女性サーヴァントしか召喚できないマスターの話をするとしよう 作:れべるあっぷ
午前9時を回った。
「サンタさん、本当に大丈夫なの?」
「私たちが突然おしかけたらお母さん達もビックリしちゃうよ」
「いいえ、ロジカルに言って問題ありません! 今ノリにノっている私を誰だと思っているんですか?」
「ジャンヌ・スパム・ダルク・スパム・オルタ・スパム・サンタ・スパム・リリィだっけ?」
「ち・が・い・ま・す!!」
子供たちは朝から元気がいいね。
ナーサリ・ライムにジャック・ザ・リッパー、そして、2人の先頭に立って歩いているのはジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ・スパム……だっけ?
とにかく、朝ごはん時に彼と鬼ごっこをしていた子供達が管制室へと向かっていた。
「トナカイ2号さんには先ほどの借りを返してもらわなければなりません。それに、ナーサリさんの栞の件もまだ片付いていませんので」
「そうだった。私の大切なしおり、人質に取られたまんまだった。返してほしいの」
「じゃあ、お兄ちゃんを解体しに行こう」
廊下を歩く子供たち。
解体はともかく、これより9時半から始まる任務に連れて行ってもらうために、管制室に乗り込む気だ。理由は皆まで言わなくてもわかるだろうけど、カルデアでお留守番するのは子供たちにとっても退屈極まりないもの。レイシフトして素材やら種火やら、彼に悪戯する方が何倍も有意義な時間を過ごせるというものだ。
もちろん、ナーサリ・ライムのしおりの件も大事だ。
だから、今朝の件を蒸し返してでも自分達を連れて行ってもらえるように、ブリーフィング中の彼らの元へと向かった。
「ちょっと待ったー!!」
しかし、子供たちの前に立ちはだかる者が現れた。
「おやおや、これはこれはお嬢さん達、おそろいで。朝から元気がいいですね~」
「そういうルビーも、元気ありすぎるけどね。まぁそれは置いといて」
「相変わらずイリヤさんは手厳しいですね~」
「はい、そこー。関係ない話しない」
弁慶が立ちはだかったわけでもない。魔法少女2人組みが立ちはだかっただけであった。おまけに、魔法のステッキもようやく目が覚めたんだね。
「むっ、なんですか? クロエさんに、イリヤさん。おまけに、ルビーさんとサファイアさんまで。貴女達、さては私たちの邪魔をしに来たんですか? 私達に今回のレイシフトを諦めろと??」
「そ、そんな……っ!?」
「か、解体するよ……っ!!」
カルデアにおける特異点にレイシフトするサーヴァントの上限問題。
女性ばかりだが増え続けるカルデアのサーヴァント達は、少なからず活躍する機会が減るものだ。レイシフト先で一番の花形は7つの特異点のどれかだろう。突拍子もなく突然沸き起こるぐだぐだな特異点やら素材やら種火集めのために現れた特異点など二の次で、しかし、彼らは少しでも活躍しようと、マスターのために命を燃やそうと、目立ちたいからという理由であったりもするが、自我が強いサーヴァントが多いせいか、お互いが譲り合うことができず、話し合いで解決できずに衝突することも、しばしあったりする。
が、しかし、どうやら今回は違ったようだ。私やサンタたちの思い過ごしであった。
「違うわよ! 周回行きたいんでしょ? だったら人手が多いことに越したことがないわ」
「私たちも最近レイシフト連れて行ってもらえてなかったから抗議しに行く所だったの。でも、マスターさん達がオッケーしてくれるのって本当に気分次第だから味方は多い方がいいよね、ってクロエと話してたの」
「まぁ、アレですよね。子供5人で駄々をこねれば周回程度なら連れていってもらえるかも、って算段ですよ」
「姉さん、それは別に言わなくていいんじゃ……」
何はともあれ。
てれれてってて~ん。2人の魔法少女と2本の魔法ステッキが仲間に加わった。
「ロジカルにいって、とても心強いです! 皆さんで必ず成功させましょう!」
「名づけて『5人いればマスターもイチコロ! おねだり駄々コネまくり作戦』よ!!」
最早、怖いものなんて子供たちになかった。
勝算があった。
最強の切り札は自分たちだ、という絶対的な自信が子供たちにあった。
自然と駆け足になった。
目的地は目の前だった。
「トナカイさんにトナカイ2号さん!! ロジカル的に私たちを周回に連れてってくださーい!!」
だが、結論から言って、子供たちの願いは今回は叶うことはなかった。
目の前にある光景に、目を疑い、そして、子供ながらに現実ってやつを受け入れることになった。悟ったと言ってもいい。空気を読んだと言っても過言じゃない。
「マスター、てめぇふざけんじゃねーぞ!! 父上を周回に連れて行きやがれー!!」
「ぎゃーっ!? モーさん、ギブギブッ!!」
「あのー、2人とも……ブリーフィング続けていいかな?」
恒例のブリーフィングは見ての通り進んでいなかった。子供たちの気も知らないで、彼らはホントいつも賑やかだった。
「今日こそ父上を周回に連れて行けよ!! この前、約束しただろ!!」
「いや、ちゃんと連れて行ってるじゃん!! オルタ達をさ!!」
「その父上じゃねーんだよマスター!!」
「じゃあ乳上のことかー!!」
「それでもねー!!」
「だったら謎のヒロインXの父上かー!!」
「ちげー!! オレが言ってる父上は青い方の父上だー!!」
「それは立夏に言えやー!! あっちのアルトリアのマスターは立夏だ!!」
「いや知ってるし!! だーかーら、立夏に強く当たれねーからマスターにキレてんだろー!!」
「それおかしくね……っ!?」
マスターである彼の胸倉を掴みぐわんぐわん揺さぶる、ブチギレモードのモードレット卿の姿に子供たちがドン引きして、管制室に入ることすらできなかった。
ついに、サーヴァントにコブラツイストされる彼。
「つーか、なんでマスターはデコに矢が刺さってるんだよ。ふざけてんのか……っ!!」
「いてて、引っ張るな!! これには海より深いワケが……って、だから無理に引き抜こうとするな!! この矢は呪いの矢よりも恐ろしい矢なんだぞ!!」
ブリーフィングより少し前に、どこぞの通りすがりのアタランテに天誅されたらしい。本物じゃなく吸盤が付いたオモチャの矢で射抜かれて、しかし、サーヴァントの腕力でも取れないときた。
まさか、自称・天才サーヴァントが開発した超強力な接着剤の力が付加されていることなど知らず、無理やり引き抜こうとすれば、もうそれは想像するに恐ろしいことになりそうだ。
当の本人は、ブリーフィングに顔を出しているが、笑わないように必死に笑いを堪えていたりする。
「どうでもいいけどよ、青い父上を周回に連れて行きやがれー!!」
「ぎゃー!?? 矢が……………………………取れたーーー!!?」
「あれ? おかしいな、接着力が弱かったのかな??」
「てめぇ、ダ・ヴィンチちゃんも一枚からんでたんかーい!!?」
「英之介さん、血がオデコからドバーっておもしろいことになってますよ」
もう、勝手にやってください。そう子供たちの顔に書いていた。
「あれ、どうしたのみんな?」
「あ、いえ、お邪魔しました」
「「「「「おじゃましました~」」」」」
欠伸をしていた藤丸立夏がこちらに気付いたが、もうここには用はないと、回れ右して駆け足で去っていく子供たちであった。
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さて、本題。
青い方の我が王の話をするとしよう。
モードレット卿があんなにも青い父上押しをする、アルトリア・ペンドラゴンという少女のお話だ。
かの有名な誉れ高きアーサー王。
しかし、カルデアではそんな王の存在さえ、影の薄いサーヴァントとして不毛に扱われる厳しい場所であった。
モードレット卿はそれを危惧していたのかもしれない。
いや、単にファザコンなだけだ。
「そもそも……そもそもだ、マスター。青い父上ってカルデアに来てから活躍したことあるのか?」
「立夏、あったっけ……??」
「え、あったと思うけど……たぶん、ありました」
ここではっきりさせよう。
私は彼らの活躍を初めから見ていたけど、青い方の我が王は大して活躍してなかった。
「フランスではどうだったんだよ、マスター?」
「立夏、どうだったんだ?」
「英之介さんとこのオルタずに全部おいしいとこ持っていかれましたー」
そういえば、オルレアン城攻略は2人の黒い方の我が王の特攻によって壊滅したんだったっけ?
それで、崩れて埋もれた這い出てきた黒い聖女様と目ん玉が飛び出た黒幕キャスターをフルぼっこにしたんだっけ??
それで、その時、青い王はというと後方でワイバーンとちまちま戦っていただけだった……
「さ、流石はオレの父上だな。決戦でマスター達を城へ導いたってわけだ」
「ポジティブだな、モーさん」
「うるせーよ、マスター。他にもあるだろ? ローマはどうだったんだよ??」
オルレアン攻略の後、新たに召喚したサーヴァントはフランスで出会ったサーヴァント達が主だった。だから、藤丸立夏もフランス組である白い聖女様やマリー・アントワネット王妃の運用をしたくて、それで我が王も後方支援に回ってくれた。
そして、彼に召喚された新人なジャンヌ・ダルク・オルタの独壇場だったような気がする。
「お、王とは本陣にどっしり構えて兵を動かすもんだよな。流石は父上だぜ」
「モーさん、顔ひきつってるぜ」
「うるせー! 次だ!! 第三特異点だったオケアノスはどうだったんだよ!! 青い父上も何かしら活躍したにちがいない!! そうであってくれ!!」
ところがどっこい。もうカルデアのお留守番組になっていた。
「お、お留守番だ、と……もう、その時期から??」
「ネロ達ローマ組みの試運転もあったし、敵がカルデアに襲撃してきた時の場合に備えて仕方がなかったのよ」
「それも重要な任務だと思いますよ、モードレットさん」
「そ、そうだよな。じゃあ、ロンドンは……」
「モーさんが一番知ってるよな」
ロンドンは、まぁ……いなかったことはモードレット卿も知っている。
否定したいが事実だ。否、もしかしたら霧のせいで姿が見えなかっただけでも? とか考えちゃ駄目だ。それだと王としてあまりに影が薄すぎる。モードレット卿は脳裏に思い浮かぶも否定せざるを得なかった。
もう答えは出ていた。青い方の我が王はまたカルデアでお留守番をしていたのだ。
「それに、アメリカは……」
………。
「ちくしょう……っ!!」
「モーさん……っ!!」
モードレット卿はアメリカで起きた事件を思い出し、管制室を後にした。
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ちなみに、ブリーフィングはいつも通り不毛に終わった。ドクター・ロマンは泣いていた。
一身上の都合によりこの作品は打ち切りとさせていただきます。
こんな駄作ですがお気に入り登録してくださった読者の皆様、ご迷惑をおかけしてたいへん申し訳ありませんでした。
尚、女性サーヴァントしか召喚できない系主人公の最新作
『先輩、ATMはカルデアにありません!』
を絶賛投稿中でございます。
ダブルマスター体制ではありませんが、時系列やらに縛られないカルデア・マスターと女性サーヴァント達との日常編になっておりますんで、
是非!!
是非に!!
是非ともご愛読の方よろしくお願いします。
https://syosetu.org/novel/140570/