女性サーヴァントしか召喚できないマスターの話をするとしよう   作:れべるあっぷ

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彼のスケジュール管理の話をするとしよう

 朝7時ジャストに彼の部屋へ訪れるサーヴァントをご存知だろうか。

 否、侵入してくるサーヴァントと表現した方がいいのだろう。たとえ、鍵を掛けていようがセキュリティを強化してようが、扉を宝具でぶち破ってくるサーヴァントを諸君らはご存知だろうか。

 

不撓燃えたつ勝利の剣(セクエンス・モルガーン)っ!!」

「なにごとーーー!??」

 

 マスターの部屋を破壊してでも侵入するサーヴァントはいくらでもいるが、毎日決まった時間に律儀に真面目に一秒の誤差なくやってくるのは彼女だけだ。

 彼に理想の生活を強要する黒を基調としたメイド姿の少女。

 彼の最初のサーヴァント。

 モップで戦うメイドさん。

 通称、メイド・オルタ。

 

「起きろ、ご主人様。朝だ、二度寝は許さん!」

「」

 

 奇妙なことに我が王の別側面から現存する、アルトリア・ペンドラゴン・オルタの姿がそこにあった。

 彼の女難はここから始まったのだろう。

 

 

 

 

 

☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 未来観測領域の消失。

 人類史は2016年をもってして終了することが判明した。

 これに対して人理継続保障機関カルデアは本来観測されるはずがない過去の特異点、2004年に聖杯戦争が行われた冬木に原因があることを突き止め、原因の解明に47名のマスター候補を現地に送り込みファースト・オーダーを発令した。

 が――――――、事件が発生した。

 カルデア内にて爆発事故、その場に集められていたマスター候補や職員が巻き込まれ死傷者を出す大惨事となった。

 マスター候補47名の内46名が永久凍結を余儀される中、なんとも皮肉なことに、生き残ったのは一般人採用で召集された藤丸立夏という少女だ。そんな彼女とカルデアにいたサーヴァントと融合を果たし生き延びたマシュやレイシフトに巻き込まれた所長のオルガマリーと共に、カルデアからドクター・ロマンのバックアップの下に冬木の町の調査をすることになった。

 途中で聖杯戦争の唯一の生き残りである光の御子、クー・フーリンと共闘関係を結び迫り来る脅威を排除していった。

 人類の命運をかけたそういう物語。

 でも、違った。

 まだ、彼が登場していない。

 そう、まだ彼の物語は始まっていなかった。

 

「ほう、面白いサーヴァントがいるな」

「先輩、目標サーヴァントを確認。ラストバトルです。戦闘開始します……っ!!」

 

 彼の物語はここから始まる。

 舞台はいきなりクライマックス。特異点の原因であり、洞窟内で大聖杯を守っている敵サーヴァントと対峙した。聖杯によって泥に染め上げられた我が(セイバー・オルタ)とマシュが宝具を展開する。

 

約束された勝利の剣(エクスかリバー・モルガーン)――――――っ!!」

人理の礎(ロード・カルデアス)っ!!」

 

 お互いの宝具が激突した。

 暴力的な魔力の塊がマシュを襲いかかり、対してデミ・サーヴァントであるマシュは融合したサーヴァントの真名もわからない状況下で仮想宝具の疑似展開で対抗してみせた。

 だから、彼はそこを狙った。 

 今から思えばこれも彼の計算の内だったかもしれない。

 洞窟内に響き渡り唸り狂うエンジン音。暗闇に紛れていた漆黒のマシンが姿を現した。大型二輪のバイクに跨っているのは見たことのある顔のメイドと、見たことのやるような、どこにでもいてそうな面をしているが、不適に笑う青年。それはまるで招かざる客がおこがましくも現場に押しかけたように、誰もが彼らの登場を予期してなどしておらず―――――、

 

「「「「え、誰――――っ!??」」」」

 

 ヒーローは遅れて登場した。そして、メイド長は狙撃銃を構えた。

 

「令呪を持って命ずる。宝具の解放だ、メイド・オルタ……っ!!」

「承知した、ご主人様―――――――洞窟内を駆けるは不撓(ふとう)の魔弾。ロック! 不撓燃えたつ勝利の剣(セクエンス・モルガーン)―――――っ!!」

 

 まさか、藤丸立夏以外のマスター候補がここへレイシフトいたとは誰も予想がつかなかっただろう。

 まさか、あの地獄を自力で生き延びサーヴァントを召喚していだだなんて想像もつかなかっただろう。

 まさか、敵も宝具ぶっぱしている横腹を同じ顔のサーヴァントに狙われるとは思ってもみなかっただろう。

 

「ぐぅ、私の顔真似したライダー風情が……つけ上がるな……っ!!」

 

 クラス補正もあってセイバー・オルタはかなりのダメージを受けるもしぶとく生きていた。

 そして、ターゲットをマシュからメイド・オルタ及び彼に変更し、また宝具を解き放つために漆黒に染まる聖剣を天に掲げた。

 先ほどよりもさらに膨大な魔力を収束していく。

 

「私たちの時は本気じゃなかった……っ!?」

「駄目、避けて――――っ!!」

「いや、俺たちの勝ちだ!!」

 

 セイバー・オルタの宝具が発動するよりも先に2人は動いていた。

 宝具(ビーム)を放つのではなく、宝具(マシン)で敵に突っ込んでいった。セイバー・オルタはそれを受け止め――――たまらず、しがみつくことしかできなかった。

 

「ぐぅ……まだわからないのか、これでは私を倒せないと……」

「わかってないのはお前の方だよ。俺たちの勝ちは揺らぎはしない。そうだろ、キャスター……っ!!」

「あー坊主、そういうことかよっ!!」

 

 洞窟前で敵サーヴァント・アーチャーと殺り合っていたクー・フーリンが駆けつけて、宝具を発動させた。

 

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)―――――ッ!!」

 

 セイバー・オルタの背後に展開された、巨大な人型木人形の胸元にある扉を開き、そこにフルスロットルで突っ込んでセイバー・オルタを押し込んだ。

 

「「「「「お前らも入るのかーい!!?」」」」」

 

 勢い余って彼ら3人仲良くマシンごとウィッカーマンの中へダイブしていった。

 思わずツッコミを入れてしまうぐらい衝撃的な光景だったに違いない。キャスターもキャラ崩壊待ったなしレベルだ。

 

「アイツ、バカなの!?」

「バカがいる! 本物のバカがいる!?」

『彼の身元が判明したよ。マスター候補の1人、一般人枠の逢道英之助(あいみちあいのすけ)くんだ。たぶんバカだけどね』

「先輩も所長も、ドクターも彼らの心配してください!! でも、あの人たちきっとバカです!!」

 

 バカだバカがおるぞ、と2人に悪態をつくカルデアメンバー諸君。

 

「あー、嬢ちゃんたち。その馬鹿共が、いや、坊主はメイドに担がれて無事脱出したみたいだぜ。馬鹿だけどな」

 

 なにはともあれ、彼らはウィッカーマンの中で敵とやり過ごし、上手く自分達だけ脱出することに成功したようだ。

 

『所長、敵サーヴァントの消失確認しましたっ』

「本当に倒したっていうのっ!? うそ、信じられない、あんなのがっ!?」

 

 敵の黒い方の我が王も不憫でしょうがないけども。

 彼女はウィッカーマンの中から脱出することができず炎の檻の中に囚われ焼却された。

 トドメを差したのはクー・フーリンではあるが、敵サーヴァントを追い詰め追い込んだのは、その一役を担ったのは間違いなく彼ら。あんなの呼ばわりの彼らだ。

 

「ふっ、君達、怪我はないかい?」

「「「「………」」」」

 

 格好つけたい年頃なのだろう。20歳だが。

 彼は遅れてきたヒーローを演じ、爽やかな笑みを見せ、カルデアメンバーに声を掛けた。米俵を担ぐようにメイドに担がれる彼は後ろを向いていたけども。

 格好つけようとして初めて羞恥を知り、人は強くなっていくとも言うだろう。

 

「こ、これにて一件落着っ」

「清掃完了。メイド稼業も悪くはないが、オチもないがな」

「フォウ………」

 

 やれやれ、とキャスパーリーグが皆を代弁していたことが、またシュールだったけどね。

 こうして彼の物語は始まっていく。

 まるで、これを序章にして、邂逅にしていくように……星の導き手に導かれ、彼らの運命が今決まった。

 ただ、まだこの時までは後に起こる悲劇を誰も彼も知る由もなかった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――☆

 

 

 

 

「では、本日のスケジュールを伝える」

 

 回想も終わり、あれから幾ばかりか日も経ち、彼女との絆も深まりし、深まり過ぎた彼の朝は今日もやってくる。

 

「午前7時15分に朝食」

「おけ」

「午前8時から朝の稽古」

「うん」

「午前9時からブリーフィング」

「うん」

「午前9時半から正午までレイシフトにて種火周回」

「うん……」

「正午0時に昼休憩。昼食を取れ」

「おけ」

「午後1時から周回の続き」

「うん……」

「午後4時から騎乗稽古」

「う~ん……」

「午後5時からブリーフィング」

「うん」

「午後6時からフリータイム」

「おけ」

「午後7時から夕食」

「おけ」

「午後8時から入浴」

「あ、うん……」

「午後9時には就寝……」

「俺は多忙な小学生かっ!!」

 

 多忙だが、午後9時就寝というのがミソだ。

 

「おっと失礼。午後9時からダ・ヴィンチちゃんの座学コーナー」

「うんこ。もう一度言うがアレはうんこ……」

「午後10時から夜の騎乗稽古。今夜は私の番だったな、ふふっ……」

「やだ……」

「午後12時、就寝」

「つ、辛すぎるぜ、カルデア」

 

 徹底的なスケジュール管理。メイド長による逢道英之介掌握術。理想の生活は、実現されつつあった。

 

「それではご主人様、本日も理想のために強く生きましょう」

「」

 

 彼は、もう何も言うまい。




おまけ
    ???「にゃっ、いったいにゃに事だワン!?」
メイド・オルタ「貴様、何故ご主人様のベットで寝ている?」
    ???「昨日はアタシの番だった、ワン!!」
メイド・オルタ「なにを偉そうに……いや、そうじゃない。何故この時間帯まで、まだご主人様のベットで寝ていると言うのだ、タマモキャット。今日のカルデア・キッチン担当は貴様だろう!! 私達を餓死させる気か!!」
タマモキャット「しまったワン!!?」
      彼「」
メイド・オルタ「カルデア・キッチンは戦場だとあれほど教えてやったというのに貴様という奴は……」
タマモキャット「というか、ご主人が吹き飛ばされた扉の下敷きになって白目剥いてるのはスルーかワン!??」
メイド・オルタ「ワンワンうるさいぞ、とっとけ逝け、ハートブレイクモルガーン!!」
タマモキャット「宝具と見せかけてモップで攻撃するとか酷いワン!」
      彼「」

続く・・・

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