暗闇からの止揚   作:近藤山人

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昼の光に、
夜の闇の深さが分かるものか。

byフリードリヒ・ニーチェ


Fanatic-狂信者

「人真会を襲撃してほしい」

 

 それは地下の湿った空間に響きすぎる程の声を持って伝えられた。

 

「へ? 何を言っているんですか浩志さん。私たちはただの探偵ですよ?」

「まあ、それが普通の反応だろうね。いきなりこんな事を言われて、はいそうですかと言う奴は普通じゃない。だから嫌ならやらなくて良い。ところで君たちはこの街の失踪者の数が異様に多い事を知っているかい?」

 

 それに答えたのは内亜だった。

 

「ええ、この街に来る前何気無しに調べて見たら行方不明者が異様に多くて驚いた経験があります。しかしまさか、そんなに多く者が貴方方に関わっていると言う事はないでしょう?」

「……残念ながらそれがあるんだよ。だから人間である君たちの協力が必要なんだ」

「何故人間の協力が必要なんですか?」

「それは、彼らの拠点には我々のような怪物を寄せ付けないように結界が張ってあるからだ。だから我々は攻勢に出たくても出れない。そして奴らの発想は狂気に満ちている。このままでは無辜の犠牲者が幾人も出るだろう。その中には未虎も含まれるかもしれない。……このような形で再会になってすまない、未虎にはどうか私の事は黙っていてほしい。こんな姿を見られたくないんだよ」

 

「……少し、考えさせてください」

 坂東はそう言い、鵺野、内亜両名と少し離れた場所まで移動した。

 

「どうする、京、内亜?受けるか?」

「これから確認する内容によるね」

「同意見です」

「そうかでは確認する事をまとめようか」

 

 

 ……………………

 

 

「話はまとまったかな?」

 

 それに対して坂東が答える。

「ええまとまりましたよ。そこでいくつか確認したいことがあるのですがよろしいですか?」

「言ってみなさい」

「まず一つ目、行方不明者に貴方達の手による者はどの程度含まれますか?」

 

 その質問にタダマルが警戒心を高める。

「私の知る限りここ12年間は一件も存在しない。それ以前は数件ほどあった」

「そうですか。次に人真会についてですが彼らは我々も排除の対象に含まれますか?」

「彼らならそうする。ついでに言えば彼らは痕跡まで徹底的に殲滅する事をよしとする思想を持っている」

「なぜ警察は動かないのですか?」

「分からない」

 

 その返答に坂東は若干語気を強めて質問する。

「言い方は悪いですが貴方がたを排除するいい機会だと考えられたのではないですか?」

 

「それは無いにゃ〜」

「何もノだ!」

 

 突然何処からか響いたその声に浩志と三人は辺りを見回し、タダマルは声を張り上げる。

「何処見ているのかな〜?ここだよ、ここ」

 

 今度は何処からか発せられたかハッキリと分かった。しかしそれ故にグール達と三人は恐怖した。声は周囲を見渡している彼らの内側から聞こえてきたのだ。まず鵺野が恐る恐る振り向くとそこには1人の"人間"が立っていた。

 

「い、イツノマニ。何者だキサマ!」

「そう怒らないでくださいよ。私の名前は……そうですね。仮に師走としましょうか。先程そちらの強面の野郎が言ったような事はありませんから安心してください」

「あ?」

「名前をキイテイルのデハナイ」

「ああ、そういう事ですか。私はこの国の抗神組織……暁の者です」

「抗神組織?」

「はい。我々の仕事は邪神と呼ばれる強大な力を持った生物やその眷属から世界を守る事です」

 

 タダマルへの返答に更に疑問を呈した鵺野に師走は突拍子も無い普通の人間が聞けば何処ぞのフィクションの設定のような事を口にした。

 しかし、何時もなら笑い飛ばすであろうその内容を3人は否定できなかった。いや、理屈では否定しているのだがそれが事実だという強い"実感"を感じていた。3人は浩志とタダマルの方を下がる様に見つめるが彼らはそれを事実と肯定する様に黙っているだけだった。

 その様子を見た師走は続ける。

 

「まあ、実際の仕事はクトゥルフ神話関連の事件全般を解決することなんだよね。それ関係のことでね、我々は人真会の様な連中も取り締まり対象なんだけれど今回はちょっと面倒な事になってね」

「面倒なことっていうのは警察が動いていない事と関係があるのかしら?」

「その通りだよ美しいお嬢さん。地元の警察が連中のお仲間?に入り込まれていてね。ちょっち面倒なんだよ。そこで!」

 

 師走は一旦言葉を区切り辺りを見回してたから続ける。

 

「君たち探索者に解決してもらいたい。君たちの様な探索者の行動にはたとえ法律違反でも表沙汰にならない限り目を瞑るの我々だが今回は少し勝手が違ってね」

 師走は喋り続ける。

「そこのグール達は五両組とか言う893達と同盟関係になる。君たちが武器を必要としたらそこから調達されるだろう。何時もならこの程度の事神話的事件を解決する為の超法規的措置として認めているんだが、今回は上で一悶着あってね。それは無理なんだ。だから代わりに我々が武器給与を行う事になったのさ」

「おい!」

 

 休む事なくまくし立てる師走をイラついた声で坂東が遮る。

 

「ひとつ質問していいか?」

「どうぞ?あ、僕らに過労死しろって言う様な意見は受け付けないよ。こっちは人手不足で大変だからね。それと何処の国も抗神組織については明らかにしてないよ。でも存在する。で質問は?」

「聞きたい事は幾らかあるが……ここまで話したと言う事は我々に協力を強制すると言う認識で間違ってないな?」

 

 それを聞いた師走はニヤリと笑い。

「exactly.ついでに言えばこの事を口外すれば君達はブタ箱行きになる場合があるから気をつけて。それじゃあ私はやる事があるから失礼するよ。アディオス」

 

 その言葉と共に師走の姿は搔き消え、彼の居た場所に大きな段ボールが置かれて居た。

 

「き、消えた。どんなトリックを使いやがったんだ!?」

 

 坂東の叫びが響く。そこで今まで黙って居た浩志が口を挟む。

 

「恐らくあれは何らかの魔術だろう」

「魔術?あれがですか?」

「そうだよ。しかもあれだけ派手に使っているのに魔力の動きをほとんど感じられなかった。恐らく相当手練れの魔術師だろうね」

「浩志さん私からも質問があります」

 

 鵺野は深呼吸をしてから浩志を真っ直ぐ見据えて切り出す。

「何だね?」

「一応貴方の口から直接聞きたいのですけれど、彼の言っていた事は本当ですか?」

「……………………」

 

 沈黙が続く。

 

 

「……………………そうだ。私も詳しくは知らないが彼が言っている事は概ね事実だよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 内亜は固まっている。

 

 

 ……………………………………

 

 

「ソロソロぶキノ確認をシタラドウだ」

 

 一同の中でいち早く平常に戻ったのはやはりと言うべきかタダマル出会った。やはり生まれついてのグールである彼は人間とは感性なども大きく異なっているのだろう。

 

「おっと、そうでしたね」

 

 次にそうなったのは意外にも塊っぱなしであった内亜であった。その後鵺野と坂東も精神に一区切りつけ段ボールの中身の確認に移った。

 

「これはこれは、また随分と物騒な物が入っているね。よく一般人にこんな物を渡せるよ」

 そう言って鵺野は感嘆と呆れの入り混じった息を吐きつつ中に入っていたものを手に取った。

 

 それはサブマシンガンである【H&K MP5】であった。更に探ると【H&K MP5】専用に作られたゴム弾とスタングレネード、スモークグレネード、防護マスク、耳栓、赤外線暗視装置、各種説明書が収められていた。

 

 

 そして鵺野は決心を決めた様に浩志に向き直り……

 

「浩志さん人真会への襲撃に当たって貴方方が把握している必要な情報を教えてください」


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