本日連投していますので、これは四つ目です。まだちあきトラップ15、16、17をご覧になってない方は、先にそちらをご覧ください。
後日談、というか今回のオチ。
いや、本当は、オチなんかじゃないのかもしれない。
オチなんてご丁寧なものは用意されちゃいないのかもしれない。
いきなり否定から入ってしまうが、しかし僕にはそう思えた。そう思わずにはいられなかった。
人間として落ちぶれてしまい、化け物としても──文字通り地の底である地獄にまで落ちに落ちたことのある、この僕は。人生なんて、未来なんて、そんな将来に抱く希望なんてものをあの春休みにうっかりと落としてしまった僕は、既にオチに辿り着いてしまっているのかもしれないし、実のところまだこのお話には続きがあって、これはオチなんかじゃないのかもしれない。
こんなにも消化不良な結末で──オチなんて、来ないのかもしれない。
そもそもオチがあるなんて高望みを、僕はしちゃいけないのだろう。
絶望が絡みに絡み、やがては主軸となってしまったこの一連の物語は、まだ序章に過ぎないのかもしれないし、あるいはまだ始まってすらいないのかもしれない。世界規模の絶望的な事件の幕開けは、まだ日の目を浴びていないのかもしれない。未だに前日譚の域を超えていないんじゃないか──なんて、嫌な考えが頭をよぎる。
そのまた逆も然り。もしかしたら、僕の気付かぬところで、このお話は始まっていたと言われれば、そうなのかと納得できるし、あの春休みが本当の起点だったと言われても、僕として異存はない。ひょっとして、実はもう終わっていて、今はまた違うお話がスタートしてしまっているのかもしれない──そんな可能性だって、ないわけじゃなかった。
──違う。
これはただの、現実逃避だ。
なんていうことを言われてしまえば、まさしくその通りであると、僕は首を縦に振るしかないだろう。軽々とではないが、しかし容易く頷くことが出来るだろう。
ともかく、物語はここで終わる。
幕を下ろすのではなく、劇場が崩壊するといった形で、物語は終わる。
誰が何と言おうとも、たとえ神が口を出そうとも、終わるのだ。
さよなら、僕の青春。
もう行くこともないだろう、僕の母校──
たった一瞬のうちに──いや、準備自体は随分と前から行われていたのだろうが、それでも瞬きをする一つの間に起こってしまったのだ。血に塗れ血を血で洗い、血が血を読んでしまうような凄惨劇が、僕の母校である希望ヶ峰学園で。
僕はそれを止めることができなかった──防ぎようもなかった。
いったい僕は、どうしたらいいんだ?
どうすれば、よかったんだ?
陽が落ち、斜陽が差し込んでいた教室はすっかりと暗くなってしまい、夕陽とは打って変わって月の
制服が汚れることを躊躇うことなく、僕は七海のそばに立ち寄り、膝をついた。
赤い波紋が、僕と七海を包み込むようにして広がった。
改めて──七海の顔をじっくりと見てみる。暗いからよく見えないが、それを引いても、とても美しい顔立ちだと思えた。到底、死人の顔とは思えない──
そっと七海の体を抱き寄せ、強く抱擁をする。その体は既に動かぬ死体であるため暖かさというものは失われてしまっているのだが、まだ柔らかく、そして軽かったため、安易に僕の胸元へ引き寄せることができた。そして強く強く、七海の体を抱き締めた。もう魂が抜けてしまい、ただの屍であることは百も承知であるが、手放したくないという気持ちがとても強かった。
「……なあ、七海」
僕は問いかける。
喋ることのない死体に、問いかける。
「僕は一体、どうしたらよかったんだろうな……」
自然と目元から涙が流れ、頬を伝った。
恩人を救えなかった悲しみ。
友人を救えなかった悲しみ。
そして──好きだった人を救えなかった悲しみが、僕を襲った。
今になって、自分が七海に抱いていた感情を、理解した気がする。
そして、僕の流した涙が吸血鬼が故の血の涙なのか、それとも純粋な人間としての透明な涙なのかは、僕にとってどうでもよかった。
どうせどちらも成分は同じであるし、感情論で言っても、大差はなかったからだ。
涙を拭うことなく、僕は七海の顔を再度見つめる。そして、溢れる涙を更に流しながら、何を思ってか、僕は七海に唇を重ねた。
その姿を見て、老倉はどう思ったのだろうか。視界の端に映る老倉は、ギュッとスカートの裾を握り、視線を逸らしている。
──僕のファーストキスは冷たいものであり、決して甘酸っぱい恋の味などではなく、鈍い血の味がした。
『阿良々木暦は望まない《歩物語》』はいかがだったでしょうか。
一応、少し憧れていたあとがきのようなものを、気付いた頃に後から書きますので、また思い出した頃に活動報告の方で見てやってください。まだこのお話は──阿良々木くんの、この物語はまだ終わらないので、どうぞ見てやってください。