それでは前回のあらすじ
いつも通りの日常を送る優也だったが、なんと優也の父が仕事中に事故にあってしまった。
果たしてどうなってしまうのか?
それでは!
さようなら
side優也
目が覚めるとそこは保健室だった。
どうやら俺はショックで気を失ってしまっていたらしい。
恐らく運んでくれたのは俺に例のあの事を伝えてくれた先生だろう。
事故……そんなのはいつ起こってもおかしくないんだ。なのに…だってのに俺は考えが甘かった。
もう…あんな事は起こらないと勝手に心の中で思っていた。
いや、思っていたかったんだ。事故はいつ起こってもおかしくないって考えないようにしていたんだ。
愚かだった。本当に俺は愚かだった。
俺の身寄りは誰も居ない。事故にあったが、亡くなっていないって言っていた先生の顔は曇っていた。それはつまり父さんが危険な状況だと言うことが推測できる判断材料だった。
そして動こうとするが体はピクリとも動かない。まるで金縛りにあっているみたいだった。
動け……動け……動け……
何度も心の中でそう叫んだ。だけど俺の体はピクリとも動く気配がない。
金縛りってのは科学的に言うと精神が不安定な時に起こりやすい心理現象だ。
俺の精神が不安定になった原因ってのはやっぱあれだよな。
俺自身では何も出来ない悔しさを胸にここに横たわって事の
するとガラガラと言う扉が開かれる音が聞こえてきた。
それと共に誰かが入ってきたのが分かった。
そして俺のベットを仕切るカーテンが不意に開かれる。
「絆成。大丈夫か?倒れたって聞いたが」
今倉先生だった。
「だ、だいしょうぶです」
「まぁ、絆成。今日は帰って病院に行ってきたらどうだ?」
そう優しい口調で俺にそう言った。
「柴野さん。ありがとう」
とカーテンで隠れて見えない位置に結羽が居るのだろうか?
結羽から俺のカバンを受け取ったようだが
「立てるか?」
と手を差し出してくる今倉先生。
その手を何とか掴んで起き上がる。
「はい。もう大丈夫です」
俺はそういうものの精神状態はとても不安定だった。
なんであんな素っ気ない態度しか取れなかったんだと後悔しても遅いが後悔した。
「今日は早退します。さようなら」
そう言って俯きながら歩いてカーテンから出る。
途中、結羽とすれ違ったものの顔も見ずにその場を去った。
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父さんの入院している病院は近くの伊真舞市立病院。伊真舞高校から徒歩で行ける距離にある病院だ。
そして俺は入口のカウンターで受付を済ませて病室に向かう。
父さんの病室は305号室。
因みにお見舞いに花を買ってきた。その時に店員さんにこんな時間に学生服の男が歩いているもんだから
ほとんどの学校はまだ授業中だからね。
こんこんとノックをして病室に入る。
入るとそこには父さんは確かに居た。居たが、随分と痛ましい姿だった。
腕は固定され、頭や胴体、足には包帯をグルグルと巻かれていた。
そして目を瞑っている。
まるで死んでいるかのように…そんな縁起の悪いことを考えてしまう。
「父さん。いつもありがとう。この間の父さんの手料理。不器用で味が濃くて…とても繊細だとは言えなかった。ザ、男の手料理って感じの味だった…だけど…だけど…」
言ってる間に涙が出てきた。
そして次にこんな言葉を紡いだ。
「それでも、俺の事を一生懸命に考えてくれてるって感じがして美味かった。俺の…いや、"僕"の好みを完全に
"僕"の好み。濃いめの味付け…それが"僕"の好みだった。
「今はじっくりと休んでくれ」
そして父さんを見ていると看護師さんが入ってきた。
「君が絆成 優也君?」
「あ、はい」
聞かれたので肯定した。
「若いのに大変ね。お父さんが事故にあった時は不安でしょうがなかったでしょ?」
図星であった。
「そろそろ帰りま」
そして父さんの顔を見ると表情が歪んで来ていた。
その様子を見て看護師さんは直ぐにナースコール作動させた。
すると直ぐに何人もの医者が入ってきた。
「容態が急変しました!」
と慌ただしく動いて直ぐにストレッチャーに父さんを乗せて押し始めた。
「これは緊急手術も致し方あるまい」
と一人の医者が言った瞬間場の空気が引き締まる。
一人の看護師さんは「絆成さんしっかりしてください。大丈夫ですから」と聞こえるはずもない励ましを続けていた。
「優也君はそこに座って待っててください」
そして手術室に入っていって扉がしまった瞬間、手術中のランプが点灯した。
そして俺は近くのベンチに座って頭を抱え込む。
父さんがもし居なくなったら俺はどうすれば良いんだ。
どうやら父さんは俺の中で大きな存在だったらしい。
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数時間後
ついに手術中のランプが消えた。それにつれて医者が出てきた。
「どうでしたか?」
そう聞いた時医者の表情は曇っていた。
そして次に首を振った。
「大型の機械に潰された時胸の骨が砕けてしまったんでしょう。心臓に刺さってしまっていました。寧ろここまでの時間耐えたのが奇跡みたいなものです」
と暗い声で呟いた先生。
その瞬間、俺は崩れ落ちた。
「あ、ああ、ああああああっ!」
みっともなく子供みたいに泣きじゃくった。
この時、一生分の涙を使い果たしたかもしれない。そう思うほどの涙が目から溢れ出してきた。
暫くして俺は泣きやみ、父さんの元へ向かった。
父さんは安らかな顔をしていた。
あの時はあんなに歪めてた顔も今では安らかになっていた。
そして父さんに歩み寄って手を握る。
「ありがとう父さん。こんな息子でもここまで育ててくれて。ありがとう父さん。男手ひとつで大変だったでしょ?」
そして微笑んだ。
精一杯の微笑みだった。この時の微笑みは下手だったかもしれない。
「疲れたよね。もう」
もう父さんの前では涙を見せないと誓ったのに涙が出てきた。
「おやすみ。父さん。そしてさようなら」
この日、俺は父親を失った。
はい!第56話終了
はい。ダークストーリー気味ですが頑張って書いていきますよ!
さて、次はどうなるのか?
次回もまだ序章です。
今年最後の投稿がこれで良いのか?
それでは!
さようなら