本殿から大きく長い木箱をもって鳳大さんが出てきた。
「ほら、これだよ」
「な、なんじゃこりゃ…すごい形してるんですね鎌みたい」
「
その剣はゲームとかイラストとかで見たことのあるような大鎌に似た剣で、見たところ柄が長い。
「ほら、早く構えなさい」
「は、はい」
そして僕はそれを掴んだ。
刹那、とんでもない力が内から沸いてきた。
「 なんだこれ……力が無限に出てくるみたいで…」
「耐えられそうか?」
「は、はい…でも…集中してないとちょっとした動きですごいことになりそうな気しかしませんねこれ…」
「ふむ、とりあえず落ち着いて1振りしてみなさい」
「わかりました …せいっ」
縦に一振り、振ってみた。
衝撃波だろうか、三日月型になって前方に飛んで行く。そして結界にぶち当たりとんでもなくでかい音と共に消えた。
「っっ!!?うるさっ…」
そしてその衝撃波の道筋には禍々しい抉り痕が残った
この剣は自らの意思で伸縮させられる。
伸ばせる距離は最長30m、どんだけ伸びるんだよ。
「優樹君、これも持っていきなさい」
手渡されたのは剣だった
「一応、さっき言ってた蛇腹剣ってそれの事でな、お前が順応できたその剣はこれよりワンランク上の代物なんだ」
「いやなんつー危ないことしてんですかあなた」
「いやぁアハハ、なんていうか、ノリで」
「ノリでヘヴィなことしないでくださいよ!!いつか殺されるぞ俺!…あれ?俺?…??」
「多分、半妖になったから何かが変わったのかもな」
「何かが変わったとかすごい曖昧で腑に落ちないんですけど…
でもこれで口悪くなったって、責めないでくださいよ?」
「わかってるよ、ほら行ってきなさい」
「…わかりました、行ってきます」
(それにしても、半妖になったからって一人称って変わるのかな…?)
そう考え事をしながら剣の方を抜刀しながら高速移動をしていた。
「すごいよなこれ、ほんと。夢にまで見たソニック走りが出来る…!」
そう言いながら会場の方へ戻った。
道中視千切り岩に遭遇することはなく、難なく着いた。
「やあ美火、美静」
「優くん!?どうしたのその格好!」
「邪を斬る時の正装みたい、なんか中二病感が否めないんだけどね、それよりも半妖になれたから、ほらこの通りこの剣も使えるようになったって訳だよ」
「すごいじゃん!」
「倒せそう…なの?」
「…やってみないとわからないけど、何とかやってみるよ。後は視千切り岩が出てくれれば手っ取り早い」
「さっさと終わらせてお前らと祭りの続き、楽しみたいからさ」
「う、うん…?」
「さぁ出てこい俺はここだぞ」
辺りを見回せど見当たらない。
「人がいるからかな…さっきはお構い無しだったのに。
場所を変えれば出てくるかな」
そして俺は視千切り岩に最初に遭遇した通りに向かった。
次第に空気が変わり、視線を感じるようになった。
(いるな、後ろに)
「そこッ!」
後ろに向けて石を投げる。
ゴツっと硬い音が跳ね返り、その姿を確認して蛇腹剣を抜刀し怪異に向けてその切先を伸ばし、その刀身を巻き付け捕縛した。
「行ぃくぞおおあ!!」
そして天高く跳躍し回転をかけ怪異を地に叩き落とし、着地とともに一撃、斬りこんだ。
「斬れた…斬れたか…?刃こぼれとかしてないよな…??あ、全然欠けてねぇ」
怪異は薄気味悪い笑みを浮かべその姿を大きな人形へと変えた。
「グルォオオオオオ」
耳障りな咆哮を上げ突進してくる。
「だったらコイツはどうだ!!」
大鎌型を引っ張り出し、怪異の首へその剣先を引っ掛け、一気に引き切り裂いた。
「まず足!」
一気に距離を詰め近くの木に剣先の鎌を突き刺して剣を伸ばし、怪異の足へ引っ掛ける様に絡ませ、そのまま切り落とした。
怪異は絶叫しながら体勢を大きく崩す。
「もう片足も置いてけ!」
体勢を崩し倒れた所に斬りかかり、難なく両足を奪った。
「腕!」
今度は蛇腹剣をしならせ、跳躍しながら右腕を斬り飛ばしもう片腕も同じ要領で切り落とした。
「ォォオオオルアアアアア!!!」
半妖の力を存分に振るい、猛スピードで距離を詰め、真上の木に跳躍し身を反転させ枝を駆り、怪異の首に渾身の力を込め、蹴りを繰り出した。
そしてその首は鈍い音を立てて千切れ落ちた。
後は札を胴体に貼り付け燃やすだけだ。
「そんでこれをここに貼ってと」
ぺたりと貼り付けて剥がれないようにゴシゴシと。
「よぉぉしこれでトドメじゃアアアア…決め台詞欲しいな…ハッ!」
おもむろに片手で顔を覆うポーズをとり
「地獄の業火で燃え尽きろ!インパクトカ〇ザー!」
指先に灯った赤紫の焔を怪異に向け放った。
そしてそれは大きな火柱となって消えた。
「…お、おお…倒せた…やったぁ~…決まった…ぜ」
全身の力と緊張が解けて、しばらくその場に大の字で寝転がっていた。
帰りは足が軽かった。
半妖とは便利なものなのだなとしみじみ思った。
その後祭りを一通り楽しみ、美火家へ帰宅そして鳳大さんに半妖になっても元の姿に戻すことが出来ると教わった。
ヘトヘトだったので戻すより先に風呂へ入ることにした。
そして流し場の鏡を見て驚いた。
「け、獣耳に…尻尾。あれ、目も猫みたいな感じになってる…すげえ…ケモっ子になった…興奮するぜッ…」
一通り体を見終わって体を流した。
「あ〜…あったけぇ…」
体も洗い終わり広い浴槽に身を放り投げる。
すると横から美火がでてきた
「あれ?お母さんさっきお風呂はまだだって…って優くん!?な、何でここに!?」
「うわっ美火!?なんで!?」
「こっちのセリフだよ!脱衣所に美火って書いてあったでしょ!?」
「いやいや、自分の部屋の前に表札のように名前の書かれた板を貼るような感覚で貼るなよ!つかお前俺が初めてここ来た時一緒に入ったじゃねぇか!」
「ううう…」
「……その、なんだ…体洗うんなら洗っちゃえよ」
「…うん」
美火がワシャワシャと体を洗っている。お互い無言で、しんとした風呂場に響くのは体を洗う音と湯で流す音だけだった。
そして美火は浴槽へ浸かると静かに口を開いた。
「…ねぇ、優くん」
「ん?」
「脱衣所に服とかなかったけど、脱いだものどこやったの?」
「え、俺の部屋に」
「じゃあそのバスタオル腰にまいてきたってこと?」
「まあなー」
「着替えは?」
「部屋の前でもいいかなーってね。あそこ夜風が当たって気持ちいいんだ」
「デリカシーないんだから、もう」
「それに、」
「ん?」
「今の優ちゃん、半妖になっちゃったのに、不安じゃないの?」
「…さぁ、どうだろうかねぇ、まだ先のことなんて考えたってわからないし、考えるのめんどいし」
「…どうして?」
「それは…」
「…それは、今こうしてお前と一緒にいることが出来るから、かな。あいつを倒して、美火のところにちゃんと戻ってこれたし。」
「…」
「…美火?」
隣にいる美火を見やると顔を上気させて石のように固まっていた。
「お、おい大丈夫-」
言い切る前に柔らかく甘い香りが俺の体を包んだ。
「優くん…!」
「ど、どうした?」
「そんな…そんな事言うのはっ、反則だよ…」
抱きついた美火の体はあの時のように震えていた
「…優くんはいつも、いつも私を助けてくれて…私が泣いてたら変な顔して笑わせて、引きこもった時もずっと…ずっと側に居てくれて…」
そう言う美火の腕に力が入るのを感じながら、俺は頷き続けた。
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「…落ち着いたか?」
「うん…」
「全く、照れて固まってたと思ったぜ俺は」
「ぅぅ」
あれからしばらく俺にしがみつくようにして泣きじゃくっていた。
まるで子供のように、その顔をクシャクシャにして。
「ごめんね、私…」
「気にすんなよ、俺のお節介だ」
そう言って俺は美火を抱き寄せる
「…うん」
美火も俺に体を預けている。
「この風呂、露天でよかったな。
お前と見る星もまた乙なもんだな」
「もうっ…そんな恥ずかしいことばっかり言ってぇ…」
そんなことは言いつつも顔は真っ赤にして照れている。
「こんなキザなことしても、やっぱ慣れてないと緊張するもんだな」
「優くんも恥ずかしいの?」
「うっせ。気にすんな」
「うんっ」
その後しばらく2人は肩を寄せ合って星を眺めたのだった。
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