紅魔女中伝   作:ODA兵士長

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明けましておめでとうございます!(遅い)
前回の投稿から少し時間が空いてしまって申し訳ありません……
これからまた、1週間に1回は投稿出来るようなペースで頑張って行きたいと思います!
今年もODA兵士長を宜しくお願い致します。
感想等、お気軽にどうぞ!!!(露骨なコメ稼ぎ)

あ、そういえば前回だけはオリキャラ注意とか言ってましたが、以前にもオリキャラ出してましたね笑
まあとにかく、本編始まります!!!





番外編 The episode of Patchouli

 

 

 

 

 

––––時は少し遡る。

それはレミリアが、終わらない冬に終止符を打つ為、咲夜を博麗神社へと向かわせた時のことだった。

 

「……それでは、行って参ります」

「ええ、頼んだわよ」

 

咲夜は納得のいかないような、不思議そうな顔をしたまま、それでもレミリアの言葉に従って館を後にした。

 

「本当に、あんなもの(・・・・・)使うの?」

「……使うでしょうね。あの子がこの異変に関わるのなら」

「避けられない運命……とでも?」

「ふふっ、パチェも分かってきたじゃない」

 

––––コンコンコンッ

 

咲夜が出て行ってすぐに、ノックの音が鳴り響いた。

なんだか聞きなれないそのノック音に、パチュリーは少し首を傾げた。

 

「入っていいわよ」

 

しかしレミリアは、別段不思議に思っている様子もなく、部屋に入るように促した。

 

––––ガチャッ

 

「お姉様……あれ、咲夜は? ここにいると思ったのに」

 

部屋に入って来たのはフランだった。

つい先日まで地下に幽閉されていた彼女だが、今では

館内に限り自由を許されている。

そんな彼女がドアを叩く音を、パチュリーは今回初めて聞いた。

 

「ちょうど今、出かけたところよ。何か用でもあったの?」

「ううん、特には。暇だったから」

 

フランはスタスタっと歩くと、レミリアのベッドに腰掛けた。

 

「つまんない」

「それは問題ねぇ。でも、暇つぶしになるようなものは、ここにはないよ」

「知ってる。なんで咲夜いないの?」

「あらあら、妹様は咲夜が大好きなのですね。レミィ、姉としては複雑なんじゃなくて?」

「別にそんなことはないわよ。私の咲夜を私の妹が大切に想う。いいことじゃあないか」

「ねえ、質問に答えてよ」

 

フランは2人を少し睨みつけるようにして言った。

自分が軽く流されたことに不満を感じたのだろう。

 

「咲夜はこの冬を終わらせに行ったわ」

「あら、やっぱり咲夜は異変解決に関わるのね」

「私がその運命を手繰り寄せたからね」

「あーあ。また大物ぶっちゃって」

「何か言ったかしら、フラン?」

「なんでもなーい。パチュリー、お姉様って昔からこうだったの?」

「そうですねぇ。レミィは今も昔も変わらないですよ」

「ふーん」

「でも、パチェはかなり変わったわよね」

 

レミリアがクスクスと笑いながら言った。

パチュリーは少し恥ずかしそうにしている。

そんな2人に、フランは興味津々だった。

 

「なにそれ!? どういうこと、お姉様!!」

「そうか、フランはあまり知らないものね」

「教えてよ。パチュリーのこと、ちゃんと知りたいわ」

「……ですって。話してもいいかしら、パチェ?」

「私は図書館に戻るわ」

「つれないわねぇ」

「少し用事を思い出しただけ」

 

パチュリーは席を立つと、そそくさと部屋を出て行った。

フランはそれを見て、パチュリーが座っていた椅子に座りなおす。

そしてレミリアを真っ直ぐ見つめて言った。

 

「教えて、教えて!」

「わかったわよ。あれは大体100年くらい前のことね––––」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

夕暮れの空。

地平線に沈む夕日が空を紅く染めている。

しかしその紅さよりも更に紅く、そして非常に大きな館があった。

それは紅魔館––––吸血鬼の棲む館である。

 

 

––––あれが紅魔館か。

 

そんな紅魔館の前に1人の少女がいた。

彼女の名前はパチュリー・ノーレッジ。

パチュリーは紅魔館に向かって歩みを進めていた。

遠くから見てもその大きさが際立っていたが、近くで見るとさらに大きくなったような錯覚に陥った。

そしてその館には大きな門が存在した。

さらにその傍には––––

 

「……貴女は、客人ですか?」

「ええ、そうよ。通してくれる?」

「これはこれは失礼しました。ですが……本日、その予定は無いはずですが」

 

––––1人の門番がいた。

緑色のチャイナドレス風の衣装を身に纏ったその門番は、壁に背を預け、腕を組みながら立っていた。

 

「当然よ。アポなんて取って無いもの」

 

パチュリーは堂々とそう言った。

少し呆気にとられながらも、門番は冷たく言った。

 

「ならばお引き取り下さい」

「引かないと言ったら?」

「私はこの紅魔館の門番、紅美鈴。それ相応の対処をするまでですよ」

「ふーん……」

「しかし、私は戦いたくない。是非回れ右をして頂けると助かるのですが……」

「いや、そんなことはしないわ」

 

パチュリーは何処からか魔道書を取り出した。

いや、取り出したと言うよりも召喚したと言った方が正しいだろうか?

とにかく取り出してそれを開くと、彼女はフワリと浮かび上がりながら言った。

 

「さて、その対処とやらを見せてもらおうかしら!」

「はぁ……面倒なことになりましたねぇ」

 

美鈴がため息混じりにそんなことを呟いている間に、パチュリーは攻撃を開始した。

いくつもの小さな魔力弾を生成し、美鈴に向かって飛ばす。

一つ一つが高火力なそれらが、高密度で高精度な弾道を描きながら美鈴を襲った。

 

「魔法使い……ですか。苦手な相手だ」

 

美鈴は少し嫌そうな顔をしていた。

しかし、パチュリーの攻撃を難なく躱している。

彼女には言葉を発することが出来る程度の余裕があった。

 

「なかなかやるわね……じゃあ、そろそろ本気で行くわよ?」

「今のが本気でないなんて……心底恐ろしいですよ」

 

美鈴は心からそう思っていた。

普段、近接格闘を主として戦っている彼女にとって、魔法使いのような遠距離を軸とした戦い方をする相手を苦手としていた。

もちろん彼女に遠距離攻撃の技がない訳ではなない。

しかし、魔法使い相手にそれをやるのは悪手である。

そもそも遠距離での火力や技術で勝てない上に、たとえ勝負になったとしても消耗戦になったら負けである。

それほど、魔法使いには大きな底知れない魔力が宿っているのだ。

美鈴の"気力"だけで何とかなる問題ではない。

 

「さあ、飛ばしていくわよ」

 

 

––––水符「プリンセスウンディネ」

 

 

パチュリーが詠唱を始めると、"何か"が召喚された。

その"何か"とは、水を司る精霊『ウンディーネ』である。

しかし美鈴には、それが何か分からない。

だからこそ、"何か"としか言いようがなかった。

さらにその攻撃が精霊によるものなのか、精霊の力を借りたパチュリーのものなのか……美鈴には分からない。

だがしかし、確実に美鈴のもとに強烈な攻撃が繰り広げられていた。

 

「通してくれるなら、攻撃をやめてあげてもいいわよ?」

「通すわけには……ッ!」

「貴女……どこまで持つかしらね?」

「ぐぁっ!?」

 

美鈴は被弾した。

それは重く強い一撃であり、美鈴を吹き飛ばした。

自身が守るべきはずの門に体をぶつけて、美鈴は地面に倒れた。

しかしすぐに立ち上がる。

 

「これを食らって立てるやつなんて初めてよ。貴女、強いのね」

「くッ……痛たた……」

「でも、こればっかりは相性ね。貴女じゃ、絶対に私には勝てない」

「そうですね。貴女とは相性が悪そうです……」

「分ったならさっさとそこを––––「ですが」

 

美鈴はパチュリーの言葉を遮った。

その目には闘志が、まだ宿っている。

 

「門を守ること。それが私の使命ですから」

「なら仕方ないわ。そんなことが言えないように……ッ!?」

 

 

––––極光「華厳明星」

 

 

パチュリーから見るそれは、自分に向かってくる虹であった。

それはとても大きく輝いており、避けることも忘れてしまうほど美しかった。

美鈴の気で作られたその光弾は、やがてパチュリーを飲み込んだ。

避けることも防ぐことも、パチュリーには叶わなかった。

 

「これはあまり使いたくなかった」

 

––––これを使うと、後がなくなるから。

 

これは、美鈴にとっての最大火力の遠距離攻撃であった。

魔法使い相手に長期戦は無意味であることは先にも述べた。

この技は何度も打てるものでもないし、連続して打つのも難しい。

だからこそ、この一発を外せば負けてしまうのだ。

 

……しかし、杞憂だったようだ。

それは確かに命中したのだ。

魔法使いは、自身の防御力は高くない。

身体強化の魔法をかけたり、魔法陣でシールドを作ることはできても、素の防御力は人間に毛が生えた程度だ。

並みの妖怪は勿論、吸血鬼でさえ当たればかなりの傷を負うこの技を食らって立てるわけが––––

 

 

 

「ッ––––不死身、なんですか? 貴女は」

「そうかもしれないわね」

 

パチュリーは"欠けた石"を投げ捨てながら言った。

 

「でも安心して、期間限定……というか、回数限定の不死身だから」

「よくわかりませんが––––降参ですよ」

 

美鈴は両手を挙げ、降伏を宣言した。

 

「……意外ね。さっきまで門を守ることに固執していたように思えたのだけど?」

「これ以上は無意味ですから」

「へぇ……戦闘狂って訳でもないのね」

「せ、戦闘狂って……それはどちらかと言えば貴女の方が……」

「何か言ったかしら?」

「なんでもないですよ……それで、用件は何ですか?」

「ここに大きな図書館があると聞いたわ。案内してくれる?」

「図書館……ですか。そうですね、あることにはありますが……」

「どうしたの?」

「来れば分かりますよ。どうぞ、こちらです」

 

美鈴は頑なに守っていた門をあっさりと開けて、パチュリーを中へ招いた。

少し疑問を抱きつつも、パチュリーは美鈴について行った。

 

そのまま館の中に入り、奥の方へと進んで行く。

見た目通りの大きな館だった。

やがて突き当たりに扉が見えてきた。

パチュリーがおそらくアレだろうなと思っているところで、美鈴が声をかけた。

 

「ところで……どうしてこの図書館を?」

「かなり大きいと聞いたから」

「それは一体どこで……?」

「貴女は、いつからこの館にいるの?」

「へ……?」

 

質問を質問で返されてしまった。

驚いた美鈴は少し間抜けな返事をしてしまった。

しかしパチュリーは特に気にした様子もなくスルーしている。

軽く咳払いをしたのちに、美鈴は答えた。

 

「もう100年は昔になるでしょうか? あまり、ちゃんと覚えてないのですが」

「なら、貴女は知らないのね」

「……?」

「とりあえず、ここなんでしょう?」

「ええ、そうです。今開けますね」

 

図書館の扉が開かれた。

中でパチュリーのことを待っていたのは大量の本と、大量の埃だった。

 

「うわ……」

 

パチュリーは驚きのあまり、言葉を失った。

それもそのはず、あれから(・・・・)400年は使われていないのだ。

 

「言った通りでしょう? 図書館、あることにはあるんですがね」

「これじゃあ使い物にならないわね」

「何か調べ物でも?」

「魔法使いってのは、一生をかけて調べ物をする種族なのよ」

「なるほど……?」

「私の目的は、この図書館を私のモノにすること。さぁ、今度は館の主のところまで案内してもらえないかしら?」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

––––コンコンコンコンッ

 

「お嬢様、客人です」

「入りなさい」

 

––––ガチャッ

 

「ようこそ。我が館、紅魔館へ」

「……貴女が、紅魔館の主?」

「いかにも。私はレミリア・スカーレット。貴女は……魔法使いかしら?」

「ええ、そうよ。パチュリー・ノーレッジ。よろしくね」

「ふふっ……それで、魔法使いさんが何用かしら?」

「あの図書館、譲ってくださらない?」

「ほぅ……随分と突然で、そしてとんでもないことを言うのね?」

「大丈夫、すぐに跪かせるから」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

紅美鈴は自らの主、レミリア・スカーレットに畏怖の念を抱いていた。

もちろん、普段から抱いているが今回は改めて感じざるを得なかった。

 

––––この後、来客がある。

 

パチュリーが来る少し前、突然門前へと現れたレミリアが言った。

"それなりに対応してから、相手の要望に応えてあげて"とだけ言い残し立ち去るレミリアの姿を、その時の美鈴は不思議に思う他なかった。

 

––––でも、きっと誰か来るのだろう。

 

心の何処かにそんな確信があった美鈴は、いつもなら少し眠くなるような時間に頬を叩き、自身へと喝を入れた。

 

「……流石です。お嬢様」

 

レミリアとパチュリーの戦いを見ながら、美鈴はそう言った。

 

 

 

◆◇◆

 

 

パチュリーは戦慄を覚えていた。

今まで生きてきた中で、こんな感覚に陥ったのは初めてだった。

 

––––私の全てが通用しない……ッ!

 

この時のパチュリーは、魔法使いとしては幼いとも言えるほど若い部類だった。

まだ大した経験も積んでいないし、こうして実戦を交える事さえ殆ど無かった。

しかし……いや、だからこそ。

順風満帆に生きてきた天才魔法使い––––パチュリー・ノーレッジは大きな挫折を味わっていた。

 

––––何故……どうしてッ!?

 

パチュリーは疑問も含めてレミリアを睨んだ。

既に息は切れ、服もボロボロになった彼女は片膝をついていた。

 

––––答えは簡単だった。

 

「私はお前より強いよ」

 

––––レミリアは、パチュリーよりも天才だった。

レミリアは、睨むパチュリーを見下すように笑いながら言った。

息も切らさず、服も真新しい彼女は、パチュリーにとって恐怖でしかなかった。

 

「そろそろ諦める?」

「ッ……」

「恐怖で汗が止まらない癖に……強がるのね」

 

そしてレミリアは嗤う。

パチュリーには怒りの感情が湧き始めた。

その怒りはレミリアに対してではない。

己自身の弱さに対してだった。

 

「……断言するわ。お前じゃ絶対に勝てない」

 

だが、とレミリアは言葉を続ける。

 

「だから––––合格だよ」

「は……?」

「図書館は貴女に譲るわ」

「貴女……何を言って––––」

 

レミリアが歩み寄る。

パチュリーは不思議と、それをただ眺めているだけだった。

警戒心も恐怖心も湧かない。

そこにあるのは、謎の安心感だった。

 

「……長い紫髪、輝かしい紫の瞳」

 

レミリアはパチュリーの頰に手を添えた。

 

「母親にそっくりね」

「…………母を知ってるの?」

「ドロシーってば、意地悪よねぇ?」

 

レミリアは笑った。

先ほどの見下した嗤いとは違う、優しい笑みだった。

 

「––––仲良くしましょう? パチェ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「それから最初の方は、パチェったら堅くてねぇ……距離を埋めるの大変だったのよ?」

「へぇ〜〜、パチェってあんまり戦うイメージないなぁ」

「あら、あの子は結構戦うの好きよ? 喘息を患ってからは、あんまり戦ってないけど」

「今度、パチェと戦ってみようかな!」

「––––やめて下さい、妹様」

「あらパチェ、戻ってきたのね?」

「レミィが変なこと吹き込んでないか、気になってね」

 

後ろからついてきた小悪魔が持ってきた椅子に腰をかける。

そのまま小悪魔は茶を淹れると言って、部屋を出て行った。

 

「––––母親を思い出した?」

「ッ……」

 

パチュリーが紅魔館に来たのには理由があった。

それは、ドロシーの死。

フランが生まれて間もなくして紅魔館を出て行った魔法使い––––ドロシー・エンチャントレスは、パチュリーの母親だった。

その母の遺言で、身寄りのないパチュリーはここを訪れたのだ。

正確には、生前の母が使っていた図書館へと。

 

「何度も言ってるじゃない。貴女は大丈夫だって」

 

ドロシーは喘息を患っていた。

妖怪が掛かるその喘息は、人間の喘息とは訳が違った。

人間の喘息ですら重度の症状になれば死をもたらす。

妖怪の喘息ならば、言わずもがな––––

 

「貴女の言葉だから信じられる……はずだけど、でも不安よ。病気による自然死は、蘇生石でさえ、どうしようもないから……」

「でも、貴女は死なないわ」

「どうして、そう言い切れるのよ?」

「幻想郷には治せる者がいるから」

「治せる者……? そりゃ、人里には医者が居るでしょうけど……人間の薬なんて効かないわよ?」

「人間の医者じゃないさ」

「じゃあ、一体どこに……?」

「ふふっ……もうすぐ分かるさ」

 

 


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