暗闇からの止揚   作:近藤山人

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この作品は私の他の作品の設定をある程度流用しています。またこの作品はヤマダ サン 様の『知られざる街の住人』をプロットに使用させてもらっています。


Who are you?
Invitation-呼び込み


 日本のごくありふれた地方都市の一つ穴戸市。そのオフィス街にあるビルの3階に探偵事務所が一つ入っていた。

 その事務所の札にはこう書かれていた。

 

 ・鵺野探偵事務所

 ・Nueno Detective Office

 

 

 

 

 〈鵺野探偵事務所・事務室〉

 人が2人しかいないオフィスににキーボードを連続で叩く音が響く。

「接続完了、所内ネットワーク問題なし。所長引っ越し作業終わりました」

 

 先程までキーボードを操作していた七三分けの眼鏡をかけた平凡そうな男が部屋の奥の所長席と記された机に腰掛けた女に話しかけた。

「そう、ありがとう佐藤くん。君がいてくれて助かったよ。ウチには君しかこう言う事に詳しい人がいないからね」

「いやぁ、給料分働いたまでですよ。」

「君は十分給料以上に働いてくれているよ」

「そうですか。ところで所長」

「ん? なんだい?」

「その格好は何なんですか?」

 

 佐藤と呼ばれた男は今まで疑問に思っていた事を口に出した。何故なら所長と呼ばれた女性は室内にもかかわらず、顔の半分ほどを覆うマスクをしサングラスをかけて、クラウンもツバも大きな、明らかにサイズの合ってない中折れ帽を被っていたのだ。

 

「ああこれかい? 顔を出すと変な奴らによりつかれるからね。顔を隠そうと思っただけだよ」

「そ、そうですか。……でも所長が言うと説得力がありますね。あれでも今はまだこのビルに他の組織や個人は入ってないからつける必要はないのでは?所長は上層のマンショにお住まいですし」

 

 その問いを聞いた彼女は、その問いに若干冷めた顔をしてこう返した。

「これから外出するんだよ」

 

 それにを聞いた佐藤は身を乗り出してさらに質問をする。

「え? 服でも買いにでも行くんですか?」

「……今ので十分だ。友達に会いに行くのさ。友達に。そう言うわけで佐藤くん、私はしばらくここを留守にするから内亜に引き継いだら帰っていいよ」

「え?今ですか?」

 

 多少困惑しながら質問した佐藤に所長である彼女は答えを返す。

「うん、今だよ」

「そ、そうですか。では自分は内亜さんが来るまで留守番をしていますのでどうぞ何処へでも」

「じゃあ佐藤くんまた明日」

 

 彼女はそのまま机の引き出しからバックを取り出して事務所を出て行った。それを見送った後佐藤は椅子にどっかりと体を下ろしタバコに火をつけた。

「……はぁ、今日も言い出せなかった。あ、ここ禁煙だった」

 

 

 

 

 〈穴戸市・いずれかの裏通り〉

 彼女は穴戸市の寂れた裏通りを歩いていた。表通りと違い人通りもなく昼間だと言うのに薄暗い寂れた通りを進んでいた。

 そして坂東探偵事務所と錆びた看板の出た建物の前で立ち止まりインターフォンを押した。

 

 

 

 

 〈坂東探偵事務所・応接室〉

 

 建物の外装に似合わない内装と調度品を応接室。そこにはタバコの入っていないパイプを加えた男と、一心不乱にナイフを磨いている女がソファに腰を下ろしていた。

 

「なあ、多田野ちゃん。今日鵺野が来るんだがこの格好でよかったのかなあ?」

 パイプを咥えた男はナイフを磨く女、多田野に話しかけるが彼女は彼の方を見ずに「いいんじゃないですか。」と返すだけだった。

 

「相変わらずナイフが好きだな君は」

「まあ、そうですね」

「(……いこん、こうなると会話が続かない)」

 

 パイプを咥えた男、坂東が会話が続かず困っていると応接室にインターホンの音が響いた。彼が多田野の方を見ると彼女はナイフを磨くのに夢中なのか気が付いてない様であった。坂東は立ち上がり出る。

 

「はい、坂東探偵事務所です」

『やあ、恭二くん。私だよ私。約束通り来たよ』

「ああやっぱり(みやこ)か、遠慮せずに入ってくれ。(そもそもここ営業時間だから普通に入って来ても良いんだが)」

 それを聞いた女性、鵺野は坂東が扉を開けるより早く自分で扉を開け事務所へ入っていった。

 

「久しぶりだな京。相変わらず動くのが早い。それにしても、また随分と顔を隠しているな。それに服も地味な物を着ているな。

「まあね。それと顔を隠すのは前から言ってるけど面倒な連中に憑りつかれない様にするためだよ」

「まあ確かにお前が飛び切りべっぴんさんだと言うのは認めるが、自分で言うのはどうかと思うんだが」

「それを言われると弱るなあ。それにしても、多田野さんはいつも通りね」

「まあとりあえず座ってくれ水羊羹持って来るから」

「わーいみやこみずようかんだいすきー。」

そのネタが許されるのは中学生までだ

「何か言った?」

「いいや何も。空耳じゃないか?」

 

 2人がそんなこんなでどうでもいい雑談をしていると事務所の扉が開けられ活発そうな印象を与えながらも険しい表情をした1人の女性が入って来た。

「こんちにわ、恭二さん。未虎です」

「なっちゃんじゃないか。久しぶり」

「もしかして先客がいたのかな?」

「いや、そんな事はない。こいつは遊びに来ただけだからな」

 

 それを聞いた未虎は少し意外そうな顔をして尋ねる。

「もしかしてお知り合いの方?」

「何言っているんだ?……あ!そうかそう言うことか。顔を覆っているものを取ってやれ」

「仕方ないなあ」

 

 鵺野が顔を覆っていたマスクやサングラス、帽子を取ると未虎は少し驚いた顔をして

「京さんじゃないか。顔が隠れていたし、服の選び方も変わっていたからぱっと見分からなかったよ」

「それにしばらく会ってなかったからね。で未虎は様子を見るに何かを依頼しに来たんだよね、私は席を外すよ」

「待ってくれ。これは京にも聞いて欲しいんだ」

「まあまあまあ、詳しく聞くから取り敢えず座ってくれ。お茶と羊羹持って来るからそれでも食べて落ち着いてからな」

 

 

  ………………………………

 

 

「今日来たのはほかでもない、恭二にお願いしに来たのさ。私の父さんについて覚えているかい?父さんは十数年前に突如失踪したのさ。実はもう父さんは死んでしまったんじゃないかと思ってたんだけど、父さんの手がかりとなる物がこの間テレビに映ってたのさ」

 

 そう言って未虎はスマートフォンを操作しこの街で起こっているとあるニュースを3人に見せた。それを行いながら彼女は説明を始める。

「これを見てくれ。今街を騒がしている血痕事件のニュースなんだけどこの時計父さんの物と瓜二つなのさ。しかも裏に掘られているNATIと掘られているところも一致している」

「そうか浩志さんは行方不明になった時。こんな感じのブランド物の時計を持っていたな。それが今見つかったとなると」

「その通りだよ。もしかしたら父さんは生きているかもしれないって事さ。……そう考えたら居ても立ってもいられなくなってね。どうか父さんを探して欲しいんだ。もちろん報酬は出来る限りだそう」

 

 そう言って未虎はかなりの額が記された小切手を見せた。

「どうかよろしく頼む」

そう言って未虎は頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。親友の頼みだ。報酬などなくてもその依頼受けよう。それに俺も会えるなら浩志さんに会いたいからな。京お前はどうする?」

「もちろん協力させて貰うよ」

 

「ありがとう。恭二、京」

 そう言って未虎は今出来る精一杯の笑顔を2人へ向けた。






ダイスはしっかりとふりますよ。

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