艦隊これくしょん
~子持ちの艦娘~
第十四話
「新人達」
湊が桂島泊地第3鎮守府に異動してきて新たに建造された艦娘は4人だけ。水上機母艦の千代田、軽巡洋艦の由良、駆逐艦の潮と叢雲の4人は神通の教導で既に全員が改に到達、千代田については甲まで改装を終えたが、その後は軽空母への改装を一先ず待っている状況だ。
「はぁ、疲れたわね」
「うん、今日も神通さん厳しかったね」
そんな新人4人の内の二人、潮と叢雲が食堂で朝食を摂っていた。神通の朝の教導が終わって漸く空腹を満たす事が出来て満足そうな顔をする潮と、クールぶっていても何処か嬉しそうな叢雲。
「あ、二人ともお疲れさまー」
「お疲れさまです、潮さん、叢雲さん」
「あ、由良さん、千代田さん」
「お疲れー」
トレイを持って現れた千代田と由良、二人も訓練の疲労が滲み出ているらしく、仲間を見つけてホッとしたという顔をしていた。
「あ~疲れたぁ」
「千代田さん、由良さんもですけど、特に神通さんに扱かれてましたもんね」
「ええ、前の出撃に参加した事もあってか、より実戦を意識してもらうという理由らしいです」
現状、桂島泊地第3鎮守府唯一の水上機母艦である千代田はその運用上、軽空母への改装をせず、遊撃部隊または機動部隊の要として重陽されている。
今後、千代田が軽空母へと改装する事になるとしたら、湊の考えでは瑞穂が着任してからという事になるだろう。
そして、由良は湊が望んで建造した軽巡洋艦、今後考えられている対潜水艦隊の旗艦に据える事を想定されているので、彼女の成長は急務なのだ。
「対潜水艦隊ねぇ……そういえば、噂に聞いたけど、ここの艦隊には潜水艦対策は何も無かったらしいわね」
「あ、私も聞いたことがある……その、九条提督の前の提督が、その、酷い人だったって」
「ええ、私も聞いた事があります。大艦巨砲主義……でしたからしら? 戦艦や重巡洋艦、正規空母しか運用しない主義だったかと」
「軽巡洋艦や駆逐艦、軽空母や水上機母艦を軽視してる人たちだったよね」
幸い、この4人を建造した湊は大艦巨砲主義などという事は無く、戦況、相手に合わせて艦隊運用を行い、軽巡洋艦だろうと駆逐艦だろうと、差別する事なく必要なら迷わず投入するスタイルだ。
艦娘に不要な艦種は存在しない。誰もが活躍する事が出来るのだと、その為に全員の育成が必須だとしている。
「その結果が神通さんや夕立ちゃんなんだよね」
「ええ、同じ駆逐艦なのに夕立に関しては正直羨ましいわ」
日本最強の艦娘に駆逐艦や軽巡洋艦が名を連ねている。しかもその二人が自分たちと同じ鎮守府に所属しているというのは、明確な目標にするには十分だった。
「そういえば皆さん、もう九条提督とはお話しました?」
「あ、私はまだちゃんとは……着任の挨拶くらいで」
「私もよ。着任の挨拶の後はずっと訓練ばかりで、会う機会が無かったし」
「私はこの前の出撃で由良ちゃんと一緒に話したよね」
自分達の提督が優れた人格者だというのは理解出来ている。上官として、信頼できる人物だという事は疑う余地も無い。
しかし、プライベートで話す機会が随分と少ない提督ではあるなと、4人ともが思っていた。
それもその筈、湊は桂島泊地に来てから休みらしい休みなど取っていないのだから。未だに前任だった前原元中将の行いの後始末に追われている他、第2鎮守府や他の近場にある鎮守府との連携や演習の調整などで出張する事も多いので、中々会えないのだ。
それもこれも、全ては前任の前原元中将が他の鎮守府との交流を絶っていたのが原因で、結局は湊が尻拭いをしなければならなくなっていた。
「でも、そのお蔭で今度、演習が行われるんだって」
「確か、舞鶴第1鎮守府とやるって話だよね」
「ええ、夕立率いる第一主力艦隊と神通さん率いる第一水雷戦隊、それから瑞鶴率いる空母機動部隊での演習って話よ」
因みに、その演習の際、主力艦隊の旗艦を榛名が、水雷戦隊の旗艦を川内が勤めて、それぞれの旗艦としての錬度を高めようとしているらしい。
また、空母機動部隊については空母育成の為に編成したばかりの部隊で、この為に先日建造が新たに行われて蒼龍と瑞鳳が着任した。
そんな話をしていると、噂をすれば影と言わんばかりに蒼龍と瑞鳳が食堂に来た。
「あ、4人ともお疲れー」
「疲れたー、夕立厳し過ぎるよぉー」
山盛りのご飯とおかずのトレーを持った蒼龍は流石の正規空母と言うべきだろう、しかし軽空母である筈の瑞鳳まで山盛りとはどういうことなのだろうか。
「あんだけ扱かれたら流石にお腹がねぇ」
つまり余りに厳しすぎる教導で空腹が限界という事だ。勿論、その分自分達が強くなってきているという自覚があるので、文句は無いが。
「何の話をしてたの?」
「色々ですよ。今は提督とお話した事が無いな、という話をしていて、そこから今度行われる演習について」
「あー、私達も出るっていう演習かぁ」
機動部隊のメンバーを思い出して、蒼龍が苦い顔をする。随分と嫌な出来事でもあったのだろうか。
「えっとね、瑞鶴が旗艦って事で加賀さんが提督に噛み付いて……自分か赤城さんを旗艦にしないなら演習には出ないって言い出したの」
「でも、提督は赤城さんは第一主力艦隊メンバーだから不可能、加賀さんは旗艦を勤めるには足りない物があり過ぎるから、今はまだ無理だって言ってぇ」
「足りない物ですか……?」
機動部隊のメンバーは瑞鶴を旗艦に加賀、蒼龍、比叡、霧島で編成されているが、状況に応じて龍嬢や飛鷹、瑞鳳を入れ替える形にしている。
そして、今回の演習では瑞鶴、加賀、蒼龍、瑞鳳、霧島で編成された。当日、龍嬢は鳳翔の店の手伝い、飛鷹と比叡は非番なので瑞鳳が比叡に代わり編成に組み込まれているのだ。
そのメンバーの内、湊への反発が強い加賀が今回も編成について文句を言ったらしい。何故一航戦の自分ではなく五航戦の瑞鶴が旗艦なのか、自分を旗艦に据えないのは反発する艦娘に対する差別だと。
「加賀さんには差別に映ったみたいだけど……」
「う~ん、私的には別に差別ではないかなぁって思うなぁ」
「千代田さん……何か思う所が?」
「えっとね? 提督は加賀さんには旗艦を勤めるには足りない物があり過ぎるって言ったんでしょ? それって実は普段の加賀さんを見てるとよく判るんだ」
普段の加賀、そう言われて思い浮かべると、成るほどと思ってしまった一同。
普段から、加賀は自分が一航戦である事を前面に出して五航戦を下に見ている節がある。その時点で旗艦を勤めるには不向きな上、他者との交流が無さ過ぎるのだ。
加賀が普段から話をするのは長門や陸奥、赤城だけ。他の空母メンバーで加賀と話をするとしたら鳳翔や龍嬢くらいか。
「あの人は連携する上で艦隊メンバーの事を知ろうとしてないでしょ? だから旗艦には向いてない」
「あ、あと……提督が開発した高性能な艦載機も受け取りを未だ拒否してるんですよね?」
潮の言う通り、未だに加賀は、いや長門や陸奥もそうだが、彼女達は湊が開発した武装や改修した武装を使う事を拒否している。
強くなると決めたのは良いが湊の力を借りるつもりは無いと、自分の従来持っていた装備だけで強くなると意固地になっているのだ。
「それで、加賀さんはどうしたのよ?」
「瑞鶴と勝負してみて勝てたら旗艦にしてやるって提督に言われて」
「瑞鶴さんの操る紫電改二や流星にあっさり負けましたぁ」
それもそうだろう。瑞鶴は今後、編成を予定されている第二主力艦隊の空母枠に配属が決まっている高錬度艦だ。
湊が来るまでは加賀よりも錬度が低かったのだろうが、今では瑞鶴の方が上、装備している艦載機も上位の紫電改二や流星、零式艦戦62型(爆戦)だ。
現状で瑞鶴に加賀が勝てる道理は無い。
「ちょっと待って、第二主力艦隊って何? 私、知らないんだけど」
「あら? 今朝、通達がありましたよ?」
「うん、私も聞いたよ……叢雲ちゃん、聞いてないの?」
「え~……うん」
潮が叢雲に丁寧に説明してくれた。
現在、編成を計画している第二主力艦隊とは第一主力艦隊に次ぐ鎮守府の最高戦力、運用としては別々の出撃で複数の作戦を行うか、もしくは連合艦隊として組むか、といった事を目的としている。
メンバーは戦艦1~2、重巡1、軽巡か雷巡1、駆逐艦1、空母1~2だ。その中で既にメンバーとして決まっているのは雷巡枠として大井、空母枠として瑞鶴、そして駆逐艦枠として叢雲だ。
「はぁ!? え、えええ!? わ、私!?」
「ええそうですよ、叢雲さんは第二主力艦隊のメンバーとして既に名が挙がっていました」
駆逐艦:叢雲、建造されて1年と経たず、その成長スピードを湊に買われて第二主力艦隊メンバーとして既に決定していた。
いつの間にか瑞鳳と蒼龍が建造されてました。
次回は……可憐のお話にしようかな。