この度は本作「紅魔女中伝」のUA数が1万を突破したことを記念して、この特別編を書かせていただきました。
(本編とは無関係の作品です。早く続きが読みたい方は飛ばしても大丈夫です!)
以前どんなもの書いたらいいか分からず読者様に伺ったところ、ギャグの要望を頂きました。
ご意見を下さった方々、本当にありがとうございました!
しかしコテコテのギャグストーリーというものを書くことはできませんでした…………
というか、これはギャグではない(断言)
書こうとはしたんやで……(言い訳)
いつかはギャグ展開書けるようになりたいなぁ……泣
ご要望に応えられない結果となってしまったことを深くお詫び致します……本当に申し訳ありません!
ですが!本編とは少し違った雰囲気になっていると思います!
ちょっとだけシリアスさんに旅立ってもらった「紅魔女中伝」の世界を、是非味わってみてください!!!
【挿絵表示】
↑こちらの挿絵は、UA数1万越えを記念して、平熱クラブ様より頂いたものです。
平熱クラブ様にはこの場をお借りして、深くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました!
『UA数1万越え記念作品』(挿絵あり)
これは紅霧異変の後、春雪異変の前にあったかもしれない物語––––
◆◇◆
––––コンコンコンコンッ
「お嬢様。十六夜咲夜で御座います」
「入っていいわ」
––––ガチャッ
「紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう」
咲夜はレミリアの前に紅茶の注がれたティーカップを置いた。
レミリアはその紅茶を軽く一口喉に流し込む。
そんなレミリアに咲夜が声をかけた。
「お嬢様」
「何かしら?」
「実は––––」
咲夜の報告に、レミリアの顔は青ざめた。
「今すぐ館の者を集めなさい」
◆◇◆
「いきなり何よ、レミィ」
気怠そうに問うのは、居候の魔法使い、パチュリー・ノーレッジ。
側には小悪魔を連れている。
「まだだ。全員集まってから話をする」
「……この部屋に全員を集めるなんて––––異変のとき以来かしら?」
その部屋はかなり広かった。
多くの妖精メイドを含めた館の全員を入れてもかなりスペースがあるほどに。
パチュリーはこの部屋にあまりいい思い入れがない。
彼女自身が口にしているように、全員を集めたのは紅霧異変が始まるとき以来である。
あの時はここで、フランドールを除く館の者全員に紅霧異変を始めることを宣言していた。
しかし、パチュリーがこの部屋を悪く思う大きな理由の一つは––––十六夜咲夜がレミリアと対峙した部屋であることだ。
加えて紅霧異変の時も、レミリアはここで紅白と白黒を待ち構えていた。
レミリアが館の主として敵を迎え入れる場所––––それがこの部屋である。
「すみませんお嬢様、遅くなりました!」
少しして紅美鈴が勢いよく部屋に入ってきた。
その扉を開ける音と声は、広い部屋に響き渡った。
「さてレミィ、そろそろ話してくれる?」
「待てパチェ。まだ全員ではないだろう?」
「まさか、妹様も––––?」
パチュリーがそう言うと共に、扉が静かに開かれた。
しかし全員が振り返る。
扉の音は聞こえぬとも、姉に劣らぬ大きな威圧感と妖力、そして姉を超えた魔力は、部屋にいる全員を惹きつけた。
「うわぁ、いっぱいいる」
「お嬢様、妹様をお連れ致しました」
「ご苦労様。さあ、話をしようか」
レミリアがそう言うと、そこにいる全員が彼女を見た。
––––何かが起こった。もしくは、何かが始まろうとしている。
全員がそれを察して、固唾を飲む。
「単刀直入に言おう––––」
張り詰めた空気とレミリアの鋭い眼光。
背筋に悪寒を感じなかったのは、フランドールだけであろう。
全員がヒヤリと汗を流し、心拍数が上がる。
ドクンドクンと心臓の跳ねる音が部屋に響いた。
それが自分の音なのか他人の音なのか、誰にも分からない。
計り知れない緊張感に、妖精メイドの中には怯える者もいた。
そんな中で、レミリアは声を荒げる訳でもなく、冷たく言い放った。
「––––私のケーキを食べたのは誰だ?」
【 紅 魔 館 ケ ー キ 強 奪 事 件 】
◆◇◆
「……は?」
あからさまに悪態を吐いたのはパチュリーであった。
その後彼女、心底呆れた様子で深くため息を落とした。
「全員を集めた理由が……それ?」
「重大な事件だ。私は早急に犯人を突き止めたい」
「はぁ…………」
パチュリーは言葉を失った。
呆れて何も言えない。
「事件について詳細に説明してくれ、咲夜」
「かしこまりました、お嬢様」
スッと一歩前に出た咲夜は淡々と説明を始めた。
「今朝、私はお嬢様に"ケーキを作れ"との命を受けました。それに従って、昼前にはケーキの製作を終え、冷蔵庫で冷やしておりました」
「ケーキを作り終えたのは何時かしら?」
「12時になる少し前だったと思います。それから私は館の手入れをして、15時になる頃に厨房に戻った時には––––」
「ケーキは既に連れ去られた後だったと?」
「はい。それを確認したのち、お嬢様にご報告させて頂きました」
「なるほど……」
レミリアは顎を手で触れながら考える。
「犯行が行われたのは、12時から15時のおよそ3時間の間ね。さて、アリバイを聞きたいところだけど……」
◆◇◆
「何やってんの、あのバカ2人は」
「あはは……お嬢様の戯れは時々あることですが、咲夜さんもそれに乗るなんて珍しいですね」
「戯れなんて高尚なものじゃないわ。あんなのただの悪ふざけよ」
「あはは……」
パチュリーは相変わらず悪態を吐いていた。
その横で美鈴はぎこちない笑みを浮かべる他なかった。
「でも……どうして咲夜さんも乗ったんでしょう?」
そう言ったのは小悪魔だった。
「そんなの、レミィが
「本当にそうでしょうか?」
「何が言いたいの、こあ?」
「うーん……ただ、なんとなくですよ? なんだか咲夜さん、楽しそうだなあって」
「楽しそう……?」
「本当に、なんとなく感じているだけなんですが……」
小悪魔は自信がなさそうに、しかし咲夜を見つめて真剣に言った。
それに倣うようにパチュリーと美鈴も、咲夜へと視線を移した。
確かに彼女たちの瞳には、どこか生き生きとした咲夜が映った。
◆◇◆
「容疑者の皆さん、ごきげんよう」
場所はレミリアの自室に移されていた。
ここに集められたのはパチュリー、美鈴、小悪魔、そしてフランドールの4人だった。
もちろん容疑者ではないが、咲夜もレミリアの隣に仕えている。
「さて、貴女達からアリバイを聞きたいわ」
「馬鹿らしい……」
「機嫌も悪そうだし、貴女から聞こうかしら?」
「その前に一つ言わせてもらうけど」
「何かしら?」
「なんで妖精メイド達は容疑者から外れるのかしら?」
「妖精に隠し事なんてできないわ。犯人かどうかなんて、目を見れば分かるもの」
「……そう」
パチュリーは納得した。
確かに、妖精に嘘をつくのは難しい。
馬鹿、単細胞などと言ってしまえばそれまでだが、彼女達はどこまでも素直で純粋なのだ。
たとえ嘘を吐こうと思っても、その目やその表情に嘘をついていることが現れてしまう。
「さあ、貴女のアリバイを聞かせてもらうわ。咲夜、他のものを連れて外へ出ていなさい」
「かしこまりました」
咲夜は美鈴、小悪魔、フランドールの三人を連れて部屋の外へと出た。
部屋の扉が閉まる音が聞こえて間もなく、パチュリーが口を開いた。
「そこまでするの? レミィ、今日という"特別な日"に、貴女一体何を考えて––––ッ!?」
パチュリーは言葉に詰まった。
レミリアは笑っていたのだ。
とても嬉しそうに、とても楽しそうに。
それはそれは美しく、そして恐怖に値するものだった。
「さすがだよ、パチェ。だからお前が好きなんだ––––」
◆◇◆
「咲夜、お姉様が中に入れって」
「かしこまりました」
お嬢様の部屋から出てきたのは、今しがたお嬢様による取り調べを終えた妹様であった。
その妹様から、お嬢様の伝言を預かり、私は部屋に入った。
「失礼致します」
「……咲夜、ドアは閉めたか?」
「ええ。しっかりと」
「ならいい……」
そう言うお嬢様は俯いていた。
前髪が邪魔して、表情を確認することができなかった。
「犯人は見つかりましたか?」
「ああ。犯人なら分かった」
お嬢様がふと顔を上げて、私を見た。
ギラリと光る眼光が、鋭く私に降り注ぐ。
少しだけ、背筋に悪寒が走った。
「––––お前には失望したぞ、咲夜」
そう言うと、お嬢様はため息を吐いた。
「……は?」
「お前が犯人。そうだろ、咲夜?」
「な、何をおっしゃって––––ッ!?」
––––神槍「スピア・ザ・グングニル」
「ケーキを食べたのがお前でよかったよ、咲夜」
お嬢様はグングニルを私に向けて構えた。
口元からは牙が伸びており、妖しく輝いているように見えた。
指先からも爪が伸びているのが確認できる。
ここまで本格的に戦闘態勢に入っているお嬢様を見るのは、私が初めてこの館に来たあの日以来かもしれない。
「お前ごと腹の中のケーキを食べられるんだからな」
◆◇◆
––––勝負は一瞬だった。
不意を突かれた私は、時を止める間もなく敗北していた。
お嬢様は私の上に跨り、首元にグングニルを突きつけている。
私は、目にも留まらぬ速さで襲いかかってくるお嬢様のグングニルを受け止めることしか出来なかった。
「……何故?」
私は疑問を呈していた。
分からないことは多くある。
何故、私が犯人だと思ったのか?
何故、問答無用で私を襲ったのか?
––––何故、私のナイフでグングニルを受け止めることが出来たのか?
私の数多くの疑問に、お嬢様はたった一言で答えた。
「みんな、お前が大好きだからさ」
––––ガチャッ
「さくやー! お誕生日おめでとう!!!」
「咲夜さん、お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう、咲夜」
「ハッピーバースデー、咲夜さん!」
◆◇◆
『––––だからお前が好きなんだ』
突然のことに、パチュリーは驚くしかなかった。
『はははっ……貴女が今日という日を覚えていてくれたなんてね……』
『……忘れるわけないでしょう』
『ありがとう、パチェ』
『それで……? レミィ、貴女は何を企んでいるの?』
『実は、ケーキを盗んだのは私なの』
『……え?』
『別の場所に保管してある。今頃、妖精メイド達が持ち出している頃だろう』
『何するつもりなの……?』
『パチェにして欲しいことはただひとつ––––』
◆◇◆
「それで、貴女の言う通りにしたわけだけど……」
––––咲夜が部屋に入ってから、きっかり39.8秒後に扉を開けて、貴女を含めた全員で誕生日のお祝いを言って欲しいの。
「まさか羽交い締めにしてるなんて思わなかったわよ」
「いいでしょう? やっぱり、サプライズはとびっきりでなくっちゃ」
「サプライズの衝撃が大きすぎて、咲夜は殆ど思考停止してるみたいだけど?」
何も理解できない咲夜は、フランドールに手を引かれるがままに廊下を歩いていた。
そのすぐ後ろを、とても楽しそうに美鈴と小悪魔が付いて歩いている。
そのさらに少し後ろで、レミリアとパチュリーが並んで歩いていた。
「いいんだよ、そのくらいでさ。私も楽しいし」
「貴女の悪戯心には呆れるわね」
「ははっ、いいじゃないか」
咲夜の足取りは覚束ないもので、かなりフラフラとしていた。
普段、凛としている咲夜からは想像もつかない成りである。
「なんだかんだ、パチェも楽しそうでよかったわ」
「まあ……悪いことをしているわけじゃないもの」
「咲夜、喜んでくれるかな……?」
「それは貴女次第よ。ほら、もうすぐ着くわよ」
◆◇◆
理解が追いつかない。
謎が謎を呼んでいる。
本当に意味が分からない。
でも、なんだか暖かい気持ちだ。
しかし、この気持ちも分からない。
「咲夜さん、しっかりしてくださいよ!」
美鈴に肩を叩かれた。
少しだけ思考がクリアになった気がした。
そういえば、私はどうやってここまで歩いて来たんだっけ……?
「ほら咲夜、もうすぐ着くよ?」
ふと、妹様に手を握られていることに気がついた。
私は妹様に連れられてここまで来たのだろうか?
お嬢様にあっさりと敗北して、部屋に妹様方が入って来て……それからあまり記憶がない。
それほど私は混乱していた。
気付けば、大きな扉の前にいた。
ここは先ほどまで全員が集められていた大きな広間である。
どうしてこんなところに……?
「さあ咲夜、入って!」
妹様に誘われるがまま、私は部屋に入った。
「「「お誕生日おめでとうございます、メイド長」」」
部屋に入ると、妖精メイド達が一斉に声を張った。
「……は?」
先ほど少しだけクリアになった頭に、その言葉はしっかりと響いた。
大きな疑問とともに。
「驚いてくれたかしら?」
「お嬢様……」
「私からも言わせてもらうわ。お誕生日おめでとう、咲夜」
お嬢様は優しく微笑みながらそう言った。
しかし、私の中にある大きな疑問は消えない。
「––––今日じゃない」
その囁きは小さかった。
しかし、大きな意味を持っていた。
「私の誕生日は、今日じゃない」
私の告白に全員が息を飲んだ。
先ほどまで少し浮かれてガヤガヤしていたメイド達も、一瞬で静かになった。
そんな静寂を破ったのは、お嬢様だった。
「––––それじゃあ、お前の誕生日はいつなんだ?」
「そ、それは……」
お嬢様のその質問に私は答えることができなかった。
なぜなら私は––––
「––––自分の誕生日を知らない。そうだろ、咲夜?」
「ッ!」
「図星みたいだな。そしてそれは、お前の誕生日が今日でない理由には成り得ない」
「でも、今日である可能性なんて……ッ!」
「ゼロではない……そうだろ?」
まさかお嬢様には、私の誕生日が視えているとでもいうのだろうか……?
いや、きっと視えているのだろう。
私の誕生日が今日なのかもしれない。
そんな風に思えるほど、お嬢様の瞳には真っ直ぐな力がこもっていた。
「なら、今日が十六夜咲夜の誕生日ってことでもいいじゃない。誕生日がないなんて、悲しいもの」
「……」
「改めて言わせてもらうわ。咲夜、誕生日おめでとう」
「…………ありがとう……ございます」
◆◇◆
––––咲夜、ケーキが食べたいわ。それも
今朝言い渡されたお嬢様の命令通りに、私は大きなケーキを作った。
勿論、人肉や血液などは使用せず、毒も入っていない"普通"のケーキだ。
午後誰かが来る予定なのか、はたまた館の者だけで食べる予定なのか私には計り知れなかったが、とりあえずかなり大きいものを作っていた。
そのケーキはいくつかロウソクが刺さった状態で、私の目の前にあった。
ロウソクには火が灯っている。
「ほら咲夜! ロウソク、ふぅーってして!」
「え……は、はい」
私は戸惑いと恥じらいで少し躊躇いながらも、妹様の言う通りにロウソクの火に息を吹きかけた。
全ての火が消えるとともに、皆が一斉に拍手をした。
恥ずかしさが増して、私の頰には熱が篭っていた。
「照れてるんですか、咲夜さん?」
ニヤニヤした美鈴が私の頰に触れた。
余計に熱が篭る。
「うるさいわね」
「こんなに可愛い咲夜さんは、ここに来てから初めて見ますね」
「喉、掻っ切るわよ?」
「す、すみません……」
私は美鈴の喉にナイフを当てた。
「さ、咲夜さん! ケーキ、食べましょう?」
「……ふぅ。そうね」
深く息を吸って、吐いた。
吐息とともに、少しは頰の熱も逃げて行った気がする。
「はい、妹様もどうぞ」
「ありがとう、こぁ」
「いえいえ。それにしても、本当に美味しそうなケーキですね!」
「でも……誕生日ケーキを自分で作るなんて、なんだか複雑よ」
「ははは……でも、咲夜さんくらいしか、ケーキなんて作れませんし……」
「そんなに難しいことはないのだけどね。今度小悪魔も作ってみる?」
「ぜ、是非お願いします!」
◆◇◆
「全て貴女の思い通りかしら?」
「まあ……大体のところは」
真紅のワインを片手に、悪魔と魔女は1人の人間を眺めていた。
その人間は、もう1人の悪魔と妖怪、そして小悪魔に囲まれている。
一聞すると物騒にも聞こえるが、事実はそうではない。
そこにはぎこちなく微笑む少女の姿があった。
「何か満足いかないところでも?」
「いや……結果には満足しているわ。サプライズは成功したし、咲夜も喜んでくれたようだし、何より館の
皆がこの宴を楽しんでいる」
「でも、何か思うところはあるようね?」
「パチェには隠し事ができないのかな、私は」
「今日は騙されたわ」
「ふふっ……私の演技もなかなかのものだろ?」
「そうね。それで、思うところってのは何かしら?」
「……そんなの、お前の方が思っていそうだけどな」
「まあ、そうね……」
「私もあの子には––––早く
【 紅 魔 館 ケ ー キ 強 奪 事 件 完 】
*挿絵に使わせていただいた素材
・十六夜咲夜 アールビット様
・ナイフ アールビット様
・レミリア=スカーレット Cmall様 ココア様 moto様 フリック様
・グングニル 天狗天子様
・フランドール・スカーレット kaoru様
・紅美鈴 アールビット様
・パチュリー・ノーレッジ アールビット様
・小悪魔 アールビット様
・紅魔館の部屋セット アールビット様