女性サーヴァントしか召喚できないマスターの話をするとしよう   作:れべるあっぷ

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彼のお仕置きについて話せるなら話をするとしよう

 さて、午前8時からはお仕置きの時間だ。

 いや、なに、稽古に使う時間帯だったはずなのだが、犯罪一歩手前まで粗相した彼には罰が必要な訳であって……

 場所は道場。

 自称・天才のサーヴァントによって設けられた一施設に彼はいた。

 我が黒い王の逆鱗に触れお仕置きを実行していた。

 足ツボに効くぶつぶつのマットを敷いた上に正座をし、米袋5袋分の重さを軽く越えている重りを膝の上に乗せながら、熱いお茶が淹れてある湯飲みを頭の上に乗せた、なんともマヌケな刑が執行されていた。

 そんな話になるはずだったんだ。

 

「こ、子イヌ~……アタシ、もうだめ……かも」

「………」

「トカゲのセイバー、私語は厳禁です、よ!!」セイバーッ

「ふぎゃー!?」

 

 30分後の話……

 彼のお仕置きのはずなのだが……他の者が犠牲となった。もう少し噛み砕いて詳細を伝えれば、彼はお仕置きに耐えて、彼のサーヴァントが犠牲となったのだ。

 

「あ、足が、し、痺れて、子イヌぅ~……」

「………」

 

 奴の名はエリザベート・バードリー。

 クラスはセイバー。

 反英雄ながら勇者気取りのサーヴァントが彼に助けを求めるも、今回は綺麗にスルーされ、本日の稽古内容に耐えられず罰を受けた、ということである。

 

「今、マスターは新境地に入ってるんです。話しかけないでやってください。それと、ここが痺れるんですか? え? ここですか?? ここがそんなにいいんですかー!!」セイバーッ

「の”ぉおおおおおーーーっ!?」

 

 本日の朝の稽古は、彼の罰も合わせて1時間に及ぶ瞑想―――セイバーが集う道場でセイバーによるセイバーと彼のためだけの瞑想―――用はセイバー同士の我慢比べみたいなものである。

 もちろんサーヴァント達は罰を受けた訳ではないので普通に正座のみ。

 ただし、それすらもできなければ、あのポンコツ勇者のように監視役の謎のヒロインXである我が王にメーンされるのであった。

 

「ほらほらー、ちゃんと姿勢を正して新境地を開いて、くだセイバー!!」

「に”ゅやぁああああああっ!?」

 

 セイバーいじめを楽しむ我が王はさて置いて。

 ここ道場には彼の朝の稽古を聞きつけてやってきたサーヴァントは数多いたりする。

 ポンコツ勇者然り、今この場にいるのはクラス・セイバーがほとんどで……半分は冷やかしだったり、彼と共に心身を鍛えるためだったり、少しでも彼と接触するために欲望に忠実だったり、古今東西様々なサーヴァントが入り浸っているのが今の現状だ。

 本来、朝の稽古担当であった黒い方の我が王・アルトリア・ペンドラゴン・オルタであったが、日に日に道場に顔出すサーヴァントが多くなり、無秩序に彼に接触を試みるサーヴァントを危惧した黒い方の我が王は、なけなしに謎のヒロインXである我が王を監視役に抜擢した、というちゃんとした理由があった。

 

「雑念のあるセイバーはこうです!! えいやー!!」セイバーッ

「子イヌゥ~……っ!!」

「………」

 

 新境地に入っている彼の耳には届かない。

 彼に助けを求め手を伸ばすも、それすらも手痛く竹刀で叩かれるのであった。

 

「流石です、マスター。段蔵も見習わなくては……っ!!」

「あっ、今誰か喋ったわよっ!!? 段蔵って言ってなかった!?」

「………」

 

 ………。それはたぶん気のせいだろう。

 

「はん、私には聞こえませんでしたね! 空耳なんじゃないですかー!」セイバーッ

「ほわぎゃーーーー!??」

「………」

 

 ポンコツ勇者の発言は却下された。

 

「しかし、アレでまったく動じないなんて、英之介さんってホント何者なんでしょうね?」

「儂が惚れこんだ男じゃ、アレぐらいは平然とやってもらわんとな!」

「はぁ、英之介さんとゲームしたい……」

「しっ、奴に聞こえるよ。集中集中……」

「やっぱり誰か喋ってるわよ……っ!!」

「………」

 

 新撰組隊長と第六天魔王、それとインフェルノなんたらに剣豪武蔵。彼や藤丸立夏に召喚された日本のサーヴァント達だ。2人、クラスがアーチャーが紛れ込んでいるが、気にしなくてもいいサーヴァントだろう。

 ポンコツ勇者に標的が向かってる間はいつもこそこそと、喋っていた。

 

「な、なんのこれしき、英之介とふんずれもつれ……じゃなかった。手合わせをするためだ……ぐぬぬっ」

「あっ、やっぱり今聞こえたわ!! 私のライバルが打算してるわ!!」

「何をワケの分からぬことを言ってるんですか。マスターには指一本触れさせません。勿論、貴女もですよ、このポンコツ・セイバー!!」

「ア、アタシがポンコツ・セイバーですってー!?」

「………」

 

 ポンコツ勇者が抗議をしようと立ち上がろうとするも、足が痺れて生まれたての小鹿のように脚を震わせるだけ。

 そこを狙われ、横殴りの竹刀に払われ、見事ポンコツ勇者はこけた。

 

「正座、まさに悪い文明……」

「ほらっ。ほらっ!! 今のも聞いたでしょっ!! 正座は悪い文明だって……っ!!」

「そんなワケないでしょうに!! 正座は良き文明です!!」セイバーッ

「………」

 

 コケながらも匈奴(フンヌ)の末裔に指差すポンコツ勇者、エリザベート・バードリー。ついでに、ローマ五第皇帝にも指を差してやった。

 監督役の我が王は「ふーやれやれ」と言った感じで2人に訊ねた。

 

「貴女たち、喋りましたか? そんなはずないですよねー??」

「「………」」

 

 ………。

 

「ポンコツ・セイバー!! 彼女らは喋ってないですって!!」

「だからポンコツ言うなー!! それに私は喋りましたってバカ正直に答えるわけないでしょー!!」

「………」

 

 もう、あれだ。

 この2人を道場から追い出したら万事解決する気がする。

 ポンコツ勇者は納得がいかない様子で、皇帝様の傍まで這いよって、そのモチモチした頬をぷにぷにした。

 

「よ、余は喋ってなどおらぬ……ッ!!」

「今喋ったじゃん!??」

 

 しかし、今のはノーカンだ。

 

「貴女がほっぺたをつつかなったら彼女も声を発さなかったんですよ!! このウルトラ・ポンコツ・セイバー!!」

「ウルトラ~ッ!? ウルトラって何よ!! アタシはそこまでポンコツじゃないわよ!!」

「あ、今墓穴掘りましたね! そこまでポンコツじゃないってことは、言い換えればちょこっとはポンコツだと認めた証拠ですよ、それは!!」

「う、うううううるさーい!! ポンコツポンコツ言うなー!!」

「………」

 

 なにやら物々しい雰囲気となってきた。完全にポンコツ勇者は瞑想する気は無しだ……

 

「もう怒ったわ……」

「ほほーう、じゃあどうしますか?」

 

 ポンコツ勇者、ついにキレる。

 

「うわー、あやつ、どこからともなく竹刀を取り出したぞ沖田。なんと愚かな」

「ホント愚かですねー。あんな小鹿のように震えた足で謎のヒロインXさんを倒せる訳ないじゃないですかー」

「左様。しかしじゃ、今この場かりはアレよのう。特殊な陣形というか、正座をした儂ら障害物をどう上手く利用するかが勝負の決め手じゃな」

「あ、それゲームみたいで面白そうですね」

「そうじゃろ、そうじゃろう」

 

 うん、もう普通にお喋りしているサーヴァントもいるね。

 そんな彼らのことなどアウトオブ眼中な謎のヒロインな我が王とポンコツ勇者が衝突した。2人のサーヴァントが安全を考慮して手に持つ竹刀同士がぶつかり始めた。

 というか、いろいろおかしいよね。バトルが勃発し出したけど、瞑想中の他のサーヴァント達は微動だにせず正座のままだ。まして刑を執行中の彼もまた、微動だにせず新境地へ入ったままであった。

 我が黒い王も山の如し動く気配すらない。素晴らしい。

 

「さーさー、本日もやってまいりました。ポンコツ勇者VS謎の監督役Xのどうでもいい不毛な争いは、この儂こと第六天魔王・織田信長が実況を勤めさせていただくのじゃ!」

 

「ぐたぐた感ハンパないですが、瞑想中の暇つぶしにはちょうどいいですからねー。あ、じゃあ、私こと沖田さんが解説役って訳ですかー。でもノッブ、これ解説してる暇ないんじゃないですかー? ほら、平然と罰を受けて可憐にもスルーし続けていた英之介さんがとうとう余波で吹き飛びましたよ??」

 

「マスター!??」

 

「おおっとー、暴走するサーヴァント達がマスターの近くでぶつかり合っていたこともあり、流石のマスターもそれに耐え切れず吹っ飛んでしまったー!! しかし、流石は儂のマスターじゃ!! 人望のあるマスターは壁に激突する手前で加藤段蔵に抱きかかえられ着地し、そして何事もなかったかのように瞑想を再開したじゃとー!!?」

 

「あ、オルタさんが足ツボマッサージに、先ほどの5倍はありそうな重りに、熱いお湯が淹れてあるポットを用意してますね。まだお仕置きを続ける気なんでしょうけど……というか、英之介さんの悪運ってメータ振り切ってますねー。まぁその分、サーヴァントを召喚する際、女性サーヴァントしか出ないんでしょうけど」

 

「というか、君達はよくもまぁこんな状況で暢気に実況なんてできるよね……」

 

 剣豪武蔵は呆れ顔で言った。というか、語り手である私はもういらない感じかな?? ぐだぐだな2人に仕事奪われた気分だ。

 

「さて、ポンコツ勇者の足の痺れが取れてきたのか、立ち回りが良くなってきたのじゃ。流石は勇者でアイドルを自称しているだけのことはあるのう。ダンスで培ったきたセンスでこの障害物をくるりとターンし、可憐に優雅になんでおどれらは儂を挟んで打ち合っとるんじゃー!!?」

 

「ぷぷーっ、良い気味ですノッブ。でも、アーチャーであるノッブなら謎の監督役Xさんに制裁受けることないでしょうに」

 

「あっ、ホントじゃ! こんなに喋っててもセイバーされてない!!? アーチャー贔屓されてこんなに嬉しい日がくるとわ是非も無いよねっ!!」

 

 もう勝手にやってればいいと思う。

 さて、彼らのぐだぐだ実況はこの辺にしといて、最後にこんな騒がしさにも関わらず目を閉じ美しくも凜と佇む2人の我が王の様子を窺ってみることにしよう。

 青の王と黒の王

 同じ顔をして別の側面を持つ彼ら。

 の、お腹が鳴っていた。

 

「「………」」

 

 ぐぎゅる~ってね。




おまけ
青の王「黒い私……」

黒の王「なんだ、青い私?」

青の王「お腹が空きました」

黒の王「そうだな。キャットが寝坊しなければ、もっと量があったのだが……」

青の王「あぁ、カルデアに士郎がいてくれれば……」

黒の王「ふっ、ジャンクフードが食べられるのであれば私は無銘のアーチャーである彼でも構わんぞ」

青の王「女性サーヴァントしか召喚できないここカルデアでもう半分諦めてますが、欲を言えば2人来て欲しいものです。そうすれば私の胃袋も満たされるのでしょう。きっと」

黒の王「だが、そうとも限らんものだぞ青い私。一番の美味で濃厚でなのはマスターだからな」

青の王「ッ!??」ゴクリッ

 我が王達から逃げて、英之介くん!!

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