1ヶ月ぶりだから書く練習の為に書いた作品です。
艦隊これくしょん
~子持ちの艦娘~
プロローグ
深海棲艦と戦う日本海軍の総本山たる大本営、その一室では部屋の主である日本海軍元帥の一人、山本 仁と呉第二鎮守府提督を勤める九条 湊大佐が部屋の中央にある応接テーブルを挟んで座っている。
山本元帥の後ろには彼の秘書艦である戦艦大和が控えており、湊の背後には湊の秘書艦である戦艦金剛が大和と同じく控えていた。
「異動、ですか」
「うむ、九条大佐には呉第二鎮守府から桂島泊地第三鎮守府へ異動し、そこで今まで通り提督業務に就いてもらいたい」
「それは、我が艦隊も含めてでしょうか?」
「いや、連れて行けるのは最大でも3人といった所か。他の者については他の鎮守府へ配属して貰って国内の戦力を底上げしたいのだ」
湊は提督になって10年以上のキャリアを持つ。当然、その配下の艦隊は10年掛けて育てただけあって国内でも最高峰の錬度を誇るのだ。
「それで、自分は桂島で1から艦隊を育てなおせと?」
「そうではない。向こうには既にそれなりの艦隊は揃っておる」
「? つまり、前任の提督が居たという事ですか」
「ああ、ただし……艦娘兵器派のな」
「それは……」
艦娘兵器派の提督、それは所謂ブラック提督と呼ばれる者達を指し、艦娘を唯の兵器として扱い、命ある者とは思わず建造で量産出来るからと轟沈させる事すら簡単に行っているのだ。
対して山本元帥や湊が属する艦娘擁護派は艦娘を命ある一個人として尊重し、兵器ではなく軍人の一人として、部下として扱う者達だ。
「既に前任の提督は軍資金横領の罪で逮捕している。そこで空いた席に誰を座らせるかと考えたときに、現役の提督の中で一番長いキャリアを持つお前の顔が私の頭に浮かんだのだ」
「なるほど……桂島泊地第三鎮守府の艦隊資料はありますか?」
「ああ、大和」
「はい、九条提督こちらをどうぞ」
大和に渡された資料のファイルを湊が開くと、後ろに立っていた金剛も肩越しに覗き込んだ。
資料には艦隊の名簿の他に艦娘ごとの精神状況も書かれており、他にも過去の轟沈者や、つい最近建造した艦娘のリストなども書かれている。
「む、金剛型は金剛以外居るようだな……」
「オウ! ここのワタシは轟沈してるみたいデース」
「ああ、そういうことか……ふむ」
戦艦は金剛以外の金剛型3人と、扶桑型の2人、長門型の2人の7名。重巡洋艦は高雄型4人と妙高型の4人、最上型は鈴谷と熊野のみ。
空母は正規空母として赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴、軽空母として飛鷹、鳳翔、龍嬢の計7名。軽巡洋艦は川内型が神通以外の2人に天龍型の2人、球磨型の北上と大井の計6名。
潜水艦は伊8、伊58、伊19、伊168と潜水母艦の大鯨。最後に駆逐艦は吹雪型は吹雪のみ、睦月型は睦月、如月、弥生、卯月の4人、白露型は白露、時雨、村雨、春雨、山風の5人、暁型の4人と島風の計15名だ。
「全部で51名の艦隊だが」
「過去に轟沈した艦娘が異常デスネ。100名を超えるとか業が深すぎて引くデース」
生き残っている艦娘の殆どが再建造した者ばかりで、古株と呼べるのは金剛型の3人と長門、翔鶴、赤城だけのようだ。
更に、錬度の低さも目に付く。改二改装している者はおらず、改になっているのが長門、榛名、翔鶴、赤城、妙高型の4人と鈴谷、熊野のみ、他は全て改にすら到達していない。
「これでよく鎮守府を維持していたな……いや、轟沈が当たり前ならギリギリで何とかなっていたってところか」
「でもダーリン、最後に大量轟沈者を出してからは最前線がカレー洋からオリョールまで下がってるみたいデスヨ? これ以上は錬度が低くて進めないのデショウけど、何より資材が常に不足しているのが原因デスネー」
「常に資材不足? 遠征には出しているみたいだが……ああ、着服ってそういう」
「デース、資材を闇市に売りに出して私服を肥やしていたという事デス」
艦隊運営可能なギリギリを残して大半を売っていたから出撃もままならなくなってしまったという事だ。これは確かに逮捕されても文句は言えない。
「しかも艦隊編成……前任は素人か? 第一艦隊が戦艦と正規空母しか居ないとか、潜水艦対策もクソも無いな」
「夜戦になれば簡単に負けますネー」
大艦巨砲主義もいいところ。第二艦隊も重巡洋艦のみの編成になっていて、これでは軽巡洋艦や駆逐艦が育たないわけだ。
「元帥閣下」
「うむ」
「異動辞令、了承しました。こちらから連れて行く艦娘も決まってます」
「して、誰を連れて行く?」
「戦艦金剛、軽巡洋艦神通、駆逐艦夕立の3名です」
「む、やはりその3人か……出来れば神通か夕立は他へ回して欲しかったのじゃが」
「いえ、流石にこの状況を見ると彼女達は必須ですね」
「そうか……まぁ、確かに向こうの現状を考えれば“音速”“水雷王”“紅の悪夢”が必要じゃな」
山本元帥が口にした三つの渾名、それは日本最強と呼ばれる5人の艦娘の内の三人の渾名だ。
横須賀第一鎮守府に所属する“天空の支配者”鳳翔、舞鶴第2鎮守府に所属する“狙撃主”鳥海、そして呉第二鎮守府に所属する“音速”金剛、“水雷王”神通、“紅の悪夢”夕立、この5人こそが日本を代表する日本最強の艦娘なのだ。
「ところで、呉第二はどうなりますか?」
「ああ、そっちなら今年士官学校を卒業する新人の提督が配属される事になっておる。大淀と明石はそのまま残すから、サポートに関しては問題無かろう」
「ああ、それなら大丈夫ですね。2人とも錬度99に達してますし、万が一の時にも対応出来ますから」
これで問題は片付いた。辞令についても了承したので、早いところ鎮守府に戻って荷造りしなければならない。
「では元帥閣下、自分達はこれで」
「うむ、では九条大佐、移動は一月後の4月1日、頼むぞ」
「了解いたしました」
席を立ち、敬礼してから部屋を出ようとする湊を山本が呼び止めた。
「ああ、それから九条大佐、幼稚園は桂島第三の近くにもあるから、そこに編入届けを出しておいたぞ」
「おっと、それは……お手間をお掛けしました」
「なに、これはジジイの手向けという奴だ。今度、可憐ちゃんを連れて遊びに来なさい」
「ええ、そうします」
「では失礼するデース!」
今度こそ、執務室を出た湊と金剛は出る前に大和から手渡された幼稚園のパンフレットに目を通しながら廊下を歩く。
「へぇ、離島の幼稚園にしては中々豪華な造りだ」
「デスネー、これならカレンも喜ぶと思いマース」
九条 可憐、それは湊と金剛の間に生まれた二人の娘だ。世界初の人間と艦娘のハーフ、艦娘擁護派の象徴とも呼ぶべき存在であり、湊と金剛にとってはまだまだ手の掛かる4歳の愛娘。
「ダーリン」
「なんだ?」
「帰りにスーパー寄っても良いデスカ?」
「ん? 冷蔵庫にまだ食材はあったと思うが」
「いえ、カレンが朝言っていたんデスガ、グラタンが食べたいそうデス」
「マカロニか」
「Yes」
そう言いながら金剛はハンドバックからスーパーの特売チラシを見せる。安売りしている商品には確かにマカロニもあった。
「なら、急ぐか」
「急ぐデスネー!」
九条 湊、33歳。妻である九条 金剛と共に来月から新しい鎮守府へと異動となる。ブラック提督によって大いに心に傷を負った艦娘達を導く為に。
次回は未定、あくまで1ヶ月ぶりの執筆のリハビリみたいな感じで書いたので。
腕、落ちてませんかね?