紅魔女中伝   作:ODA兵士長

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投稿遅れてスマヌ……
旅行してました(海行ったら日焼けして皮むけがががががが)
これからまた頑張ります!
評価、感想等頂けると作者のやる気に繋がります!←
それでは、本編どうぞ!






第28話 西行妖の(もと)

 

 

 ––––人鬼「未来永劫斬」

 

 

 妖夢が一直線に私に向かって来た。

 それは真面目で実直な彼女らしい、直線的な攻撃だった。

 しかし避けるのは容易いものではなく、そのスピードには眼を見張るものがあった。

 お嬢様ほどのスピードとはいかないものの、私の目で捉えるには難しい程度の速さだった。

 時を止めれば、避けられたかもしれない。

 いや、時を止める余裕があったかすら定かではない。

 

 そんな攻撃を避ける術を、私は持っていなかった。

 抵抗する事なく、私はその斬撃を一身に受けた。

 

 妖夢は私の身体を切り上げた(・・・)

 その斬撃で空中に投げ出された私の身体を、何度も何度も追撃した。

 正確で威力の高い斬撃を何度も受けた。

 私が地面に落ちるのを許さないほどの、間髪(かんぱつ)()れない斬撃だった。

 そして妖夢が着地した。

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に……斬れぬものなど、あんまりない!」

 

 妖夢がそう言い終える頃、私は落ちた。

 

「さ、咲夜……?」

 

 少し離れたところでそれを見ていた魔理沙が、絞り出すように声を出す。

 

「あれ、まだ仲間がいたんだ」

「……」

「安心して、全部みねうちだから」

 

 キッと睨みつける魔理沙に、妖夢はそう言い放つ。

 

「でも、多分死んでるよ。みねうちとはいえ、本気で斬ったんだ。軽くて全身打撲、重くて内蔵破裂ね」

「このやろう……」

「で? 次の相手は貴女?」

「当たり前だッ!」

「私は幽々子様の様子を見に行きたいんだけど……」

「咲夜の仇ッ!」

 

 ––––恋符「マスタースパーク」

 

 魔理沙の極太レーザーが妖夢を襲った。

 マスタースパークの威力には、妖夢も目を見張るものがあった。

 しかし如何せん、魔理沙は冷静さに欠けていた。

 咲夜の死を目の当たりにして且つ、妖夢のいけ好かない態度に怒りを抑えることが出来ていなかった。

 妖夢はあっさりと飛ぶだけで避けてしまった。

 

「くそ………なッ!?」

 

 魔理沙が外したことを悔しがっているのも束の間、何かに足元をすくわれた。

 その正体は半霊だった。

 気配のない半霊が魔理沙の膝に体当たりを仕掛けたのだ。

 

「いたた……このや––––「眠って」

 

 気付けば、剣を振り上げる妖夢が目の前に迫っていた。

 魔理沙は息を呑むしか無かった。

 

 

 ––––斬られる……ッ!

 

 

 斬られる者の目は決まっている。

 何度も見てきた。

 彼らは皆、恐怖を瞳に浮かべる。

 中には涙を浮かべる者もいる。

 当たり前といえば当たり前の話だが、妖夢はそんな目を幾度となく見てきたのだ。

 

 そして魔理沙の目も、そのうちの一つに過ぎなかった。

 斬れることを確信した私は、力一杯振り下ろした。

 

「うわっ!?」

 

 ––––しかし、空振り。

 かなり力んでいたせいか、体勢を崩す始末である。

 

「なんで……!?」

 

 辺りを軽く見渡す。

 

「き、消えた……!?」

 

 魔理沙の姿が、無くなっていた。

 

「まさかあいつも瞬間移動を……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––瞬間移動とは違う……って、何度言ったらわかってくれるの?」

  「ッ!?!?」

 

 妖夢は振り返る。

 真後ろから聞こえたその声は、聞いたことのある声で、もう聞くはずのない声であった。

 

「はぁ……"念には念を"……か。お嬢様には、やっぱり視えていたのかしら」

 

 私は石を投げ捨てた。

 それは割れて光を失い、黒ずんだ蘇生石だった。

 

「な、なんで……? どうしてお前が!?」

「さぁ? なんででしょう?」

「さ、咲夜……? お前、生きてたのか!?」

「少し違うけど……まあ、そんなところね」

 

 

 ––––魔理沙が斬られるその直前。

 私は時間を止めた。

 そして魔理沙をその場から助け出したのだ。

 

「貴女、危なかったわね」

「た、助かったぜ……咲夜」

「これは貸しよ。いつか返してね」

「ああ、わかったよ」

「さて、随分と勝ち誇ってくれたみたいだけど……」

 

 私は妖夢へと視線を移した。

 

「まだ、貴女に勝利を譲るつもりはないの」

「くそっ……なら、もう一度斬るまでだッ!」

 

 妖夢が剣を構えたその瞬間に、私は時間を止めた。

 そして、"いつも通り"背後にまわり、首筋にナイフを立てる。

 

「もう一度、なんてあるわけないでしょ?」

「ッ……」

「癪だけど、認めてあげる。純粋な剣術では貴女に敵わないでしょうね」

「……」

「貴女の力を見誤って、私は一度死んだも同然」

「……」

「でも、貴女はこれで3度目」

 

 ナイフに力を込めた。

 半霊を動かすそぶりは見えない。

 

「……私の、負けでいい」

「随分と素直ね。嫌いじゃないけど」

「手加減なしじゃ……実力じゃ、貴女には勝てない。それが、分かったから」

「……そう」

 

 私は力を緩めた。

 即座に妖夢は間合いを取る。

 

「でも……いつか絶対、貴女にも参ったと言わせてやるわ」

「ふふっ、楽しみにしていてあげるわ」

「にしても、本当に無茶なことするぜ」

 

 不意に魔理沙が私の肩を叩いた。

 

「手加減なんて、らしくないじゃないか」

「ちょっと遊んでやろうと思ったのよ」

「負けず嫌いのお前がなぁ」

「……とにかく、先を急ぐわよ。もう霊夢は行ってるから」

「そうだな。おい、そこの緑の」

「緑のってなんだ! 私は魂魄妖夢だ!」

「そうかそうか、悪かったな。私は霧雨魔理沙だ。さぁ、妖怪桜まで案内してもらおうか」

「貴女の春でも渡してくれるの? どの道、西行妖が満開になるんだったら、それでもいいんだけど……なんか納得いかない」

「誰が、満開にするなんて言ったんだ? 私は花見がしたいだけだぜ」

「はぁ……これ以上踏み込んで、お嬢様に殺されても知らないわよ!」

「そもそも、この先に行かないとこの春は渡せないんだが」

「……分かったわ。案内するよ」

 

 諦めたように妖夢は肩を落とした。

 そして、階段の上へと飛んでいく。

 

「ほら咲夜、行くぞ」

「ええ」

 

 私は魔理沙の箒に乗り、魔理沙と共に妖夢を追いかけた。

 

 

◆◇◆

 

 

「もうすぐ見えるよ」

 

 妖夢がそう言うとすぐに、西行妖と思われる桃色の光が見えてきた。

 

「あれ……随分と開花してそうだけど」

「八分咲きってところだな」

「言ったでしょ。あと少しなの」

 

 少しすると、西行妖のそばで弾幕が繰り広げられているのが確認できた。

 おそらく霊夢と異変の主犯による弾幕だろう。

 私たちは、それがよく見える位置に着地した。

 

「綺麗な弾幕だぜ」

 

 魔理沙は私に聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で呟いていた。

 たしかに、ここから見える弾幕は美しかった。

 その弾幕に見惚れているうちに、階段を登りきっていた。

 異変の主犯であろう少女が放つ優美かつ豪快な弾幕を、(すんで)の所で躱す霊夢が見て取れた。

 霊夢の顔に余裕の色はなく、かなり厳しい戦いであることが想像できた。

 

「霊夢のやつ……結構苦戦してるな」

「あの弾幕、かなりの物量よ。幾ら霊夢とは言えども、動きにくいのでしょうね」

「霊夢……」

「安心しなさい。あの程度の弾幕にやられる霊夢じゃないでしょう?」

「……ああ、そうだな」

 

 ––––そうよね、霊夢?

 

 私は心の中でそう思っていた。

 おそらく、魔理沙も似た事を考えていたのだろう。

 私たち2人は不安げな面持ちで、その弾幕を見つめている。

 それほど、霊夢の受けている弾幕は凄まじいものだった。

 

「ボムを使ったな」

「ええ。取得は出来なかったみたい」

 

 しかしその不安が、私たちを冷静にしていた。

 落ち着いて戦況を伺っている。

 霊夢は弾幕をボムで打ち消していた。

 おそらく、このスペルカードをブレイクするまでもう少し……

 

「よしっ! 耐えきった!!」

 

 魔理沙は自分の事のように喜んでいた。

 私も、柄にもなく笑みをこぼしていた。

 

「……すごい」

 

 妖夢は小さく呟いていた。

 

「あれは幽々子様の、最後のスペルカード。あれを……破れる人間がいるなんて……」

「そりゃあ、なんたって霊夢だからな」

「ふふっ、そうね」

「とにかく、さっきので最後ってことは……霊夢の勝ちだろ? さぁ、春を返してもらうぜ!」

「分かってる。でも集めてるのは幽々子様だから、幽々子様に……あれ?」

「どうした、妖夢?」

「幽々子様……?」

「ちょっと魔理沙、見なさい! 様子が変よ!」

「はぁ? 一体なんだって…………ッ!?」

 

 魔理沙が見たのは、西行妖のもとへと降下する幽々子様と呼ばれている少女だった。

 そして私たち3人は、その影から恐ろしい殺気を感じていた。

 いや……殺気を放っているのは、西行妖だろうか?

 

「おい……さっきので終わりじゃなかったのかよ!?」

「そのはずなんだけど……というか、あれ……本当に幽々子様?」

「そんなこと知らないわ。でも、負けて降参って感じは……更々なさそうね」

「そんなの、反則だぜ」

 

 

 ––––「反魂蝶」

 

 

 それは、突然だった。

 何の前触れもなく、スペルカードが発動した。

 

「ッ!!」

「ちょっと、魔理沙!?」

 

 そして同時に、魔理沙がその場を飛び立った。

 おそらく、魔理沙は半ば反射的に動いていた。

 持ち前のスピードを活かして、全速力で。

 私にはそれを追いかける術を持ち合わせていなかった。

 

「くそッ! 間に合えッ!!!」

 

 魔理沙は、八卦炉を後方に向ける。

 

 ––––彗星「ブレイジングスター」

 

 そしてそのまま高火力の極太レーザーを放った。

 それは私と妖夢に向かって飛んで来ていたが、少し距離があった為に避けるのは容易かった。

 

「なっ!? あの白黒、私たちを殺すつもり!?」

「いや、違うわ」

 

 魔理沙は、後ろに放った勢いで更にスピードを上げていた。

 まさしく彗星のように速く、そして美しく飛んでいた。

 

「霊夢ッ!!!!」

 

 魔理沙のその叫びは、私たちにも届くほど、大きな声だった。

 

 

◆◇◆

 

 

「霊夢ッ!!!!」

 

 霊夢はその声で、我に返っていた。

 幽々子のスペルを攻略した喜びと疲れが、霊夢の精神状態を不安定なものにしていたのだろう。

 普段の彼女では考えられないが、しかし確実に、霊夢は幽々子が放つ殺気で怯んでいたのだ。

 

「魔理––––ッ!?」

 

 魔理沙は彗星のようにやって来た。

 そしてその勢いに任せて霊夢の腕を掴み、そのまま連れ去った。

 

「危ねぇ……なんとか間に合ったぜ」

 

 先程まで霊夢がいた場所には、無数の弾幕が行き交っていた。

 (おぞ)ましい妖力と殺気を放つ弾幕だった。

 

「あ、ありがとう……魔理沙」

「へっ、素直に礼を言われるとはな。それにしても、反応鈍すぎだぜ。疲れてんのか、霊夢?」

「……動かなきゃとは感じていたけど、身体が動かなかったわ。殺気が……凄くて」

「まあ、とにかくお前は離れてろ。あとは私が、何とかしてやるぜ!」

 

 少し飛んだ後に、魔理沙は霊夢の腕を離した。

 そして振り返り、西行妖を見る。

 その前には人影があり、遠くて確認できないはずなのに、ジッとこちらを見据えているように思えた。

 その瞬間に魔理沙にも、霊夢の感じた殺気が襲って来ていた。

 

「な、なるほど……凄まじい殺気だぜ。こりゃ、厳しい戦いになりそうだ」

「私も闘うわ。あんただけに、任せておけないもの」

「いや、私だけでいい。霊夢は咲夜のところにでも行って、休んでろよ」

 

 魔理沙は幽々子の殺気に怯むことなく睨み返していた。

 そんな魔理沙に、霊夢は気圧(けお)されていた。

 それは霊夢にとって初めてのことだった。

 

 ––––まさか、魔理沙がこんなに頼もしく見えるなんてね。

 

「……分かった。その代わり––––」

 

 霊夢は魔理沙の肩に優しく、そして力強く手を置いた。

 魔理沙は幽々子を警戒しながら、首だけで少し振り返る。

 

「––––宴会で私に酒を注ぐのは、あんただからね」

 

 霊夢はそう言い捨てて、魔理沙のもとを離れた。

 

「はっ……そりゃあ、死ぬわけにはいかないぜ」

 

 魔理沙は八卦炉を構えながら、そう言った。

 それを合図に、幽々子の弾幕が飛んで来た。

 

「やっぱ、もの凄い量だな」

 

 圧倒的な物量を誇るその弾幕は、3人の中ではトップのスピードを誇る魔理沙の動きさえも制限していた。

 弾幕の間を掻い潜るも、なかなか幽々子へと近づけないでいた。

 

「それに、当たったらヤバそうだぜ……」

 

 幽々子の弾幕は、弾幕ごっこの範疇を遥かに超える威力を誇っていた。

 そんな弾幕が、魔理沙の(またが)る箒の先を(かす)めた。

 この箒は魔法で強化されており、並大抵の弾幕では傷を付けるどころか、跳ね返されてしまうほど強靭である。

 しかし幽々子の弾幕は、そんな魔理沙の箒の先端を消失させていた。

 掠っただけでこの威力である。

 自身に受けたらどうなるのか、簡単に想像が出来た。

 出来たからこその恐怖が、魔理沙を襲っていた。

 

「––––だが、火力なら負けないぜッ!」

 

 

 ––––恋符「マスタースパーク」

 

 

「辛気臭い春を返してもらうぜ、死人嬢!」

 

 

 

◆◇◆

 

 

「あんたの力を貸して、咲夜」

 

 突然魔理沙が霊夢のもとに飛んだと思えば、今度は霊夢が突然私のもとに戻って来た。

 そして何の脈略もなく、霊夢は私に言う。

 

「……どういうこと? 何があったの?」

 

 魔理沙が霊夢を助けたということは分かった。

 しかし、それ以外の会話は何も聞こえておらず、何故魔理沙が霊夢に代わって戦っているのか、私には理解できなかった。

 

「説明する暇はないわ。とにかく、あんたは時間を止めなさい」

「時間を……止める?」

 

 呟いたのは妖夢だった。

 ああ、私の能力がバレてしまった。

 そんな場違いなことを、私は思っていた。

 

「はぁ……分かった。緊急事態なんでしょうし––––」

 

 ––––パチンッ

 

 私は時間を停止させた。

 

「––––話なら、この世界でできるものね……霊夢?」

 

 

 ––––「 夢 想 天 生 」

 

 

「ええ、そうね」

「当たり前のように私の世界に干渉されると……少しだけ堪えるわ」

「悪いわね。でも、時間を止めるって分かってないと干渉できないから」

「あら、弱点を教えてくれてありがとう」

「どういたしまして……って、今はそんなことどうでもいいのよ」

 

 霊夢はそう言うと、魔理沙の方を見上げた。

 

「あれは……悪いけど、そう長くは持たないわ。でも魔理沙なら、きっと……一瞬の隙を作ってくれる」

「隙?」

「魔理沙が本気で打ったマスタースパークは、そう簡単に打ち消せるものじゃない。避けるなり、さらに火力のあるものを出すなり……どちらにせよ、隙が生まれるはず」

「その僅かな隙に、何をするつもり?」

「あの馬鹿でかい妖怪桜を封印するわ」

「……封印?」

「おそらく魔理沙が戦ってるアレは、封印が解け始めて出てきた何者かよ」

「ちょっと待って……言ってる意味がわからないのだけど?」

「……元々、あの桜の下には何者かが封印されていたのよ。それを解くには桜を満開にする必要があった」

「それで……幻想郷から春を奪って、桜を満開にしていた……ということ?」

「そう。それで出て来たアイツを、私が封印するの」

「なるほど……」

「察しが良くて助かるわ」

「それで私は、何を手伝えばいいのかしら?」

「あんたには、私が確実にその隙を突くための手伝いをして貰いたいの」

「具体的には?」

「私が合図した時に時間を止めてくれればいいわ。そのうちに、私は封印を行うから」

「……それは無理よ」

 

 私がそう言うと、霊夢はキッと睨んだ。

 

「何で?」

「時間停止中は他の者に何か干渉することは出来ない。時間が止まるということは、空間が固定されるということよ。私や貴女以外どんな生き物も、無機質な不壊の物質と化すわ。おそらく封印も……」

「……なるほど、そういうことね。謎が解けたわ」

「どういうこと?」

「何であんたは、時間停止中に攻撃しないんだろうって疑問だったのよ」

「……」

「まあ、とにかく……それは問題ないと思うわ。時を動かすタイミングも合図を出すから、そしたら動かして。丁度いいことに、この世界は静かだから––––」

 

 時が止まったこの世界では、私と霊夢以外無音の存在だ。

 おそらく距離があっても、声は届くだろう。

 

「とりあえず今はタイミングを伺うわ。時間、動かしてくれる?」

「ええ、分かったわ」

 

 ––––パチンッ

 

「えっ!? 何!? 貴女たち、一体どうしたの!?」

「うるさいわよ、妖夢」

「……時間を止めてたってこと? 何で、この巫女は動けるの?」

「今あんたと話をしてる暇はないわ、半人半霊。黙ってなさい」

「ッ……」

 

 妖夢が半人半霊だということを言い当てた霊夢に睨まれ、彼女は押し黙るしかなかった。

 私と霊夢は、魔理沙の戦況を伺っていた。

 

 

 ––––恋符「マスタースパーク」

 

 

 私の予想よりも早く、魔理沙は八卦炉を構えてマスタースパークを放った。

 何度見ても凄まじい威力で、周囲の弾幕を飲み込み搔き消しながら進んでいくその極太レーザーは、見ていて爽快感のある者だった。

 

「まだよ……」

 

 霊夢が言う。

 幽々子は避けるのか?

 それとも、さらに火力の高い何かを放つのか?

 私たちは伺っていた。

 

「……ッ!?」

 

 幽々子は動かなかった。

 そんな彼女の行動に、私は驚きを隠せなかった。

 あの火力を一身に受けて、無事でいられるとは思えない。

 

「咲夜! 今よッ!」

 

 ––––パチンッ

 

 時を止めると同時に、霊夢は飛び立った。

 時間が停止したこの世界で急ぐ必要はないのだが、霊夢にも少なからず焦る気持ちがあったのだろう。

 霊夢はマスタースパークの光の中へと消えた。

 夢想天生中の彼女に、マスタースパークの威力は関係ない。

 今の彼女にとっては本当に光の塊でしかないのだろう。

 そんな自らマスタースパークに巻き込まれた霊夢の声が聞こえた。

 

「動かしなさい、咲夜ッ!」

 

 ––––パチンッ

 

 時を動かす。

 凄まじい音を立てて幽々子に、そして背後の西行妖に衝突するマスタースパークが消える頃、霊夢はスペルカードを発動した。

 

 

 ––––霊符「夢想封印」

 

 

 霊夢は様々な色の光弾を発射し、残っていた幽々子の弾幕を全て消し去った。

 そして大量の御札をばら撒くと、それらは幽々子の身体、さらに西行妖に張り付いた。

 それらは大きく光を放ち––––

 

 

 

 ––––光が消えた頃には、西行妖の花は全て散っていた。

 辺りが花びらで一杯になっている。

 それは嘗て見たことのない程、幻想的で美しすぎる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は、また何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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