見据えて、私は叫んだ。

 

「夢を叶えるために!!」

 

 私の悲願。私の全て。

 私の未来を照らす光。

 絶対に必要で、絶対に諦められないもの。

 

「青海には、神様の知らないものがたくさんあるのです!」

 

 四つ目の太鼓が叩かれ、うるさいくらいに雷が鳴っては揺らめく。

 もはやいつどんな技が飛んできてもおかしくなく。

 そして、ゴムがない今、雷を受ければ敗北は必至。

 

「青海などに興味はない。見ろ……あの世界は、ただ青々と海で満ちているだけだ」

 

 神様が見上げる先を追えば、遥か宇宙に浮かぶ生命の星。

 地球はほぼ海で構成されていて、陸地はほんの一部に過ぎない。

 

「それはっ、く、仰る通りですけれど!」

「この大地(ヴァース)が、ここが私の王国なのだ。青海の女……」

「でもっ、それはほんの八割くらい! あの星にも地上はあって、数多(あまた)の生命があって、幾星もの未知がある!!」

「光栄に思え。お前をこの"限りない大地(フェアリーヴァース)"の一員にしてやろう」

(わたくし)と冒険しませんか! ワクワクする日々を送ってみたいとは思いませんか!?」

 

 腰を落とし、神様が棒を構えた。

 技を放とうとしてる。そんなの食らったら死んじゃうのに!

 わざわざフルパワーまで溜めるなんてっ!!

 

「思わん。"2億V(ボルト) 雷鳥(ヒノ)"!!」

「うぬーっこのわからずやぁ! いいから私についてきてよぉ!!!」

 

 全ての太鼓が一つになって、巨大な鳥を(かたど)った。

 私もただではやられない。思いっきり足を後ろへやって、全身全霊全力の「嵐脚」を放つ。

 同時、帯に隠した機械が電力を足に伝わせて私の技を強化する。

 

「「嵐脚(ランキャク)」"雷鳥(ヒノ)"ッ!!」

 

 もはや雷刃。空気を焼いて食らいながら小振りな雷の鳥となった斬撃が神様の雷鳥とぶつかり合う。

 でも、無理っ。絶対押し負ける! というかもう飲み込まれかけてる!

 だから、形振りなんか構わない。最大の技を仕掛けるのみ!!

 

(おれ)の指もっ、竜の爪!!」

 

 何も無い空中を蹴り、自ら大熱量がぶつかり合う中心へと飛び込んで行く。

 顔の前で交差させた手は竜の爪を作って、武装色の黒色に染め上げていく。

 

「ヤッハハ! 何をしようと私には届かん!」

「勝手に言ってなさい! (わたくし)の爪はっ、必ずあなた様を大冒険(青海)へと引きずり込む!!」

 

 雷の中を突っ切れば、当然全身が焼かれて痺れる。

 けれど私はこんな程度でくたばらないしっ、やられもしない!

 髪の毛は無茶苦茶になって、隠してた機械とかも壊れちゃってるけど!

 神へ一撃を届かせるためだ致し方ない!

 

 この爪は、神をも引き裂く信念の爪!!

 

「宴舞-"革命の型"!!」

大地(ヴァース)(かえ)れ青海の女! MAX2億V(ボルト)"雷神(アマル)"!!」

 

 光の中を突き進んだ先には、青い雷を纏った雷様が待ち構えていた。

 死ぬほど恐ろしい。でも、怯まない。後退の二文字は、私には無い!!

 

 

「"超竜神撃"ッッ!!!」

 

 

 二つの爪が雷神の腹へ突き立つ。

 同時に雷が私を包み、焼き尽くそうと猛って唸る。

 

 

「――――――……!!」

「――――――……!!」

 

 

 もはや自分が叫んでいるのか神様が叫んでいるのか。

 その判断さえできず、声は音に掻き消されて、視界は真っ白に染め上げられて。

 

 

 ぶつりと、意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気が付けば、私は月に立っていた。

 そして向かい側には、神様が立っていた。

 

 お腹に青あざを作った神様が、唇から垂れる血を拭いもせずにじっと私を見ていて。

 私も、体中の痛みをそのままに、じっと神様を見つめていた。

 

「…………」

 

 おもむろに、神様が両手を掲げた。ゆっくりとした動作で、何をするのかと思えば、何もせずに腕を下ろす。

 それから、くるりと私に背を向けると普通に歩いて行ってしまった。

 

「――、はぁっ」

 

 その姿が見えなくなってようやく緊張が解けてへたり込む。

 途端に体中の痛みが甦って、反射で触れた頬がぴりっと痛んだ。

 ……あ、ほのまげも解けちゃってる。

 

「……勝てないなぁ」

 

 たくさん功夫(くんふー)を積んで、たくさん実戦を経験して、強い人達に揉まれて。

 それでも覇気を知らない神様に敵わなかった。

 ……けど、負けもしなかった。

 

 トドメを刺されなかったのなら、また挑戦すれば良い。

 それで、次は倒せばいい。

 それからお話をして、仲間に引き入れて、地球に戻って。

 やりたい事をやって、恩を返して、夢を叶える。

 

 ……でもなあ、力が伴わなければなんにもできないよね。

 

「いたた……うう。"生命帰還(せいめいきかん)"……ふひぃ」

 

 とにかく、こんな大火傷したままじゃ動くにも動けないので、治癒力を高めるためにエネルギーを消費する。

 ……外から補給する事ができないから自分の体食べちゃってるようなもんだけどおかげで火傷は大分治ったし、髪の毛もキューティクル復活してきらきらふわふわ。

 でもちょっと痩せちゃったな。ぶかっとした着物がさらにぶかぶか感増して、肩からずり落ちそう。帯をしっかり締めておこう。

 

 Dの羽衣を回収して首に回して肩に纏い、辺りを見回して……とりあえず、クレーターに入り込む。

 隠し扉を探し当て、月内部に侵入。

 もう私がいるのは神様、わかってるはずだから、気にすることなく家探しを決行。

 

 紐があったので拝借して、短く切って髪を結う。ほのまげも復活。

 なんかここ、工房かなんかなんだろうか。やたら機械にまみれてるんだけど……まあ、好都合かな。

 勝手に使わせてもらおう。ダメなら神様すっ飛んでくるでしょ。

 来たらやっつけて、仲間にしちゃえばいいんだし、一石二鳥。

 

「……?」

「……!!」

 

 むむっ、何やらざわめきが。

 暗い廊下の左右からわらわらわらと小さな兵士達が現れた。

 やる気か、こんにゃろ!

 

「……?」

「……??」

 

 んぇ? 良い人?

 ……攻撃したのになぜ良い人呼ばわりされるのかはわからないけど、その槍とかでつんつんされないってんならありがたい話。

 あ、ここ借りて良い? ちょこっと使いたいんだけど。

 

「!」

 

 ビシッと敬礼された。

 いいんだ。じゃあありがたく。

 

 即席ミューズ工房にて各種機械のメンテナンスを行う。

 わあい、全滅してる……冷気製造機もレーザーも、ついでに海水入れてた水筒もベコベコ。お水は……ちょっとだけ残ってる。でもぼろぼろ。

 なんの、しゅばばっと直しちゃう。ここには材料が豊富にあるので、修理くらいは容易い。

 これらを一から作れと言われたら無理だけどね。

 

「よしっ、完全復活!!」

 

 全装備を纏い、ほのまげを揺らしてガッツポーズ。気合は十分!!

 と(りき)んだら、ぐうっとお腹が鳴った。

 

「あ、あはは……恥ずかしー」

 

 照れ笑いで誤魔化したって、ここには兵士達しかいないので意味なし。

 しかしどうしたもんかな。月に食べ物はないだろうし……でも地球に戻るのはなぁ。

 

「!」

「ほえ? ……お団子!?」

「!」

 

 頭の上にお皿を乗せた兵士さんが小走りでやってきて、何かと思えば白くて丸いお団子がピラミッドを作っていた。

 それを食べさせてくれるらしい。

 他の子が椅子を用意してくれて、さらに他の子がお茶まで持ってきてくれたので、遠慮なくいただくことに。

 

 ……うまー。

 ほんのり甘い優しい味。

 もっちもっち。んー、唾液が溢れる。

 お茶で流し込むと、ほっと一息。

 あー、生きてるって実感するー……。

 

「ありがとね。おかげで本当に完全復活できました」

「!」

 

 ビシッと一同並んで敬礼。

 私も椅子から立って海軍式の返礼をする。

 ……あはは。月まで来て何やってるんだろうね。

 

 

 

 

 さて、だいぶん時間を食ってしまった。

 代わりに来た時と同じくらい万全になれたけど……うん。ベッドも借りてぐーすか眠っちゃったし。

 あとなんか石碑みたいなの見せられたけど書いてあることはちっとも読めなかった。ポーネグリフって感じではなかったけど、なんだったんだろう、あれ。

 

 

 

 

 月の地下基地にて再度装備を点検し、軽く体を動かしつつ、とりあえず王の間に殴り込みをかける。

 ……襤褸切れにされた。

 なんの、私だってぶん殴ってやったもんね!

 しかし"天女伝説"全然意味なかったの悲しかったなー……「実際に増えている訳でもあるまい」って全員同時にぶっ飛ばされて悲しくなった。

 

 ふひぃ。お団子とお茶で回復して、またまた機械を修理して。

 諦めない。諦めないぞー。絶対神様を仲間にするまで地球には帰りません!

 

 

 

 

「しつこいぞ! なんなのだ貴様は!!」

「ミューズ! 女神かもしんない!!」

「ええい不届き不届き不届き! おれの前から消え失せろ!!!」

「いーやーだー!!!」

 

 バリバリバリ。

 私は黒焦げになった。

 

 

 

 

「仲間になって!」

「ならん!」

「なんでー!?」

「ならんと言っている!」

「なんでなんでなんでぇ!」

「駄々を捏ねるな! ふんぬ……"雷神(アマル)"!!!」

「ふにににに、うぬぬー! "超竜神撃"!!!」

 

 どっかーん。

 玉座が弾け跳んでしまったので、いったんぶつかり合いは中止して、神様が雷治金(クローム・パドリング)で作り直すのを正座して見守る。

 ……おお、凄い、直った!

 神様って芸術性もあって凄いよね。

 すごいすげぇ。

 

「ヤッハハ! 当然だ……私は神だぞ!」

「すっごーい! ……すごくすごい! すげぇ!」

「……もう少し言葉を勉強した方が良いのではないか?」

「しょうがないでしょーそんな機会無かったんだから」

 

 ここで一句。

 コアラさん その教科書は 食べられない

 ミューズ。

 

 

 

 

「MAX5億V(ボルト)"雷神(アマル)"!!」

「武装・硬化!! 宴舞-"麦わらの型" ……"ギア4(フォース)"!!」

「……ただぴょんぴょんと跳ねているだけではないか」

「だって私ゴムじゃないもん! 筋肉とか骨とかさすがに膨らませられません!!」

「ヤハハ……喋っている暇はあるのか? 天を見よ!」

「わあー、真っ黒な太陽! ……逃げろっ!!」

「"万雷(ママラガン)"」

 

 あーん、機械が死んだ! 神様の神でなし!!

 

 

 

 

「"竜の鼓動"!! んん~……無敵モード!!」

「ぬうう、なぜ雷を弾けるのだ!? ミューズ、貴様何をした!」

「なんか、こう、衝撃波を常時発してる感じで……」

「……」

「……」

「勝負がつかんな」

「つかんなー。どうしましょ」

「…………」

「……あ、いい事考えた。神様」

「行かん」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

「~♪」

「…………」

 

 王の間にて。

 玉座で頬杖をついている神様の前で、ひらひら扇を広げて舞う。

 

「ちゃらら~……ちゃららら~……」

「…………」

「ちゃちゃちゃちゃ、ぴぴぴー」

「……なんなのだ」

「「JUNGLE P」でした。どう、冒険したくなった?」

「ならん」

「じゃあ「地球見」しよ!」

「…………」

 

 玉座に立てかけられていたのの様棒を掴み取った神様が立ち上がり、コンッと地面をつけば、小さな兵士達がやってきて地球見の用意をしていく。

 やったぜ。

 

 

 

 

「私が月を目指したのは……」

「?」

 

 青い地球を見上げながら、月面に二人、並んで座ってもっちもっちとお団子を食べる。

 お皿を下げたり持ってきたり、お茶をついだりしてくれる小さな兵士達をかわいいなーと思っていれば、唐突に神様が自分語りをし始めた。

 

「私が神だからだ」

「ナニソレ、イミワカンナイ」

 

 ちょっと高めの声でお返事をしたらじろりと見られたので、ほのまげの毛先を指で絡めとってくるくる弄って誤魔化す。

 でもほんとーにその言葉の意味はわからない。

 神様だとなんで月を目指さなければならなかったのだろうか。

 月が高い位置にあるからかな。ほら、天高くに神様がいるってのは万国共通の認識だし。

 

「『地球は青かった……だが、神はいなかった』」

「なんの話だ」

「さあ。私が生まれる前に宇宙へ出た、見知らぬ誰かの言葉なんだけど」

「何を馬鹿な……たかだか人間が一人でこの暗き世界に飛び出せる訳なかろう」

「私は来たけど」

 

 無音の空間の中に、神様と私の声だけが綺麗に反響する。

 ……。

 ……なんとなく神様の横顔を見上げれば、ふいっと顔を背けられて耳をほじくられた。

 ……。

 

「……えっ、もしかして私人外認定されてる……!?」

「…………」

「私人間だからね!? 正真正銘! ほら、かわいい女の子ですよー!!」

「…………」

 

 自分のほっぺに指を突き付けてほーらほーらと見せびらかせば、神様はちらっと私を横目で窺い、フッと鼻で笑って視線を戻した。無視するみたいにお皿に手を伸ばして地球見を楽しみ始める。

 ……あああ怒った! ぷっつんきた!!

 

「"ゴムゴムの"!!!!」

「ヤハハ……何をしようというのだ」

「"バクバク"~~!!」

「おま」

 

 悠長にお団子を口に運ぼうとしていたその手ごとばくっと食べてやれば、一瞬なくなった指先に目を丸めた神様が素の声を零した。むむー、お口の中がバチバチして刺激的!

 ついでにお皿の上のお団子もばくばく~~!!

 神様は真顔になって立ち上がった。

 

「不届き……!!」

 

 私もほっぺに詰め込んだお団子をもちもち咀嚼しながら立ち上がって構え、彼が弾けるのに合わせて"神撃"を放った――。

 

 

 

 

「神様、そろそろ(わたくし)、お暇しなければならないのですけど」

「ヤッハハ! 気味の悪い喋り方だ!」

「ちょ、真面目な話です! ちょっともう、時間が無いので!」

「私を仲間にするまで地上には帰らないのではなかったのか?」

「そのつもりでしたが!」

 

 腰に手を当て、どこか見下(みくだ)すような感じで私を見下(みお)ろす……うう、でか人間め。神様が首を傾げるのに、腕を突っ張って声を荒げる。

 それから、扇を広げて口元を隠し、そっと目を逸らした。

 

「ですが、タイムリミットです。口惜しいですが、神様とはお別れです」

「……ふむ」

 

 顎に手を当ててやや顔を上げて目を細めた神様は、それから右に歩いて左に歩いてとうろうろすると、パシッと姿を消して私の後ろに回り込んだ。

 

「私の許可なくこの王国を去る事は許さん」

「ええー! 初耳ですわ! 横暴(おうぼう)!」

「我は神なり……全ては私の思うがままなのだ」

「でも帰っちゃう」

「待てぇ!」

 

 神様とのお喋りは楽しいけれど、いつまでも話している時間はない。

 という訳で地球を見上げて帰ろうとしたら、神様が回り込んできた。

 

「待て。どうしても帰ると言うのなら……」

「……言うのなら? 『私を倒してからに』などと言うのはやめてくださいませね? 面倒ですから」

「…………」

 

 うわっ、真顔になった! 図星ついちゃったのかな。

 

「……ふん。勝手にするがいい。元よりここは私一人の王国だ」

「寂しいのですか? ──ぶっ!?」

 

 くすりと笑いを零したら、なんか投げつけられた。

 ……袋? あ、お団子入れてある。お土産かな。

 こんなに何袋も貰っちゃっていいのかしら。

 

「うふふ、そうしょげなくとも、また遊びに来ますわ♡」

「不届き! ……無礼な娘だ。帰るのならさっさと帰れ」

「もう、そんなに拗ねるのなら一緒についてくれば良いではないですか」

「行かん」

「もーう!」

 

 素直じゃないんだから!

 ほんとは一緒に来たい癖にー、とその背中を見つめたけれど、もう何も言ってくれない気らしい。

 いいもん。神様と戦って結構強くなれたから、一人でもなんとかなるかもだし。

 

「では、ごきげんよう。たまに月見はいたしますから」

「…………」

 

 だんまりを貫く神様に大きく手を振ってお別れして、いざ地球へ。

 

 神様は仲間にできなかったけれど、自信はついた。

 私は必ず、恩返しをするんだ!

 

 

 遠退いていく月をちらりと見やり、短いながらも楽しかった数日を思い返す。

 ……だいたい黒焦げにされてたからあんまり楽しくなかったかも。

 でもまあ、全部上手くいったら、改めて仲間に誘いに来ようかな。

 




TIPS
・JUNGLE P
ワンピースOP

・MAX5億V
なんかパワーアップしてた。
マクシム無しで万雷とか雷迎とかしてくるぞ。

(おれ)の指も、竜の爪
サボさんの真似っこ。

・ギア4
跳ねてるだけ。
バウンドマンというよりは水ヨーヨー。

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