I made a few mistakes .   作:おんぐ

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 □2月

 

 最近、ハリーの朝の寝起きはいい。夜はベッドに入れば秒速で眠りに落ち、朝は何もせずとも習慣づいた時間に目覚める。健康的な生活と言えるだろう。しかしそれは決して、喜ばしいことではなかった。

 ハリーには、目覚めたその瞬間に隣のベッドを確認する習慣がついてしまっていた。

 そして‎空っぽのままのベッドを確認して、フラフラと落ち込む。ドラコが出ていってからは、これを一日も欠かした日はない。

 ドラコのことが心配で、‎必要の部屋で訓練に使っていた“部屋”にこっそりと入ったりもしたが、ドラコを見つけることはできなかった。

 ドラコはどんな要求をして現れた“部屋”にいるのか。その気になって片っ端から調べれば辿り着けるのかもしれないが、そうする気は起きなかった。

 それこそ、今以上に嫌われてしまうと思ったからだ。

 ‎

 ハリーは、この1ヶ月、いや今週に入ってから漸く考え始めた。

 ‎何故、ドラコは帰ってこないのだろうと。

 ‎これまでは、ほんの少しでも思考を割くことすら嫌で、胸が苦しくて堪らなくて避けていた。

 ‎でも、このまま一生ドラコが寮部屋に帰ってこなかったらーーそっちのほうが嫌だった。

 ‎そして、ここ数日考え続けた結果。

 

 ‎ドラコが寮の部屋に帰ってこないのは、自分のことを嫌っているからではないのでは?

 

 頭に、そんな都合のいい考えが浮かんだ。

 ‎あんなことをして、嫌われて当然だと思う。

 ‎でも、そうじゃなかったら?…そう、他の理由があったとしたら。

 ‎

 ‎思い返してみれば、違和感があったような気がする。

 ‎果たして、これまでにドラコがあんなに怒ったことはあっただろうか。

 ‎開心術、閉心術の訓練中に、心の防壁を突破して、何度かドラコの記憶を見たことはあった。その逆もしかりだ。

 ‎でも、大抵それはホグワーツの生活だったり、クィディッチプレーしているときの景色だったりと、日常的なものだ。

 ‎ドラコも、そしてハリー自身も、決して重要なーーホグワーツに来るまでの惨めな生活などのーー記憶は、いくら開心されようとも、絶対にブロックしていた。きっと、ドラコもそうだったはずなのだ。

 

 ーードラコは、何かを隠しているんだ。

 ‎

 

 そう思いたかった。

 ‎そして、もし本当にそうだとしたら、ドラコは何を隠したかったのだろう。

 ‎

 ‎都合のいいように解釈している自覚が、ハリーにはあった。

 ‎しかし、ハリーにはそれに頼るしかなかった。

 ‎

 

 

 それからハリーは、誤魔化すように過酷なほどのトレーニングを自らに課した。身体が上げるキリキリとした悲鳴を全部無視した。

 ‎ここは魔法界。けがを気にする必要は皆無に等しい。一晩寝てしまえば治る。いや、直るのだ。

 ‎

 そんな中、ハリーの一過に最も被害を受けたのはネビルだった。

 トレーニングをこなす自分の横で、それこそ自分ならば1日も持たないようなメニューを、ハリーが毎日淡々と、まるでゴーレムのように取り組んでいるのだ。初めの頃は、ビクビクしていた。

 ‎しかしネビルに分かるのは、ハリーとドラコが喧嘩したという事実だけ。ドラコがハッフルパフ寮にいないことなんて知らないし、2人の間にどんなことがあったのかは分からない。

 その内‎心配して、ムーディに手紙を出そうにも、その前にハリーに止められた。感情の抜けた顔で止められたその時は、凄く怖い思いをした。

 ‎結局どうすることも出来なかったネビルは、ハリーに追い立てられるようにトレーニングに励んだ。

 おかげと言っていいのかは疑問ではあるが、段々と厳しくなる訓練により、2ヶ月も経つ頃には、長年蓄えていたぜい肉は見る影も無くなっていた。

 ばあちゃん驚くんじゃないかな、とネビルは思い出したように呟いた。

 ‎

 ‎

 

 

 

 

 「我らがハッフルパフの勝利を祝してーーそれと優勝ーー寮対抗杯の優勝も願って、乾杯!!」

 

 ガブリエルの音頭を合図に、「乾杯!!!」と談話室に歓声が響いた。

 

 ハッフルパフクィディッチチーム現在連勝中、まさかの負けなし、優勝は目前。歴代のチームでも、トップクラスだと騒がれている。

 ‎ちなみにこの宴会、今日で3日目となっている。

 ‎1日目は熱狂の一言。ここは本当にハッフルパフ寮かと疑うほどの盛り上がりだった。現に、マグル出身の1年生の多くは目を回していた。

 ‎2日目は1日目とは対照的に、誰もがしみじみと勝利の余韻に浸っていた。持ち寄りの楽器で演奏するスロージャズを、グラス片手で耳に転がしていた。上級生の多くは、ホロリと涙していた。

 ‎そして3日目、再熱。しかし1日目と比べると普通の宴会である。あくまで1日目と比べればだが。

 

 ハリーは、1日目のパーティーは参加したが、それ以降は不参加だ。

 ‎クィディッチをしている間は、全てを忘れて楽しめた。ドラコも何事もなかったかのように、自分とプレーしてくれるのだ。楽しくないわけがない。

 ‎だからこそ、その時間が終わってしまうと、途端に寂しくて堪らなかった。

 クィディッチメンバーも、ドラコと自分の仲違いに、流石に気づいているだろう。それとなく気にかけてくれるも、自分から避けた。

 ‎申し訳なく思いつつも、やはりドラコと自分の間に入ってほしくなかったからだ。

 

 

 

 

 

 □4月

 

 ドラコが寮を出て行ってから、いったいどれほど経っただろうか。ハリーは、ドラコと寝起きをしていた日々を、もうずっと遥か昔のことように感じていた。

 ‎‎ハリーはいつからか、朝起きて隣のベッドを確認することを止めていた。そんな暇があるならと、トレーニングや勉強に時間を費やした。

 ‎きっとドラコも。

 ‎そう思えば、何も苦痛ではない。数ヶ月前ならば根を上げていたことも、今では頑張れば出来るーーいや、今ならば、それこそ何でも出来る気がした。

 

 「ああ、でも…」

 

 ただ1つ、守護霊の魔法だけは、どうやってもできなかった。

 ‎これは元々、ほんの小さな霞のようなものしか出せなかったけど、今ではそれすらも難しい。

 ‎ドラコは元々、自分よりも2回りも大きな霞を出せていた。もしかすれば、今ごろは有体守護霊すら出せるようになっているかもしれない。うん、流石はドラコだーー

 

 

 「ハリー?聞いてる?」 

 

 ハーマイオニーが怪訝な声で言った。

 ‎

 ‎「うん、聞いてるよ。僕の選択科目はもう決まってる。取るのは、闇祓いに必要なものだけだ。ネビルもそう?」

 ‎「う、うん。僕にハリーみたいにできるか自信はないけど…」

 ‎「できるよ。…ね、ハーマイオニー」

 ‎「うん、私もそう思う。それに…みんな噂してるわ。ネビル最近変わって…かっこよくなったって。ほんと現金な人達ばかり」

 ‎「そ、そんな…」

 

 イースターの休暇中。広場にあるテーブルに、3年生で選択する科目のリストを広げていた。

 

 「ハーマイオニー…全科目取るの?」

 ‎

 ‎時間割を考えれば、難しいだろうとハリーは思った。ハーマイオニーもハリーの考えを察して、遠慮がちに頷く。

 

 「えっと、マクゴナガル先生から持ち掛けられたの。成績上位者には、特別措置があるみたいで」

 ‎「へえ、そうだったんだ。頑張って」

 ‎「…うん、ハリーもそうだと思ったんだけど…その…」

 ‎「僕は去年十番内に入ってなかったし、されてたとしても、元から受ける科目は決まっていたから気にしないで。…多分……ドラコも、全部は取らないんじゃないかな」

 ‎「そうかもね」

 

 最近は、このメンバーでの行動がほとんどだ。

 ‎ドラコはいない。

 ‎ハーマイオニーとネビルは、一度だけハリーに尋ねていた。そして返ってきた言葉は、喧嘩した、という一言だけだ。

 ‎以来、2人は関係した話題には触れていない。どうにかしたい気持ちはあったが、ハリー自身がそれを拒絶しているように感じたからだ。

 

 ‎ハリーは、何も聞かない2人に申し訳ないと思いつつも、現状のままがよかった。醜い自分なんか、やっぱり知られたくない。怖かったのだ。

 ‎浅ましくて、卑怯な自分が嫌になる。

 それでも、ハーマイオニーとネビルにまで嫌われたくなかった。独りぼっちに、なりたくなかった。

 

 ‎最近、ドラコはガールフレンドとも少し距離を取っているようで、図書館でもその姿は見かけない。その代わりに、ハーマイオニーが彼女と仲良くなっていた。頭のいい者同士だからだろうか、話が結構合うらしい。

 ‎ネビルは、何かシュッとした。身長も少し伸びているらしく、関節が痛いと言っていた。

 羨ましい。

 長年の栄養不足が今も祟っているのか、ハリーには未だ成長の兆しはないのだ。

 このままチビのままだったらどうしようと思っている。ハーマイオニーなんか、ぐんぐん背が伸びているというのに。

 

 「な、何?ハリー…?」

 ‎「いや、別に…。あ、2人は今度の試合どうするの?」

 

 土曜日にある試合の対戦カードは、グリフィンドール対スリザリン。この試合の勝者が、ハッフルパフの次の対戦相手だ。

 

 「私は一緒に見る約束をしてるの。その日は彼女図書館の当番だから、試合が始まるまで図書館で勉強して、それから行くつもり」

 

 ハーマイオニーは嬉しそうにそう行った。 ネビルは、グリフィンドールの生徒が固まっている席で観戦するそうだ。

 ‎自分はといえば、クィディッチメンバーと一緒に観る予定があった。

 ‎優勝杯は、すぐ目の前まで来ている。

 

 

 

 

 そして、土曜日。

 

 ハリーは、いつも通りに目を覚ました。

 ‎湖畔でネビルとトレーニングをして、シャワーで汗を流してから、少し遅めの朝食を終える。

 寮部屋に戻って‎時計を確認すれば、いい時間だった。今から行けば、ちょうどいいだろうーー「っ……?」

 

 不意に、違和感を感じた。チリチリと、頭の中で摩擦が起きたような不快感。遠くから聞こえてくる笑い声、呻き声。

 ‎ずるりと這う音。ぴちゃぴちゃと水を打つ音。暗やみで光る2つのーーーー頭痛によって、現実に引き戻される。

 

 ハリーは荒く息をしながら、勢いよく部屋のドアを開いた。

 ‎通路の向こうの談話室から、寮生の笑い声が聞こえてきた。ほっと、息を吐く。

 

 「…あっ」

 

 時計の針はいつの間にか、随分と進んでいた。

 

 

 

 

 

 「すみません!遅れました!」

 

 ハリーは、寮部屋からスタジアムの前まで、全力疾走で走り抜けた。メンバーは既に全員が揃っていた。

 

 「セーフだよポッター。むしろ、何でこんな早い時間に決めたのか、犯人探しをしていたところさ」

 

 セドリックがぼんやりとしながら言った。メンバーの中には、大きく欠伸をしている者もいる。それでも遅刻者がいないのがハッフルパフらしさだろうか。

 

 「別にいいじゃん。皆やる気に満ちていたってことだろ」

 ‎「いざってなると冷めちゃったけどね。今日僕たちの試合じゃないし。試合開始2時間前って、何なのさ」

 ‎「…セドリックさん。セドリックさん。これ君の発案ってこと忘れてない?一番に乗り込もうって言ってたのはどいつ?皆気を使って言わなかったけど、君が犯人だからね」

 ‎「何言ってるのかわかんないや」

 

 ハリーは、ガブリエルとセドリックの会話を聞き流しながら、他のメンバーに一言入れていった。

 

 

 

 

 ‎

 ‎

 そして、それは唐突に起こった。いや、気づいていなかっただけで、前触れはあったのた。

 ハリーが違和感に気づいたのは、マグゴナガルがスタジアムに駆け込んできた、少し前だった。

 

 不自然な風が凪いだ後、ドラコが動いた。カッと目を開いて、顔中にびっしょりと汗をかいて、ドラコは観客席から飛び出した。

 ハリーは、尋常じゃないドラコの様子に慌てながらも、その後を追う。

 全速力で走って、息を切らしながら辿り着いたのは医務室だ。

 マダムポンフリーの制止も無視して、ドラコは衝立を払った。

 ベッドには、人が横になっていた。左手を顔の辺りまで上げて、固定している不自然な格好。

 ドラコのガールフレンドが石となっていた。

 

 息を飲むハリーとは対照的に、なぜだろうか。ドラコの背中が安心したように見えたのは。

 しかし、ハリーの頭の、傷の、煮え滾るような熱は止まらない。

 

 

 

 

 

 あれ?

 

 目の前の光景に動揺して、何の言葉も出ないハリーだったが、思い掛けず、それに至った。

 

 ハーマイオニーは?

 

 この人と、一緒に試合を観ると言っていた。でも、この人はここにいる。石になっている。

 

 じゃあ、ハーマイオニーは?

 

 ハリーは、キョロキョロと首を回した。

 目が、ある一部分で止まった。

 フラフラと覚束無い足取りで、近づいていく。

 光を灯さない瞳で、衝立の前に立って、中を覗いた。

 ベッドの前に立って、震える手のひらを前へと伸ばす。

 触れる。

 

 「ぁーーーー」

 

 ハリーは、声にもならない悲鳴を上げて、膝を落とした。

 視界はぐるぐると回り、何も考えられない。

 膝をついた勢いのまま、上体は固い床へと向かうが、受け身を取る余裕もない。

 ズキズキと痛む額の傷が床と激突して、ゴンと鈍い音を立てた。

 

 所詮、どこか他人事だったそれは、突然としてやってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハリーポッター!!」

 

 ひっそりと寮部屋の隅に蹲っていたハリー耳元で突如、キーキーとした耳障りな音が鳴る。ゆったりと首を持ち上げたハリーの前にいたのは、いつか見たシルエットだった。

 ギョロリと丸い玉が二つ、掴みかからんばかりの険で迫ってきている。

 

 「坊っちゃまをお助けください。お一人でお行きになってしまわれましたのです!」

 

 ハリーに、前の時のような恐怖はない。あの時は暗闇だった。明るいところで目にすれば、なんと矮小な姿だろうか。

 そんな生き物が必死になっている。

 

 「ドラコ様が!」

 

 ハリーの意識はそこでハッキリとした。

 まくし立てるように続ける枕カバーを被った妖精が、何を言っているのかは分からない。

 しかし、ドラコという名が出た時点でハリーの行動は決まっていた。

 ドラコの姿が医務室から消えていたのだ。

 

 「ドラコはどこ?」

 

 

 

 妖精に連れられてハリーがやってきたのは、三階の女子トイレだった。

 そこにいたマートルという名のゴーストが、一度ハリーに無視された後も懸命に話し掛けるも、ハリーに反応はない。

 

 「ここからドラコ様がお行きになられました!」

 「ありがとう、えっと…」

 「ドビーめはドビーでございます!ドラコ様は平静を失っておられます!どうか!」

 「ありがとう、ドビー」

 

 ドビーは達成感を感じていた。

 まだ当初予定していた準備も出来ていないというのに、元凶へと向かっていったドラコ。しかし、自分ではその意思を曲げることは無理だった。それでも何とか止めようとしてドビーが頼りにしたのがハリーだった。

 こんなにも自分の話をすんなりと聞いてくれたのだ。きっとハリー・ポッターは坊っちゃまを連れ戻してくれるはずだと、ドビーは信じて疑わなかった。そう、自分たち屋敷しもべ妖精を闇から救い出してくれたように、きっと。

 話を冷静に聞いてくれるハリーが、決してまともな状態ではないことを、ドビーに見抜く術はなかった。

 

 『開け』

 

 シューとハリーの口から音が漏れる。

 洗面台が分かれ、下へと続く真っ暗な空洞が現れた。

 

 「君は行かないの?」

 「ドビーめは行きたくても行けないのでございます」

 「そっか、じゃあね」

 

 ハリーは表情を変えぬままドビーから視線を外すと、そのまま空洞へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 ‎

 








まとめたら短か。

誤字報告などありがとうございます。感想、コメントもありがとうございます。

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