女性サーヴァントしか召喚できないマスターの話をするとしよう   作:れべるあっぷ

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彼のグッドモーニングな話をするとしよう

 彼は背伸びをした。

 瞼をこすり、欠伸をして背伸びをした。目覚まし時計の如く、メイド・オルタの来訪で幾分かは目覚めも悪いが、まだ眠たそうだ。

 朝食のために食堂へ向かう。

 その足取りはおぼつかず、ただ単純に先のダメージが響いているだけなのかもしれないが、やはり今日までの疲れが溜まっているだけなのだろう。

 ここは桃源郷・カルデア。

 人理焼却を防ぐために、一般人でしかない青年少女に全てを託し、命を掛けた戦いを繰り広げる人類最後の特務機関。

 しかし、青年の疲労はそれだけじゃなかった。

 彼にとって人類史を救うことより、サーヴァント達と円滑なコミュニケーションを計る方が超高難易度ミッションじゃないだろうか、という現状問題。

 魔境の地・カルデアとも言うがな。

 世知辛い環境下になったな~、と彼はため息をついた。

 ぼんやりと外を見れば猛吹雪の悪天候。心も沈むってものだ。

 

「ふわぁ~い、英之介さんおはよー」

「あぁ、おはようさん。立夏……。」

 

 彼にとっての救いはカルデアにはたくさん良識のある人たちがいること。たくさんの癒しがまだ残されていること。慰めてくれる人がいるということだ。

 変なのは彼と彼の周りだけ。

 同じマスターである藤丸立夏は至って普通。男のサーヴァントはいらない! 美少女だけでいいのよ! と宣言するぐらいのジョークを言える女の子だということ。

 うん、普通だと思う。

 

「あれ? マシュは??」

「起きた時にはもういなかったかなー。なんか、今日の朝早いからって言ってたのは聞いてたんですけどー」

「そうかいそうかい、それで立夏はパジャマ姿のまんまなんだな」

 

 このスットコドッコイ、と彼は笑うことにした。

 

「あ、もしかして~、私のパジャマ姿に欲情してくれたり?」

「ふっ、お嬢ちゃん。ボタンが一個ずつズレてるぜ」

「きゃっ。やだ、エッチ、スケベ、頼光さんにチクっちゃうぞ♥」

「………」

「まーそんなことよりも。英之介さん、随分のんびりしてますねー……早く行かないと!! 朝ごはん!!」

「こらこら、手を引っ張るもんじゃないよ、君。落ち着きたまえ。朝ごはんは逃げないさ」

「何を言ってるんですか、このスットコドッコイ!!」

「俺がス、スットコドッコイ……」

 

 今日日(きょうび)、スットコドッコイなど聞かないが。

 

「腹ペコ王達に朝ご飯全部食べられてもいいっていうんですか!!」

「それは困る!!」

「なら早く行きましょう!! ほら駆け足!!」

「だが断る!!」

「なんでさ!!?」

「小便行ってくる!!」

「サイテー!!」

「俺の席も取っといて、よろしくー!!」

「ふざけんなー!! だけど、そんなとこも素敵だと思いますよ!! たぶん!!」

 

 だけど、この借りはいずれ……と、彼と廊下で別れた後に少女は悪い笑みで呟いた。

 

「ぐふふっ、今度はどんな悪戯で英之介さんを困らせてやろっかな~♪」

 

 そんな声も聞こえた気がする。

 

 

 

 

☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 部屋を出る前に何故用を足さなかったと彼らは言う。

 

「あ、子イヌだ、おはよー……って逆走してどうすんのよ。食堂行くんでしょ? あっちよ」

「おはよーだ、エリちゃん。だが、食堂にはまだ行かない! あばよ~!!」

「なんでよ!?」

 

 タッタッタッタッタ……。

 カルデアには職員用のトイレもあるが、現在位置からは彼の自室の方が近かった。ので、すれ違う者たちに逆走していると解釈されてもおかしくなかった。

 

「あ、マスターだ。おはー」

「英之介さん、おはよー」

 

 タッタッタッタッタ……。

 健康的な褐色ロリ……もとい、彼が召喚したサーヴァントと、それに対をなす、オリジナルの少女サーヴァントとすれ違った。

 

「クロエにイリヤちゃん、おはー」

「あれ、どこ行くのー?」

「食堂はあっちですよー??」

「うふふ、お花摘んでくるのよー」

「「あ、うん、あっそ……」」

 

 彼のオネェジョークは少女たちに不評だった。最近の小学生はドライであった。ちなみに、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは少女・立夏の召喚に応じたサーヴァントである。

 

「ああん、お姉様ぁ~、私を置いていかないでくださいまし……っ!!」

「ええい、くっついてんじゃないわよ、まったく……」

 

 タッタッタッタッタ……。

 そして、また別のサーヴァントとすれ違った。

 

「よっ、邪ンヌにブリュえもん。今日も仲がいいな、おはよーさん」

「あ、ちょっとアンタいい所にって……誰のせいだと思ってんのよ!! ってちゃんとアタシの話聞きなさいー!! 食堂はあっちよー!!」

「ああああああああシグルドお姉様ぁぁあああああああ!!」

「アタシはシグルドじゃないつってんでしょうが!! シグルドはあの馬鹿よ!!」

 

 タッタッタッタッタ……。

 去っていく彼の背中に向けて指を差す。

 

「え、それは本当なのですかお姉様っ!?」

「え、ええ、本当よ……アタシが嘘をつくはずがありません」

 

 顔を逸らし、しかし、嘘を真実にしてしまえばいいのよと黒い方のジャンヌ・ダルクは自分に言い聞かせるのであった。

 

「あら、マスター?」

 

 タッタッタッタッタ……。

 

「ら、頼光さん、おはようございますです」

 

 タッタッタッタッタ……ダダッダッダッダダダダダダッ…………ガシッ!?

 

「はい、おはようございます。今日も朝からお元気がいいのですね」

 

 彼は腕を掴まれた。

 

「ですけど、廊下を全速力で走っては危ないですよ。転んでお怪我をなされたらどうなされるんですか?」

「いやいや、ちょっと過保護過ぎやしません? ガキじゃあるまいし、そんなもん、俺ぐらいのレベルになれば受け身ぐらいとれますよ」

「うふふ、それでも母はマスターのことが本当の我が子のように心配なのですよ」

「あ、うん、ども……」

 

 なかなかのレアだ。素でテレる彼は珍しい。

 しかし、彼は気になったことがあった。何故、この母は手を離してくれないのだろか、と。

 

「あー、まーあれです頼光さん。諸事情につき急いでたんですよ」

「あらあら、今は朝食を摂るお時間ですものね。しかし、マスターは血相を変えるほど急いでいた。さては、何か忘れ物を取りに自室へ向かうつもりだったんですか?」

「そ、そう! それ!! 頼光さんは俺のこと何でも知ってるね!!」

「うふふっ、嫌ですわマスター。母として当然じゃないですか」

「と、当然なんだ……」

 

 母の腕力に勝てない。ずりずりと引き寄せられる。

 

「母は息子のことなら何でも知っているものです。世界万国共通概念ですよ、マスター」

「ら、頼光さんがおっしゃるならその通りなんでしょうね」

「ですから、マスターが嘘をついているのも直ぐに見抜けるというものですよ。本当はお手洗いに行かれるのですね」

「………」

 

 彼のことは何でも知っているというか、もはやエスパーだ。

 

「ささ、マスターのお部屋に戻るよりもわたくしのお部屋をお貸しします。どうぞ、中へ」

「」

 

 呼び止められた場所は頼光の部屋前だったということ。それだけは不味い。

 

「どうなされました? さあ、早く……早く用を足して食堂へ向かいましょう。母が見ていてあげますから」

 

 もうそれは罰ゲームなのでは?

 

「今さら何も恥ずかしがることはないというのに。およよ、母は言う事を聞いてくれない息子をどう説得すればいいというのでしょうか」

「いやいや、いろいろ誤解はあると思うんだけど、頼光さんの好意も嬉しいんだけど、俺の部屋に戻る用事があるってのも今思い出したんだって。そう、あれだ、スマホ。スマホ持って来るの忘れちゃって……えと、立夏の奴が寝ぼけてパジャマ姿で食堂行ったんだよ。それを写メってからかってやろうと思ってさ。で、ついでにトイレも行っときたいなーって」

「あらあら、そういうことだったのですか。てっきり、母の寝室には入れるか馬鹿野郎とグレたのかと思って……およよ」

「そ、そんなんじゃないって!! それに頼光さんには重要なミッションをお願いしようと思ってさ。立夏には席取っといてって言ったけど、本当に取っといてくれるか分からないから信頼できる(戦闘に限る)頼光さんにお願いしようかと……」

「うふふっ、それならそうと早く言ってくださればいいのに。わたくしめを頼りにしてくださるなんて、もう嬉しゅうございますぅ♪」

「ごは……っ!?」

 

 思いっきり抱きしめられた。ダメージを負うほどの(バーサーカー)の愛が彼を包み込んだ。

 

 

 

 

☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 さて、マイルーム前。

 

「ぜーぜー、やっと辿りついた……」

 

 あの後、自室までのコースを変更した。なにやら不穏な気配(きよひー)をいち早く察知した彼は遠回りをして自室へ戻ってくるのであった。

 しかし、

 

「なんだこりゃっ!?」

「むっ、その声はご主人様か?」

 

 驚くのも無理なかれ、破壊された今は亡きドアがあった入り口には清掃中の看板が立っている。

 どこぞの清掃業者の陰謀論でも渦巻いているかの如く、現在自室はダ・ヴィンチちゃん印の洗浄マシーンが床を水浸しにしているのであった。それをメイド長がモップで拭き取っているという具合に……

 

「貴様、何をしている?」

「そのままそっくり返させてもらうぜ。貴様こそ何をしている??」

「見ての通り清掃中だ。ドアが大破してしまったからな」

「お前が壊したんだよバーロ!!」

 

 何も悪びれることのないメイド長。

 ドアを破壊しただけで水浸しにしてまで清掃することなかっただろうに。ついに彼も我慢の限界だった。が、メイド長が逆ギレした。

 

「おい、貴様っ!! 清掃中に土足で入ってくるなっ!!」

「いやっ、ここ俺の部屋!! 便所行くだけだって!!」

「それも駄目だ!! 共同トイレへ行けっ!! 汚れに汚れきっている貴様のトイレを『ダ・ヴィンチちゃん印・便所掃除もコレ一本で楽々☆クリーンバスター』でもっぱら浄化中だ!!」

「なんでお前がキレてんだよ!? つーか、なんかトイレのドアがガタガタいって泡漏れてんですけど!? おいおい本当に大丈夫なんだろうなっ!??」

「ふっ、案ずるな。貴様が朝の稽古を終えた時にはキレイさっぱり真っ白になってるだろう」キリッ

「それってトイレが吹き飛ぶとかそういうオチじゃないだろうなっ!??」

「そんなことより朝食をさっさと取って来い。このスットコドッコイめが!!」

「………」

 

 チクショー、と彼は現実逃避してその場を去るのであった。

 頑張れ、英之介くん。




おまけ

英之介「はぁ、やっとトイレに行けた。おしっ、次は朝ごはん食べに行くか!」

 ついに、職員用共同トイレで用を足した。
 しかし、さらなる刺客が彼の前に立ちはだかるのであった。

???「あ、お母さんだ♪ おはよー」カンチョー
英之介「っ!?」
???「あ、その人はマスターじゃない方なの」カンチョー
英之助「っ!?」
???「よく見て、マスターが将来のお婿さん候補に情けで入れてあげている、お兄さんなの」
英之介「………」
???「あ、本当だ。お母さんのおっぱいとお尻ばっかり見てるダメダメなお兄ちゃんだ。じゃあ、カンチョーじゃなくて解体していい?」
???「解体はよくないと思うの。マスターのオモチャ……じゃなかった。お兄さんが死んじゃったらマスター悲しむもの」
???「お母さん、悲しむの? だったら解体しな~い」
英之介「………」
???「あ、トナカイ2号さん、おはようございま~す♪」カンチョー
英之助「………」ササッ
???「な、なんで私の挨拶(カンチョー)だけ避けるんですか!? そんなのはロジカルじゃないです!!」
英之助「………」
???「あ、あれ? 怒ってます………??」
英之介「別に怒ってやいないさ。そんなことよりもだ、キュートなお嬢ちゃん達。朝から元気がいいね……おはよう」
???「「「………」」」
英之助「まさか朝から俺と遊びたがってるとは思ってもいなかったさ、何して遊びたいんだい? 鬼ごっこ? かくれんぼ? それとも、まだカンチョーごっこ、やるか?」
???「「「っ!?」」」

 ゴゴゴゴゴゴゴ………
 忍術の印を結ぶかのように構えた英之助くん。さあ、彼は果たして無事に食堂へたどり着けるのだろうか。

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