女性サーヴァントしか召喚できないマスターの話をするとしよう 作:れべるあっぷ
この世の中には大人気ない大人なんてどこにでもいるものだ。
たとえば子供の悪戯を笑って許せない大人がいたりする。たかがカンチョー如きにマジギレする大人がいたりする。
というか、このカルデアにもいた。
そう、すなわち彼だ。
「いや、俺だってわかってるんだぜ。たかがガキんちょ共の悪戯だってことはよぉ。マジにキレるほどでもないってことはわかっているんだ。普通の挨拶じゃ飽きたんだろうよ、たまには違う挨拶をして刺激が欲しかったんだと思うんだ。俺がどんな反応するか見てみたかっただけなんだ。俺がどんな挨拶を返してくれるか期待していただけだと思ったんだろ? そうなんだろ? あぁ、分かってるさ。そんなこと分かっているとも。お前たちはどこまでも純粋でどこまでも無邪気で、たとえ俺のサーヴァントじゃなくても可愛い奴らなんだ。俺もホント大人げないとは思うわー。俺も笑ってお前らと挨拶交わしたかったわー……でもなぁ、カンチョーだけは話は別なんだよ!!」
「「「………」」」
指で印を結び、忍法・カンチョーの術の構えをしてぶつぶつ言っているのは、人類史を救う者の姿には到底見えなかった。
まず、何故こんなことになっているか、説明は必要だろうか。
早い話、彼が用を足して食堂へ向かう途中にとある子供サーヴァント3人組出くわし、挨拶にカンチョーされて激オコなわけである。
まぁ、子供だろうとサーヴァントである彼らにカンチョーされるのは危険も伴うだろう。だけど、彼が腹を立てているのは相手がサーヴァントだからではなく、子供にやられたから怒っているのだ。
だから、大人気ないという話。
もう一度言うが、これから世界を救う英雄になる男には到底見えなかった。
「お前らさ、カンチョーの恐ろしさナメてるだろ?」
「そ、そんなことないよ?」
相手がかの有名な切り裂きジャックであろうと容赦しないだろう。
「お前らはさ、カンチョーされた奴の気持ちを考えたことないだろ?」
「お、お兄さん、おめめのハイライトが無くなってきてるの……っ!?」
相手が童話の少女だとしても手加減しないだろう。
「お前らは一体全体、俺をまたあの暗黒時代に戻すつもりかよ。俺はこれからお前らにウンコたれと指差さされて人理修復していくんだろうな!!」
「なんの話ですか!? ちょっと落ち着いてください!!」
相手が聖女様の黒くてちっこい女の子であろうと泣くまでお仕置きするだろう。
「トナカイ2号さん、わかりました! 私たちが間違っていました! 論理的にいって、ごめんなさい!」
「「ご、ごめんなさーい」」
「もう謝っても許さん! ケツをこっちに向けてパンツを脱げぇい!! 俺様のゴッドフィンガーの餌食にしちゃる!!」
「ふえ!? それはロジカル……もといセクハラですよ!!」
「セクハラ? それは違うな、オルタちゃん。これは教育だ。君達が挨拶をして、俺もその挨拶に応える。君達は社会をちゃんと勉強しなくちゃならない。じゃないとロクな大人になれないからな」
「でも大人気ないお兄ちゃんはロクでもない大人のような……」
「シャラップ!! ジャックちゃんも言うようになったねぇ。でもな、ちゃんと挨拶をしたら相手の挨拶も受け止めなくちゃならない。その基本もできない大人だけはなったら駄目だよ!!」
「であればパンツまで脱がなくても……っ!!」
「じゃあパンツ越しからだったらいいんだな?」
「あっ……今のは違うんですっ///」
「はい論破!! もう弁解の余地もありませーん!! ほらっ、さっさとお尻こっち向けて突き出す!! オルタちゃん、早くぅー!!」
「ふぇえ………///」
なんだか楽しそうだね、彼。
なにはともあれ、世界を救う前にいろんな意味で彼を救ってあげた方がいいと思うけどね。でも、私の心配には及ばなかった。
童話の少女が決死の覚悟で持っていた分厚い本を、この人類悪へ叩きつけた。
「ぐげーっ……おい、普通に痛いんですけど!?」
「皆、今の内に逃げるの!!」
「うん、わかった!! オルタちゃん、早く行こっ!!」
「は、はい……っ!!」
「おい待てガキども!!?」
ジャック・ザ・リッパーに手を握られたオルタ・リリィ。
子供たちは二手に分かれてこの場から去っていった。
1人、ポツンと取り残された彼は惨めな気持ちになった。自業自得はいえ、あまりにも惨めだった。もう子供たちのことは放っておいて食堂へ向かい朝食を取るべきなのだろう。
でも、彼にはできなかった。
できない理由があった。
それは子供の頃のトラウマがあったからだ。
「目には目を、歯には歯を、浣腸には浣腸を……」
彼は子供たちのお尻を見たいワケじゃない。ロリコンではない。
彼はカンチョーによって引き起こされる悲劇があると子供たちに伝えなくちゃならなかった。
だから、彼は何がなんでも子供たちにカンチョーをやり返すと決めたのだ。
「ふはっ、ふははっ、ふはははっ、ふははははっ、ふはははははっ、ふははははははっ、ふはははははははっ!!」
彼は高らかに笑い、子供たちの後を追いかけた。
☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、聖戦の幕開けである。
まず、彼が向かったのは何故かロマニ・アーキマンの部屋だった。現在のカルデア内医療トップにして、もっとも権力のある三十路間近の独身男の部屋へ訪れた。ヒトは皆彼のことをドクター・ロマンと呼ぶ。
「やあ、おはよう英之介くん。朝から僕の部屋に遊びにくるなんて珍しいね」
「そうでもないさ。ロマンの部屋の前にこんなもんが落ちていたんでな」
「おや? 彼女のしおりだね、それ」
それは読書の時に使われている本の栞だった。
童話の少女ナーサリー・ライムがよく愛用しているものだと一目見てわかるものだった。それを落とすなんて無我夢中で逃げ場所を探していたのだろう。
彼はドクター・ロマンにことの成り行きを説明した。
「俺も大人気なかったとは思う。だから、俺が怒っていたワケを説明してガキんちょ共に分かってもらいたいんだ」
「なるほどね。君の気持ち、ボクにもわかるよ。ボクもそっち側の人間だったからね。引越しするまで、そりゃ汚名を被った暗黒時代だったものさ」
「おお、俺の気持ちもわかってくれるのか。流石はロマンだな」
「というか、サーヴァントにカンチョーされてお尻は、その、痛まないのかい??」
「ふっ、俺はあの暗黒時代があったからな、二度とウンコを洩らしてたまるか根性でケツ筋鍛えてたからな……それなりに平気だぜ」
「そ、そうなんだ……」
「それじゃあ、ナーサリーを出してくれ」
「え、いやいや、それはできない。ナーサリーはここにはいないからね」
「ふむ……」
考える素振りをするや否や、彼は素早く行動に移した。
ただ、当てが外れたか、彼は遠慮なく非常識にもクローゼットを開いてみたが、童話の少女の姿はなかった。マギ☆マリのグッズで散乱しているだけだった。
他にもトイレ、ベットの下、デスクの下、漁れるところは全部漁った。
「ボ、ボクのこと、ちょっとは信用してくれてもいいんじゃないかなー……」
「信頼はしてるさ。だけど、ロマンがちょっと席外した隙をみて侵入してる場合もあるだろ? ロマンは何も知らなかった……ってな」
「そ、そうだね……」
「あーここだと思ったんだけどな。他あたってみるわー」
「あ、その栞は……??」
「人質は必要だろ??」
「………」
童話の少女は栞を返してほしければ、必然的に彼の前にもう一度顔を出さなければならなくなった。これで1人目を抑えたのも同然である。
で、デスクに置かれたドクター・ロマンのイチオシのお菓子を1つ、2つ、ひょいと手に取り、その場を後にするのであった。
「あっ、ボクのお菓子……」
「………」
無常にもドアの閉まる音だけがした。
☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、残り2人はどこへやら。
この広いカルデア内で始まった鬼ごっこ、又は、かくれんぼ。それは果てしなく壮大で大変だ。だけど、案外すぐに決着するだろうと彼は読んでいた。
何故なら、彼は1人で子供達の相手をする気など、さらさらなかったからだ。
「
「マスター、お呼びですか?」
ぬっ、と背後から姿を現したのは彼のサーヴァントのアサシン。隠密行動に長けたサーヴァント。
日頃から暗躍しているだろうから、彼がこれまで数々の特異点を生き延びてきたのも彼女の活躍は大きいわけだが。時たまバーサーカーの狂気に当てられて手を焼くこともあるのだが、それはまあ置いといて。
彼は勝負に勝つためなら手段を選ばない。
彼は彼1人で子供たちを捜していると見せかけてでも、この勝負に勝つつもりでいた。いや、もうなんの勝負かわからないのだけど。
「
「それは………」
彼をがっかりさせてしまったと思い、しょんぼりする静謐のハサン。
彼は落ち込む彼女の頭を撫でてあげた。
「あ、いや、別に責めてるわけじゃないんだぜ?
彼はちんまい女の子が隠れられそうな所はくまなく探したはずだった。
「であれば、霊体になって隠れた可能性があります」
「もしくは、彼女自身が
「マスターは机の下じゃなく、引き出しの中を探すべきでした」
「まあ、いいさ」
彼がその答えに辿りついた時にはドクター・ロマンの部屋を出た時だった。もう一度、中に入って本棚や、デスクの引き出しを片っ端から探すこともできただろう。
しかし、彼はそれはしなかった。
リスクが高かったからという理由もある。あまり追い込み過ぎると返り討ちをくらう可能性もあった。
その場合、彼はひとたまりもない。
だから、彼女には一時の安心とまだ彼が彼女を狙っているという緊張感を与えるだけに留めた。それだけで良かった。
もうすでに勝利の方程式も彼の頭の中で完成されていた。
子供3人相手だろうと全力を持って狩るのみだ。負ける要素は一切無し。
「
「はい、マスター」
さあ、大人気ない彼の物語はまだ終われない。
とにかく逃げて、ジャック・ザ・リッパー。
おまけ
ここは食の戦場・カルデアキッチン。
???「むっ、マスターの姿が見えないのだが……」モキュモキュ
エリちゃん「え? 子イヌのやつ、まだ来てないの?」
クロエ「マスター、なんか急いでたみたいですよー」
イリヤ「英之介さん、お花を積みにいくとか言ってましたね」
ブリュえもん「お姉様っ、シグルドはどこですかっ!!」
邪ンヌ「ああ、もう、食事ぐらい黙って食べなさいよ!! 口開けて喋らない!!」
頼光「あらあら、マスターならお手洗いに行かれたはず……にしては遅すぎますねぇ。立夏さん、マスターは食事前にお手洗いに行かれたのですよね? 本当にそれだけですか?」
立夏「えー、そこで私に振っちゃうんですかー? トイレ行くしか聞いてませ~ん」
???「マスター……」
立夏「ん? そんな深刻な顔してどうしたの? アタランテ」
アタランテ「子供たちの姿も見えないのだが……」
立夏「あっ」
頼光「あらあら……」
邪ンヌ「なに、アイツがどうしたっていうのよ??」
ブリュえもん「シグルド……シグルドはどこ……??」
イリヤ「これって、アレかもしれないね」
クロエ「うん、きっとアレだわ。アレしかないでしょうに」
エリちゃん「まぁ、いつもの事だし」
アタランテ「あのロリコンめ、許さん……」
???「………」モッキュモッキュモッキュモッキュ
続くっ!!