艦隊これくしょん~子持ちの艦娘~   作:剣の舞姫

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何かこう、ストレス発散で書いてたら書きあがってしまった。


第二話 「桂島泊地第3鎮守府」

艦隊これくしょん

~子持ちの艦娘~

 

第二話

「桂島泊地第3鎮守府」

 

 桂島泊地第3鎮守府、それは桂島泊地に作られた三番目の鎮守府だ。

 元々は第1鎮守府と第2鎮守府だけしか無かったのだが、5年前に第1鎮守府が深海棲艦の襲撃を受けて陥落し、その跡地に新たに作られたのが第3鎮守府なのだ。

 第3鎮守府が完成してから赴任してきたのが前任の提督であり、彼はブラック提督の中でも過激派に属する人物だった。

 艦娘は量産性が利く使い捨ての兵器としか見ておらず、特に駆逐艦や潜水艦、軽巡洋艦は彼にとって唯のデコイでしかなかった。

 前任の提督の指揮下で轟沈した艦娘は100を超え、提督として一人前の証と呼ばれる改二改装に到達した艦娘は一人も居ない。

 だからだろうか、桂島泊地第3鎮守府では改二改装は半ば伝説の存在として扱われ、実在するのかすら怪しいものだとまで言われている。

 これも一重に彼女たちが他の鎮守府と演習をした事が無いのが原因の一つでもある。前任の提督は演習で無駄に資材を消費する事を嫌い、大量の経験値を得られる事を理解せず只管出撃させる事に拘ったのだ。

 しかし、そんな前任提督も軍資金横領及び資材違法売買の罪で逮捕された為、彼女達の地獄の生活は終わった。

 そして、新たに赴任する提督は、日本最強の艦娘を三人も育て上げた敏腕提督として有名な男だ。彼の着任が、彼女達にとって良い事なのかどうかは、さておいて。

 

「おー、見てきたっぽい!!」

「夕立ちゃん、危ないですから外に出る時はライフジャケットを着てください」

「神通さんお堅いっぽーい!」

 

 新たに桂島泊地第3鎮守府に着任する九条湊と、その配下である3人の艦娘、それから湊の娘を乗せた船が桂島泊地の埠頭に近づいてきた。

 埠頭には海軍の軍服を着た士官と思しき男性が立っており、船が埠頭に停泊して湊達が降りると敬礼して出迎える。

 

「お待ちしておりました九条大佐! 自分は桂島泊地第2鎮守府提督を務めております御高勉少佐であります!」

「桂島第3に着任する九条だ。御高少佐、出迎えご苦労だった」

「いえ! あの有名な九条大佐にお会い出来て、光栄に思います!」

 

 御高少佐は昨年、桂島泊地第2鎮守府に着任したばかりの新米だと資料で読んだ湊は敬礼を返しつつ彼の経歴を思い出していた。

 士官学校では主席でこそなかったものの、優秀な成績で卒業し、研修でも優秀だと評価された上で提督として桂島第2に着任した期待の新星だと。

 

「君の噂は聞いている。これからお隣同士、仲良くしてくれると助かる」

「きょ、恐縮であります! こちらこそ、九条大佐の足を引っ張らないよう、全力で勤めていく所存です!」

 

 挨拶もそこそこに、早速だが御高少佐に案内され軍用車に向かった。車の助手席には御高少佐の秘書艦であろう艦娘が乗っており、湊達に気づいた時は車から降りて敬礼して迎えてくる。

 

「初めまして九条大佐、御高提督の秘書艦をしております利根型重巡洋艦の筑摩と申します」

「筑摩か……九条湊だ、よろしく」

「九条提督の秘書艦、高速戦艦の金剛デース!」

「神通です、よろしくお願いします」

「夕立だよ、よろしくっぽい!」

 

 生きる現役の伝説と呼ばれた湊や、日本最強の内の三人を前に筑摩は若干緊張している様子だが、湊と金剛の間に立っている可憐の姿に首を傾げた。

 

「くじょうかれんデース! よろしくおねがいしマース!」

「えっと、九条大佐のお子さんですか?」

「ああ、俺と金剛の娘だ」

「こ、金剛さんとの!?」

 

 やはり初対面の艦娘にとっては衝撃らしい。当然だろう、世界でまだ可憐しか存在しない人間と艦娘のハーフ、知らない者にとっては驚く以外に反応出来ない。

 とにかく、挨拶はこの辺にして、全員車に乗り込むと御高少佐の運転で第3鎮守府へと向かった。

 

「御高少佐、第3鎮守府の現在の様子はどうだ? 確か、君は前任が逮捕されて以降、何度か様子を見に向かっているらしいが」

「ええ、月に2~3度程度ですが筑摩と一緒に……実は昨日も一度様子を見に行ったのです。変わらず艦娘達は暗い表情を浮かべて、九条大佐の着任を知って、また地獄の日々が始まるのではないかと絶望している娘も、何人か」

「そうか……状況は芳しくないという事だな」

 

 因みに、現在機能していない桂島第3鎮守府の司令部の仕事は御高少佐が代理で処理していたらしく、前任が違法売買して不足してしまった資材を何とか20%は取り戻せたらしい。

 

「ほう、20%も取り戻せたのか」

「ですが、それが精一杯でした。自分の力不足が、情けないです」

「いや、君は良くやってくれた。自分の鎮守府の事だってあるのに、それでも第3の為にそれだけ取り戻してくれたのだ、十分過ぎる成果だよ」

「恐縮です」

 

 後の事は湊の仕事だ。御高少佐が取り戻してくれた分を無駄には出来ない。

 

「それと九条大佐、向こうに着いたら一つだけお気を付け頂きたい事が」

「……艦娘の人間への反感だな?」

「仰るとおりです。度重なる轟沈や補給・修理もままならない状況での出撃強行、暴行や暴言といった前任の行いが原因で、一部の艦娘は人間という存在そのものに対する憎しみの感情が芽生えているのです。自分と筑摩が出向いた際も、何度か攻撃されました」

「それは、酷いものだな」

 

 戦艦長門、正規空母加賀といった艦娘が特にそういった感情を強く持っているらしく、筑摩も危うく殺されかけたらしい。

 

「まぁ、そういった心配は無用だ。俺に何かするなど不可能なのは金剛や神通、夕立を見れば判るだろう?」

「……そう、ですね。日本最強に名を連ねるお三方がご一緒なら、確かに無用の心配でした」

 

 金剛は元より、神通と夕立も並の戦艦や正規空母では歯が立たない程に強い。改二改装や通常改装を行っていない艦娘が勝てる相手ではないのは火を見るより明らかだ。

 

「あ、見えてきましたよ九条大佐、あれが桂島泊地第3鎮守府です」

「あれか……」

 

 進行方向の先に見えてきたのは鎮守府と思しき建物だ。しかし、その外観は鎮守府と呼ぶには些か疑問を覚えるほどボロボロで、まるで廃墟のようだった。

 

「これはまた、味のある建物デスネー」

「ボロボロっぽい」

「いえ、ぽいと言いますか……ボロボロです」

 

 漸く鎮守府正門前に到着して車を降りた一行は改めて鎮守府の建物を見上げた。

 窓ガラスは所々が割れていて、壁は罅割れが酷く、屋根も一部に穴が空いている状態のまま放置されている。

 地面は雑草が無秩序に生え茂っており、運動場と思しき場所は荒れ放題、空母の練習場であろう弓道場は半ば崩れかかっていた。

 

「パパー、ここはおばけやしきデース?」

「……あ~」

 

 これは、娘の情操教育にも宜しくない。山本元帥からある程度の資金を用意して貰って正解だったかもしれないなと思った程だ。

 

「とにかく、入りましょうか。執務室までご案内します」

 

 正門を開けて御高少佐の案内で敷地内に入った瞬間、金剛が一番前に出て右手を振りぬいた。その拳は正確に飛来してきた砲弾を裏拳で弾き飛ばし、遠くへ飛んでいった砲弾が爆発した爆風が頬を撫でる。

 

「随分と元気が有り余っている娘が居るみたいデスネー……まぁ、この程度の砲撃しか出来ないなら程度が知れるというものデース」

 

 筑摩には見えなかったが、金剛と神通、夕立は飛んできた砲弾のサイズを確りと確認しており、そのサイズから41cm連装砲の砲弾だと見抜いていた。

 

「あら、あれは……零式艦戦21型ですか」

 

 神通が見上げた先には白い艦載機の姿があった。真っ直ぐこちらに向かってきており、銃口を向けている事から銃撃を開始しようとしているのだろう。

 

「真っ直ぐ過ぎる動きですね」

 

 神通は冷静に分析しながら足下に落ちていた小石を拾い上げて投擲、零式艦戦21型の主翼を片方だけ破壊する。

 墜落した零式艦戦21型に興味を示す事も無く歩き出したのは夕立で、神通と同じように足下に落ちていた小石を二つ拾い上げると、鎮守府の屋上に向かって大きく振り被り、投擲した。

 

「あの、夕立さん?」

「今、こっちに砲門を向けてたから、砲口に小石投げ入れたっぽい」

 

 すると、屋上で爆発音が聞こえて、同時に悲鳴も聞こえてきた。

 

「狙撃するなら舞鶴の鳥海さんみたいに隠密性上げてから出直すっぽい」

 

 流石に狙撃主レベルの艦娘はこの鎮守府に居ないので無茶な注文だが、それくらいでなければ夕立達には通用しないという事を、筑摩は改めて思い知る。

 

「さて、改めて執務室への案内を頼むよ御高少佐」

「りょ、了解であります」

 

 この人達、本当に出鱈目な存在だと、御高少佐も改めて思い知らされた。だが、彼女達の力があれば、きっと問題を力づくで捻じ伏せて解決してくれるのではないかと、期待もしてしまった。




前話にチラっと出てきた“奴”についてですがオリジナルなんですけど、5-5を知る人にとっては悪夢以外の何者でもないと言える存在です。

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