これからも亀更新になると思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。。。
今回から(過去編のさらに)過去編です。
本作主役の咲夜さんが出てきません。。。
かなしい。。。
それでは本編です。どうぞ。
第7話 吸血鬼異変 Part 1
「始めるわよ、レミィ」
「ああ!楽しい宴の始まりだ!」
紅い閃光に包まれる。
それは彼女たちだけでなく、この館全体を巻き込んでいた。
––––その日は、美しい満月が紅く輝いていた。
◆◇◆
「紫様」
「分かっているわ。藍は、博麗の巫女と共に人里に向かって頂戴」
「彼女には手伝わせないのですか?」
「さすがに今回ばかりは、いくら霊力のある彼女とはいえ、人間の手に負える範疇を超えているでしょう。それに、妖怪に人里を守らせるよりは人間が守ったほうがいい。そして貴女には、彼女の手助けを頼むわ」
「御意」
「まったく……ここの妖怪たちは随分と––––」
八雲紫はスキマを開く。そして、そこに足を踏み入れた。
「御免遊ばせ〜」
「……いきなり出てくるなと、何回言ったら分かるのかしら?」
「うーん、1万回くらいかしら?」
「もうとっくに超えてるわよ」
「なんだかんだ、貴女との付き合いも長いものねぇ––––幽香?」
紫が足を踏み入れた先は、小さな民家だ。
綺麗に整理された家具たちが並び、部屋の中央には大きなテーブルと、それとセットで椅子が4つほど置かれている。
テーブルの上には、黄色い花が生けてあった。
そこに座り紅茶を飲んでいるのは、白のブラウスに紅いチェックの上着を纏った緑髪の女––––風見幽香である。
「で? 何の用かしら?」
「あら。気づいていないの?」
「何のこと?特に変わったことなんてないわ––––あっちの方に漂う、馬鹿でかい妖気以外はね」
幽香は音を立てずに、紅茶を一口喉に流し込む。
「やはり、気づいているのね」
「あんなの、気づいてくれと言ってるようなものじゃない」
「ふふっ、そうねぇ。それで、貴女に頼み事があるのだけ––––「嫌」
幽香は紫の言葉を遮って言った。
「ちょっと! まだ何も言ってないじゃない」
「大体分かるわ。とにかく嫌だから」
「どうしてかしら?」
「私は花の妖怪。争い事を好まない、温和な妖怪よ」
幽香はニコッと紫に笑いかける。
"まるで"天真爛漫な少女のように。
「……この前妖精を虐めてほくそ笑んでたのは、何処の誰かしら?」
「人聞きの悪いことを言わないで。あれは遊んでただけよ」
紫は幽香を見ながら大きく溜息を吐いた。
「はぁ……貴女もなのね」
「何が?」
幽香は手にしていたティーカップをそっと置いて、紫に視線を移す。
「幻想郷の妖怪は腑抜けてるのよ。人を襲うことがなくなり、ただ同じ日々を繰り返すだけの……それこそ機械と同じような存在になってしまったわ」
「……」
「貴女も昔は"最強の妖怪"なんて言われたこともあったのにねぇ?」
「挑発してるつもり?私がその気になれば、あんたなんて一瞬で––––ッ!?」
椅子に立てかけてあった畳まれた日傘を手に取り、それを紫に向けながら幽香は言う。
いや、言おうとした。幽香は途中で言葉を切らざるを得なかった。
「一瞬で……何かしら?」
その言葉を発する紫の声色に、幽香は底知れない寒気を感じていた。
紫は鋭い眼光で幽香を見つめ、そして微かに妖気を放っていた。
–––だが、紫にとっては"微か"であるそれは、その辺りにいる一般的な妖怪の持つそれとは比べ物にならないレベルである。
幽香でさえ、寒気を感じるほど。
「……確かに私は、昔ほど強くない。それは自覚していたし、自分でも良くはないと思うこともあるわ」
幽香は紫に向けた傘を下ろし、視線も落としてそう言った。
「貴女は弱くなったわけじゃないわ」
「……?」
「強くあろうとしていないだけよ」
「ッ……」
幽香は一瞬だけ目を見開き、そして深呼吸のような溜息を吐いた後に言う。
「……そうかもしれないわね」
「そうなのよ。そしてそれは、貴女だけじゃない」
「この幻想郷に住む妖怪全員に言えることだ、と言いたいのね?」
「ええ、そうよ」
紫は、大きな妖気を感じる方角へと目を向けた。
「予想はできていたけど、多くの幻想郷にいる妖怪達が彼女の傘下に入ったわ。力のないものは、力のあるものに媚びることしかできないもの」
「彼女……?」
「あの妖気の持ち主よ」
「既に会っているのかしら?」
「いいえ、会ってはいないわ。覗いてみただけよ」
「本当に、悪趣味ね」
「でも……気付かれちゃった」
「……スキマの存在に?」
「ええ。完全に私と目を合わせて、微笑みかけてきたわ」
「へぇ……なかなか、厄介な相手になりそうね」
ニヤッと笑う幽香の顔は、紫に"最強の妖怪"を思い出させるのに十分なものだった。
「興味を持ってくれたかしら?」
「そうね……確かに最近は、何の目的もない詰まらない日々だったわ。ここらで"遊ぶ"のも、悪くはないかしらね」
「なら、あまり時間をかけたくないわ。いくら力のない妖怪とはいえ、束になって傘下に入ってしまえば、少しは苦労する壁になるかもしれない」
「待ちなさい」
「何かしら?」
「私と貴女の、2人で行くのかしら?貴女の式や、博麗の巫女、それに親友などと謳っている亡霊や鬼は?」
「藍には博麗の巫女と共に人里に向かってもらったわ。幽々子は……ほら、加減が効かないもの」
「へぇ、殺すつもりはないのね」
「もちろんよ。この幻想郷は、全てを受け入れるのだから」
「……そう。何か理由がありそうだけど……聞かないことにしておくわ、興味もないし」
「そして萃香は……」
紫はスキマを開く。そしてそこに手を突っ込んだ。
「いでぇ! 何すんだよ!」
「ごめんなさいね。急ぎの用なのよ」
「角を引っ張るなと、何度言ったらわかるんだい!?」
「そうねぇ、1万回くらいかしら?」
「とっくに超えてらぁ!」
右手に瓢箪を持ちながら声を荒げる、長い角を生やした少女––––伊吹萃香は顔を赤くしていた。
それが酒によるものなのか、怒りによるものなのか、幽香には分からなかった。
萃香は、初めこそ怒りを露わにしていたものの、これから大きな妖力を持つ妖怪と戦いに行くことを話せば、嬉々とした顔になり、紫と幽香に同行した。
◆◇◆
「ふぁぁ……にしても、眠いなぁ……」
欠伸をしながら呟く赤毛の少女––––紅美鈴は、館のロビーにいた。
普段は門番をしている彼女だが、今日は
––––こうして、身を隠しながら。
美鈴はロビーにある大きな階段の裏に隠れていた。レミリアがそこで入口を見張れと命令したのだ。
何故今日に限って此処で待機をするのか。門の前には配下に入れた妖怪共を配置しておくと言っていたが……あれらは使い物にはならないだろう。弱すぎる。
美鈴には理解できなかったが、彼女がそうしているのは主の命令が絶対であるからというだけではない。
彼女は、主の言葉を信頼していた。きっとこれが正解なのだ、と。
「……だけど、本当に良いのかなぁ」
「何がかしら?」
「いやだって、此処で侵入者を発見するということは、すでに館への侵入を許しているということになりますよ?それって門番としては微妙な気がするんですよね」
「確かに、そうねぇ」
「まあ、こうして隠れて、不意を突くことが出来るならいいですが」
「それは無理じゃないかしら?」
「何でそんなことを––––あれ?」
––––此処には、美鈴が1人で待機しているはずだった。
「だって貴女、バレバレだもの」
「だ、誰だッ!?」
美鈴が振り返ると、そこには1人の女がいた。
美鈴は急いで距離を取りつつ、女に問う。
女は、扇子を口に運び、少し笑った後に言った。
「私は八雲紫。この幻想郷の責任者……とでも、言っておこうかしら?」
「そんな方が、どんなご用件で?」
「この館の主と、お話ししたいのですが」
「生憎、お嬢様はお忙しい方なので……そういう方には帰ってもらうようにと、言いつけられているんですよ」
「それは、力尽くでも……ということなのね?」
構えを取る美鈴に、紫は言う。
美鈴は戦闘準備を整えつつも、圧倒的な力の差を感じていた。
しかし、主の為に戦う決意は既に固まっていた。
美鈴の顔には、引きつった笑みが浮かんでいる。
「ええ、そういうことです」
「これはこれは……楽しませてくれるのかしら?」
◆◇◆
「本当に便利なものね、このスキマとやらは」
風見幽香は足を踏み入れた先で、そう呟いた。
離れた空間を繋げる事の出来る不思議な空間の亀裂に感嘆していた。
そんな彼女は、大きな図書館に居た。
幽香は、そこにある大量の本に目を奪われていた。
「いらっしゃい。今なら1人3冊まで貸し出し可能よ」
そう言ったのは、フワフワと空を漂っているパチュリー・ノーレッジである。
「1週間たったら、返しに来なさい」
「まだ借りるなんて言ってないわ」
「借りたそうにしていたでしょう?」
「別に、そういう意味で見ていたわけじゃないわよ。ただ、こんなに読み切れるのか、気になっただけよ」
「とっくに読み切ってるし、内容も全て把握しているわ」
「そう。素晴らしいことね」
「本を借りに来たわけではないのだとすると––––」
パチュリーは幽香から少し離れた位置に着地した。
その手には魔導書らしきものが握られている。
「––––泥棒、かしら?」
「違うわ。私が欲しいものなんて、此処にはないもの」
「なら、何の用で此処に?」
「この館の主に会いに来たわ」
「レミィに? ああ、ダメよ、ダメ。今は忙しいから」
「ならば、貴女を倒して行くまでよ」
「私を倒す? やめといた方がいいわよ。今の私は調子がいいから」
パチュリーがコホンッと軽い咳払いをすると、手に持っていた魔導書が宙に浮かび上がり、独りでに開いた。
「なら、私を楽しませてくれるのかしら?」
幽香は手に持っていた日傘をパチュリーへと向ける。
その口角は少しだけ上がっていた。
◆◇◆
「何だい此処は。暗くて何も見えないじゃないか」
萃香は悪態をついていた。
それは部屋に灯りがなく、真っ暗な場所だったからだ。
「……誰?」
「おっと、誰かいたのかい?」
「私の部屋だもの。当然でしょ?」
「はっはっはっ、そいつぁすまないね」
「……貴女は、妖怪?」
「そうだよ。鬼の伊吹萃香。ところで、此処の主が何処にいるかわかるかい?」
「お姉様に会いたいの? 無理だよ」
「無理?」
「私は此処から出られないもの。もちろん、貴女もね」
「はぁ? 何だそれ」
「きっとお姉様の友達とかいう魔法使いが結界を掛けているのよ。私には破れない」
「だったら私が此処に来た意味は?」
「知らないよ……私が知るわけない。外のことなんて、なぁんにも!」
その時、部屋に灯りがついた。
部屋の四方、そして中央には天井でぶら下げられている蝋燭に火のような何かが灯っていた。
萃香はそれに、妖力というよりも魔力に近いものを感じていた。
萃香の前に現れたのは1人の少女だった。
特徴的な羽が生えた金髪の少女––––フランドール・スカーレットがクマのぬいぐるみを抱きながら立っていた。
「随分と可愛らしい
「貴女も変わらないじゃない。それに、私はもうちょっとで500歳よ!」
「何だ、まだ私の半分も生きてないじゃないか」
「え……お婆ちゃん?」
「そ、それは違うんじゃないかい?」
「……何でもいいけど、どうせ此処から出られないのなら、此処で私と遊ばない?」
「まあ、退屈しのぎにはなるかねぇ」
「ふふっ……鬼なら、簡単には壊れないよね?」
「壊れない……? まあ、頑丈だとは思うけど」
「なら、本気で行くよッ!!」
フランは狂気の笑顔を浮かべて萃香に飛びかかる。
萃香はそれに少しの恐怖感と、それを遥かに凌駕する期待感を抱いていた。
そんな萃香の顔にも、笑みが溢れていた。