紅魔女中伝   作:ODA兵士長

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前回から時間が少し空いてしまって申し訳ありませんでした……
これから少しの間、いつも以上の亀更新が続く可能性があります。
本当に申し訳ありませんが、気長に待って頂けると幸いです。
こんな作品ですが、これからも『紅魔女中伝』を宜しくお願い致します。
それでは、本編をどうぞ!!!






第30話 妖々夢EX part2

 

 

 

 

「迎えに来たわよ〜」

「もう。待ちくたびれちゃったわ」

「ゆ、紫様?」

 

 霊夢、魔理沙、咲夜の三人が神社を後にしてから1時間以上経った頃。

 冬眠から目覚めた紫が、神社の縁側でお茶を啜っていた幽々子と妖夢の前に突如として現れた。

 2人の真後ろにスキマを作り、そのスキマの淵に腰掛けながら、紫は2人に声をかけた。

 

「さあ、いらっしゃい。楽しい宴が始まるわよ」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「どうして、どうしてよ……」

 

 化け猫の少女は焦りを覚えていた。

 確実に仕留めつつある敵が、なかなか仕留められない。

 確かに相手を追い詰めることはできている。

 しかし、最後の一押しが足りなかった。

 

 ––––気づけば咲夜は、少女の目の前まで迫っていた。

 

「スペルカード、取得ね」

 

『上下』に加え『左右』に避けることすら叶わなくなった咲夜であったが、それでも『前後』に避けることは出来た。

 時たま後退することはあっても、基本的に前進して避けていた咲夜は、こうして少女の目の前に立っていた。

 そして咲夜は、ほぼゼロ距離で少女にショットを浴びせる。

 堪らず少女は距離を取り、弾幕は掻き消された。

 時間内での撃破––––スペルカード取得である。

 

「くそ……人間なんか、人間なんか!!」

 

 

 ––––鬼神「飛翔毘沙門天」

 

 

 少女は()()()と同じように身体を丸めた。

 しかし今回はあの時とは異なり、直線的な動きではなく円を描くような動きであった。

 咲夜をその円の中心に誘い込むように、弾幕を撒き散らしながら回り込んで来る。

 

「貴女にしては頭を使ったようね。でも––––」

 

 少女がもし以前のような直線的な動きと同じスピードで動けていれば、咲夜を円の内側に入れることは可能だったかもしれない。

 しかし、回り込むように動いてしまっているせいで速度が出ず、咲夜は難なく円の外側へと回避できた。

 そうして咲夜は円の内側に入らず、少女にショットを浴びせ続けた。

 

「く、くそ……くそぉ…………」

「このスペルも取得ね。さあ、通してくれる?」

「お前なんか、藍様に……」

「ラン様?」

「……次は勝つんだから!」

 

 少女はそういうと、何処かへ飛んで逃げていった。

 咲夜に追う意思はなかった。

 

「完全勝利だな、咲夜」

「……あの程度の相手、当然よ」

「それでも喜ばなきゃ。だってこれは弾幕ごっこなんだぜ?」

「ふふっ……そうね」

 

 ––––弾幕ごっこを楽しむ。

 そんな簡単なことが、咲夜にとっては苦手なことで、そして最近出来るようになったことだった。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「いつ来ても、本当に長ったらしい階段ね」

「まあまあ、もうすぐ着くぜ」

 

 他愛もない会話をしながら飛んで行く私たちだが……3人とも違和感を感じていた。

 大きな妖力が降り注いでくる感覚。

 異変の時には感じなかったものだ。

 

 

 ––––この先にいるのは、幽霊ではない。

 幽霊なんかよりもずっと恐ろしい何かだ––––

 

 

「あー、それにしても」

 

 魔理沙が口を開く。

 

「本当に騒がしいな」

 

 幽霊達が飛び回っていた。

 普段は気配を感じない彼らだが、今日に限ってはしっかりと目視すらできる。

 そして彼らは、何かに恐れを感じているように震えながら慌てふためいているように見えた。

 

「何者かが暴れてる……妖夢の言っていたことは間違いではないようね」

 

 霊夢がそう呟くと同時に、先ほどから感じていた妖気がさらに大きくなった感じがした。

 そして、その妖気の主が姿を現わす。

 それは、頭に特徴的な2つの尖りを持つ帽子をかぶり、どこか八雲紫を思わせるゆったりとした服を身につけた金髪の少女だった。

 しかし何よりも特徴的なのは九つの尻尾であった。

 大きく扇状に広がるその尻尾は、見る者を圧倒するほど優美で且つ風格がある。

 

「今夜も、楽しい宴の準備〜」

 

 彼女の立ち振る舞いから、一体どんな奴なのかと身構えていた私たちは、なんだか間抜けとも取れるその発言に、少しだけ拍子抜けしてしまった。

 

「おおう、人間発見」

 

 しかし感じる妖気は尋常ではなく、威厳を感じる妖獣であった。

 先程の化け猫とは比べモノにならない、格上の存在であることが感じられた。

 それ故の余裕が、彼女からは感じられる。

 

「宴の準備が楽しいのか? 変わった奴だな」

「何言ってるの。"楽しい宴"の準備さ」

「物事は準備が一番楽しい。いや、そういう奴も居るんでね」

 

 魔理沙はフンッと笑いながら、私の方をチラりと見る。

 別に私は、準備が楽しいとは思って…………いや、思っているかもしれないか。

 

「人間の匂いがすると思って来てみれば、人間が3人も……んん?」

「何よ……?」

 

 少女は私を見ると、怪訝な顔をして尋ねた。

 

「お前、人間か?」

「……そのつもりよ」

「人間の匂いがするんだが……やっぱり、違うのか?」

「違わない」

「まあいい。見た感じ、生きているようだが……お前達、死んでいるのか?」

「見た感じで結構だけど––––貴女は見た感じ狐に見える」

「ふんっ……貴女は見た感じ犬に見える」

「見た感じでモノを言うな」

 

 ふははっ、と少女は少し大袈裟に笑ってみせた。

 

「まったく……おかしなことを。まあ、私も畜生どもと一緒にされたくはない」

「そんな無駄話置いといてさぁ……」

 

 突然、霊夢が私達の会話に割り込んできた。

 かなりイライラしているように見える。

 

「ここで暴れてるのって、あんたでしょ? さっさとあんたを退治して、花見に戻りたいわ」

「暴れてる……? 失敬な。私は報復に来ただけだ」

「それが暴れてるってことでしょうが。猫の次は狐……はぁ、いつからここは畜生界になったんでしょ」

「猫……だと? お前が橙を酷い目に遭わせた人間だな?」

「そうだっけ?」

「橙は私の式神。今は回復して、もっと強くなっているわ」

「……強かったっけ?」

「そうか……やはり私はお前が嫌いだ」

「いきなり何よ」

「なんでもない。さあ、報復をさせてもらおうか」

「はぁ……私、そのチェンとやらの相手はしてないんだけど?」

「……何?」

「あんたがさっき話してたこのメイド。こいつがチェンとやらの仇よ」

「ほう……だが、お前もその仲間であることには違いない」

「まあ……そうなのかな?」

「ならお前も成敗してやる。いや、面倒だ。3人まとめてかかってこい。」

「随分と舐められたもんだなぁ」

 

 ふと、魔理沙が言葉を挟んだ。

 

「私たちを同時に相手にするだって? そいつはお前の主人だってキツイと思うぞ?」

「ほう、紫様を侮辱するか。いい度胸だな」

「ああ、侮辱してやろう。あんな寝坊助に私たちの相手は務まらないさ。その式神ってんなら言わずもがなだぜ」

「ん? 私が式神だなんて、言ったかな?」

「違うのか?」

「いいや、違わない。私は八雲紫様の式神、八雲藍だ」

「なるほどね。あの猫は妖怪の式神の式神なのか……そんな程度じゃないかと思ったよ」

 

 私がそう言うと、藍の眼光は鋭く光り、その目が私を捉えた。

 

「貴様、橙をも侮辱するつもりか……ますます3人とも返り討ちにしてやりたくなった」

「はぁ、確かにあの猫は貴女の式神みたいね。思考が似てるわ」

「なんだと?」

「つまり、返り討ちにされるのは貴女ってことよ」

 

 

 ––––パチンッ

 

 

 私は時を止めた。

 この感じ……昔は何度もしていたのに、今ではあんまりやらなくなってしまった。

 1番近いので、妖夢にやった時だろうか?

 

 まあ、そんな下らない話はどうでもいい。

 

 このまま藍に近づいて、首元にナイフを当てるのはかなり容易いことである。

 殺せるかどうかは別にして。

 しかし、この戦いは"弾幕ごっこ"である。

 弾幕ごっこのルールに則るのならば、私の取るべき行動は–––––

 

「そして時は動き出す」

「……ッ!」

 

 私は大量の弾幕用のナイフを、藍を囲うように設置していた。

 逃げる隙間の無いように思える攻撃に彼女は一瞬だけ目を見開いたが、直ぐに口角を上げた。

 

「フンッ、甘い!」

 

 藍は全方位に弾幕を発射し、私のナイフと相打ちさせた。

 しかし私のナイフの方が物量が多く、幾らかは藍に向かっていったものの、あっさりと避けられてしまった。

 

「いやぁ、驚いた。時を止めるとは聞いていたが、実際に見るのは初めてでね。まあ所詮は子供騙しか」

「私も驚いたわ。咄嗟にあの量の弾幕を吐けるんですもの。まあ子供騙しと謳う私のナイフよりも少ないですけど」

 

 私たちは睨み合う。

 

「ははは、バチバチだな。私も混ぜてくれよ」

「はぁ……めんどくさいことには変わりないけど、どうせならさっさと終わらせたいわね」

 

 魔理沙と霊夢が、私の両脇に立つ。

 魔理沙の手には八卦炉が握られており、銃口は藍へと向いていた。

 そして、不敵な笑みを浮かべた藍が言う。

 

「さあ、宴の余興を始めようか」

 

 

 ––––式神「仙狐思念」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「いらっしゃいって……ここ、白玉楼じゃないですか」

「でも、準備をしたのは私たちよ?」

「紫様、絶対にしてませんよね?」

「あらら……ねぇ幽々子〜〜妖夢がいじめるぅ〜〜」

「妖夢、もっと言ってやりなさい」

「ゆ、幽々子!?」

 

 突然連れて来られた妖夢は少し不満を漏らす。

 紫に反抗的な態度を取っているのは、先ほど紫に驚かされたからであることは紫も幽々子も気が付いていた。

 そんな不機嫌な妖夢だが、白玉楼をしっかり見渡すと、これから始まる宴に心を躍らせていた。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「それにしても––––」

 

 八雲紫は深くため息を吐いた。

 日頃から頑張ってくれている愛する式神について、今日は小言を言わねばならない。

 そんなことで藍が私への服従を示さなくなるとは思わないが、やっぱり嫌なものは嫌なのだ。

 何より、楽しい宴が台無しになる。

 しかし、今回のことについては今言うべきだし、言わなくてはいけない。

 

「––––霊夢達を3人同時に相手するなんて……流石に驕りすぎよ、藍」

「申し訳ありません、紫様」

「それに霊夢達と戦った理由が、私怨たらたらで情けない……式神としては不適切ね」

「すみません、紫様」

「貴女……本当に反省してる?」

「も、勿論で御座います」

 

 藍は珍しく(ども)っていた。

 紫様に迷惑をかけるだけでなく、紫様の顔に泥を塗るような行為だと反省している反面、橙を虐めたということに対する恨みが拭いきれていなかった。

 

 しかし、藍自身も3人の強さを認めざるを得なかった。

 霊夢の反則的な勘と天才的な身のこなし。

 魔理沙の並の天狗になら劣らないスピードと高火力の弾幕。

 咲夜の正確無比なサポートと時を止めるという高次元の能力。

 初めこそは何とか善戦したものの、結果は惨敗であった。

 1人1人が強い上に、連携もそれなりに取れていた。

 橙が負けるのも、納得がいく。

 

「はぁ……まあ、もうこの話は終わりにしましょう。せっかくの楽しい宴なんですもの」

 

 場所は白玉楼。

 西行妖こそ散ってしまって寂しげに木肌が丸出しになっているが、それ以外の桜が満開になっている。

 日は既に沈み、あたりは月明かりに照らされていた。

 博麗神社での花見の続きを、今度はここの夜桜で行っていた。

 

「さて、藍はあのメイドちゃんを手伝ってあげなさい。さっきから1人でせっせと働いてるわ」

「……畏まりました」

「それと––––」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「おい、人間」

「何よ、妖狐さん?」

「紫様の命令だ。私も手伝おう」

「別に、私1人で宴会は回るわよ」

 

 私のこの言葉は、八雲藍を邪険に扱うつもりも、強がっているつもりも無かった。

 この場が私だけで十分なのは事実だし、例え手伝うと言ってきたのが霊夢であったとしても、私は断っていただろう。

 まあ、表情や言葉尻は違っていたかもしれないが。

 

「––––悪かった」

「…………はぁ?」

 

 突然だった。

 八雲藍が、いきなり頭を下げた。

 

「橙を虐めたなどと言って、お前達には迷惑をかけただろう」

「あー……別にいいわよ。それに、貴女本気で悪いと思ってないでしょ?」

「……ふふっ、そうだな。まだお前達が憎いさ。でも、私は負けたんだ。それに紫様にも叱られて––––」

 

 八雲藍はそこでひとつ溜息をつき、言葉を切った。

 

「とにかく、これは私なりのけじめだ。悪かったな––––咲夜」

 

 私の名を呼んだ。

 人間を見下している発言の多い彼女が、とある人間の名を呼んだのだ。

 

「はぁ……顔をあげなさい」

 

 藍は私をまっすぐ私の目を見た。

 私は少し逸らしてしまった。

 

「さあ、手伝ってもらうわよ––––藍」

「あ、ああ……!」

 

 

 

 幻想郷における、異変の完全解決。

 これは大宴会が始まることと同値である––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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