艦隊これくしょん~子持ちの艦娘~   作:剣の舞姫

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前に話してた"奴”について少し触れます。


第九話 「出撃」

艦隊これくしょん

~子持ちの艦娘~

 

第九話

「出撃」

 

 その日は、朝から鎮守府が慌しかった。

 早朝より大本営の山本元帥から入った一報、それによって急遽決まった作戦の発令は第一主力艦隊と第一水雷戦隊だけでなく、全ての艦娘に緊張を奔らせたのだ。

 

「全員集まっているな。これより作戦会議を始める」

 

 鎮守府作戦司令室、そこに集まった湊を初めとする主要メンバー、第一主力艦隊メンバーである夕立、羽黒、榛名、北上、赤城、翔鶴。第一水雷戦隊メンバーの神通、川内、那珂、吹雪、時雨、如月、総旗艦の金剛を中心に艦隊に組んでいないメンバーも全員が湊に意識を向けている。

 

「本日早朝0500に、大本営の山本元帥閣下より緊急の速報が入った……金剛、説明を頼む」

「了解ネ。現在、山口県川尻岬沖に30kmの地点にて深海凄艦の姿が確認されマシタ。発見した海上保安庁の情報によると、編成は戦艦ル級が2、重巡リ級が1、雷巡チ級が1、空母ヲ級が2、内ル級1とヲ級2がflagship、残りは全てeliteとの事デスネ」

「ありがとう。さて、聞いての通り強敵だ。特に、現在の君達の錬度では下手に戦えば轟沈すらあり得る。既に桂島第2や呉にも出撃可能か確認をしてみたが、どちらも別件で既に主力の艦隊が出撃している為、我々だけで対処せねばならない」

 

 また、現在確認されているだけで先ほどの編成だが、あくまで海上保安庁が発見した限りの情報だ。まだ他にも潜んでいる可能性が十分に考えられる。

 

「まず出撃メンバーだが、第一主力艦隊を中核に前衛として第一水雷戦隊を配置、更に遊撃として第一遊撃部隊を編成する。メンバーは旗艦に重巡高雄!」

「はい!」

「続いて重巡愛宕!」

「は~い」

「軽巡由良!」

「了解!」

「軽空母飛鷹!」

「はい」

「水上機母艦千代田!」

「任せて!」

「駆逐艦山風!」

「は、はい……」

「以上で編成を終了する! 作戦は先行する第一水雷戦隊が敵編成を偵察、確認されている敵艦隊以外の戦力調査を行い、発見次第交戦。遊撃部隊は敵主力であろう確認されている部隊の足止めと水雷戦隊へ敵艦載機が行かないよう迎撃を。主力艦隊は到着次第、敵主力を叩く!」

 

 万が一、潜水艦が居た場合でも、水雷戦隊と遊撃部隊の編成なら十分に対処が可能だ。また、更に敵が増えたとしても、全18人になる出撃部隊なら何とか対処可能だろう。

 

「出撃は一時間後、第一水雷戦隊、第一遊撃部隊が順に出撃、その10分後に第一主力艦隊が出撃だ!! 他のメンバーは艦隊が出撃している間の鎮守府近海防衛の為に待機! 解散!!」

 

 解散となり、各々が部屋を出て行く中、湊は神通を呼び止めた。呼ばれた神通は川内に部下達と共に先に行ってるよう伝えて部屋に残ると、湊と金剛に向き合う。

 

「すまんな、神通」

「いえ、それで御用は千代田さんと由良さんの事ですね?」

「察しが良くて助かる。今回は二人ほどメンバーに選ばれなかったが、新たに建造した4人の調子を聞いておこうと思ってな」

「千代田さんは既に甲になっています。軽空母への改装も可能レベルに達してますが、今はまだ待っている段階ですね。由良さんは順調に錬度を上げて、既に改に到達。叢雲ちゃんと潮ちゃんは……今回はまだ選ばなくて正解ですね。改には到達させましたが、まだまだ未熟です。まぁ、その点で言えば山風ちゃんを選んだのも少し心配ではありますが」

「山風については問題ない。あの子はあれでかなり強かだからな」

「可愛い子には旅をさせよと言いますネ」

 

 まだ湊を少しだけ怖がっているのか、中々心を開いてくれていない山風だが、潜在能力は決して低くは無い。

 史実では白露型で真っ先に沈んだ艦だが、艦娘としての山風は気が弱くとも強かな芯を持っている。

 

「いざとなれば神通と夕立が居る。二人には負担を強いる事になるが、遊撃部隊も気にかけてやってくれ」

「了解です。提督のお役に立てるのでしたら、この神通、見事にやり通してみせます」

 

 敬礼して退出した神通を見送り、湊と金剛は再び作戦司令室の海域図の前に立つ。

 二人が懸念しているのは今回の敵編成の事ではなく、少し前から鎮守府近辺で目撃されているという“奴”が敵の中に紛れてはいないかという事だ。

 

「大丈夫だとは、思いたい」

「アレは一体で大艦隊分を超える程の戦力デス。滅多に艦隊を組んでくるとは思えマセン」

「ああ、だが逆にたった一体だけで現れる危険もあるからな」

「もし現れたら詰みデスネ」

 

 呉第2鎮守府時代に大敗した最凶最悪の敵、戦艦レ級改flagship、戦艦レ級を越える悪夢と呼ばれた防空棲姫すら上回る最悪の悪夢、超々弩級重雷装航空巡洋大戦艦の名で呼ばれるようになったソレは、今まで誰一人として勝てた試しが無い。

 

「来ない事を祈ろう」

「デスネー」

 

 

 作戦発令より1時間後、ついに第一水雷戦隊と第一遊撃部隊の出撃時間となった。既に埠頭には12人の艦娘が待機しており、出撃準備を整えている。

 

『これより出撃に入ります。第一水雷戦隊、第一遊撃部隊、出撃を開始してください』

 

 埠頭に響く大淀のアナウンスと共に、先ずは神通を旗艦とする第一水雷戦隊が出撃と書かれたパネルの上に立つ。

 

「第一水雷戦隊、旗艦神通、出撃します」

「同じく川内! 出撃するよ!!」

「艦隊のアイドル! 那珂ちゃん行っくよ~!」

「特型駆逐艦吹雪、出撃します!」

「駆逐艦如月、出撃しますわ」

「駆逐艦時雨、行くよ!」

 

 第一水雷戦隊が出撃して直ぐに、次の第一遊撃部隊が出撃パネルの上に立った。

 

「第一遊撃部隊、旗艦高雄! 出撃します!」

「同じく愛宕! 行っきま~す」

「軽巡由良、行きます」

「軽空母飛鷹、行くわ!」

「水上機母艦千代田、行きます!」

「駆逐艦山風、行くよ……」

 

 第一水雷戦隊、第一遊撃部隊が出撃して、10分後には作戦の要たる第一主力艦隊の出撃時間が来る。

 旗艦である夕立を先頭に全員がパネル上に立つと大淀からのアナウンスを待った。

 

『時間です。第一主力艦隊、出撃を開始してください』

 

 アナウンスが流れて埠頭に再び出撃用のエネルギーが回り始めた。

 

「第一主力艦隊旗艦、夕立、出撃するっぽい!」

「戦艦榛名、全力で参ります!」

「重巡羽黒、出撃します!」

「重雷装巡洋艦北上、出撃します」

「一航戦赤城!」

「五航戦翔鶴!」

「「抜錨!!」」

 

 合計18名の艦娘が出撃して海上を走る。

 前衛の第一水雷戦隊は神通と川内を先頭にした複縦陣の陣形で、遊撃に回る第一遊撃部隊は飛鷹を中心とした輪形陣となって水雷戦隊の後方から右へ迂回し、後方にいる第一主力艦隊は単縦陣にて水雷戦隊を追従していた。

 

「ねえねえ神通、今回の敵主力って殆どがflagshipとeliteなんだよね?」

「ええ、ですので私達は主力と直接は戦いません。偵察をしながら他の随伴艦隊を索敵し、発見次第これを叩きます」

「なるほどね、夜戦とかあるかな~」

「夜戦突入する前には終わらせますよ」

 

 ブーイングする川内を尻目に、神通は周囲へと視線を向ける。今のところ敵影は確認出来ていないがそろそろ敵の前衛が居た場合、接触してもいい頃合だ。

 

「姉さん、那珂ちゃん、索敵を行いますので水上偵察機を出して下さい。私の水上観測機は敵主力艦隊の偵察に出しますので」

「了解、出番だよ!」

「お願いね~!」

 

 川内と那珂が零式水上偵察機を飛ばしたのと同時に、神通も零式水上観測機を敵主力艦隊が居るであろう方角へと飛ばした。

 暫くすると、神通の水上観測機が敵主力艦隊を発見し、その詳細を母艦たる神通に通信で伝えてくる。

 

「なるほど……高雄さんと夕立ちゃんに打電! “我、敵主力艦隊ヲ発見セリ。周囲ニ他艦影無シ”。これより、無線封鎖をしますので皆さん、気をつけて下さい」

 

 吹雪達が頷いたのを確認した神通はふと気配を感じ取った。この敵意に満ちた気配は……敵の出現だ。

 

「神通! 水上偵察機から打電! 敵影を確認した!!」

「こっちも同じだよ! 編成は軽巡ホ級eliteが1、軽巡ホ級が2、駆逐艦イ級後期型が3!」

「ええ、私も気配で察してます。皆さん、これより敵前衛水雷戦隊との交戦を開始します。砲雷撃戦用意!!」

 

 構えたのと同時に、敵水雷戦隊が姿を現した。だが遅い、既にこちらは準備が整っている。

 

「私が鍛えた第一水雷戦隊を、甘く見ない事です。撃てぇ!!」

 

 こうして、桂島泊地第3鎮守府初の戦闘が始まる。神通指揮の下、初弾が敵に命中したのを皮切りに本格的な砲雷撃戦が開幕するのだった。




安心してください。ネタバレですが“奴”は出ませんよ。

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