紅魔女中伝   作:ODA兵士長

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最近投稿ペース遅いのは全部MMDってやつのせいなんや………
おのれMMD! ゆ゛る゛さ゛ん゛っっっ!!(リスペクト)

おふざけ失礼しました。
これからも亀更新にはなりますが、失踪はしないので勘弁してください。。。
それでは本編をどうぞ!(今回から永夜抄編です!)

*追記
永夜抄編の扉絵を平熱クラブ様に描いて頂きました!
素敵なイラストをありがとうございます!!!

【挿絵表示】






永夜抄編
第41話 知識と歴史の半獣 (挿絵あり)


 

 

 月はいつか欠けるモノ。

 欠けるからこそ美しい。

 

 命はいつか尽きるモノ。

 尽きるからこそ美しい。

 

 空を見上げて少女は思う。

 

 ならば私は?

 尽きぬ私は、美しくないのか?

 

 月の光に照らされて。

 少女は今日も涙する。

 

 

 

 ––––私は本当に生きているのか?

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「……おい、見ろよ、あれ」

「なんて格好だ? 見たことないぞ」

「美人だな……声でもかけてみるか?」

「よせよお前ら、声でけぇし。聞こえるぞ」

 

 …………聞こえてるわよ。

 私は心の中でそう呟き、溜息をついた。

 

 私は今、人里にいた。

 ここに来るのは、私が幻想郷に来てから初めてのことである。

 いつも通り仕事着で歩いていたら、コソコソと人里の人間が私のことを指差して話している。

 確かに格好は目立つだろうが……どう考えても隣にいるコイツの方が目立つはずなのだけど。

 

「ねぇ、咲夜。お団子食べて帰ろうよ」

 

 私の隣に歩く妖夢が、少し先にある甘味処を指差しながらそう言った。

 彼女もいつも通り、そばに半霊を携え、背中には二本の刀を背負っている。

 それでも人里の連中は、私のことばかり指差していた。

 ––––やっぱり、人間は嫌いだ。

 

「団子……って、餅みたいなものだっけ? 食べたことないわ」

「え!? 本当に!?」

「ええ」

「うそ……まあ、確かに紅魔館では出なそうだけど……本当に言ってる?」

「見たことくらいはあるけど」

「美味しいから! ほら、食べに行こう!!」

 

 妖夢は私の手を引くと、少し駆け足になった。

 私は少しよろめき倒れそうになったが、それもなんだか悪い気分ではなかった。

 

「いらっしゃいませ〜〜! あら、妖夢ちゃんじゃない」

「おばさん、こんにちは!」

「はい、こんにちは。今日は……お友達と一緒なの?」

 

 妖夢は一瞬だけ私を見た。

 そして笑顔で答える。

 

「そうです。2人、入れますか?」

「今片付けるわ。少し待ってて?」

「分かりました」

 

 その甘味処は、ちょうど昼過ぎということもあって、大勢の客で賑わっていた。

 

「何ニヤニヤしてるのよ?」

「べ、別にニヤニヤなんか……」

 

 なんだか口元が緩んでる妖夢は、その口元を隠して視線を逸らしながら言った。

 ––––友達……ねぇ?

 別に、否定する気もなかった。

 

「貴女、ここにはよく来るの?」

「まあね。幽々子様のお使いついでに食べて帰ることが多くて」

「へぇ……」

「2名様、こちらへどうぞ〜」

 

 たわいもない会話をしているうちに片付け終わった席に通された。

 席に着くとすぐに店員が茶を持ってきて、妖夢は慣れたように注文した。

 

「ところで––––咲夜はどうして人里に?」

「……ただのお使いみたいなものよ」

「??」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「それは一体……どういう意味ですか、お嬢様?」

「言った通りの意味よ? 休暇をあげるわ」

「休暇と言われましても……」

「あ、館の外には出なさいね。貴女はもっと幻想郷を知るべきよ」

「はぁ……」

 

 お嬢様は突然、何の前触れもなく私に暇を渡した。

 私は困惑で頭がいっぱいだった。

 

「気にすることないわよ、咲夜」

 

 お嬢様とティータイムを共にしていたパチュリー様が口を挟む。

 

「レミィの突然の思いつきに振り回されるなんて、今に始まったことじゃないでしょう?」

「……そうかもしれませんが」

「まあまあ、貴女には休暇なんて殆ど無かったんだから。少し羽根を伸ばしてきなさい」

「…………パチュリー様まで、そう仰られるなら」

 

 私は少し頭を下げ、失礼しますとだけ言い残してその場から離れた。

 そしてドアを開ける直前、お嬢様は言う。

 

「日が暮れる前には帰ってきなさいね」

「……かしこまりました」

 

 それだけ告げて、私は部屋を後にした。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「おや……お出かけですか?」

 

 門を開けると、そこには門番がいた。

 今日は珍しく起きていたようだ。

 

「ええ……ちょっとね」

「何処へ行かれるのです?」

「……当てはないけど」

「あー……もしかして、お嬢様に?」

「察しがいいのね」

「ははは……誰でも、お嬢様の相手は苦労しますから」

 

 お嬢様の戯れは、館の全員が経験することなのだろう。

 私とて、こういった経験が初めてな訳ではない。

 

「もし行くところに迷っているなら、人里に行ってみてはいかがですか?」

「人里……? どうして人間のいるところなんか」

「はは……それを人間の貴女がいいますか」

「人間は汚いから」

「……霊夢さんや魔理沙さんも?」

「…………」

「もしかしたらそんな出会いがあるかもしれませんし、幻想郷(ここ)での人間の在り方というのも見ておいて損は無いと思いますよ」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ……などと言われるがまま、人里に向かっていた。

 行く当てもなかったし、興味もないわけではなかったから。

 何となくの方向を美鈴に聞いてその通りに歩いていると、少しして何やら集落のようなものが見えて来た。

 

「見ない顔だな……何者だ?」

 

 人里の入り口には、大きな門があった。

 そして門番が2人。

 2人とも大柄な武装した男で、表情はよく見えないが私に好意的な目を向けていないのは明らかだった。

 

「……霧の湖の畔にある、紅魔館をご存知かしら?」

「紅魔館……? まさか、あの紅い霧を出した館か!?」

 

 彼らの瞳は、明らかに敵意を含んでいた。

 そういえば、あのときの紅霧は人里にまで流れていたことを思い出す。

 力のない人間ならば気分が悪くなる程度の霧だった筈だが……まあ、得体の知れないものを恐れて排除するのは人間の性とも言えるのだろう。

 それを私は、よく知っている。

 

「そこでメイドをしている、十六夜咲夜ですわ」

「立ち去れ……お前のようなものを通すわけにはいかないんでな」

 

 そう言う男は手に持っていた槍のようなものを私に向けて構えた。

 もう1人は腰に携えた太い剣に手を掛ける。

 私はそれを見ながら、小さく溜息を吐く。

 彼らに話し合いの余地はないだろう。

 かといって、ここで彼らを殺すのもマズイだろう。

 さて、どうしたものか––––

 

 

「––––こんなところで、なにしてるの? 咲夜」

 

 後ろから不意に声をかけられた。

 振り返ると、そこに居たのはアリスだった。

 私が返答するよりも先に、門番の男が声を上げる。

 

「アリスさん! そいつは危険ですよ!」

「あらあら……なんだか大変なことになってる?」

 

 任せて、と私に聞こえる程度の小さな声で呟きながら、アリスは私の前に出て門番の男へと歩み寄る。

 

「何かを勘違いしているようだけど……人間よ? この子」

「……人間?」

「そう、貴方達と同じね」

「いや、でも異変に加担したって…………」

 

 そこまで言うと、男は何かを感じ取ったように溜息を吐く。

 

「分かりました。アリスさんの知人なら、悪い人ではないのでしょう」

「なら、通してくれる? あの子は私の劇の大事なお客さんだから」

「はい! 今すぐ、門を開けますよ」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 1人は人形のように透き通った肌と大きな瞳、風になびく髪は金色に輝いている。

 もう1人は対照的な銀髪と碧い瞳、そしてその服装は見慣れぬものでスラリと伸びた長い脚が里の男を釘付けにしていた。

 そんな2人の少女、アリス・マーガトロイドと十六夜咲夜は、人目を惹きながら人里を歩いていた。

 

「貴女……よく人里来るの?」

「ええ」

「その……チラッと言ってた"劇"ってやつかしら?」

「そうそう。人形劇をやってるのよ」

「へぇ……」

「どう? 良かったら見て行かない?」

 

 特にその後の予定が決まっていたわけでもない咲夜は、言われるがままに人形劇を見に行くことにした。

 劇の場所は、人がよく通る大きな道が川に突き当たる交差点だった。

 アリスが人形劇の準備を始めると、既に周りには人が集まっていた。

 人形劇と言うのだから小さな子供向けかと思っていた咲夜だが、客の中には大人も多くいることに驚いた。

 特に男が多いように見えるが……。

 

 やがてアリスは、川を背にして人形劇を始めた。

 手から伸びる見えない魔法の糸で操られた人形達は、まるで自我を持っているかのように動く。

 咲夜の周りの人間達は、1人でに動く驚きながらもそれをとても楽しんでいた。

 己の理解できないことを排除する傾向にある人間がそんな反応をすることに始めは疑問を抱く咲夜だったが、アリスを見て納得した。

 人形を動かしているアリス自身も、人形の動きに合わせて指をせっせと動かしている。

 本来、アリスが人形を動かすのにその動作は必要ない。

 しかしその動作があることによって、目の前で起きている不思議な光景が人里の人間にも受け入れられているのだろう。

 そして何より、人形を動かすアリスの顔は綺麗な笑顔で溢れていた。

 

「みんな見てくれてありがとう。また来週も来るわ」

「シャンハ-イ!」

 

 アリスが人形劇を終えても、アリスの周りには人が消えなかった。

 その人集りを少し離れたところから眺めていた咲夜は、何とも言えない気分になっていた。

 あまり感じたことのない感覚。

 喜びとも嬉しさとも違う感覚。

 それは咲夜が初めて味わった、純粋な感動だった。

 

「––––あれ、咲夜?」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 そして妖夢に声をかけられた私は、流れに身をまかせるまま甘味処へと来ていた。

 アリスに劇の感想を言えなかったことを残念に思ったが、アリスの周りに集まった観客は中々その場を離れないそうなので別の機会に伝えることにした。

 

「ほら咲夜、食べてみて?」

 

 運ばれて来た団子は赤、白、緑の三色団子。

 桜の赤、雪の白、新緑の緑。

 それぞれが春、冬、夏を表している。

 "秋がない"ことから、飽きないと商いを掛けたユーモアになっているそうだ。

 

「ん……おいしい」

「でしょ? ここのお団子は、幽々子様もお気に入りなの」

 

 妖夢はそう言いながら一口食べると、頰をおさえて満面の笑みを浮かべた。

 

「んで、お使いって言う割には、急いでる風でもないよね」

「まあ……急いでないから」

「ふーん。まあいいけどさ」

 

 そう言って妖夢はもう一口食べる。

 私は緑茶で口の中の甘さを流した。

 

「やっぱり美味しいな、ここのお団子」

「……そうね」

 

 私は少しだけ、感慨深い気分になっていた。

 こうして、気兼ねなく話せる相手と食事を共にするなど今まで一度もなかったのだ。

 なんだか不思議な感覚を味わって、私はほんの少しだけ口元が緩むのを感じた。

 

 

 

「––––あ、ちょっと待ちなさいッ!!!」

 

 突然だった。

 大声を上げたのは、さっき私たちに団子を持って来てくれた店員だった。

 その声に驚きつつ振り返れば、その店員は外に向かって叫んでいるのがわかった。

 玄関口の暖簾が揺れている。

 

 ––––パチンッ

 

「食い逃げですか?」

「はい! でももう……」

「あ、大丈夫ですよ。多分そろそろ……」

 

 妖夢がそう言ったのと同時に、暖簾がめくれて1人の少女が姿を現わす。

 

「え、貴女はさっきまで……えっ!?」

 

 店員は驚きを隠せなかった。

 当然だろう、そこから姿を現したのは先ほどまで席で団子を楽しんでいた私なのだ。

 店員は何度も私と私達の席とを見ては、声にならない音を出していた。

 

「とりあえず、さっき逃げたっぽい男はそこで寝てるわよ」

「え……咲夜、まさか––––」

「馬鹿ね、殺しはしないわよ。少し()()()貰っただけ」

 

 とはいえ、手荒い真似をしてしまったのは否定できなかった。

 走って逃げる男の前に立ち、時を動かすと同時に顎に拳を叩き込んで脳を揺らした。

 走る男の勢いもあって、カウンターのような形で決まったそれは相当なダメージであっただろう。

 

「後の処理は貴女たちに––––「何者だ、お前は」

 

 背後から聞こえたその声は、怒気を帯びていた。

 威圧感に等しい圧倒感が、私の背筋に悪寒を走らせる。

 

「人間のような(なり)をしている、お前は何者だ?」

「…………失礼ね、私は人間よ」

 

 振り返ると、そこには1人の女が立っていた。

 腰まで届くほどの長さを持つ、青みを帯びた銀髪。

 そしてその頭の上には特徴的な帽子が乗っている。

 身長は高めで、青いワンピースのような服は胸元が大きく開いていた。

 

「先生! 彼女は悪い人じゃないですよ!」

「……どういうことですか?」

「彼女は、食い逃げをした男を追ってくれただけです!」

「ほう……なるほど」

 

 店員に先生と呼ばれたその女は、私に歩み寄ると少し頭を下げた。

 

「……すまなかった。殴り倒す場面しか見ていなかったものでな……非礼を詫びよう」

「別に構わないわよ。そういう扱い、慣れてるから」

 

 嫌味でもなんでもなかった。

 事実、外の世界では疎まれていたのだから。

 

「そうか……いや、しかし気になる。貴女は、何者なんだ?」

「だから、人間だって……」

「普通、人間は突然現れて人を殴り倒すなんて出来ないんだが?」

「…………はぁ」

 

 少しため息を吐いてから、私は言葉を返した。

 

「私は十六夜咲夜。吸血鬼の館でメイドをしている人間よ」

「……十六夜、咲夜か。申し遅れた、私は上白沢慧音。すぐ近くにある寺子屋で教師をしているよ」

 

 なるほど……だから先生なのか。

 そんなことを考えていると、慧音が私の顔を覗き込むように見つめる。

 

「本当に……人間なのか?」

「そうだけど……何か?」

「なんだか知り合いに似ているような気がしてね」

「気のせいよ」

「ああ、そうだろうな」

 

 慧音は私から店員へと視線を移すと、再び頭を軽く下げてながら言う。

 

「騒ぎ立てて、すみませんでした」

「いえいえ、先生にはお世話になってますから」

「そう言ってくれると嬉しいです。とりあえず代金は、後日あの男に払わせます。では」

 

 そう言って立ち去っていく慧音。

 その後ろ髪は、女の私でさえ見惚れる美しさがあった。

 

「慧音先生は自警団を束ねる立場の人でもあってね」

 

 そんな私に、妖夢がそっと言う。

 

「凄い人でしょう?」

「……ええ、そうね」

「まあ、人じゃないらしいけど」

「へぇ」

「あれ、驚かない?」

「そりゃ、人外は見慣れてるもの」

 

 だけど––––と、私は言葉を続ける。

 

「気になる存在であるのは確かね」

 

 揺れる暖簾の隙間から、赤い夕日が差していた。

 そろそろ帰らなくては、お嬢様に叱られてしまうだろう––––

 

 


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