それでは前回のあらすじ
露木ちゃんとぬいぐるみを選びにショッピングモールへ。
すると露木ちゃんは素直になれなくて可愛い子だとわかりました。
それではどうぞ!
side優也
俺が帰ると結羽が部屋の隅で蹲って泣いていた。これ、どう言う状況?
とりあえずヤバそうな雰囲気は伝わってくる。
「どうしたんだ結羽?」
どうしたのか分からない俺は結羽に尋ねてみることにした。
しかし返事が帰ってこない。ずっと泣いている。
「本当にどうし──」
「放っといてよ!」
久しぶりに聞いた結羽の強めの口調に驚き、固まってしまう。少しだけ怒気を含んでいたような気がする。どうしてそんなに怒ってるんだ。そう聞く前に結羽は次の言葉を発した。
「私なんて放っといて露木ちゃんの所に行けばいいじゃない!」
露木ちゃん? なんでそこで露木ちゃんが出て来るんだ?
「ねぇ、優也。確かに私は勉強も出来ないし、優也を困らせてばかりで出来ることといえば料理くらいだし、あんまり役に立ててないけど、私は優也の事が好きだったんだよ!」
なんか俺への愛を語っているのは分かるんだが、なんか話が不穏な方向へ行きそうな気がするのは俺だけでは無いはずだ。
「ねぇ優也。私のどこがそんなに嫌だった? 言ってくれたら直すから言ってよ!」
そして泣きながら俺の抱きついて俺に投げるように話す。
「わ、私、優也に捨てられたくないよ」
ん、捨てる?
「ちょっと待て! 結羽、なにか勘違いしてないか?」
俺が慌ててそう言うと結羽は「ふぇ?」と涙を流しながら顔をこっちに向けてきた。
「何を勘違いしてるか知らないけど、捨てるってなんの事だ? 俺は一度も結羽を捨てようと思ったこと無いんだが……」
「え?」
俺がそう言うと結羽は驚きの声を出した。
「だって優也は露木ちゃんの方が好きなんでしょ?」
「なんでそうなるんだよ。露木ちゃんは可愛い後輩なだけで」
「ほら可愛いって! やっぱりそうなんじゃない!」
「可愛いの意味違う!」
露木ちゃんはただ後輩として好きなだけであって恋愛感情は無い!
「俺は結羽がこの世で一番好きだと断言する」
俺が堂々と言い放つと結羽は驚いた表情をした後、頬を染めて目を泳がせる。
「じ、じゃああれは何?」
「……あれって?」
「今日の昼間、露木ちゃんと喫茶店でデートしてたでしょ。……羨ましい」
あれ、見られていたのか……困ったな。
でも後半部分は聞き取れなかったが、これだけはハッキリと否定しておかなければならない!
「あれはデートじゃないから!」
あれはデートじゃない。決してやましい気持ちがあった訳でもないし、俺は真剣だったんだ。まぁ、結羽と付き合うようになってから初めての誕生日だし、失敗したくなかったからな。
「じゃあなんであんなに楽しそうにしてたの?」
「え? 楽しそうに見えたのか?」
「うん」
そうか……真剣なつもりだったが、他人から見るとそんな感じに見えていたのか。
「で、優也。デートじゃないなら何しに行ってたのさ」
参ったな……。これは誕生日当日に言いたかったんだけどな。結羽に辛い思いはさせたくないし、背に腹はかえられない。
そう思って俺は手に持っていた紙袋を結羽に差し出す。
「え、何?」
「まぁ、受け取ってくれ」
そう言って結羽の手に掴ませると結羽は紙袋の中身を覗き始めた。
「買収なんて効かないよ」
「買収じゃないから! 良いから中身を見てみろって」
俺がそう言うと結羽は中から露木ちゃんと選んだぬいぐるみを取り出した。
「ハリネズミのぬいぐるみ?」
「今回の一番の目的の品だ」
結羽は何故かぬいぐるみを見つめて固まってしまった。どうしたんだろうか?
「可愛い……って違います! やっぱり買収じゃない! こんな可愛い……じゃなくてこんなぬいぐるみを貰っても全然嬉しい……嬉しくないです!」
なんか所々本音が漏れているのは突っ込まない方が良いのだろう。
「結羽、そろそろ誕生日だろ?」
「そうですね」
「だから、それ」
「それって?」
あー。最後まで言わなきゃ伝わんないかな……。
「誕生日プレゼントだ。本当は当日に渡したかったんだがな」
そう言うと結羽はびっくりしたようにこっちを見てきた。
「それを買いに行ってたんだ」
「で、でもじゃあなんで露木ちゃんも一緒に居たの?」
「あー。プレゼントのセンスが心配で露木ちゃんを頼った。それだけだ」
「そうだったんだ」
ギュッとぬいぐるみを抱きしめる結羽。体の小ささも相まって子供がぬいぐるみを抱きしめているように見えるのは内緒だ。
「ごめんね? なんか勘違いしちゃって」
「ああ。んじゃ誤解も解けたことだし、俺は部屋に戻ろうかな」
そう言ってその場を去ろうとすると結羽に腕を掴まれた。
「そのまま他の女の所に行ったりしないよね? まさか、あそこまで私を好きだと言って他の女の所に行ったりしたら」
「行かないから! 俺の部屋は二階だから行けないし! あとそれ怖いからやめて!」
完全に目からハイライトが無くなっていた。そして俺の腕を掴む力がいつもより強い。
そして他の女って言ってる所も怖すぎる。
「まぁ、冗談だけどね」
はぁ……良かった。結羽が思ってる様なことをするつもりは無いけどいつも通りに戻ってくれて良かっ──
「まぁ、本当に浮気したら私、どうなるか分からないけどね」
あ、やっぱり戻ってなかったわ。
はい!第91話終了
次回結羽の誕生日編
実は優也が結羽の家に住んでる事を他の人達は知りません。はてさて、どうなるのやら。
それでは!
さようなら