阿良々木暦は望まない   作:鹿手袋こはぜ

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 このお話の結末を決めていないという無計画性を発揮しておりますので、更新滞り途中放棄大幅改変必至です。


むくろシスター
001


 戦刃(イクサバ)むくろは残念な女の子である。

 

 これは彼女の実妹である江ノ島盾子から聞いた情報に基づいた評価である。しかし、なにかしらいつもやらかしている江ノ島を毎度のごとく叱ったりなどしているところを見ると、普通にしっかりとしたお姉ちゃんなのではないだろうかと、僕はそう思っていた。

 

 悪いことをしたら叱責を浴びせ、良きことをすれば褒美を与える。そんなお姉ちゃん。

 

 妹に厳しく、またそれ以上に自分に厳しい。けれども時には優しさを見せる──まるでちびまる子ちゃんのお姉ちゃんみたいなイメージを僕は江ノ島盾子の姉に対して心密かに抱いていたのだけれども、しかし、実際会ってみるとそのイメージは一変覆り、やはり最初に聞いていた通りの残念なお姉ちゃんなのだなと首を縦に振るほかない。

 もしくは、予想通りではなかったよと両手を上げるほかないだろう。

 

 何を根拠に戦刃むくろという一人の人間が残念な姉であると決めつけるのかというと、それはやはり全てと言っていい。

 彼女の全てが──残念なのだ。

 

 彼女の全てが残念であるのだから、どこを取っても残念なのである。

 料理が残念だと言えばやはり料理が残念で。また、裁縫が残念だと言えば彼女の裁縫の技術はどうしたってやはり残念なのである。

 

 何もできない無器用な姉。

 別段、そういう意味で僕は彼女に残念というレッテルを貼っているわけではないのだけれども、案外それは的を得ているのかもしれなかった。

 

 一般人にできないことはできて、一般人にできることはできない。

 懇切丁寧に教えれば凄く上手いとは言わずともそれなりにできるだろう。がしかし、目玉焼きの黄身を焼き上がる前にフライパンの上で潰してしまうような残念さがそこにはある。

 とても難しい料理だけは非常に上手にできるが、とても簡単で小学生でも作れるようなものがどうしても作れない──みたいな。

 そんな不器用さ。

 

 それはそれで凄いなあと思えるかもしれないが、日常生活においてはその簡単なことができなきゃいけないのだ。家庭という戦場において、彼女が輝ける場面はきっとないだろう。

 戦刃は今まで目立った傷を受けたことがないと聞いたが、もしかすると最初の傷は(つたな)い包丁捌きによるものとなるのかもしれない。

 

 しかしそれでも、それほどまでに凄い彼女が特別難しい分野において万能であるというわけではない。彼女をゲームのキャラクターとするならオールマイティーなチートキャラではなくもっぱら戦闘キャラだ。戦闘に特化しすぎて、きようさなどの要素が欠けてしまっている。こうげき、ぼうぎょ、すばやさがずば抜けて高いようなものなのだ。

 凶戦士(バーサーカー)という言葉がちょっぴり似合う。

 

 また、超高校級の軍人である戦刃むくろは女の子らしさというものがない。決してガサツだとか、はしたないというわけではない──むしろ彼女は礼儀正しい部類に入る方だと思うのだけれども、女の子らしくしようとしてもそれは彼女にとって叶わないことなのだ。

 

 化物が人の皮を被っても皮に入りきれず禍々しいものが漏れ出てしまうように、また彼女も己の軍人としての力を隠しきれていないのだろう。

 きっと戦刃はそういう星の下に生まれたのだ。

 

 人に嫌われているというわけではないし、近寄りがたいイメージなんて皆無だが、しかしやはりどうしても、彼女は残念な女の子で残念な姉なのだ。

 

 残念残念。

 

 僕の後輩──江ノ島盾子の双子の姉である戦刃むくろ。

 名字が違うところや明らかな容姿の違いを見るとやはり家庭の複雑な事情が目に浮かんで見えるが、僕はこの二人の後輩に一体全体どのように接することが出来るのだろうか。

 どう接すれば良いのだろうか──。

 

 これは──この二人の姉妹と二人の妹を持つ僕の物語である。お互いに歩み寄る──物語だ。


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